シーズン2スタート記念特別企画
制作総指揮・天河真嗣 
ロングインタビュー


シーズン2でも引き続いて制作総指揮とチーフライターを担当する天河真嗣。
新展開に向けた準備と取材に追われる中、来るべきシーズン2に傾ける熱意を
思う存分語っていただきました。


シーズン1を作って見えたもの――
これまでにも幾度か発言していますが、シーズン1の作業が最終回に差し掛かった頃、
僕の中ではシリーズ継続の意思は半々でした。
当初予定の三分の一もストーリーを消化していませんでしたが、
僕自身のコンディションも含めて、続けていくことが正しいかどうか、
判断を決め兼ねていたというのが正直なところですね。
でも、結局は「続けていくこと」の魅力には敵いませんでした(笑)。
ご存知の通り、〈トロイメライ〉の掲載形態は市販されている文庫本などとは
全く異なるスタイルを採っています。週に一本、さながら連続ドラマのように
エピソードを公開していくというものです。
東日本大震災直後の休載期間を除き、僕らはこのペースを維持し続けてきました。
この連続性というものはストーリーを練り上げる面でも有効に作用するんですよね。
数ヶ月ごとに新作を発表する体制であれば、準備時間もそれなりに確保できるし、
執筆も余裕をもって取り組める。それに対して、我々の〈トロイメライ〉は
必ず毎週更新しなくてはなりません。掲載前には校正が絶対に欠かせないし、
そうなると一定量の原稿を掲載日程よりも早く仕上げておかなくてはならない。
正直、しんどいですよ。健康面でもメンタル面でも。
新たな取材やロケもタイトなスケジュールでこなさなくてはいけませんし、
制作総指揮の立場では、さらにスタッフへの指示や各種チェックもある。
僕らの場合はプリ・プロの時間を豊かに取っていたのですが、
その貯金は最初の一年で使い果たした感じです(笑)。
ただ、しんどいからこそ良い意味で緊張感を保ち続けることができるわけですし、
頭の回転も加速するというもの。〈トロイメライ〉のストーリーがここまで膨らんだのは、
「連続性」にこだわり続けたからだと確信しています。
毎週必ず更新し、そこに生じた様々な意見や発見をチェックして
すぐさま本編へ反映させるなんて、連続ものでしか成立し得ない醍醐味です。
僕はストーリー構成をかなり細かく決めておくタイプ。
プロットを作る段階でも数十回先の伏線まで計算しています。
でも、その構成の通りに執筆が進まなくても全く構いません。
むしろ、最初の計算なんて崩れて欲しいとさえ思っています。
だって、それはキャラクターとストーリーが僕の貧しい発想を超えて育った証拠ですから。
「反応」の吸収と「反射」の閃きによって〈トロイメライ〉の世界は養われているのです。
三人目のヒロインが加わることも、シェインにパートナーが誕生することも、
最初の計算には含まれていませんでした。設定すらありませんでしたからね。
そして、彼らは確実に〈トロイメライ〉を面白くしている。
制作総指揮としての僕の役割は、初期の計算と、それを上回る“計算くずし”とを
必要部品と捉えて上手く組み立てること。
シーズン2ではこの作業の精度をさらに高めていく必要があると感じています。


スタッフのアイディアを膨らませる喜び――
シーズン1の制作を通しての一番の収穫は、なんと言ってもスタッフとの連携プレー。
激々極々くんや半券さんのアドバイスは常に斬新だし、
〈トロイメライ〉の美術を牽引するデザインチームの発想には感激し続けております。
それらも貴重な“計算くずし”。仕上がってきたデザインなどをフィードバックさせるため、
プロット内容を組み立て直すことも少なくありません。
異世界の企業が主人公たちの暮らす世界のマーケットを分析して
自社の商品を売り込むという展開もシーズン2には出てきますが、
これは商品をデザインしてくださった神崎さんとのコンビネーション。
半券さんが提示していた「東西ドイツをモデルにした経済格差」というアイディアとの
マッチングも含まれています。半券、神崎両氏によって新展開が生まれたわけです。
スタッフたちの“化学反応”はプリ・プロ段階でも期待していたことですが、
想像以上の成果がシーズン1では得られました。
それをストーリー中で再現していくのも大きな喜びですね。
ここは僕や激々極々の腕の見せ所。文章という表現で具体化するうちに
アイディアも練り込まれていきますから。そうしたプロセスを経て〈トロイメライ〉は
進化を繰り返しています。
実際、シーズン2初回エピソードにあたる難民キャンプ編も
神崎さんが作ってくださったイメージボードをもとにして加筆するうち、
最終的に初稿から二倍近いボリュームまで膨らみました。
〈トロイメライ〉は初稿から最終決定稿のまでの時間がだいぶ開くんですよ。
かなり先行して初稿を書き(初稿は二年先くらいの掲載分までストックしています)、
掲載日程の一ヶ月前くらいになって決定稿として仕上げると言うスタイル。
その間に新しく生まれたアイディアを決定稿で生かすと言う形ですね。
勿論、作業量は増えます。「手間がかかって、大変じゃないのか」と
首を傾げる方がおられるかも知れません。
正味の話、とても大変です(笑)。一本あたりに途方もない労力を費やすわけですからね。
でも、僕らは苦痛とは思いません。むしろ、正反対。
チームプレイによってアイディアが膨らみ、作品としてのクオリティが向上するなら、
命を削るだけの価値があると言うわけですね。


シーズン2ではバトルも大きく進化――
軍師が主人公のお話ですから、〈トロイメライ〉と「戦い」は
切っては切れない関係にあります。僕自身、殺陣シーンは特に力を入れていますしね。
シーズン1でも大人数が入り乱れての合戦を数回おきに挿入しておりました。
幾度か激々極々くんに合戦シーンを担当していただきましたが、
シーズン1を通して、僕と彼の合戦の捉え方や組み立て方の違いのようなものが
明確に見えてきました。
これは面白い、美味しいな、と。同じ合戦シーンでも二種の異なるテイストを
提供できるわけですから。こうしたテイストの違いをシーズン2では
より鮮明に描き分けていこうと打ち合わせを繰り返しております。
どこがどう違っているのかについては詳説を割愛しますが(本編をお楽しみに!)、
ざっくばらんに言うと、僕は「ロマン派」、激々極々くんは「ロジカル派」。
ロマン派の僕としては殺陣のバリエーションを今まで以上に増やしたいところです。
折に触れて売り込みをかけている「トレイシーケンポー」など、
シーズン2を盛り上げるべく新たに幾つかの格闘技を研究いたしました。
中でもアルフレッドの格闘スタイルに顕著な変化が表れますね。
シーズン1ではテクニックの幅を広げようとした結果、
格闘スタイルそのものがちょっとまとまらなくなってしまって。
シーズン2でも今までと同じようにカンフー全般のテクニックを使いますが、
基本設定=骨子となっているジークンドーとサバットの特徴をより強く打ち出します。
殺陣の作り込みはアルフレッド以外のキャラクターにも全て反映させますよ。
剣術の稽古を開始したシェインは次々と新技を身に着けていきますし、
フィーナも戦い方に劇的な変化が訪れます。
複数キャラクター同士の連携による合体技もたくさん披露したいですね。
連携を組むキャラクターまで含めて設定だけは早い段階で作っていたんですよ。
諸般の事情からシーズン1ではセーブしていましたが、いよいよ全面解禁です。
勿論、大掛かりな必殺技に頼るばかりではありません。
大技に繋げる為の小技や細かな動作の精緻によって殺陣の完成度は左右されますので、
それこそ指先の動きひとつにまでこだわって、命のやり取りの臨場感を作り上げよう、と。
以上のことは常々意識しておりますが、シーズン2へ挑戦するに当たって
表現力のジャンプアップを達成してみせます。
この場をお借りして、バキッと決意表明ですよ(笑)。


より深く、より大胆に! 清濁両方を描くためのフィールドへ――
〈トロイメライ〉のお話作りでは、達成必須の課題のひとつに
「停滞させないこと」を掲げています。キャラクターやストーリーを
一瞬たりとも微温湯に浸からせないと言う意味です。
シーズン1は世界観へ馴染んで貰うのが第一でしたので、あまり突っ込んだ内容にはせず、
青春群像劇のような構成にしていたのですが、今後は一気に深い部分まで踏み込みます。
人間関係の歪みや心理の奥底を惨たらしく抉り出す場面も増えてくるでしょう。
書き手としても相当に堪えるんですよ。苦労して生み出した我が子ですから、
「そんなに苦しまなくていいんだよ」と手を差し伸べたくもなります。
それはつまり、ふとした瞬間に作者がそこまで思い詰めてしまうほど、
〈トロイメライ〉の世界がディープなものになったと言う証左。
敵対勢力ばかりではなく、主人公たちの負の側面も一切容赦なく描いています。
激々極々くんからも「ここまでやっちゃっていいの?」と言う声が飛んできますけど、
清濁両方を掘り下げない限り、本当の意味でキャラクター=生きた人間は描けないな、と。
〈トロイメライ〉には誰ひとりとして完全無欠な人物はいません。
皆、何処かに脆さや弱点を抱いている。
シーズン1では「清」の部分が強く出ていたアルフレッドたち主人公チームも、
それぞれの「濁」に触れる局面へと差し掛かりました。
トップ画面にも掲げた「感情爆発ヒューマンドラマ」の本領発揮です。
……いや、相当怖いですよ。アルフレッドなんて人気ガタ落ちになるんじゃないかと
心配になるような事態が待ち構えていますし。
かと言って、昼メロのようなドロドロとした展開を延々と描くつもりはありません。
そこを強調してしまうと、それは最早、〈トロイメライ〉ではないわけで(笑)。
清濁を手加減ナシで描くのは人間ドラマの深度にも通じることですし、
僕らが目指すのは、まさしくその一点。本音と建前が複雑に交錯する腹芸合戦など、
ナマの感情と理性の鬩ぎ合いも一層白熱していきますよ。
人間心理に対するダイレクトなアプローチは、シーズン1を経てキャラクターたちが
十分に育ったと確信したからこその決断。人物の蓄積が不完全な状態で
振幅が激しい心理描写を押し付けても、受け手に伝わるものは限られてしまいますからね。
一〇〇パーセントの熱量を伝える条件がようやく整った――
そのフィールドこそがシーズン2へ到達した〈トロイメライ〉なのです。


(2014年7月某日)