一・
学編



別に知る必要もない事ですが、「トロイメライ」製作総指揮の天河くんと、
わたくし激々極々は中学校の同級生です。
あれはもう10数年前になりますか、彼と私のファーストコンタクトは、
どうだったか忘れてしまいました。第一印象もすでに忘却の彼方。
最近、物忘れが激しくなってきたような気がしてなりません。

 それで、一年生の国語の授業の時に、教科書に載っていた、ネコにやさしい魚屋さんが病に倒れ、
回復を願って世話になっていたネコたちがお祈りを奉げるというところで終わっている、
「おいのり」という作品の続編を自由に書いてみよう、という内容のやつがありました。
 多くの生徒さんが心温まる話や、ちょっとサスペンス的な話を書いていた中で、
私はというと兆単位の核ミサイルが飛び交い、億単位の次元がぶっとぶという、
ドラゴンボールが二次関数だとしたらこれは指数関数的なパワーインフレを
引き起こした作品を作ってしまいました。
 天河くんは天河くんで、ネコたちが雌雄をかけて抗争を繰り広げるというアバンギャルドな展開へと進み、
ここで我々二人はどこかベクトルがおかしい創作精神というものを
互いに認め合った(はず)のでありました。

 余談ですが、当時から彼の作品が大長編化する傾向があったように思われます。
 そんなこんなで、彼と私は良く、男子中学生が考えるようなRPGの設定を
ノートに書き連ね、それを見せ合っては楽しんで意見交換なんぞを
していたわけであります。
大学ノート一冊分の「昆虫物語」や「曼荼羅」などといった作品が、
現在の私たちの下地となったと言ったら過言のような気がしますし、
そうではないような気もします。










二・高校と大



 進路が別々になったので、一旦、二人の交流はぶっつりと途切れました。
高校ですらそうだったのだから、私が北海道の大学に行ってからは
とんとご無沙汰となったわけでして、つまり書くべき事などは
どこを探しても見当たりません。










三・本的な部分



 時は流れて2006年、何だかんだ理由があって、私は北海道を去り、再び長野県へと戻ってきました。
そんな折、中学の同級会が催され、そういうところに参加するのは好きな私は
アホ面を下げてのこのことやって来ます。
酒を飲みつつグダグダやっていると、仕事の都合で遅れてきた天河くんが
参上したのです。
 中学時代の彼(本人曰く、「あの頃はちびまる子ちゃんの山田君だった」)が
有していた面影はすっかり消え失せ、
予想していた以上にまともな人間になっていたのが非常に印象に残っています。
数年間の空白時期があったため、彼がどれだけ社会的にヤバい人間にレベルアップしているのだろうかと
内心期待していたのですが、当時ニートをこいていた私よりも
よっぽどまともな人間に進化していまして、
ちょっとばかり期待を裏切られたような気がしないでもないわけでもなかったこともなかったです。
 それはさておき、久々の再開でやけぼっくいに火が点いた(全く誤用)二人は、
そこから長い事話し込み(酔っていたのであまり覚えていないです)、
私は彼が今でも創作活動への情熱を失っていないことを知り、
感心するやら関心持つやらといった具合でした。
 年は替わって2007年、正月早々、彼はたくさんのスケッチブックを携え、
私を誘い出します。

 出先で説明されたのが、この「トロイメライ」の草案とでもいうべきもの。
何十人ものキャラクター原案を見せながら、ああだこうだと言う彼に
熱意を感じとったのは確かです。
 それで、彼は私にもこの企画に参加してほしいのだと伝えてきました。

「そんで、オレに何をやってほしいわけよ?」
「お前、この前インドネシアに行って、その時の旅行記をmixiに書いただろ? 
そんな感じでこの作品でも、登場キャラの目線からの旅行記みたいなやつを
ちょこちょこと書いてくれないか?」

というようなやり取りがありまして、長らく創作活動(ってほどのものでもなかったんですが)から
離れていた私でも、そのくらいなら何とかなりそうだと思ったので、
特に深くも考えずに了承したのです。それが私の人生の分岐点となることを、
その時は気付きませんでした(大袈裟)。
それから週に一回くらいのペースで、二人のトロイメライミーティングが行なわれるようになりました。
その時に彼からよこされる設定資料の膨大な事、膨大な事。
私の卒論なんぞが紙切れ一枚くらいに感じられるくらいに、
毎週毎週もらう資料の山が積み重なって凄まじい分厚さを形成していったのです。
「これは凄い事になった」と、当時の私は少なからずこの企画に戦慄を覚えたものです。
もちろん、彼から一方的に資料をいただいていただけでもないわけです。
例えば、

「何か良い新キャラのアイデアはないか?」
「じゃあニート出そうぜ、ニート。世相を反映したとかなんとか上手いこと言ってさ」
「なるほど、ニートか。そういやいなかったな」
「本気で出す気か? 後悔すんなよ?」
「自分で言っておいてそれはないだろうよ」

などといったやり取りの中から生まれたキャラクターもいるわけでして、
無駄話をやっているだけのようで(まあほとんど雑談ですけど)、
結構実のある話し合いになってもいたわけです。
 時は少し進んで、その内に各話のプロットを天河くんが考えてきて、
それを説明してくれる段階に入ります。
それがなんと半年以上も続くという、先が全く見えないくらいに
途方もない仕事量なのだと気づきまして、いささか打ちのめされてもいたわけですが、
それでも私は旅行記だけを書くんだからまあ大丈夫だろう、と楽観視していたわけであります。

 そんなお気楽気分だったからなのか、それともただたんに私がトチ狂ったのか、
彼だけにあれこれ書かせて描かせているのもあれかと思い、
バカ話の中からヒントを得て生まれた「戦国桃太郎」という超絶クソ小説を、
文章力をつけるつもりで書き始めました。
内容はここで話して良いものではないので割愛いたしまして、
その当時の唯一の読者だった彼曰く、

「自分で誘っておいてあれだったけど、長らくお前の文章なんか読んでいなかったから
文章力に不安があった。でも、これを読む限りは大丈夫そうだ」

ってな感じでした。
「見切り発車的すぎやしませんか?」とツッコミを入れたものです。

 そんなこんなで秋も深まってきたころ、戦国桃太郎は大不評の内に完結(暫定的に)したんですが、
その時分になると、なし崩し的に私もトロイメライ本章の執筆の役目を与えられてしまいます。
これ、何度も言っているんですけど、騙されたわけですよ。
正宗が邪魔な輝宗と畠山を一緒に葬り去ったくらいの極悪非道な策略ですよね。
ともあれ、心が優しい私は今さら固辞もせず、果てしないトロイメライ本編制作の一端を
担ぐこととなったのでした。










四・ここからが本当の地



 プロット上ではトロイメライは大団円の内に完結したのですが、
もちろん我々にとってはここからが本番なわけです。
2008年は各人に分担された話の執筆に追われる一年になりました。
つーか、2009年も、今年2010年も、来年も同じような事になるのでしょうけど。

 一話あたり、私は5万字強をめどに書いています。
これもこれで結構な量だと思いますが、しかし彼はそれに輪をかけて、
どれくらいの輪かって、土星の輪くらいかけて膨大な量の文章のオラオララッシュを
私に叩き込んでくれます。
 各シーンに即した細かい描写、緻密に書かれた各キャラクターの心情や掛け合い、
そして彼の本領が発揮される殺陣(「さつじん」って読んでいた小学生時代の私)のシーン。
それらが悪魔合体のような勢いで組み合わされることで、
一話で文庫本一冊に比するくらいのボリュームとなるのです。
「筆が進むとついつい描写が長くなる」と彼は謙遜していらっしゃいますが、
これは誰にでもできる事じゃないと素直に感心しています。
それにしてもアメリカ軍の爆撃も裸足で逃げ出すような量で60話くらい書かれるわけですから、
最終的には一体どれくらいの文章量になるのかと内心恐怖しております。

 また、それと並行して、物語の肉付けとなる様々な世界設定なども話し合われています。
世界地理や社会体制に宗教関係、物語の中核となってくる難民問題や、
果ては人気のあるテレビ番組の詳細まで、挙げていけばきりがないくらいです。
といっても私はタバコを吸いながら、彼は塩を食べながら、
難しい顔をして設定をひねり出している、というわけでもなく(そういう時も無くはないですけど)、
半分は雑談といった感じでやり取りが進んでいきます。
 伊達のマーくんはマジで自重しないだの、斉藤道三よりも宇喜多直家の方がよっぽど悪人だだの、
ホラ吹き勝っちゃんこと勝海舟はゆかいなオッサンだの、南北朝時代はもっと人気が出てしかるべきだだのと、
ちょっと横道にずれると歴史談話です。
こういう話が役に立っているのかどうか、意見交換を円滑にするには存外に効果的なやり方なのかもしれないですね。
そういう事にしておいてください。

天河「後の章で参加してくるこの勢力、こういう設定を考えてみたんだけどどうだろか?」
激極「うーん、長くなるけれど、その分理解しやすくなるから採用した方がいいんじゃねえの?」
天河「本当にそう思ってる?」
激極「毎回このパターンだな。思ってないわけがないだろが」
天河「またまたぁ、どうせ内心では『つまんねーよ、カス』とか思ってるくせに。思ってんだろ?」
激極「うん、そうだね。つまらないね」
天河「そういうと思ったわ。やっぱりオレは才能無いな。もう死ぬしかねえ」
激極「じゃあ死ねよ」
天河「えっ?」
激極「死ねよ」

こんな感じで和気あいあいとした雰囲気の下で話し合いが行なわれているのです。
(注・あくまでこれは「美味しんぼ」のコラから派生したネタです。
二人は分かってやっていますのであしからず)

こうやって文字にしてみると、何とも言えない気分になってきますね。
終始二人がこんなおふざけのノリってわけでもないんですよ。
「トロイメライ」の制作は商売ではなく、カテゴライズするのならやはり趣味の範疇に入ります。
だからといっておざなりになってるわけでもないんですよ。
彼も私も、力を抜くことはあっても手を抜くことはないのだと、小声で主張してみます。










五・今後の展開予

 「トロイメライ」の制作は、まだ五合目にさしかかったくらい。先は長いです。
これからも天河くんと私のミーティングは続けられてゆくでしょう。
アイデアを出し合って、それをもとに執筆して、お互いに罵り合ってゆくというスタンスは
変わっていかないのではないでしょうか。特に何か劇的な変化は無いでしょう。
おそらくは「トロイメライ」の制作が終了するまで似たような流れなんじゃなかろうか、と
予測しています。
 「トロイメライ」が終了したとしても、まだまだ彼の創作意欲はとどまること無さそうです。
既に次回作の構想や、歴史小説にファンタジー物と、
彼の頭の中はちゃんこダイニング若の鍋料理のように煮えたぎっているようです。
その時の制作に私が関わることになるのかどうかは未定です。

 ですがしかし、「トロイメライ」の全てが完了したとしても、私と彼との関係は決して終了はしないのだと、
この場を借りて言い切ってやろうかと思います。
まさに「今後ともヨロシク」なわけであります。

我ながら良い事言ったな。
読み返してみると、結構時系列がめちゃめちゃな部分があるんですが、
どうせ本人にしかわかりゃしないだろうから気にしない、気にしない。





カウントダウンTOPに戻ります