第8回「忌むべき禁術」および第9回「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」(天河真嗣)


エピソード解説もご無沙汰をしておりました。天河でございます。
今回は、第8回から第9回にかけて描かれたリーヴル・ノワール探索編の解説となります。
本来、このエピソードは第8回内で全てまとめる予定でおりました。
ところが、書き進める内にどんどんボリュームが膨らんでしまい、急遽、二回に分けることを決定。
〈トロイメライ〉としては初めて一本のプロットを複数回に跨いで描くエピソードとなった次第です。
思えば、この回は初挑戦する要素が集中していたように思います。

まず、導入からして「おや?」っと思う内容。
この回で初めて登場するキャラクターのモノローグから第8回はスタートいたしました。
「カナリア鳴く空」と題したこのモノローグ、お察しの向きもあるかと存じますが、
〈トロイメライ〉のストーリー上、大変に大きな意味を持っています。
受け手の記憶に鮮烈に残るような、印象的な演出にしたいと思い、
何の脈絡もなくモノローグ開始と言う敢えて挑発的な配置としてみました。
地の文も〈トロイメライ〉本編としては異例の一人称形式。
しかも、何やら思わせぶりな言い回しが多い! あからさまに怪しい、と睨んで頂ければ幸いです。
モノローグの語り部にあたるイーライは、先ほどもお話しした通り、今回が初登場のキャラクター。
第9回でクローズアップされますが、パートナーのレオナと合わせて、
不良冒険者と言う今までにいなかったなアグレッシブなポジションも担って貰っています。
同業者を目の敵にするタイプの冒険者ですね。主人公チームは冒険者が多いのですが、
実はみんなが優等生的で。もっとワイルドな冒険者もいる筈だと考え、
イーライとレオナにその役割を振ってみたわけです。
素行のよろしくない冒険者と言うことであれば、ローズウェルがそれに近いやもですが、
依頼主にべったりくっついて甘い汁を吸うタイプに対して、
メアズ・レイグの場合は、自分たちで能動的に暴れ回り、同業者との抗争も辞さないと言う。
作中でも罵られていますが、アウトローの一歩手前ですね。
ちなみに、メアズ・レイグと言うネーミングは、
往年の西部劇「拳銃無宿」でスティーブ・マックィーンが使用した「ランダル銃」の別名から。
銃身を切り詰めたショットガンなんですよ、ランダル銃って。
反動が物凄いとのことなので、跳ねっ返りのイーライにピッタリかな、と。
僕の読んだ本では「メアズ・レイグ」となっていたのですが、
「メアズ・レッグ」だったり「メアーズ・レッグ」だったりと、資料によって発音がまちまちで。
まあ、「拳銃無宿」自体、今の若い人は知らないからいいや、と
投げっぱなし気味に自分の直感を信じました(笑)。
アルフレッドのチャップス(ローハイド)といい、フィーナのガンアクションのスタイルといい、
西部劇ネタは確信犯的に盛り込んでいますが、「メアズ・レイグ」は中でも特にその色が濃いですね。
個人的にイーライとレオナは、映画「俺たちに明日はない」で取り上げられて有名になった、
ボニー・パーカーとクライド・バロウのイメージがほんの少しだけ入っています。
男女ペアでは、オーソドックスですかね。
もう一つ、ネタバレをすると、「メアズ・レイグ」自体は、
別作品で使用する予定だった冒険者コンビのチーム名だったりします。
今回、イーライとレオナの為にフライングで使ってしまいました。


本編スタート以来、第8回から一気にSFものらしさが増したように思います。
生体実験やデミヒューマン、正体不明のインターフェースなど
SFガジェットをプロット内へストレートに投入し始めました。
これはストーリー構成上の僕なりの設計でもあるのですけど、
〈トロイメライ〉が本題に入ったことを暗示できるように
特にインパクトの強い要素を第8回から盛り込んでいこう、と。
じゃあ、〈トロイメライ〉のお話を組み立てる中で一番印象的なパーツって何かと考えたところ、
ズバリ、SFガジェットだな、と。
実はそれまでに掲載したエピソードって、いずれもSFらしさがかなり薄口なんですよね。
それと言うのも、第7回まではキャラクターや世界観の紹介編、つまりプロローグなんです。
キャラクターなどが馴染む前からSF要素全開でごり押ししても、
受け手を置いてきぼりにしてしまい、ストーリー表現の中で欠陥が生じると考え、
紹介編へある程度の時間を費やすことに決めました。
今から六年ほど遡るのですが、〈トロイメライ〉の企画発足時、
週ごとに一回分のエピソードを一括で掲載する予定で準備を進めていました。
この第8回は、その時点では掲載開始二ヶ月程度で世に出される筈だったわけです。
企画を進める過程にライターチームの再編があり、またムツと相談する中、
膨大な量のテキストを一挙に公開しては受け手も翌週までに読みきれないと判断し、
現在のように章節ごと複数回に分けて掲載するスタイルとなりました。
東日本大震災の影響による中断時期も含めて、最終的に紹介編は一年がかりでの配信となりましたが、
その豊かな時間で僕ら自身も〈トロイメライ〉と改めて向き合い、
受け手の皆さんと同じように登場キャラクターや世界観への理解を深めることができました。
一本のエピソードを複数回に分けて掲載するスタイルは、偶然から生まれた発明ですが、
時間をかけてじっくりと世界観への理解を深められたことを考えると、
当初の予定から変更して大成功だったと思いますね。


そして、一年越しの、まんをじしての本編。
最後の主人公キャラクターにあたるルディアが初登場することもあり、
事前の告知でもそこを強調しました。
また、第8、9回は初めて他作品からゲストスターが出演するエピソードでもありました。
人形劇「セピアな熊ども」からのゲスト出演ですね。
ストーリーの本題突入、最後の主人公登場、他作品からのゲストスターと、
SFガジェットの挿入とはまた別の意味でこれまでにない要素が満載でした。
そうした背景もあり、執筆時には他のエピソードとは比べ物にならないほど気を遣った覚えがあります。
「セピアな熊ども」は〈トロイメライ〉にもスタッフとして参加している半券のオリジナル作品で、
そこに登場する主人公コンビにゲスト出演して頂いているのですが、
時間的な余裕がなかった為、第8、9回を生みの親である半券に掲載の事前にチェックして頂くことも叶わず……。
実はかなりシビアな状況での掲載でした。
人形劇「セピアな熊ども」とは、僕もスタート以来の付き合いで、シナリオも一本提供しています。
なので、半券のセンスやキャラクターの性格、台詞の作り方は多少なりとも理解しているつもりでしたが、
さすがに掲載直後は緊張しましたね。
以降に登場するゲストスターについては、事前に生みの親に台詞回しをチェックして貰い、
その上で掲載する体制を整えております。


第8、9回のストーリーで一番印象に残っているのは、登場人物がやたら多かったことかな(笑)。
群像劇を標榜する〈トロイメライ〉は、当然のように登場人物が多いのですけど、
それにしても一回あたりの総登場人物数は、過去最大規模だったんじゃないかな(現在更新中)。
ともすれば目立たないキャラクターが出そうになる中、僕なりに知恵を絞りまして、
個々の特徴を強めて誰一人として埋もれないよう気を配って執筆を進めていきました。
結果的に、そう努めたことがボリュームの増大に繋がっていくわけで、
構成上、有効だったのかは判断が難しいところです。
第9回に至っては、殆どのキャラクターを一箇所に集めてのバトルロイヤルを描きましたからね。
数週に亘って集団戦を配信しましたが、ここでもやっぱり個々人々の格闘スタイルを目立たせたくて、
殺陣シーンの尺も相当豊かになってしまいました。
ただ、長過ぎれば良いと言うものではないのですが、多人数によるコンビネーションなど
複数キャラを同時に動かすシーンでしか成立させられないネタも確かにあるわけで。
折角のチャンスを見逃すのは勿体ないし、そんなバトルは〈トロイメライ〉でしか書けないだろうから、
絶対大変な目に遭うけれど、ここは気合いでやってしまおう、と。
各キャラの位置関係などに矛盾や破綻が生じないよう、
ポジショニングを紙に書き写すなど情報を整理してコンビネーションを練り込んでいきました。


殺陣シーンと言えば、これまた初めてアルフレッド以外に変身を伴うトラウムの持ち主が登場しました。
イーライの「ディプロミスタス」です。肉体を金属化する強力な変身能力で、
アーノルド・シュワツェネッガー主演の「ターミネーター」シリーズを
思い浮かべた方もおられるのではないかと。
実際、執筆時には「サラ・コナー・クロニクルズ」のサントラをよくBGMにしておりました(笑)。
攻守にバリエーションを持たせる為、「ターミネーター」のように液体金属と化す能力も
「ディプロミスタス」には含めたのですが、いざ書き始めてみると、これが思った以上に強力で。
攻撃は勿論、防御と回避も万能に近いんですよね(笑)。
アルフレッドに至っては、無敵のように扱われてきた変身能力を簡単に破られています。
実のところ、ディプロミスタスは試合運びを考えるのが格段に大変です。
おまけにソニエも「ダブル・エクスポージャー」と言う厄介極まりないトラウムの持ち主。
悪名高い不良冒険者ならではの性格付けとして圧倒的な戦闘能力を与えたものの、
今度はアルフレッドたちに突破させるのが容易でなくなると言うジレンマが生じてしまいました。
「ディプロミスタス」も「ダブル・エクスポージャー」もストーリーと密接な関係を持つトラウムなので、
バランス調整の為に設定を改変することもできない状況。
後のエピソードでアルフレッドは再びイーライと対決することになりますが、
そこでもやはり試合運びに苦労しました(苦笑)。
ちなみに「ダブル・エクスポージャー」と言うネーミングには、元ネタがあります。
「刑事コロンボ」シリーズのとあるエピソードの原題から引用させて頂きました。


ルディア覚醒、リーヴル・ノワールの爆発、意外な人物の登場、予想だにしない「遭遇」に、
ダメ押し気味の「メアズ・レイグ」の謎かけと、一気に畳み掛けるラストシーンは個人的にお気に入り。
第一部のクライマックスに向けて、ストーリーもまた加速していきます。



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