■千の神技を持つ男――シュガーレイ
実戦最強の呼び名も高いコマンドサンボ!
関節技を得意とし、その冷徹な戦い方は「人体破壊の妙技」とまで恐れられる。
打撃のキレも超一流で、パンチあるいはキックから関節技へ
シームレスに変化するテクニックこそが最大の武器。
独特の呼吸法「ヴォールガ」は如何なる戦局においても彼の平常心を保ち、
任務遂行を阻害する感情をもコントロールしている。
〈天河's Comment〉
実は最後に格闘スタイルが確定したのが、リーダーのシュガーレイです。
ローガンとハーヴェストを過去のエピソードに導く為の役割がメインでしたので、
初登場の際には特に格闘スタイルを設定してはいなかったんですよ。
アルフレッドに端を発する「暴力への復讐」、その系譜を後継するキャラクターとして
再登場が決まった際、改めて設定の再検証を行った次第です。
ネーミングの元ネタは、言わずもがな、シュガー・レイ・レナード。
元ネタに合わせてボクシングスタイルも一瞬考えはしたものの、
パトリオット猟班は組み技重視で総合格闘団体のようにしたかった為、敢無く没。
そうして選んだ格闘術は、ロシアのコマンドサンボ。そこまでは良かったものの、
いざ描写の検証を始めると、先に決まったミルドレッドのブラジリアン柔術と
やや被ってしまい、どうしたものかと頭を抱えたものです(笑)。
様々な資料に目を通す中、打撃と関節技を高いレベルで融合させたファイトスタイルに
行き着きました。
これならブラジリアン柔術とは差別化が出来る。
それでいて日本古武術の組討とも原理が全く異なっている。
「打撃と関節技の融合」をキーワードとして、
同じくロシアの格闘術であるシステマの理論をも参考にしつつ、
シュガーレイ流のコマンドサンボを模索していきました。
何度もチェックしたのは、嘗て魔術師とも恐れられたヴォルク・ハン。
コマンドサンボを使うキャラは、大抵、ハンの影響を受けているんじゃないかな(笑)。
今のところ、シュガーレイの格闘シーンは少ないのですが、
いずれがっつり描きたいと思っています。
ロシアンフックやナックルアローなど打撃技にも一工夫したいところ。
特にロシアンフックについては某氏のアドバイスを受けて有用な使い方を思いつきましたので、
シュガーレイにとって重要な技になるかも。
マウントポジションを取ってからパウンド(組み敷いた相手へのパンチ)で
淡々と相手を壊していくなど、強いと言うよりは怖いキャラクターとして
完成させたいと思います。
平然と骨を折る、関節を砕くキャラクターは、やそれだけでも相当に恐ろしいものですから。
タバコを吸いながら戦うのは、天河なりのこだわりです。余裕の表れって感じで、
とにかくカッコ良いじゃないですか。
■狂乱の天才――ジェイソン
蝶のように舞い、蜂のように刺す! 変幻自在の空中殺法、ルチャ・リブレ!
ド派手な大技でギャラリーを賑わせるスーパープロレスの決定版。
相手の身体を思い切り振り回す風車式バックブリーカーやローリングソバットなど、
リングの上よりも空にいる時間のほうが長いのではないかと思えるほど、
必殺の空中殺法を豊富に備えている。
リングを、空を縦横無尽に駆け巡り、対戦相手を幻惑していく。
パフォーマーとしても超一流で、彼にとっては戦うこと自体が最高の娯楽なのである。
〈天河's Comment〉
ネーミングはムツさんにお願いしました。ジェイソンと言うのは、
サイコスターの異名を取る現役の総合格闘家ですね。
サイコスターことジェイソン・ミラーをモデルにして設定を膨らませた結果、
格闘スタイルはルチャ・リブレとなりました(ミラー氏はルチャドールじゃないけど)。
過去作にもルチャドールがおりましたので、
そのキャラと被らないようにファイトスタイルへ変化を付けていきました。
ジェイソンが使うテクニックに関しては、はっきりとモデルがいます。
ずばり、初代タイガーマスク。魅了する空中殺法と言うものをひたすら研究しております。
一部にオマージュは盛り込んでいますが、ファイトスタイルそのものは
初代タイガーマスクと被らないように配慮しています。
モデルに依存しては発展性も何もなくなるよな、と。
ジェイソンは戦いながら様々なパフォーマンスを行うキャラクターとして設定しておりまして、
ここもタイガーマスクとは違いますね。
ジェイソンは歩くショープロレスのようなイメージです。
そうした性格のキャラクターは今までのトロイメライには居なかったので、
新鮮な気持ちで殺陣を作ることが出来ます。
パフォーマンスの方法論は、モデルとなったジェイソン・ミラーの他にも
ヘクター・カマチョ、新庄剛志など巷を賑わせてくれたあの人この人を参考にしております。
「フライング・ジェイソン・チョップ」は、まあ、分かる人だけ分かってくだされば(笑)。
■柔の巨人――ミルドレッド
計算され尽くした関節技の神秘、ジウジツ!
(※ブラジリアン柔術の異称としてジウジツを採用しております)
相手の動きを完全に封殺し、脱出不可能な寝技で仕留めていく。
ルチャ・リブレのように派手な動作は少ないものの、
自身に向けられた攻撃を瞬時にして見切り、
如何なる状況からでも寝技に引き込む反射神経、適応力は峻烈の一言。
絶対的に戦いの流れを支配する緻密な計算と豪腕による締め技は、
柔と剛の究極の進化とも言える。
〈天河's Comment〉
第17回の格闘シーンは、ミルドレッドの為だけにあったと言っても過言ではありますまい。
ブラジリアン柔術、満を持して天河作品初登場です。
振り返ってみると、これまで僕が作ってきた殺陣って、
ストライカー同士のガチンコばかりだったんですよ。
確かに見栄えは良いし、ダイナミズムも確保し易いけれど、
そろそろ新しい刺激を自分の中に取り入れたいとも考えていたもので、
一念発起して今まで敢えて外してきた関節技、寝技を積極的に使うことにしました。
そうなると、やはりブラジリアン柔術は外せないだろう、と。
十年一昔前のMMAブームに背を向けていたこともあり、
実はブラジリアン柔術の研究を本格的に行うのは今回が初めて。
改めて資料を検証し、テクニックをチェックする中でブラジリアン柔術の深遠に触れ、
今では関節技、寝技こそが小説と言う分野の格闘描写において
最も白熱するものではないかと考えるようになりました。
知恵を駆使して戦うアルフレッドに体得させればよかったと後悔するくらい(笑)。
丹念な描写の上に初めて成り立つテクニックであり、死ぬほど大変ではありましたが、
それでもアルフレッドとの戦いは書いていて本当に燃えました。
いわゆる猪木アリ状態も某格闘家のテクニックを基にして
アクティブな戦法に変えられましたし。
惜しむらくはブラジリアン柔術の凄さを百分の一も表現できなかったこと。
パスガードと言った柔術ならではのテクニックをもっとたくさん盛り込みたかったのですが、
ページと展開の都合でシェイプアップするしかなく……。
達成感は大きかったけれど、それ以上に自分への課題を多く残した対戦カードですな。
■猟犬の剣――ジャーメイン
立ち技最強!? 例え鉄壁の防御であっても叩いて砕くムエ・カッチューア!
彼女の拳に、蹴りに理屈は要らない。
パワーとスピード、テクニックの三本柱を兼ね備えた打撃によって、
立ちはだかるものをみな爆砕するのみ!
〈天河's Comment〉
ビルマ拳法ことムエ・カッチューアは十代の頃から研究している格闘術でして。
今回、ようやくお披露目出来て嬉しかったです。
立ち技の理論や攻防などは比較的実在の物に近付けていますが、
殺陣としての見栄えを整えるに当たっては、
タイのアクション俳優、トニー・ジャー氏を参考にさせて頂きました。
タイのブルース・リーと呼ばれるだけあって、技のキレは天下一品!
フライングニーパッドをあれだけの迫力で撃てるアクション俳優を僕は他に知りません。
ジャーメインは発展途上のキャラクターですし、アルフレッドとの対比も考えておりますので、
ムエ・カッチューアならではの殺陣は今後も増やしていく予定です。
首相撲(相手の首に組み付いた状態ですね)からの攻防も今回の殺陣では不完全燃焼。
ジャーメインには既に強力な必殺技も考えてあります。
スタッフとも話しているのですが、コレやられたら相手は一たまりもないよなー、と。
■猟犬の盾――モーント
海賊たちも愛した伝説のレスリング、グリマ!
刃物すら通さぬ金城鉄壁の肉体で攻撃を弾き飛ばし、怯むことなく突撃する様は重戦車の如し。
グリマの恐怖は二段構えだ。組み付いた後は踊るようなフットワークで敵を混乱させ、
破壊力抜群の投げを打ってKOをもぎ取る!
ピンフォールを狙わずに勝負を決する殺人レスリングだ!
〈天河's Comment〉
パトリオット猟班には「総合格闘団体」と言うコンセプトがあり、
またMMAの趣も少し取り入れようと思っておりましたので、
どうしてもレスリングスタイルのキャラクターを出したかったんですよね。
実はモーントは大まかな設定が先に作られており、
元々はパトリオット猟班とも無関係の予定でした。
登場のタイミングや配置を考慮する中でパトリオット猟班の一員に加わり、
後から追いかけるようにして格闘スタイルが決まった次第です。
モーントが使うのは、アイスランド伝統のレスリング、グリマ。
レスリング系のキャラと一口に言っても、そのまま同スタイルを採用してしまうのは、
天邪鬼かつ変り種好きとしては躊躇するものがありまして。
純然たるレスリングでありながら手垢の付いていないものを模索した結果、
かつてヴァイキングたちも愛したと言うグリマを発見しました。
はっきり言って、資料が殆どありません。未知の格闘術と言えば聞こえは良いけど、
テクニックの研究が半端じゃなく大変です(笑)。
数少ないビデオや、たどたどしい語学力で日本語に訳した現地語の資料を手がかりにして、
ルール化された近代グリマと、ヴァイキングの時代から伝わる古流グリマの優れた部分を
抜き出しつつ、モーント流のスタイルを作り上げている最中です。
なお、人間離れした硬い肉体に関しては、ノーコメント。ストーリーが進むにつれて、
いずれ明らかとなりますので。
〈総 括〉
シュガーレイたちパトリオット猟班は、スカッド・フリーダムから離脱した集団となっております。
衣装デザインの面でも元々の制服(だんだら模様の腰巻やホワイトタイガーを模した上着など)を踏襲しつつ、
マイナーチェンジを施すようなスタイルを取りました。
義の心を失ってはいなけれど、進むべき方向性が本隊とは変わってしまった……と言う暗喩ですね。
スカッド・フリーダム本隊がトラッドな趣であるのに対し、
近代の総合格闘の試合で用いられるオープンフィンガーグローブやマウスピースなどを
パトリオット猟班の装備として採用しています。
そうした装備から「総合格闘集団」と言う方向性に辿り着き、
やがて近代MMA寄りの格闘スタイルへと発展していきました。
ジャーメインは更に特殊で、神崎さんが先行して起こしてくださったデザインを
生かせるようにキャラクター設定を作り上げていきました(ひとりだけ衣装が異なる理由など)。
それにしてもヒール(悪役)全開ですね、パトリオット猟班。
MMAと言う分野自体が僕にとって新しい挑戦なので、未知の扉をどんどん開けている感じです。
新しい技術との出会いと洗練は興奮度が違いますね。
パトリオット猟班の登場を通して得た財産をもとにして、
これまで以上に殺陣も進化していくと思いますよ。
製作総指揮兼殺陣武術指南(自称)天河真嗣
パトリオット猟班へのインタビューはこちらから⇒
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