番外編「悪夢の清算」を振り返って(天河真嗣)
本文掲載から半年も経てのプレイバックとなってしまいました。
そもそもプレイバック企画も久方ぶりの更新で。
掲載済みの中にも重要なエピソードがたくさんありますので、
なんとか時間を確保して、裏話等を紹介していきたいな、と。
今回は、2012年夏に掲載された番外編「悪夢の清算」をば。
そもそもこの「悪夢の清算」は、最初は制作のスケジュールに入っていませんでした。
シーズン1とシーズン2の合間に挟まれる形で2012年の発表となったものの、
本来は2011年内に完成させようと思って筆を入れた作品です。
執筆の遅延から予定が大幅にずれ込み、結果として2012年の掲載となってしまいました。
と言いますか、脱稿自体が2012年で。
<トロイメライ>は、大体、エピソード一本につき2、3ヶ月をかけて書いているのですが、
この番外編に関してはその三倍はかかっています。
番外編を書くきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災です。
スタッフや友人にも被災した人間がおり、その人たちは幸いにして無事でしたが、
僕の地元も翌日未明に大きな地震に見舞われ、
抗い難い、大いなる力と言うものを肌で実感しておりました。
それから一週間ほどは、<トロイメライ>と言うこのプロジェクトにおいて、
何らかのアクションを起こせないかと言う模索の日々でした。
そのときに脳裏をよぎったのは、アメリカのドラマ「ザ・ホワイトハウス」のあるエピソード。
WTCが標的にされた2001年アメリカ同時多発テロ、いわゆる9・11発生に際して、
「ザ・ホワイトハウス」のスタッフが急遽撮影した「イサクとイシュマエル」と言うエピソードでした。
同時多発テロに何ら関係のない、罪のないアラブ系アメリカ人が、
謂われのない弾圧を受けないようにとの訓戒めいたストーリー。
アマチュアながら創作に携わっているのであれば、僕が起こせるアクションは、
やはり何かを書くことじゃないか、とそう思った次第です。
とは言え、これは極めてデリケートなことです。
どのようなストーリーにするか、最初の段階で大いに迷いましたし、
僕自身が相当に混乱していた為、第一案はとても表に出せるようなものではなくて……。
他のスタッフの意見もあり、第一案は完全に破棄されました。
続く第二案が、「悪夢の清算」の雛形になっていくわけです。
辛いときだからこそ、カラリと笑えるコメディ路線にしよう。
全ては、そこから始まりました。
ただ、実際に書き始めると、やはり相当に難しかった。
当時も今も、大変な問題となっている風評被害への戒めも含めているので(風刺ではなく戒めです)、
何度も何度も「これでいいのか、これが受け入れられるのか」と、繰り返し自問自答していました。
スタッフにも言われましたが、震災当時を反復させることは絶対に避けなければならない。
その上で、震災がもたらした社会の混乱に向き合う。そして、笑顔になれるお話。
<トロイメライ>の作業でも稀なことですが、
書きかけの原稿を他のスタッフにチェックして貰うこともありました。
執筆における自分の判断と言うものを、改めて考え直す機会でもありましたね。
ストーリー自体は、オーソドックスな勧善懲悪もの。
サブキャラクターのクラップを主人公に据えて、彼のキャラクターを前面に押し出すプロットを考えたのですが、
上記の事情から掲載がシーズン2の直前にまでずれ込み、
結果的には、クラップにとって、ある種の花道となった感があります。
番外編ならではストーリーを作ろうと方向性を模索したとき、
真っ先に浮かんだのは、トラウムをエピソードに盛り込むと言うこと。
トラウムは作品を代表する異能なのですけど、そこに依りすぎると単なる能力バトルものになってしまうので、
本編では、敢えてトラウムがなくても成立するようにエピソードを作っているんですよ。
番外編なので、そのバランスを逆転させまして。
トラウムがなければ成立し得ないストーリーを作っていきました。
■番外編キャラクター裏話
・カミュ&アシュレイ
文章のみで通用するトリックですね。
性別の勘違いはありきたりなネタかも知れませんが、
ラブコメみたいな設定が天河作品で出ること自体が奇跡なので(笑)。
最後まで読者を騙すのではなく、クラップ以外にはバレバレと言うパターンで書いたので、
あんまりラブコメっぽくならなかったですね。
カミュとアシュレイは神崎さんに特別にキャラクターデザインも起こしていただきました。
カミュの使うウソ発見機は、「アメリカ横断ウルトラクイズ」のアレをイメージしてます(笑)。
・ガウニー&ヒックス
そのままズバリ、悪代官と真の黒幕。
ガウニーもヒックスも、実は仮の名前のつもりだったんですけど、
結局、そのままゴーサインを出しちゃったなぁ(笑)。
本当の力を見せてやる宣言→ビルドアップ→結局やられると言う小悪党パターンは、
もう様式美の世界ですね。
なお、ヒックスが用いていた毒の串(矢)を射る小型拳銃は実在します。
・カーカス&オットー
テレビ局のスタッフは、総じてこの番外編に課せられたテーマの体現者です。
テレビから流れる情報がデタラメだと僕は思っていませんし、
発信する側に良心や情熱は必ず存在すると確信しています。
本当に裏話ですけど、カーカスのフォグマシーンのデザインは、
その昔、僕がホテルマンとして働いていたときに使った仕事道具をモチーフにしています(笑)。
・サルーンのマスター
名前はきっとダンランドレスさんか、トニーゴンザレスさん(ポディーマハッタヤは出てしまったので)。
実は本編に登場させるつもりだった没キャラです。
・マルレディ
トロイメライはマカロニウェスタン調の世界観なので、警察機関もシェリフ(保安官)となるのですが、
その割に本編にはシェリフが出てこない!
と言うわけで、失踪事件等を解決する要員として登場。
星のフチを研いだ保安官バッジを手裏剣のように投げるとか、
若い人置いてきぼりの西部劇ネタを引用しようと思ったんですけど、
こいつで使うのは勿体ないなぁ、と出し惜しみ(笑)。
※多連装ショットガンがトラウムであるかのような表記が一部にありますが、
これは僕のミスです。実際にはアンテナ型のトラウム。ややこしくてすみません。
・ストラスバーグ
事跡と名前だけなんですけど、化け物みたいなキャラクタ―(笑)。
アルフレッドとカッツェが寡黙になったのは、明らかにこのジジィの反面教師だと思うんですけど、
この裏設定は採用してもOKなんでしょうか。
一部のトンデモエピソードは、新撰組局長、近藤勇の養父にして剣術の師匠、
近藤周斎の逸話から引用しています。
一応、断っておきますが、周斎は大気圏突入なんて出来ませんので(笑)。
なお、ムルグの戦闘能力は、ストラスバーグ仕込みと言う裏設定があります。
化け物同士、種族を超えた師弟の絆ですね。
一応、存命中と言う設定ですが、果たして如何に?
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