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休めない休日


これはある休日のこと。
ダイジロウ・シラネは日が昇るのとほぼ同時に目を覚ます。一度大きく伸びをしてから深呼吸。
そうしてから朝食の準備にとりかかる。
アレクサンダー大学の学生である彼は、現在実質的には妹のミエコと二人暮らしである。
実質的、というのは隣の家には彼ら兄妹の祖父母が住んでいてほとんど毎日顔を合わせているものの、
しかしながら自分たちのことは二人でやるべしという祖父の教育方針ゆえに生活は別々だからなのだ。
また、ダイジロウの両親はともに健在なのだが、父はいわゆる転勤族で各地を飛び回っているし、
母は著名な学者でフィールドワークに忙殺されてほとんど一年中家を空けている。
そんなこんなでダイジロウは休日といえども妹より先に起きて家内のことをせねばならない。
もっとも、彼が先に起きるのにはまた別の理由があるからなのだが。

(そろそろか。日常茶飯事とはいえ慣れないもんはいつまでたっても慣れねえな……)

どことなく諦めたような表情で、ダイジロウは目玉焼きをフライパンで作りながら苦笑いした。
彼を悩ませているのは、他でもない妹のミエコである。
少々特殊な家庭環境だから、兄妹の結びつきが他の人たちよりも強い。
ミエコが学校に上がる前からダイジロウは兄としてできる限り面倒をみてきた。
そんな彼にミエコもよくなついている。
「大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるの」なんて言葉は何回聞いたかわからない。
もちろん、これが彼女が幼いころの話だけであったのならば微笑ましい思い出にもなるだろう。
しかし、彼女が高校生になった現在でも同じ調子なのだから大変困ったことだ。
休みのたびにデートに誘ってくるだけならばいざ知らず、
ダイジロウが自宅でくつろいでいればすぐに抱きついてくるわ、入浴していれば自分も一緒に風呂に入ろうとするわ、
寝ていればこれ幸いとばかりにダイジロウの布団にもぐり込んでくるわ、と過剰な行為は枚挙にいとまがない。
何度言い聞かせてもミエコが改める様子はなく、ある時などはさすがに困ったダイジロウが
自室のドアに鍵を取り付けることにしたのだったが、
ミエコ曰く「恋する乙女の一念」で鍵をこじ開けて入ってきたことすらあった。
その時ばかりはさしものダイジロウも本気でしかりつけ、ミエコの方も大人しくなったものの、
彼女の情念は表面だけが固まったマグマのようにいまだに強力な熱を帯びているのは明々白々だった。
一度大きくため息をつき、ダイジロウは今日の予定を頭の中で反芻した。
休日ではあるのだが、いや、休日であるからこそダイジロウは忙しい。
これもまたシラネ家の教育方針なのだが、世の中の成り立ちと金銭の大事さを知るという目的で
小さいころから働いている。祖父が(小規模ではあるが)銀行の頭取であるからなのかどうなのか、それはともかく。
当然、小さい子供を雇えるところなどは無いため、
主に近所の人や知人の手伝いをしてお駄賃を得ていたというわけである。
その習慣が長かったせいか、大学生となった今でも一般的な学生のように飲食店や小売店などでの労働ではなく、
もっぱら知人の依頼で手を貸しているのだ。
友人からはよく「普通のバイトすればいいじゃん」みたいなことを言われるのだが、
ダイジロウは何となくこういう方が性に合っている気がしているので、どこかに雇われるということはしないのだ。

(今日はちょっと仕事かぶってんだよな。ま、こういうやり方なんだから労働時間が不定なのは当たり前なんだが。
ってか今日はあいつ遅いな。いつもだったらとっくに起きてくんのに)

ダイジロウが朝食を作り終えることになっても、まだミエコは姿を見せない。
平時だったら手際よく食事の支度をする兄をうっとりとした目つきで見つめているものなのだが。
珍しく寒気を感じないで調理を終えたダイジロウが、ふとそのようなことを考えながら皿をテーブルに並べていた。

「お兄ちゃん、おはよ」

そこへようやくミエコが起きてきた。が、どうも様子がおかしい。
いつもなら彼女の朝一番のあいさつはタックルのような勢いで抱きつき(余談ながらダイジロウが
回避できなかったことのある体当たりをぶちかました人間は、妹の他には親友のテッド・パジトノフだけだ)なのだが、
今日はそんなこともない。
そもそも声に力がない。いつものやかましいまでの元気はどこへやらである。
「どうした?」と言いながらダイジロウがミエコの方に顔を向けると、彼女の不調が一目瞭然。顔が紅潮している。
念のために彼が妹の額に手を当ててみると、やはり高めの熱を感じ取った。

「どうやら風邪みたいだな」
「うん、そうっぽいね」
「だったら医者に――って休日だからどこも休診か…… しょうがねえ、風邪薬ならウチにもあるからそれ飲んで――」

ミエコの容体を確認するなり、ダイジロウは手際よく動く。
炊きあがっていたご飯をさっと雑炊にして彼女に食べさせ、薬を飲ませてベッドに寝かせた。

「今日一日大人しく寝ていろ。明日になっても熱が下がらないようなら医者に行け」
「えー…… お兄ちゃん看病してくれないの?」
「してやりたい気持ちは山々なんだがな、こっちもやることあるからそうも言ってられね」
「そんなぁ、こういう時くらいっていうか、こういう時だからこそ兄妹の絆を確かめ合うべきでしょ?」
「お前こそこういう時くらいはバカなこと言うなっての」

若干呆れた様子でダイジロウはミエコの額を軽く小突いた。兄が構ってくれないことに少々不満そうなミエコだったが、

「お兄ちゃんがそう言うなら安静にしてる。でね、その代わりにお願いが一つあるんだけど、いい?」

と兄の方を見つめながら聞いてきた。彼女が大人しくしているなら、とダイジロウはうっかり二つ返事。

「今日ね、わたしドラマにエキストラで出る予定だったの。だから代わりにお兄ちゃんが出てきてね」

ミエコが言うには、本日この町で人気刑事ドラマ「太陽にほえるあぶない相棒は西部の踊るはぐれ貴族」
のロケがあるとのこと。街で起きた銃撃戦に驚いて逃げ回る通行人の中の一人だということで、
ダイジロウが代わりに出ても別に問題は無さそうだ。しかし撮影の進捗次第ではどれだけ待たされるかわからない。
すでに本日何件かの仕事をかかえているダイジロウには負担になるのだが、
一度言ってしまった以上、断るわけにもいかない。

「あ? ああ…… それくらいなら代わりにやってやるさ」
「ほんと!? さっすがお兄ちゃん、大好き!」

目を輝かせながらダイジロウを見つめるミエコ。対して彼は妹から視線をそらしたままだった。



ミエコにきつく言い聞かせてさっさと家を出たダイジロウだったが、どうにも不安が消えずにいた。

(あいつのことだ、動ける程度の体調の悪さじゃ目を離すとしょうもないことやらかしかねない)

妹の脅威についてはなるべく手を打っておきたいところ。そう考えてダイジロウは自宅の斜め向かいの家に足を向ける。

「あれ、お義兄さん、朝からどうしたんですか?」

そう言って出てきたのはヨシロウ・ワセという少年。「お義兄さん」と彼は発言したが、別に縁戚関係は無い。
単にヨシロウとミエコが同い年で、近所なのでダイジロウとも幼いころからよく遊んでいるという仲であるが――

「実はな、ミエコのやつが風邪ひいて寝ているんだ」
「何ですって!? それは一大事じゃないですか!」
「うん、まあそうなんだが、オレは所用が重なっちまったんで面倒を見てられなくなったわけで――」
「僕とお義兄さんの仲、それ以上の言葉は不要です。代わりに僕がミエコちゃんのお世話をするというわけですね?
承りました。このヨシロウ、何が起きようとも彼女をお守りいたします」

――と会話から丸分かりなように、ヨシロウはミエコに多大な好意を寄せている。
また、ダイジロウの方もできることなら彼と妹がくっついてほしいと思っている。
ありていに言ってしまえばミエコの過剰な愛情が自分以外の誰かに向いてくれればそれでいいのだが、
そうはいってもどこぞのろくでなしに妹がひっかけられるというのも兄として気分がよろしくない。
そんなわけで長年の付き合いから人格等々よく知っているヨシロウに白羽の矢が当たった、いや、立ったのだ。

「さすが話が早くて助かるな。ま、とにかくあいつのことだから突拍子もない行動に出ないとも限らねえからな。
ごちゃごちゃうるさいかもしれないが、縛り付けてでも大人しくさせといてくれ」
「ミエコちゃんを縛るだなんて、そんなハードなプレイ…… いやいやいや、そうじゃない。たしかに承りました」

これを機に両者の仲が一歩どころか一足飛びにでも進展してくれれば、と思いつつもヨシロウの気持ちを利用しているのが少々申し訳なく思ったダイジロウだったが、安易な発想にしっぺ返しというかなんというかが。

「ですのでお義兄さん、僕の代わりにやっていただきたいことがあるんですが」
「え、お前も? いや、何でもない。それで何をやればいいんだ?」
「イチジさんのリンゴ園で収穫を手伝う予定だったんですよ。ですので申し訳ないんですが――」
「あー、イチジさんとこの…… もうそんな季節か。うんまあ分かった、なんとかする」
「そうですか、ありがとうございます。これで心置きなく全身全霊をミエコちゃんの看病に捧げられます!」
「いや、そこまで頑張らなくてもいいんだけど。ま、よろしく頼むわ」

ダイジロウが言い終えるよりも先にヨシロウは猛烈な勢いでシラネ家に突撃していった。
後に残されたダイジロウは、またうっかり一言で自分の仕事を増やしてしまった、とため息をついた。
直後に後ろから響いてきたミエコの怒りに満ちた叫び声と、
ヨシロウの「がああああ!」という悶絶の声もあまり気にならなかった。



それにしても、ドラマのロケがアシナ商店街で行なわれるというのは幸いだった、とダイジロウは思った。
本日やるべき仕事はこのアシナ商店街でのものが主であったので、ドラマ撮影のスケジュールが多少前後しても
まあまあ融通が利くからだ。この市にもう一つある商店街、ネジメ商店街の方だったら電車で数駅分。
そちらでなくてまだよかった、とダイジロウはさっそく一件目の仕事にとりかかった。

「いつも悪いね、ダイジロウくん」
「そんな、悪いだなんて。ユウゾウさんには兄妹ついでにヨシロウそろって世話になってますから」

店の奥から声をかけてきたのはこの魚屋の主人であるユウゾウ・トトヤさんである。
店の改装中に足を滑らせて転倒し、腰を強く打ってしまったために療養中。
そのためダイジロウが魚を入れる生け簀やら何やらを動かす手伝いをすることになったわけだ。

「なあに、世話なんざこっちの方がしてもらっているでな。まったく、ウチのバカ息子よりよっぽどありがてえ。
あんにゃろう、オヤジがえらい目にあっているってのに顔も見せやしねえ」
「そりゃまあ息子さんも都会の会社勤めじゃあれこれ苦労もあるでしょうさ」
「そんなタマかい。今日はテメェのオヤジの誕生日だってのに。祝いの言葉一つくれえよこしてもバチは当たらんだろ」

ユウゾウさんの息子への愚痴を耳にしながら、ダイジロウは手早く店内を整えていく。
早くに妻を亡くし、一人息子も魚屋を継がずに都会の大学に進学してそのまま都会で就職。
そんなユウゾウさんの心中をダイジロウが図ることは難しいが、
それでもなんだかんだと文句を言うものの息子のことを大事に思っているのではないか、とダイジロウは考えていた。
それはさておき、常人とはずいぶんと違うダイジロウの力をもってすれば店一軒の改装もわけもない。
大した時間もかけずに仕事は終わり、あとは商品の魚介を搬入するのを待つばかりだ。
従業員の若者が魚を運んでくる前に、朝一の宅配便がユウゾウさんのもとに届けられた。
それはなんと息子からの贈り物。まさかと驚くユウゾウさんに、タイミングよく息子から電話がかかってきた。

「――おうおう、今届いたぞ。何、誕生日だ? ばっきゃろい、ガキじゃあるめえしそんなの気になる年じゃねえ。
あ、腰はってか? 心配するほどのもんじゃねえよ。テメェの息子に心配されるほどまだまだ耄碌しとらん。
おう、じゃあな。クビにでもなんなきゃ帰ってくる必要はねえぞ、おう」

言っていることと態度がこうも違うのか、とユウゾウさんを見ながらダイジロウは思わず笑った。



「ユウゾウの野郎も老いたもんだな。息子の電話一つであんなに喜びやがって」
「老いって、ダイゾウじいさんも同い年じゃないですかねえ?」
「へっ、気持ちの問題ってやつよ、ダイジロウちゃんよ。あいつと違ってワシはまだまだ現役よ」

現役という言葉にどういう意味があるのかはともかく、
ユウゾウさんの店の向かいで肉屋を営むダイゾウ・ガンはそう言って大笑いした。
二人はもう50年以上の付き合いで、顔を合わせれば憎まれ口を叩き合う仲。
ではあるがそれは仲のよさの裏返しだというのが商店街の人たちをはじめとした彼らを知る人たちの評価である。
それはともかく、ダイジロウの前に置かれているのは野生のシカ。
このダイゾウじいさん、病膏肓に入るというか、ウズラやカモといった鳥類からウサギやタヌキ、
果てはシカやクマまで暇さえあれば自分で野生動物を狩ってさばいては店頭に並べるようになってしまったのだ。
そんなわけでダイジロウも彼の手伝いで獣を解体するのは二度や三度のことではない。
「いつも通り、血とクソは抜いてあるから部位ごとに頼むわ」と言われただけで、ダイジロウもすぐに作業に入る。
そこまではよかったのだが、事態は思いもよらない方向へと進む。
ダイジロウのモバイルが着信を告げる。テッドからだ。

「どうした、メールじゃないなんて珍しいな」
「ごめんよダイちゃん。急を要することなんだよ」

この時点でダイジロウは何か嫌なものを感じたが、それでも通話を切るわけにはいかなかった。

「んぐ…… まさかお前もオレにやってほしいことができたんじゃ……」
「その通りなんだよ。急遽テレビに出ることになっちゃって、ぼくが今日やる予定だったことの代わりを頼みたいんだ」
「……。二度あることはってか」
「ごめんね。でもダイちゃんくらいしか頼める人がいないんだよ」
「分かった、分かったっての。もう何でも聞いてやるから手短に言ってくれ」

よくも立て続けに起きるものだと半ばやけになりながら、ダイジロウはテッドの話を聞いた。
通話を終えるころには彼の表情は乾いた笑い顔のままで固まっていた。



「ったく、今日は何て日だ。ああもう、まったく。こうなりゃメタル化してでもやるしかねえ!」

妙な吹っ切れ方をしたダイジロウは持っていた肉切り包丁をわきに置くと、
両手だけをメタル化して「おらあ!」と一気にシカを切り分けていく。
一頭、二頭、とものの数分で解体を終えると、ダイゾウじいさんに「手間賃はウチに送っといて!」と言うが早いか
店を出る。そして猛烈な勢いで駆け出すと、今度は両脚をメタル化させて、ダイジロウ・ジェット・ブースターを展開。
超速で空を飛ぶと瞬く間にイチジさんのリンゴ園へ。
「おや、ダイジロウくん。約束の時間にはまだ早いけど――」とイチジさんが言うそばから作業を始める。
残像が見えるほどの、彼の動きによる風圧で木がしなるほどの、そんなスピードでリンゴをもぎ取っていく。
集積場には次々にリンゴが詰まった箱が積みあがっていき、一時間と経たずに一トンほどを収穫した。
驚異的な速度で仕事を終えたダイジロウに呆然とするイチジさんへマッハであいさつし、再びアシナ商店街へ。
しかしまだまだエキストラの出番はこなさそうとのこと。

「なんだよ、無駄足だったか」

とダイジロウは言うが早いか、今度はテッドが頼まれていた、
このところ各家庭の二重窓へのリフォームが盛んだとかで商売が上手くいっており、
自宅を建て替えることにしたシロウ・パンダさん宅の解体作業にとりかかる。
上空から確認するに、すでに解体用の重機があったが、そんなものを使っていては
いつ仕事が終わるか分かったものではない。ダイジロウは全身メタル化し、パンダさん宅の屋根を
ぶち抜いて着地すると、両手から無数のエネルギー弾「ダイジロウ・破壊ボム(極小粒)」を発射。
家中の柱を一気に壊すと、自重に耐えかねて家は空き缶が潰れるように即座にぺしゃんこになった。
さらにガレキの山を両手で殴りまくって小さなガラに粉砕していく。
そして、朝までは立派に建っていたパンダさんの家はものの数十分で細かい廃材の山と化していた。
勢いそのままに今度はネジメ商店街で行なわれるヒーローショーに出演。
「こういうのはオレよりバイオグリーンだろ。あいつなら素のままで出られるのに」とぶつぶつ言いながらも、
さっそく「督戦戦隊ソレンジャー」のレッド一号のスーツに着替える。
台本とかそういうものはこの際一切無視。それっぽいことを言っていきなり怪人をやっつける。
しっちゃかめっちゃかだったが、メタル化したダイジロウのおかげでテレビ放送される本物よりも
ド派手なアクションシーンを目の前で見ることができたちびっ子たちは大いに盛り上がっていた。
レッド一号のスーツを脱ぎ捨てたダイジロウは山林管理組合で働くシゲ・クスさんの手伝いに。
「ダイジロウ・切断スラッシュ」で太い木も一瞬で切り裂いた。
帰りの道中でトラックが渋滞にはまって難儀していたケン・ブラックさんをトラックごと搬送。
さらには途中で何回かトラブルに巻き込まれ――と息つく暇もなかった。
途中、何回かプロフェッサーYから着信があったがダイジロウは全部無視した。
そして結局、スケジュールがのびにのびて日が傾きかける時間になって
ようやくエキストラの出番が来た刑事ドラマの撮影が終わるころにはダイジロウはすっかり疲れ果ててしまった。



エキストラ出演者に配られたお礼のハム(スポンサーからの物だとか)が入った箱を抱えながら帰宅したダイジロウ。
薬が効いたのか、すっかり元気そうなミエコが、

「お帰りなさい、お兄ちゃん。わたしとごはんにする? わたしとお風呂にする? それともわたし?」

と聞いてきたがそんなしょうもないことに答える元気もない彼は生返事。
コップ一杯の水を一息で飲み干し、リビングのソファーにどっかりと腰を下ろして大きく息をついた。
そこへミエコの相手にてこずったであろう、傷だらけになったヨシロウが多少ふらつきながら姿を見せた。
両手にはシラネ家宅に送られてきた、ダイジロウへのお礼の品々。
「ずいぶん沢山貰ったな」と彼は思ったが、そんなのんきな感想は木っ端微塵に吹き飛ばされる結果に。
ユウゾウさんからは「一人じゃ食べきれないから」と息子が送ってくれた高級豚バラ肉を半分。
ダイゾウじいさんからは「肉屋のワシがユウゾウよりしょぼい肉を送っちゃ男が廃る」と高級豚ロースが。
イチジさんは提携している畜産業者が生産した、リンゴを食べさせて育てた豚の肉を送ってきた。
そしてテッドからは「この前ダイちゃんが無性に食べたがっていたから」と豚足というか豚脚が。さらには――
神のいたずらか仏の冗談か、貰ったものは全て豚肉。

(仕事もかぶったが、どうして豚までかぶるんだよ……)

なんだかもうわけがわからずおかしくなって大笑いするダイジロウ。
そんな彼の近くを飛んでいたのは、小さな虫型の自律式ビデオカメラ。
大学の研究室にいたプロフェッサーYは「うむ、実験成功」とダイジロウの様子をうかがい、満足げに言った。