風を司る神人 ディーファ ・初期設定資料画 |
風を司る神人。男性でありながら誰もが羨む美貌を持ち、 なおかつ白鷺の如き銀の翼を備えている事から若い女性層の信仰が とりわけ厚い事で知られる変り種の神人である。 変わっているのはディーファ自身のパーソナリティも同じで、 自身の絶対的な美貌に心酔している為、極度のナルシスト。 不思議な踊りを舞って風を起こし、その風を震わせて音楽を奏でる事から 芸術を司る存在とも知られる。 なお、この踊りは、始祖の男女の末裔とも伝えられる古代民族『マコシカ』が、 神人を自身の体内へ降ろす際に用いる舞いや印、詠唱の原形になったとされるが、 信憑性は高いものと思われる。 翼が張り出す位置には諸説あり、天使の様に背中から生えている姿、 腕と一体化している姿の二種類に現在は絞られているものの、 ディーファの美しさへ酔いしれたい若い女性たちは頑として前者の支持を譲らない。 |
マコシカに伝わるおとぎ話 「ふたりの芸術家」 |
昔々、ある所にAという芸術家が住んでいた。 丸太を削り、木像を制作するのが専門である。 決して凡庸の域ではおさまらない才能があったのだが、 いかんせんこの男の作品はほとんど売れたためしがない。 たまに売れても二束三文の値段にしかならない。 そういうわけで、このAはいつも貧乏だった。 ある日、彼がいつものように道端で売れない作品を飾っていた時だった。 ふと、彼の作品を目にしたある者がはたと立ち止った。 「なかなか良い作品じゃないか。しかし、今一つ殻を破りきれないってところかな」 自分の心境をズバリ言い当てられた気がして、Aがはっと声の主の方を向いてまじまじと見つめる。 すらりと伸びた四肢、細身ではあるもののバランスの取れた端正な体躯、 美しさと気品が合いまった中性的な顔立ち、細首の白磁の花瓶を連想させるような愁眉な姿だった。 「あなたは…… もしやディーファ様では?」 「さすがは私だ、美しさが広く伝わっているようだね。 ま、それはともかく、センスを感じられる芸術家をこのまま腐らせておくのは惜しい。 ここはひとつ、世間の耳目を集めるような作品を作ってみやしないか?」 「そうおっしゃられましても…… どうしたら良いのかと悩む日々でございます」 「ん? 分かっていないね。目の前にこんな素晴らしい素材があるっていうのにどうして用いない?むしろ用いろ」 「私のためにそこまでしていただけるとは…… 感謝の言葉もありません」 「いやいや、そういうのは作品が完成してからにしよう」 頭を下げて感謝するAを半ば強引に引っ張って、ディーファはAを自分の工房へと案内させた。 「よし、では早速制作に取りかかってくれ」 そう言うが早いかディーファは服を脱ぎ捨て、惜しげもなく自らの裸体をさらけ出した。 彼、ディーファにはちょっとしたことですぐ自分の体を見せたがるという癖があるのだが、それはともかく。 突然のことに驚いたが、しかし男も芸術家。目の前の神人の姿にインスピレーションを感じずにはいられない。 矢も盾もたまらずにノミと金づちを手にすると、眼前のまばゆい姿を丸太を削り出して模してゆく。 一回一回、金づちを打ち付ける音が、ノミが走る音が工房の中で響くたびに、 生き生きとした木製のディーファの姿が露わになっていった。 やがて、男の才と神の力が合わさって、見事なディーファ像が完成した。 「やるじゃない。さすがモデルがいいと作品にも充分に反映されるな。 これだけ良い物を作ったんだから、周囲の目にさらせば必ず君の才能は評価されるだろうさ」 「ありがとうございます。必ずやディーファ様のご期待にそえるようにいたします」 満足げにディーファはうなずいた。 そして、屋内だと云うのになぜか雲間から差し込む光に照らされて、まるで一枚の宗教画のような姿で消えていった。 ディーファに感謝し、男は勇んで木像を街へと運んだ。すると、瞬く間に彼の作品に心を打たれた人々が集まる。 こうして、Aは一日にして才能ある芸術家だ、と名前が知られるようになったのであった。 また別の国にBという芸術家がいた。 染色した糸を織り込んで絵画のような布織物を作るのをもっぱらにしていた。 彼もAのように才能があるにもかかわらず、それを世間に知られることなく作品はいつも売れなかった。 そういうわけでBもずっと貧乏暮しであった。 ある日、いつものように路傍で売れない作品を広げて座っていると、彼の作品を見た一人の者が声をかけた。 ディーファがまたもや才能ある者を見出し、すばらしい作品を作ってみないかと持ちかけたのである。 そしてAの時と同じように、Bもまた惜しげもなくさらされたディーファの裸体を目にし、感銘を受ける。 目をつぶっていても浮かび上がってくるほどに、その姿を脳裏に焼き付けた。 一心不乱に機を織り続け、やがてディーファの姿が表された一枚の織物画を作り上げた。 その作品を意気揚々と街へ持っていき、道行く人々に披露する。 その素晴らしさに人々は感動し、次々に人を呼んでBの作品の周りには黒山の人だかりができていた。 こうして、彼もまた世間にその才能を認められるようになったのだった。 ほどなくしてBの元には彼の作品が欲しい、と制作の依頼が引っ切り無しにやってくるようになった。 彼の作品は次から次へと売れていき、作品にはどれもこれも高い評価と値段がついた。 これに気を良くしたBはもっと作ってもっと売りたいと思ったのだが、そう上手くいかない。 なにせ、織物は一本一本糸を織り込んでつくるのだから時間がかかる。 今以上の早さで作るのは到底無理だったのだ。 金の魔力にとらわれたのか、Bはあるアイデアを思いついた。 あらかじめ織っていた布に直接絵を描きこむというやり方だった。 「見た目は同じようなものだ。どうせ誰にも分かりはしないだろう。オレの名声があれば何だって売れるさ」 よこしまな考えで、Bは作品を量産していった。 しかし悪事は続かないものである。とある目利きの者にBの作品は手抜きで作られたのだと看破されてしまう。 この話は一気に広がり、Bの名声は地に落ちてしまった。 彼の作品は全く売れなくなってしまい、結局彼は元の貧乏芸術家に戻ってしまった。 一方のAはというと―― 彼にも木像制作の依頼が山のように舞い込んできた。 Aの木像にも高値がつき、彼の懐は充分に潤うようになった。 それでも彼はBのように手を抜くことなく、今までと変わらないやり方で制作を続けていった。 だが、皮肉なことにそれがあだになってしまった。 依頼を引き受けたはよいのだが、一つ一つ丁寧に作っていたため、 Aは木像の政策を約束の期日に間に合わせることができなくなってしまった。 そのため、ある者は待ちくたびれ、ある者は怒り出し、またある者は呆れて依頼を取り消してしまう。 その内に、Aが約束を守れないという話が伝わっていき、いつしか彼に依頼する者はいなくなってしまった。 こうしてAもまた、元の貧乏芸術家に戻ってしまうのだった。 教訓 「やるからには全力を尽くすべし。 しかし己のキャパシティをわきまえるべし」 |
教皇庁に伝わる神像 |