第5回「恋に落ちたら」を振り返って(天河真嗣)
タイトルの元ネタはジョン・マクノートン監督の映画から(原題・Mad Dog and Glory)。
ダブルヒロインのひとり、マリス・ヘイフリックの初登場エピソードなので、
恋愛要素を絡めたタイトルを付けようと考えたのですが、
基本的に恋愛ものって全くと言って良いほど観ない&読まないので、
「いざ!」と取りかかったものの、胸がときめくようなフレーズが全然思い浮かばなくて
途方に暮れました(笑)。
仮題の段階では「マリスでございます」だったんですが、さすがにこのままではちょっとマヌケかなぁ、と。
マリスは良家のお嬢様と言う設定なので、「〜でございます」と言う題名は、
ある意味合致はしているんですけど、今の若い子はさすがにわからないだろうと
自分で自分のアイディアにツッコミを入れました。
胸がときめくようなフレーズと言うのも、なかなか難しいものです。
ストレートに行くなら「アルが浮気!? ライバル登場!」と銘打っても良かったんでしょうが、
あまりにも<トロイメライ>の世界観と合わないし、フィーナの心情に寄り添いすぎるのも宜しくない。
今回は群像劇であり、マリスも主人公のひとりです。
どちらか片方の心情に偏ってしまうと、もう片方が当て馬のような扱いになってしまうので、
タイトルで本命・当て馬を明確に分け、先入観を誘導するようなことは避けようと思いました。
そもそも<トロイメライ>は恋愛要素をメインに置く性質のお話ではありませんしね。
英題は「Three Musketeers」。
つまり三銃士のことで、マリス同様に初登場となるフェイチームを指しています。
じゃあ、ダルタニアンはアルフレッドなのかと言えば、そんなことはなくて。
まあ、ディズニーの「三銃士」もミッキー・ドナルド・グーフィーのトリオを三銃士と呼んでいますし、
三人の英雄を端的に象徴するキーワードとして「Three Musketeers」を選んだ次第です。
戦いに際して、マスケット銃を使わないところも原作「三銃士」っぽいでしょ(←完全なるこじつけ)。
本編は激々極々が執筆を担当した第4回のラストシーン直後からスタートします。
ちなみに<トロイメライ>では、いわゆるリレー小説のような体制は取っておらず、
担当する回をスタッフごとに割り当て、あらかじめ用意されたプロットをもとに
各々が独自に書いていくと言うスタイル。
激々極々が第4回を書き上げたのと、僕が第5回に取りかかったタイミングも全く異なります。
なにしろ初稿を書き終えたのが2年以上前のことなので、
どのような状況であったか細かく記憶していませんが、
先に届けられた激々極々の原稿を確認しながら冒頭のシーンへ繋げていった覚えがあります。
プロットはプロットとして、やはり実際に執筆した当人なりの工夫があるわけですよ。
バトンを受け取る以上は、前の回の担当者の思いとか工夫も盛り込んでいかねば、と。
第4回および第5回は、こうした擦り合わせを初めて行ったエピソードでした。
フェイ、ソニエ、ケロイド・ジュースの活躍するシーンについては、
「超人的、英雄的=現時点の主人公チームでは絶対に勝てない」と言う圧倒的な存在感を
この第5回で表現しきれるよう力を注ぎました。
フェイの名声自体は第1回から点描していましたが、
それを具体的かつ説得力をもって表現するにはどんな演出が最適かと頭を捻っていたところ、
ツヴァイハンダーに乗って滑空すると言うトンデモアクションを閃きまして。
一発で「この人、スゴい(=やべぇ!)」と受け手に認識して貰えるような、
ムチャクチャな初登場シーンとして完成させることができました。
インパクト勝負と言う点では、<トロイメライ>でも屈指の演出になっているんじゃないかと思います(笑)。
自分が投げた飛翔物体の上に乗って突撃すると言うトンデモアクションは、もはや古典の域。
前作の主人公にも全く同じアクションをさせています。
ちょっとしたお遊びですね。前作を読んでくださった方はニヤリとするんじゃないかと。
ちなみに前作の主人公もフェイもツヴァイハンダーと言う大型の剣を装備していますが、
デザインや使い方も全く同じものにしてあります。
第4回から続いていたマコシカの民との対峙を経て宴会に続き、
それに合わせてフェイチーム、ミスト、レイチェル酋長と次々と新キャラが登場していきますが、
<トロイメライ>の執筆を始めた直後のエピソードと言うこともあってちょっと説明台詞が多いですね。
宴会シーンに於いて狂言回しを担っているトリーシャの台詞も、なんと言うか、ちょっとクドいし…。
このあたりは、改めて読み返すと相当恥ずかしいです。
聖剣エクセルシス、破壊神タンムーズ、ワカンタンカのラコタなどなど
SFらしからぬファンタジックな設定も第5回から続々と登場します。
ストーリーの根幹に触れる要素なので、この場で深く説明することはできないのですけど、
第5回に登場したペジュタの宝珠や今回のエクセルシスなど、
前作を読んで下さった方にだけわかるネタも少しずつ仕込んであります。
女神イシュタルも前作から引き続き登場していますね。
マコシカの古代民族やこれらにまつわる神話、アーティファクトの類は、
原作シナリオを書いた際に作った設定なんですよ。
イシュタルの設定は中学生の頃に作ったかな(激々極々ならきっと覚えているはず)。
色々な場面で発言していることですが、原作シナリオは僕が高校のときに書き、
スタッフの解散と言う憂き目に遭ってお蔵入りしたものです。
設定そのものはかなり細かく作っており、かつ汎用性もあるものでしたので、
シェアードワールド的な扱いで前作の世界観にも盛り込んでみました。
発表の時系列は前作→トロイメライの順番なんですけど、設定開発の系譜はトロイメライ→前作と言う。
あべこべな状態となっています。
裏設定と言うか、初期設定の裏話なのですが、
最初、マコシカの民は「シェルブール族」と言う名称だったんですよ。
彼らが使う魔法(プロキシ)は、呪文の詠唱でなく神楽のような儀礼を経て
初めて行使できると言う設定にしてあるので、
それに引っかけてミュージカル映画「シェルブールの雨傘」から拝借していました。
既にお気づきの方もおられると思いますが、マコシカの設定はネイティブアメリカンをモチーフにしています。
最終的にアイヌ神話の要素や扮装デザインにサリーを採用するなど様々な要素を融合させましたが、
基調はネイティブアメリカン。
エンディニオン自体がやや西部劇的な趣を持っている為、その世界でトラディショナルなものを求めていくと、
やはりネイティブアメリカンかな、と。個人的に彼らの文化を調べていたこともありますので。
設定用語もネイティブアメリカン寄りに統合することに決め、
それに伴ってシェルブールからマコシカへと変更されました。
ただ、ネイティブアメリカンと一口に言っても部族・氏族ごとに幾つも言語があります。
そこまで厳密に考証をしてしまうと、ちょっと設定として重くなってしまいますので、
幾つかの部族のものを混合して使わせていただいております。
本編ではさらっと触れる程度に留めていますが、
<トロイメライ>に於ける魔法・プロキシは、マコシカの民が継承する独自の技術ではあるものの、
修練を積めば誰にでも使えるようになります。
ソニエがレイチェルの指導で習得できたのも、プロキシが血統によって受け継がれるものでないことを表していますね。
神がかった存在を理解する為の勉学も含めて厳しい修行が必要になりますし、
著しく才能が乏しければいくら修行を重ねてもプロキシを使えるようにはなりません。
これはマコシカの民にも同じことが言えます。
プロキシの才能に欠けるとしても、その為に民族内で不遇な扱いを受けるようなことはなく、
修練を積んだ人間は賢者として尊重されます。
これが外の世界のトラウムの場合、不適合者はときに差別的な扱いを受けます。
あまり表に出てこない設定ですが、マコシカの民の精神的な豊かさも
少しずつ描いていけたらと思います。
それにしてもホゥリーはよく修行に耐えられましたね。あの根性ナシなら真っ先に諦めそうなものですが(笑)。
マリス登場前後は、<トロイメライ>としては珍しくラブコメ的な展開でした。
アルフレッドですら立ち入れないようなフェイvsタスクの超人バトルのほうが、
<トロイメライ>の作風にフィットしている気がします。
いや、単に僕がラブコメ苦手なだけなんですけど(笑)。
ここで重要なのは、主人公のアルフレッドよりも戦闘力が高いキャラクターが
<トロイメライ>の世界には多数存在すると言うことを明示した点でしょうか。
漫画に限らずラノベに限らず、主人公が一点突破の最強レベルで、
なおかつ周りからひたすら持ち上げられると言う作品があまりに多い気がするんですよ。
それはそれで一つのスタイルだし、否定するつもりはありませんけど、
虚構の中のリアリズムを追究していくと、作品内の価値観が主人公を基準にしていることは、
あまりにも空虚と言うか、ウソ臭くなってしまう。
なんでもかんでも主人公ひとりで片付いてしまっては、あまりにも味気ないじゃないですか。
群像劇を構成する一つの要素=万能主人公の排除を、ここで改めて強調してみました。
それにしても超人バトルは書いてて爽快かつ痛快ですね(笑)。
巨大手裏剣による投擲攻撃+得物が手元を離れている間は体術で戦う…と言うタスクの格闘スタイルは、
手裏剣の到達地点への打撃による追い込みも含めて相当気に入ってます。
居合抜きって、初撃が外れたら一巻の終わりだと良く言われるじゃないですか。
でも、達人が初撃を外した後のフォローについて無頓着と言うのはあり得ない話なわけで、
タスクの格闘スタイル=既存の作品に於いて「初撃を外したら終わり」と言われる攻撃に
新たな発展・工夫を試みると言う技法は、そこから着想しました。
居合い抜きからの連続斬りへと移行するフツノミタマの格闘スタイルも同系統の閃きです。
アルフレッド・フィーナ・マリスのラブコメ、三角関係についてくどくどと話すのは野暮ってもんですが、
さすがに浮気がバレる→言い訳→菩薩様のようなフィーナが受け入れる…と言う一連のシーンは、
書いてて「アル、株を落とし過ぎじゃねーの? 主人公としてどうなんだよ」って心配になりました。
人気が出ない主人公だよなーと激々極々、ムツさんともよく話しています(笑)。
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