「おのれ、口惜しや!」

双眼鏡をのぞきこみながら、わなわなと怒りに震えるのはギルガメシュのアサイミー。
ギルガメシュに降伏したテムグ・テングリの領土を荒らし、住民の不安をあおろうという作戦だった。
しかしながら彼女御自慢のクリッター軍団はアルフレッドたちによって蹴散らされ、目的は果たせずじまい。
アサイミーの視線の先にはバラバラに破壊されたクリッターの残骸が転がっている光景である。

「ふん、まあいいわ。今回はただの小手調べ。この程度のクリッターを倒したところで自慢になりはしないわ」

平静を装っているつもりなのだろうが、彼女の表情が悔しさに歪んでいるのは誰の目にも明らか。

「これで終わったと思うなよ! 次は本気でやってやるから覚悟しておくことだ!」

きびすを返して足早に退却するアサイミーだったが、彼女の捨て台詞は当然アルフレッドたちに届くわけもない。
「そんな遠くから叫んだって聞こえやしませんって」と小声でツッコミを入れる部下の言うとおりだった。

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さほど苦労せずにクリッター軍団を片付けたアルフレッドたち一行は、視察を休養を兼ねて近くの村、タシャを訪れた。
比較的新しくテムグ・テングリの支配に入った、ハンガイ・オルスから離れた場所にある。
これといって特筆すべきところのない平凡な村であるが、自然環境は良く、住民も温厚。
テムグ・テングリが降伏した後もあまり影響を受けなさそうな村だった。しかし――

「うーん…… どうも妙だな」
「どうかしたかい、アル兄。何か気になる事でもあるっていうのかな?」
「そうだな…… 俺がブンカンから聞いた話では、もっとこう、何というか人は穏やかで清らかな、
のんびりとした村だということだったのだが、どうもな」

不審そうな表情で周囲を見回すアルフレッド。
元々住民は多くないとはいえ、昼間だというのに出歩いている人はほとんどおらず、
数少ない外出している人はどこか不安げな顔つきの者ばかり。
それに、家々もなんとなく薄汚れた感じがするし、道端には所々にゴミが捨てられて放置されたまま。
村全体がうらぶれた雰囲気に覆いつくされているようであった。

「この村にも外敵がやって来たっちゅうことやろか?」
「そうかもしれないが、今のところはそういった情報は全く入っていないからな」
「おやおや、インフォメーション収集スキルが足りていないのかな? 名軍師サマの名がクライだねえ」
「黙っていろ、俺だって始めから何でもかんでも分かっているわけがないだろう」
「アイシー、アイシー。だったらまずは情報ゲットのために誰かの話をリスン? キングロードな展開だね」

茶化すホゥリーの言葉を半分も聞かず、アルフレッドは先を急いだ。

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ほどなくしてアルフレッドたちは村長の家を訪れた。
村長は彼らがテムグ・テングリの使いの者だと告げられると、驚くと同時に安堵した表情を浮かべ、
一同を丁重に迎え入れた。

「なんだか、この村は聞いていたのとずいぶん印象が違うんですけど、何か良くない事でもあったんですか?」

アルフレッドが聞くよりも先に、フィーナが身を乗り出して村長に問いかけた。
「どんな小さなことでも手伝います」とぐいぐい来る彼女の勢いに面食らった様子の村長は、
「使者の方のお手をわずらわせて申し訳ないのですが」と伏し目がちに言ってから質問に答えた。
村長が説明するには――
テムグ・テングリがギルガメシュに降伏してから間もなく、この村に難民の集団がやって来たとのこと。
それだけであったのならば特に問題は無いようなのだが、やはりそうではない。
この難民たちが四六時中良からぬ事ばかりやっているのだそうだ。
村人たちにほとんど恐喝のように援助を求めたり、朝早くから夜遅くまでどんちゃん騒ぎを続けたり、
マナーもモラルも関係ないとばかりにそこら中にゴミを捨てていったり――
と傍若無人な振る舞いを繰り返しているのだという。
このような日常に嫌気がさして、村から出て行く者も現れ始めたというのだ。

「ふーん、酷い難民もいたもんだなあ」
「当然と言えば当然だろう。俺たちは一まとめに難民と呼んでいるが、
誰も彼もがラスたちのようにこちらの世界で悪さをしない人間たちばかりというわけでもないはずだ。
こちら側の人間にだって、ほら、ああいうヤツがいるんだ」

そう言ってアルフレッドが顔で指し示した先には、
他人の家だというのにスナック菓子を食い散らかしては床を汚しているホゥリーの汚い姿があった。
「嫌な例が身近にいたなあ」とホゥリーを見ながらため息をつくシェインに対し、
「ボキを悪人扱いとは見るアイがナッシングだね」と彼は説得力の無い返しをした。

「ともかく、このままでは村が駄目になってしまいます。
私たちの平穏な日常を取り戻すためにも、どうかお力をお貸しいただけないでしょうか?」

深々と頭を下げる村長。もちろん、アルフレッドたちの答えは決まっていた。

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まずは様子を探ろうということで、アルフレッドたちは村人が出て行った空家を村長から貸してもらった。
しばらく中から外の様子をうかがっていると、遠くの方から人が騒いでいるであろう大声が聞こえてくる。
向こうの方から4,5人の、件の難民と思しき者たちがやって来た。
それぞれ手には酒の入った缶やビンを持っていて、
飲みながら歩き回っては他愛のないバカ話をしては大声で笑っているようだ。
その内に酒が無くなったのか、缶やビンはその辺に投げ捨てられ、彼らの歩いた後にはごみが散乱していた。

「話に聞いていた通り、ずいぶんと好き勝手にやっているんだなあ」
「そのようですね。想像以上と言ってもいいでしょうか」

難民たちのふるまいを観察しながら、つぶやく一同。タスクなどはマリスの目を隠しながら呆れたような表情である。
突然、男たちの一人が道端で立ち小便をするものだから、彼女の行動はファインプレイと言っていいだろう。
しかしこのように嫌なことから目を逸らしているだけでは何か解決できるわけではない。

「あんなヤロウどもは四の五の言う前にとっちめてやるのが一番だろ。事情ってもんがあるかもしれねえが、
余所からやって来て人様に迷惑かけっぱなしってのは仁義ってやつに反するな」
「なんだかオヤジが言うと説得力があるんだか無いんだか…… でも言っていることには賛成だな」
「そうそう。悪いやつらは締め上げちゃうのが正義ってやつ。どうせだから今からオイラがのしてきてやろうか?」

血の気が多いフツノミタマやジェイソン、どちらかといえば直情的なシェインなどは
タチの悪い難民たちを力づくでも排除してしまおうと息巻く。それに待ったをかけたのが、

「悪い人たちかもしれないけど、力任せに言う事を聞かせるのってあまり良くないんじゃない?
まずはこんな事をやめてもらうように注意してみてからでも遅くないとわたしは思うな」
「そうですね。もしかしたら何か抜き差しならない理由があるのかもしれませんから、もう少し慎重に行くべきかと」

と主張するフィーナやセフィたち。
「それでは甘い」、「力で解決しないで済むならそうするべき」、「難民たちが悪い行動をしているのは事実だ」、
「時間が経てば事態はより悪くなる」、「短絡的な解決方法は良くない」、
などといった感じで強引にでもやめさせる派と言い聞かせられるならそうするべき派で意見が何度もぶつかった。
そんな中でヒューが一言、

「無理にでも追い出すにしろ、そうでないにしろ、どうしてこの村の連中は黙ったまんまなんだ?
勝手に住み着いたってんならいくらでも手段が取れそうなもんだがな。
ここの村人全員が奴さんたちにビビっているわけでもなかろうに」

そう至極真っ当な疑問を口にした。それもそうだと一同が思っていると、
そこへ計ったようにタイミングよく部屋に入って来たアルフレッドが彼の疑問について答えた。

「俺もその点が気になって、さっき村長に改めて話を聞いてきたんだが、少し込み入った事情があるそうだ」
「何や? 追い出すに追い出せんわけがあるんかいな?」
「早い話がそうだ。難民たちは勝手に住み着いたわけではなく、正式な手段でこの村に住んでいる」

村長から聞いた話をアルフレッドが説明するには、
難民たちの保護を目的としたプロジェクトを某企業が進めているとのことである。
その一端として、この村の土地の一角を買い上げて、そこに建っている住宅に難民を住まわせているのだそうだ。
曲がりなりにも合法的な手段で難民たちはこの村に住んでいる以上、おいそれと乱暴なまねはできない、
というのが村長の弁だという。

「でも、だからといってこんなマネをさせていてもいいって理由にはならないだろ?」
「そうね。村のルールやしきたりが守られていないのとはわけが違うわ。人の道に関わる問題よ」

シェインやハーヴェストの言うとおり、
難民たちが合法的にここに住んでいるとしても、だからといって身勝手にふるまっていいという法はどこにもない。
「お前たちの言っていることはもっともだ」とアルフレッドは前置きしてから、もう少し説明を続けた。

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――時間は多少さかのぼる。

「やはり、噂には聞いていましたが、この一件はピーチコングロマリットが噛んでいるでしょう」

思うところがあり、アルフレッドと行動を共にしていたヴィンセントが口を開いた。

「最近耳にするようになった、世の中の混乱に乗じて勢力を拡大している例のうさん臭い企業か」
「そのとおりです。まずは合法的に契約を交わして困窮している難民を住まわせ、
その難民たちを手駒にして近隣の治安が悪化するように工作をさせる。土地の人たちがそれを嫌って外へ出て行くと、
残った土地や家屋を二束三文で買い叩いてはさらに所有地を広げていく。
表向きに名前は出していませんが、昨今、このようなやり口を各地で行なっているようですね」
「なるほど、えげつないやり方だな」
「こういう事を続けられては難民保護、ひいては難民そのものへ対しても、
こちらの世界の人たちに良からぬ印象を与えてしまいます。それは是が非でも避けねばなりませんね」
「ロンギヌス社としては仕事の邪魔になる、というところか?」

アルフレッドの皮肉めいた言い方に対し、ヴィンセントは「ふふっ」と鼻で笑って流した。
そうこうしている内に村の外れにある、難民たちを監督しているという者のオフィスへと二人がやって来た。
室内で彼らを迎えたのは、肌は白く丸顔の、神経質そうで高慢そうな感じの男。
K・kとはまた別種のいやらしさを見た目から十分に感じさせるものだった。
九条頼道と名乗ったこの男とこの村での難民の行いについて話し合いの場を設けたわけだが、
ヴィンセントやアルフレッドの言葉に耳を貸す素振りも見せず、駄目の一点張り。

「難民どもを引かせろとな? ダメじゃ、ダメじゃ。行き場を失った者どもをここに住まわせて何が悪いでおじゃるか」
「しかし、その難民たちが住民に対して良からぬ行ないを働いているわけでありますから」
「つらい境遇の反動が来たのでおじゃろう。哀れな者どもゆえ、大目に見てたもれ。
そもそも難民どもは正当な権利に基づいてここに住みついているでおじゃる。
それを無下に追い出そうというのであれば、れっきとした人権の蹂躙でおじゃろう」
「さて、人権というものは好き勝手な行動をすることを肯定するためのものではありませんがね」
「黙りゃ! 難民保護はギルガメシュの優先事項でおじゃろう。麿はその方針に沿っているだけでおじゃる。
先月社長より中納言、ではなく部長の職を賜った麿を何と心得るか! 
麿の所業はひいてはギルガメシュの所業なるぞ。それに逆らおうというのであれば、その儀を言上するでおじゃる。
さすればお主らは謀反人、不逞浪士と扱われようとも言い逃れできぬでおじゃるぞ!」
「いえいえ、そのような意思は毛頭ございませんので。
今回は簡単な話の場を設けただけでありますから、この辺りで失礼させていただきますよ」
「はよう下がりゃ、下がりゃ。麿の高貴な執務室におるでないわ。
これ以上その方らが居座ってはこの部屋に吐瀉物のにおいが漂うては満ちらむでおじゃる」

激しく憤る頼道とはこれ以上言葉を交わしても発展は無いだろう、
とアルフレッドもヴィンセントもどこか呆れたようにオフィスを後にした。
さすがに「吐瀉物」とまで言われたのは少々腹立たしかったが、
言っている相手が相手なのだからと思えばそれほどの痛罵に感じることもないような気はした。

「あんなやつでも管理職になれるとは、ピーチコングロマリットは人材不足なのか?」
「どうでしょう。しかしまあ、向こうの言い分にも理が無いわけではありませんからね。『盗人にも三分の理』ですか」
「三分もあるかどうかは怪しいがな」

頼道がどういう人間であれ、彼の屁理屈がどうであれ、やるべきことは一つ。
二人は今後の対応策を話し合いながら仲間の元へと戻っていった。

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「――おそらくブラフやハッタリの類だろうが、力ずくで解決、ということは避けるべきだろう」
「ああいった手合いによくある、虎の威を借る狐といったところでしょうか。
確かに万が一の場合も考えられますから、しばしの間は辛抱をお願いしたいところですね」

アルフレッドとヴィンセントがあらかたの経緯を説明し、その後で一言念を押して付け加えた。
難民保護を建前にして、ギルガメシュの方針という体裁を取りながら、結局は土地の乗っ取りをするという
ピーチコングロマリットの手口に対し、「汚いやり方だな」とシェインやジェイソンは怒りの表情を露わにしていたが、
他のメンバーも言葉に出さずとも思うところは同じである。

「だったらその九条とか麿とかいうヤロウをブチのめせばいいんだろう?」
「バカだなオヤジは。それだけじゃ向こうに付け込まれるだけじゃないか。分かってないな」

話を聞いていたはずなのに単純な解決方法を上げるフツノミタマに対して、シェインが脱力気味に返す。
彼らの言い争いが一つ二つ続いたが、それはともかく。

「それで、アルはどうするつもりなの?」

覗き込むようにアルフレッドに問いかけるフィーナへ、アルフレッドは腕を組んだまま答えた。

「そうだな…… コクランが契約書のコピーを読んでみたが、付け入るような缺欠は無いということだ。
だから他に合法的な手段がないかと考えているところだが――」
「先は言わなくても分かるわ。『有効打が思いつくまで自重して待て』ってところね」

口をはさんできたジャーメインに、アルフレッドは「そんなところだ」とだけ返した。

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――ここはピーチコングロマリット本社の一室。
桃太郎が上がってきた書類の決裁を一通り終えたところであった。
するとそこへ、まるで彼を盗み見ていたかのようにタイミングよく賢介が入って来た。

「さてさて桃太郎様、あの男を責任者にしてプロジェクトの一端を任せたようですが?」
「ああ、前経営陣の負の遺産とでも言うべき、飼っていても利益のないやつだが、
それでもオレの会社に籍を置く以上は無為に遊ばせておくわけにもいかないからな」
「なるほど、なるほど。桃太郎様もご苦労が絶えませんねえ」
「大したことじゃない。片田舎の土地を買うくらいならあれでもできるだろう。
成功すれば似たような仕事でも与え続けておけばいい。失敗したらそれを責めて首を切ってしまえばいい」
「ははあ、『首』をですか」

にやにやと底意地の悪そうな笑顔を浮かべる賢介と、張り付いたような薄ら笑いをする桃太郎。
なんとも笑顔にあふれる職場である。

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翌日、アルフレッドたちはいくつかのグループに分かれてタシャの村の見回りをしていた。
迂闊に難民たちには手が出せないとはいえ、それでも無体な行為を続ける難民たちに対しての抑止力になる。
という理由もあるが、やはりそれ以上に「黙って見ているだけではいられない」という意見を
何人も上げてきたからである。効果のほどはともかく、少しでも村が荒らされるのを防ごうというわけだ。
そんなわけで村内を歩き回っていたところ、朝っぱらから酒が入って赤ら顔の難民たちがからんできた。
女性が目立つ一団だったから相手にしやすいとでも思っていたのだろうか、だがしかし、からんだ相手が悪かった。
ジャーメインやタスクといった並の男とは比べ物にならない、腕の立つ強い女性たちだったのだ。
あっという間に、近づいてきた男たちの腕をねじり上げると、きっと睨みをきかせ、

「どういうつもり? 女だからってナメてると痛い目に遭うわよ」
「返答次第ではそちら側にとってよろしくない結果となりますが?」

と抑えた感じながらも迫力のある口ぶりで尋ねた。
まさかの反撃に「痛いっ」、「折れるぅ」などと苦悶の声を上げている男たちと、それを見て後ずさりする者たちばかり。
「これに懲りたら慎むことね」とねじっていた腕を解放すると、男たちは一目散に逃げ出していった。

「先ほどの方々の様子、どこか引っかかるような感じがしてなりませんわ」

ふとマリスが口を開いた。「全く同じ考えね」とジャーメインは同意し、タスクもまたうなずいた。
彼女たちが覚えた違和感とは、難民たちの様子である。
彼女たちに反撃を受けた男たちは少しばかり体が震えていたのだ。
しかしそれは強者に対峙したということによる恐怖からくるものというよりは、何か他の、
敢えて表現するならば「やっぱりやめておけばよかった」とでも言いたげな感じであった。

「もしかしたら、不本意だけどからまなきゃならない理由があったのかもね」

そうジャーメインは呟くように言った。彼女に先に結論を言われて少々マリスは不満げだったが、
「おそらくはそうなのでしょう」と思うところは一緒だった。

また別の場所では、ルディアや撫子たちが難民たちに絡まれていた。
子供や見た目運動不足の人間ならば恐るるに足らずというわけか、彼らは凄みをきかせてにじり寄って来た。
しかし、キレる若者というかキレた若者というかを体現したかのような撫子は、不機嫌な顔を浮かべると、

「カスが、ウゼーんだよ。挽き肉にでもなるか、ああん?」

と即座にトラウムを発動。今にもミサイルを発射しそうな勢いだった。
目を疑う光景に恐怖で固まる難民たち。だが、すんでのところで撫子は「ダメなのっ!」とルディアに制止させられた。

「んだよ、こんなゴミタメどもなんざ殺っちまったって問題ねえだろうが?」
「それはダメなの。みんなでなかよくしていくのがいいし、そうなるように努力していくべきなの。
悪いことをすればみんなからゆるされなくなっちゃうし、それにじぶんの心がくさっちゃうからがまんなの!」

不満げな表情の撫子に向けて、ルディアは精一杯自分の想いを、考えを伝えた。
ルディアのまっすぐな気持ちに影響されて、撫子はちっと舌打ちをし、「命拾いしたな」と難民たちを睨みつけた。
また、彼女の言葉は本人が意図せず、周りの難民たちに向けてのものにもなっていた。
彼らは自分たちがしてきた行動を悔い、恥じて、
バツが悪そうな顔をしながら「悪かった」とだけ絞り出すように言うと、そそくさとその場から走り去っていった。

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それから少し時間が経過し、アルフレッドから何かしら伝えられた後に見回りを再開したシェインとフツノミタマ。
難民たちが村人を恐喝しているところに遭遇すると、
彼らの存在に難民たちが気づくよりも先に、シェインとフツノミタマは難民たちを取り押さえていた。

「おうおう、他人サマん所で好き勝手しやがって。ちいっとおイタが過ぎるんじゃねーか?」

男を組み伏せ威圧的に話すフツノミタマ。すでに匕首が抜かれ、首元に刃が触れていた。

「自重しろって言われたじゃないか、オヤジ。これじゃどっちが脅しているんだか分からないだろ」
「うるせえな。こういう事は相手の出鼻をくじくのが先決だ」
「ケンカじゃないんだからさあ。ちゃんと目的に合ったやり方しろよ」

ため息をついてフツノミタマを制するシェイン。すぐに難民たちへの拘束を解くと、

「どうしてこんな悪い事するのさ? この村に住み続けるなら、もめ事を起こさない方が良いと思うけどな」

と彼らに対して質問をぶつけてみた。すると、難民の一人が小声ながらもしっかりと説明し始めた。
この村に来た難民たちは、皆ピーチコングロマリットによって保護されたのだ。
衣食住を保証してもらう代わりに、この村で悪さをすることを命じられている。
こんなことをするのは本意ではないし、生活の保障を受けられなくなっても今の境遇から抜け出したいと思っている。
だが、自分たちは会社が雇っているヤクザ者に監視され続けている。
もしも指示に従わなかったり、会社を抜けようとしたり、反攻のそぶりを見せたりしたら、
そのヤクザ者に殺されてしまう。事実、今やっている嫌がらせに反対した者がいたが、
仲間の何人かは殺されてしまったのだ。それも本人ではなく連帯責任ということにされて別の仲間が、だ。
タシャの村人には悪いと思っているが、仲間を裏切るわけにもいかず、苦悩の日々を送っているのだという。

「ふん、アルのヤロウがにらんだような展開だったか」
「何て言ったらいいのかな、まったく悪いヤツらがいたもんだなあ。
アル兄に止められていなきゃ、その九条頼道ってやつを今すぐにやっつけてやりたい気分だよ」

難民たちを解放した二人は、今しがた得た情報をアルフレッドに伝えるために、足早に戻っていった。

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「やっぱりそうだったか」とアルフレッドは伝えられる情報を耳にしてうなずいた。

「アルったら、一人で納得している場合じゃないでしょ。悪いのはピーチなんとかって会社だから、
そこを何とかすれば、難民の人たちだって悪い事をしないですむし、村の人たちだって元の生活に戻れるわけだし」
「でもフィー姉、この村で悪さするのをやめさせても、あの会社は別の場所で同じことを繰り返すだけじゃないかな?
だとしたら根っこから解決したことにならないと思うんだけど。
「それに関しては手を打ってはいるが―― ああ、丁度よかったコクラン。結果はどうだった?」
「今、本社にかけ合ってみましたが、こちらの提案におおむね賛成してもらえそうですね」

行き場のない難民たちをどうするか、アルフレッドとヴィンセントはそれについて既に策を練っていた。
しかも事は上手く転がっていきそうである。
そうなれば話は早い。後はこの村を食い物にしようとするあくどい輩を成敗するだけだ、
とシェインはアルフレッドにつめ寄って、九条頼道を攻めようと提案した。

「力技でどうこうするのはたやすいが、あいつの麿々しい顔を思い出すとどうにも一泡吹かせてやりたくなるんだ。
それに今後もあの会社とはやり合わなければならないだろうから、こちらが一筋縄ではいかない相手だ、
と思い知らしめてやるのが良いだろうな」
「アル兄ったら悪い顔してるなあ。それで何かいい作戦はあるのかい?」
「そうだな…… 向こうが正式な契約を持ち出してくるのなら、それを真似てやろう。『目には目を』だ」

そう言うと、アルフレッドは意地悪そうに笑った。それを見たフィーナやシェインは思わず苦笑した。

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さらに翌日、アルフレッドとヴィンセントは契約書を携えて九条頼道のオフィスを訪れた。
実は前日、二人は頼道と事前交渉を行なっていて、本日は正式な契約を交わすためにやって来たのである。
「手短に行ないましょう」とヴィンセントは書類を差し出した。
内容を簡潔に説明すると、ピーチコングロマリットが買い叩いたこの村の土地を、即金で買い戻そうというもの。
文面を追っていく頼道の顔は、みるみる間に嫌らしくほころんでいった。
無理もない。なにせピーチ側が支払った額のおよそ3倍という破格の値が契約書に書き込まれていたのだから。

(むふう、社長からは油を搾るように進めよと指示されていたでおじゃるが、ここで一気にまとまった利益を
確定させるのも悪しからぬことでおじゃるか。麿の働きの成果を示せば、社長も麿を重要視することでおじゃろう。
あの嫌らしい薄ら笑いがひれ伏す姿が楽しみでおじゃるな)

ふふん、と鼻で笑いながら頼道は契約書にサインした。
「これで契約成立ですね」と言ってヴィンセントが手を差し出すが、頼道はそれに応えようともせず、
にやついたまま「早く代金をよこせ」と言わんばかりのジェスチャーを見せた。
その時、ふとアルフレッドとヴィンセントが失笑したような顔を見せていることに、頼道はようやく気付く。
さすがの彼も違和感を覚えたようで、「何が可笑しいでおじゃるか?」とわけを尋ねてみた。

「いやなに、現地の事をまるで分っていない人間が担当者なのが笑えてきてな」
「ピーチコングロマリットも人材不足なのでしょうか、大変ですね」

そのように二人がバカにしたように、事実バカにしながら頼道を嘲笑った。
実はこの契約書、長さの単位に用いられていたのは「リド」とよばれる古式の単位。
同じ単位でも地域ごとに長さが異なって不便だったため、いつしか現在の単位に地位を追われたのである。
頼道の考えでは1リドは約420メートルなのだが、この地方では1リドでおおよそ4キロメートルと約10倍。
1平方リドとなれば何十倍もの差が生じてしまう。
例え元値の3倍で売却したとしても、これでは大損であるのは火を見るより明らかである。

「汚しや! 卑怯でおじゃる! これではだまし討ちも同然でおじゃろう!」
「そのようにおっしゃるとは心外ですね。なにぶん、古い単位ゆえに食い違いが生じたのは申し訳なく思いますが」
「であろう? リドなど古めかしき単位を用いた契約書など無効でおじゃろう」
「まさか。契約は現行の単位を用いるのが原則でありますが、古式の単位を用いるのを法は禁止しておりませんので」
「むむ、なれば詐術を用いて麿の判断を誤らせたとして、お上にかけおうてやるでおじゃる!」
「ははあ、左様ですか。しかし裁判となりますと弊社としても負けるわけにはまいりません。
全力で戦うことになるでしょうから、きっと膨大な時間と費用がかかることでしょう」

激高する頼道に対して、ヴィンセントは涼しい顔でそらとぼける。
ここで冷静になっていれば別の解決方法が思いついたかもしれないが、そうなれないのが頼道の頼道たるゆえんである。
怒りに震え、すでに頭が回らなくなっていた頼道に追い打ちをかけるように、
ピーチコングロマリットの手先となって悪事を働いていた難民たちの代表者が、
アルフレッドの合図とともに素早く部屋に入ってきた。そして、

「これ以上はあんたたちの悪事に手を貸すつもりはない。これは我々全員の意志だ!」

と力強く言い放った。一瞬、何がどうしたのかと呆気にとられる頼道だったが、
はっと我に返ると顔をひきつらせて代表者に向けて怒鳴り散らす。

「麿が貴様らを窮乏から救い出してやったでおじゃる。恩を仇で返すつもりでおじゃるか?
犬ですら3日飼えば恩を忘れぬというに、貴様らは犬以下の畜生でおじゃる!
麿をたばかった罰として、貴様らは異邦の地での野垂れ死にやれ!」
「犬以下のマネをさせ続けた畜生はどっちだというんだ? 
ともかく我々は今の会社からロンギヌス社へ身柄を移すことになった。これからは真っ当に生きていくつもりだ」

頼道の暴言に屈せず、代表者はきっぱりと言い切った。
アルフレッドらの作戦により、密かに難民たちとの話し合いが行なわれていたのだ。
悪行を強いられ続けた難民たちは、今の境遇にほとほと嫌気がさしていたのは既にアルフレッドが知るところ。
そこへ、ヴィンセントのかけ合いによって、ロンギヌス社が彼らの雇用にゴーサインを出したのだ。
そのことを告げられた難民たちは今までの生気が抜けた表情が一変、その顔に喜びと力強さが戻ってきたのだ。
そして彼らは今、頼道のオフィスを取り囲んで「もう言いなりにはならない」とか、
「悪い事はこりごりだ」などという叫び声を次々に挙げた。その様子をわなわなと震えながら見ていた頼道は、

「乱心者が痴れた真似をするでおじゃる。誰かある、出会いて参れ! この狼藉者どもを始末しやれ!」

とオフィス全体に響くほどの大声で、雇っていたヤクザ者、チンピラたちを呼びつけた。
しかし、誰一人として彼の元へ駆けつける者は無く、頼道の怒りの声は空しく響くだけだった。

「なんと、いかがしたでおじゃる? 誰ぞ、誰ぞおらぬでおじゃるか?」

頼道が何度か声を上げ、ようやく部屋のドアが勢いよく開いた。
だがそれと同時に飛び込んできたのは、手足を縛られて身動きの取れないチンピラたち。
その後ろから「残念だったな」と笑って姿を現したのはヒューやセフィ、ローガン。
とっくのとうに彼らやシェイン、フツノミタマ、ジェイソン―― 
と腕に覚えのある者たちが村やオフィスにいたチンピラたちを取り押さえていたのだった。

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「これで自分が置かれている状況がわかるだろう? さっさと金を持ってこの村から出て行け」

アルフレッドが現金の入ったケースを投げつけるように渡して言った。
やる事なす事ことごとく上手くいかず、すっかり憤怒の炎に身を焦がしてしまった頼道は、

「ムカつくでおじゃる! 麿はキレたでおじゃる! かくなる上は麿自らが不逞の輩を成敗してやるでおじゃる!」

となぜか机の上に立ち上がって吠えると、「うおおおじゃるぅぅ!」と珍奇な叫び声をあげ、トラウムを発動した。

「ああん、なんだってんだ、ありゃ?」
「ないわー。こんなん反則やで」

口々に驚きの声を上げるのも無理はなかった。眩い光と轟音の後、アルフレッドたちの前に姿を見せたのは巨大な城。
そこにバランス悪く細長い足が二本生えた、ロボットというべきかなんというべきか、
ともかく予想だにしなかった物体がそこにあった。

「恐れおののき震えるでおじゃれ! 麿の超級トラウム、『風雲九条城』で全てを粉砕してやるでおじゃるよ!」

ひきつった怒りの顔で、こめかみに血管を浮かび上がらせる頼道。
アルフレッドたちを眼下に見下ろしながらこの珍妙なトラウムの操縦を始めた。
トラウムが所有者の願望を具現化した物という仮説が正しければ、彼の頭の中は一体どうなっているのかとか、
これほどのトラウムを有しているのなら他に何か生かしようがあるだろうとか、
この現実感に乏しいトラウムを目にしたアルフレッドたちの中に疑問が浮かび上がっては消えていった。
とはいえ今この時点で考えているべきことではない。
目の前の風雲九条城は村の中心部へと歩みを進め、目にするもの全てを踏みつぶそうとしているのだから。
止めなければならないのは当然。だがこれほど巨大な物体には生半可なものは通用しないだろう。

アルフレッドが声をかけるよりも先に、シェインがビルバンガーを発動させて九条城に立ち向かう。
だがビルバンガーの全長で、ようやく九条城の脚部の長さと同じといったところ。
一目ではあまりの巨大さに量感がぼやけていたのだが、こうやって比較対象があると改めてその巨大さを痛感する。

「小癪なカラクリおもちゃなぞ、麿には通用せぬでおじゃる。下がりゃ、下がりゃ!」

九条城が大きさを頼みに、力任せにビルバンガーを押しながら進もうとする。
シェインが何とか踏みとどまらせようとするものの、彼我のパワーの差では抵抗しきれず、
一歩、また一歩とビルバンガーはじりじりと後退していってしまう。

「クソがぁ! 中身ごとバラバラに砕け散りやがれえっ!」

そこへ、アルフレッドたちの中でも最大級の破壊力を有する撫子のトラウムが、彼女のがなり声とともに撃ち出された。
口ぶりは粗暴そのものだが、それでもしっかりと弱点になりそうな細い脚部を狙ってのミサイル攻撃だ。
けたたましい爆発音が何度も轟いた。
「これが効かなければ」と一同は不安になったが、次の瞬間、嫌な思いが現実のものとなってしまう。
九条城本体にミサイルが命中する前に周囲に張り巡らされていたバリアが、
あの藪號The‐Xですらたやすく防いでしまったのだ。

「ほっほっほ〜、かんしゃく玉で麿がやられるとでも思うたでおじゃるか? 足りぬやつらでおじゃるなあ」

スピーカーを通じて、頼道の高笑いがアルフレッドたちの頭上に降り注いだ。
これに激高した撫子が罵りの声を上げながらさらにミサイルを発射するも、結果は同じ。
煙の中から姿を現す九条城には、何ら変化はなかった。

「ちょっとなにあれ、完全に反則でしょ」
「あの巨体に加えてバリアってなあ。近づけば何とか―― って近づくのもできねえんだもんな」

ヒューの視線の先には血気盛んに九条城に攻撃をしかけようとするフツノミタマにジェイソン。
だが既にバリアが展開されているために、一定の距離から先には進むことすらできない。
猛烈な勢いで攻撃を食らわせてはいるものの、撫子のミサイルが通じないバリアではいかんともしがたかった。

手の打ちようが無いように思えたが、そこへふと、九条城の様子を観察していたセフィが口を開いた。

「穴…… でしょうか? アルくん、見えますか? あのバリアですが」
「ああ、円柱状に伸びているが、ずっと頭上の部分には展開されていないままだ。
もし、あの状態がバリアが最大出力なのだとしたら、打開策が無いわけでもなさそうだ」
「あるんなら早くやってくれって。ビルバンガーもちょっとこれ以上は限界かもしれないんだから」

シェインがそう叫んだように、もう時間の猶予は少なそうだ。
残されたわずかな時間の中でアルフレッドは「もしかしたら……」と何かを閃き、仲間たちに大声で指示を出した。
次の瞬間、ビルバンガーは解除され、すっと姿を消した。

「おひょひょひょ、とうとう諦めたでおじゃるな? ようやく実力差が身に染みたようでおじゃるのう」

勝利を確信しにんまりを笑みを浮かべた頼道。しかしほどなくして、強烈な光が九条城の操縦席に降り注いだ。
ローガンがホウライの大玉を投げ飛ばし、頼道の眼前で爆発させたのだ。
もちろん、バリアに防がれてダメージは無かったのだが、それは織り込みずみ。
さしもの強力バリアもホウライがはじけた時の光までは遮ることができず、頼道はわずかな間視界を防がれたのだ。
これがホウライを用いた理由である。

「しゃらくさいでおじゃるよ。大人しく白旗を上げたもれ」

作戦の本質に気付かぬまま、余裕ぶる頼道。そんな彼の声などに耳も傾けず、一同は作戦の次の段階へ移る。

「よし、いけっ! ちゃんと狙えよ」
「んだと? 誰に向かって口利いてんだ、ザコがっ。これしきの事オレがミスるわけねーだろ!」

撫子がアルフレッドの合図でミサイルを発射する。しかし今回は九条城を狙ったものではない。
城の足元でミサイルを爆発させることで、地面に大穴をあけるのが目的なのだ。
ホウライによって周囲が見えなくなっていた頼道は、大人しく我慢していればいいものを、
迂闊にも九条城の操作を一旦中止しないでいたのである。
それゆえに、あえなく大穴に足を突っ込んでしまい、「ぬおおおじゃるぅぅ!」と頼道が叫び声をあげ、
大きな音を立てて九条城は横倒しになってしまった。
元よりバランスが悪い作りになっている上に、足が二本だけの九条城は起き上がるのにも一苦労。
当然、この決定機を逃すアルフレッドたちではない。

「さあ、行ってこいシェイン!」

アルフレッド、ジャーメイン、ジェイソンにフツノミタマがシェインの手足をつかんで力一杯彼を上空へ投げ飛ばした。
天高く舞い上がったシェインは空中で体制を整えると、
なんとかふんばって立ち上がりかけていた九条城の頭部というか城郭部分というかの上へ狙いを定めた。

「よぉし、いっけぇ!」

シェインが空中でビルバンガーを再び発動させる。
空より現れ一気に降下するビルバンガーは、全重量を込めて九条城を力の限りで踏みつけた。
空気が震え、大地が揺れた。
バリアの及ばない部分から攻撃を受けた九条城は先ほどまでの暴れぶりが嘘のように、何とも呆気なく破壊され、
バラバラに砕け散った破片はヴィトゲンシュタイン粒子となって発光して消えた。
後に残ったのは砂煙の中で、うつぶせになってのびている頼道の姿だけがあった。

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意識を取り戻した頼道が見た光景は、彼を取り囲むアルフレッドたちと今まで虐げられてきた難民たちに、
彼の悪事に悩まされてきたタシャの村人たちの姿だった。

「麿が悪かったでおじゃる。このとおり頭を下げるゆえ、命は助けてたもれ。後生でおじゃる」

態度を一変させて卑屈に土下座を続ける頼道。彼のあまりに情けない姿に思わず乾いた笑いがこみ上げてきそうだった。
すっとフィーナが輪の中から出てくると、

「命までは取りません。だから帰って伝えてください。『これからはこんな悪い事はしないように』と」

そう頼道に力強く告げた。「次はねえぞ」とフツノミタマやヒューが獲物をちらつかせながら
きっちり念を押すのも忘れなかった。
強面たちの警告に恐怖を抱いたが、それでも命拾いして安堵の表情を浮かべた頼道は
「分かったでおじゃる」というが早いか、脱兎のごとき勢いであっという間に村から去っていった。
この様子を見た難民や村人たちは次々に歓喜の声を上げ、アルフレッドたちに礼を述べた。

「うーん、でもオイラちょっと納得いかないな。あいつ、口だけだと思うだけどさ」
「その時はその時さ。今はめでたし、めでたし、で良いんじゃないかな」

少々不満そうなジェイソンにシェインはそう言って指を差した。
その先には難民たちが村人に向けて、今までの悪事を謝罪し、また村人たちも「これからは悪い事するなよ」と
少々きつい言い方ではあったがその顔には笑みがあり、難民たちの行ないは水に流す気持ちがよく伝わっていた。
そして、和解のしるしに難民の代表者とタシャの村長が握手を交わし、他の者たちも次々に後に続いた。

「さて、難民の皆さん。これからはロンギヌス社の一員として忙しくなりますよ。
初めての仕事は、そうですね…… この村を元通りにしてもらいましょう」

ヴィンセントが難民たちに指示すると、彼らは「かしこまりました」とはきはき答えた。

(やっぱりいいもんだな――)

この様子を眺めながらアルフレッドは感慨にふけっていた。
弱い者たちのために働くヴィンセントのような弁護士というものに、
かつて自分が抱いていた目標のようなものを思い出していたのかもしれなかった。

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後日、発行された新聞に次のようなトリーシャの記事が掲載されていた。

「ロンギヌス社、難民と協力して新しい事業。手始めに現地民と難民の融和に向けた活動」

気分のいい記事が一面に掲載されていた一方、隅っこの方に小さいながらも得体のしれない記事が載っていた。

「身元不明の男性の焼死体発見される」



おわり