2015年6月某日、〈トロイメライ〉の製作スタイルが「Web同人小説の作法」と題して、
あるセミナーの参考資料となりました。
その企画にあたって、製作総指揮を務める天河真嗣がチームを代表してインタビューを受けました。
今回はそのインタビュー内容を特別公開!
これまでとは一味違う角度から〈トロイメライ〉と言う作品がクローズアップされました!


――いつから執筆活動を開始したのでしょうか?

天河:高校のときにサークルを組んでパソコンのRPGを作っていたのですが、そのときにお蔵入りになった企画が〈トロイメライ〉の原型なんですよ。シナリオは完成したんですが結局、高校卒業でメンバーがバラバラになり、企画自体がお蔵入りとなりました。

――なるほど、ゲーム原案がベースだと。

天河:そうです。その後に某テレビゲームの二次創作のシリーズを一本やりまして、その執筆が終わる頃に「次はオリジナルでやりたい」と思い始め、不完全燃焼のままで終わった〈トロイメライ〉を復活させようと考えた次第です。

――ちなみに二次創作のゲームタイトルは何でしょう?

天河:『聖剣伝説3』です。マイナーカップリングのコミュニティに参加してました。そのコミュニティのメンバーに声をかけて始まったのが今回の〈トロイメライ〉ですね。

――1995年のタイトルですね。ちなみに〈トロイメライ〉プロジェクトを始めたのも90年代ですか?

天河:いえ、企画の立ち上げは2006年ですね。先ほどお話した二次創作のシリーズで半年ほど連載をしていて、それが終盤に入ったころオリジナルでやりたいと考え始めました。

――意外とキックスタートは遅かったんですね。当時からwebでの掲載を前提にしていたのでしょうか?

天河: そうですね。先にお話しした聖剣伝説3のコミュニティでもweb掲載の小説を投稿しておりましたので、その流れで自分のサイトでも同じ方法を採りました。

――サイトにはキャラクター相関図やイラスト以外にも、劇伴など盛りだくさんの仕様になっていますが、これは意図して組み込んでいるものですよね?

天河:ただ小説を掲載するだけならば、件のコミュニティへ投稿するだけでも良かったのですが、それでは面白くないので、設定資料やBGMなど、読書のお供になるものを全部揃えようと思いまして(笑)。

――なるほど、オールインワンのスタイルなのですね。

天河:そのスタイルをオリジナル作品でもやろうと考えたのが〈トロイメライ〉というプロジェクトのスタートです。

――先んじてオールインワンのスタイルが確立されていたのですね?

天河:そうですね。〈トロイメライ〉というストーリーではなく、それを提供するためのステージと言いますか、スタイルが先行しています。そのスタイルの中で表現したら面白いと思ったので、このスタイルを取ってみました。

――非常にユニークだと思います。多彩な人材が集まって作られているのですね。

天河:聖剣伝説3のコミュニティには才能あふれるメンバーが多くて。この人たちでオリジナルをやってみたいとずっと考えていたんですよ。この人のこんな作品が見てみたい、みたいな。 それにはオールインワンのスタイルがマッチしているなと。それで現在のメンバーに声をかけていきました。とりあえず企画書を作って、僕の師匠にあたる人に相談しました。企画発足としては、そこからですね。

――執筆は何名で担当されているのですか?

天河:現在は僕と相方のふたりで執筆を担当しています。ひとり、別の部署に移ったので。

――もう9年にもなりますけれども、モチベーションの維持とかに苦労されることとかありますか?

天河:他の方は、どうやって維持してるんだろう(笑)。もちろん、執筆そのものについてはモチベーションの波は確かにあるんですけれど、〈トロイメライ〉に向き合うときは、自分はライターではなくて製作総指揮という立場なんですよ。

――なるほど、たしかに他のライターさんの原稿を監修されてますよね。

天河:自分が疲れたからもういいと責任を投げ出してしまったら、他のスタッフはどうしようもなくなってしまいますよね。 そんな無責任なことは絶対にできないと、そう考えると自然とデスクに向かっているのです。ちょっとカッコつけ過ぎですかね(笑)。

――皆さんモチベーション高くキープされてるんですね。

天河:みんなのモチベーションは、正直、怖くて聞けないです(笑)。でも、とりあえずは楽しんでくれてるんじゃないかなーと。こういうキャラやアイテムを出したいと自発的にアイデアを出してくれるスタッフもおりますので。本当に、いくら感謝しても足りません。

――読者からの反響などはあるのでしょうか。一番モチベーションに関わってくると思うんですが。

天河:一番嬉しい反響は、気に入ったキャラクターのイラストを描いて送ってくださったことですね。オリジナル作品ではあまりそういうことはないと思うので、そのときは思わず「おぉーっ」と盛り上がりました。

――いい話ですね! では作品について切り込んでいきたいのですけれども、まずかなり複雑な構成になっているように見受けられます。どのような製作過程を経ているのでしょうか。

天河:リレー小説のようなやり方にすると、絶対に途中で破たんすると思いましたので、準備段階で最初から最後まで細かくプロットを組み、それに基づいて執筆をしております。全体の構成がしっかりしていないと、ライター以外の部門への発注もできません。スタッフが迷わないようプロットは作りこみ、これに基づいて全ての作業を行っています。今、第20回までの掲載が終わったところですが、ストーリーも三分の一まで進みましたね。

――相方さんとこまめに摺合せしたりするんでしょうか?

天河:先程の項目にも重なりますが、プロットを作っておりますので、それに基づいて書いていきます。執筆の相棒とは月に二度はミーティングを持つようにしていますし、原稿も必ずチェックしています。執筆で詰まったり、別の担当者の回へパスを放るときは打ち合わせをしっかり行いますよ。何かあればすぐにメールを入れたりして。情報の共有と活用は、全スタッフに行っております。

――アマチュアなのに、プロダクションみたいになってますね(笑)。ここからはズバリ批評の域もあるんですが、固有名詞や登場人物が非常に多く、覚えきれない感じなのですが、これはあえてこうなっているのでしょうか?

天河:「多過ぎる」と思っていただけたなら、それは僕にとって成功です。

――そこを詳しくお願いします。

天河:普通は人間関係などもっとシンプルに整理すると思うんですけど、現実社会では本当にたくさんの組織や思想が複雑に入り組むじゃないですか。いろいろな考え方などが絡み合っているから、善悪は簡単にはジャッジできない。誰が正しくて誤っているのか、誰が味方で誰が敵なのか、敢えてカオスな状態でステージに放り込んでいる感じです。

――なるほど、その渾沌を狙っての執筆スタイルの結果が〈トロイメライ〉なのですね。

天河:大勢のキャラクターやグループはプロット通りに動かしているのですが、例えば先ほど指摘を頂いた専門用語を使うタイミングも含めて、最初に計算しました。そうでないと、本当に分解してしまいますから。最終的なゴールに向けて、キャラクターたちには頑張っていただいております。キャラクターが所属するグループごとにも役割を課しておりますので、そこにも注目していただけると嬉しいですね。

――キャラや場面の渾沌も狙っての執筆スタイルの結果が〈トロイメライ〉なのですね。

天河:そうですね。もっと言うと、一昔前の大河ドラマ的な感じですね(笑)。 もともと、ライトなキャラクターや設定で大河ドラマをやりたいという気持ちがありまして。それで今回のようなストーリー構成を選んだ次第です。

――大河ドラマを参考にされる上で、工夫した点はありますか?

天河:大河ドラマって一年間で長い歴史を描くじゃないですか。一年間のどの時期に出世して、衣装がどのタイミングでランクアップするのか……とか。テレビ放送と小説掲載と言う違いはありますが、長いスパンでのストーリー構成と方法論は大河ドラマから学びました。プロットを作るうえでの工夫として、ウェルメード・プレーにしようということは、原作シナリオの頃から決めていました。設定や伏線の計算を作りこんでいくという手法ですね。なので、数回またいで回収される伏線などは他のスタッフが理解しやすいよう作っていきました。ストーリーの中で反復して、着地点まで徐々に誘導するとか。あとは工夫とは少し違うかもしれませんが、キャラクターの生き死には大事にしようとも。

――そこは絶対外せないところですね

天河: 現実もそうですが、ある人物の死による影響が残された人の生き方まで変えてしまうこともあるじゃないですか。そうした瞬間に生まれるパワーや心理描写は絶対に手を抜かない、「お涙頂戴」にはしないと。これはスタッフへの約束であり、キャラクターたちへの決意表明でもありました。

――必然が必要と。

天河:その通りです。〈トロイメライ〉は戦争が中心にあるお話なので、生き死にを描くことは外せないんですよ。中には虫けらのように死んでしまう人物もいるのですが、だからと言って捨てキャラのように処理するのでなく、意味ある死として描こう、と。これはプロットでも本当に作りこんでいました。

――なるほど。自分を含めて、大河ドラマを見ていない人もいると思うのですが、そういう人たちに向けて〈トロイメライ〉の読み方というと変ですが、楽しみ方のコツはありますでしょうか?

天河: 先ほどの部分と重なるのですが、キャラクターやグループ間のアンサンブルを楽しんでいただければと思います。〈トロイメライ〉はふたつの世界を股にかけたお話になるのですが、そうなると両方を結び合わせようとする考えや、あるいは接触を拒絶するコンサバティブな動きも出てくるじゃないですか。

――そうなりますね。

天河: 当然、利権を得ようとする考えも出てくるでしょうし、異なる世界と結びついて、自分が生まれ育った世界での地位を高めようとする向きだってあるはずです。そうしたパワーゲームをマクロ(グループ)とミクロ(そこに属するキャラクターたち)、ふたつの視点で描いていくのが〈トロイメライ〉になります。

――世界融合に係るキャラクター間での価値観の変化ですね

天河: そこを注目していただければ、カオスな世界をより把握しやすくなるんではないかと。時代の流れで、所属しているグループの決定や方向性に従うけれど、相反する気持ちを抱えながら、必死であがくキャラクターも出てきますので。書いている自分で言ってしまうのもなんですが、読み解くのは大変です(笑)。ただ、僕らもなんとか精一杯分かりやすいお話作りに努めてまいりますので、最大編成の群像劇として楽しんでいただければ、と!

――〈トロイメライ〉は人間ドラマも濃厚ですが、格闘シーンの筆致も深いですね。武術研究に関してはどのようにしていらっしゃるのですか? 

天河: 手に入る限りの本は目を通すようにしています。お話を聞ける方にはヒアリングを行って、資料ビデオについては、もうコマ送りでチェックして、体の動きや技術の特徴をノートに書きだしています。我ながらよくやるな、と(笑)。

――趣味全開な部分でもあるわけですね。

天河: 僕としてはなるべく手垢のついた題材は避けたいので、マイナーな武術を調べていくんですけど、そういうのは日本語訳されていないので、現地語の資料を翻訳していくことも多いです(笑)。スタッフからは趣味丸出しやな、自分とよく言われますね(笑)。

――ちなみに資料はどこで入手されるんですか?

天河: 某ネットショップで見つけます(笑)。その手始めに現地語でインターネット検索を掛けて、ヒットしたサイトを少しずつ翻訳していく感じですね。もうね、大変ですよ!

――ただでさえマイナーな格闘技の原語版ですから検索も難しいですよね。

天河: でも、その甲斐あって日本から海を渡った拳法の流派などが判明してきたので、苦労は報われたかな、と。僕が語学堪能であれば翻訳も簡単なんですが、英語すらおぼつかないので……(笑)。スタッフには武術を嗜む人間もおりますので、そういった人たちに見せても恥ずかしくないクオリティのバトルシーンを目指すということが大前提ですね。

――話は変わって、以前に同人誌で発表されたこともあるようですが、その時の反響や売れ行きはどうでしたか?

天河: 正直、芳しくなかったですね。無料でパンフレットのようなものを配布しましたが。参加スタッフのブースへの委託でしたが、ほとんど手に取って貰えませんでした。そのときは凹んだりもしましたが、〈トロイメライ〉よりも昔からコンスタントに活動されている方でもオリジナルでは他のジャンルに埋もれてしまうと話しておられましたので、オリジナルでやっていくのは難しいことなのだと、改めて痛感しましたね。

――〈トロイメライ〉を足がかりに、小説家やシナリオライターとしてデビューすることを狙ったり、という野望はありますか?

天河: 友人を誘って劇団やバンドを作るっていうのがあるじゃないですか。〈トロイメライ〉はあれに近いんですよ。中には「天河さんと一緒にやりたい」と参加してくださった方もおりますし、僕らの活動を見て興味を持ってくださり、途中から参加された人もいます。そういう人たちと長く楽しめる遊び場の維持という点では、やはりweb掲載が一番かな、と。むしろ、僕がもっと頑張って小説家やシナリオライターとしてデビューして、〈トロイメライ〉への注目度を集めたいです(笑)。

――〈トロイメライ〉自体は部活動に近い感覚なのですか?

天河: もちろん、小説やイラストはみんな真剣勝負なんですけれど、まずはみんなで楽しもうよ、というのが僕の理想なんですよね。

――影響を受けている作家さんとかいらっしゃいますか?

天河: 作家というか、クリエイターも含まれるんですが、僕個人では内海隆一郎先生の『家族ホテル』。新聞連載されていた人間喜劇ですね。アメリカで問題を起こした帰国子女が東京の下町の人々と交流を深めながら、成長していくお話です。アメリカと東京の下町は、極端に離れた世界・環境なんですけど、僕が作るお話も、大抵の場合、相反するふたつの要素を同時に描いていく構成なんですよ。これは人に言われて気付いたのですが。

――なるほどなるほど。

天河: 他には三谷幸喜や井上ひさしや山崎豊子や……あ、これキリないですね(笑)。

――かなり多方面に造詣が深いのはわかりました(笑)。

天河: 多趣味から得たモノをごった煮にしたのが〈トロイメライ〉と言えなくもありません(笑)。

――なるほどなるほど。これは私が気になった点なのですが、文字量が多い割に、行レイアウトが狭くて、まとめようとしているのは分かるのですが、読みづらく感じます。あえてこの仕様にしている理由などありますでしょうか?

天河: 以前の二次創作シリーズからのスタイルをそのまま持ち込んでいるので、「あえてこの仕様」というようなこだわりではありませんね。こうした意見を頂けたなら、「よし、じゃあ、改善していこう」とフットワーク軽く動こうというのが、〈トロイメライ〉の良いところ! …と、読みづらいことに土下座しつつ胸を張ってみます(笑)。

――お詫びを頂いたところで(笑) これから〈トロイメライ〉を読まれる方に、「こうすると読みやすいよ!」というアドバイスが有れば!

天河: それにはまず最初に「長いよ!」と謝らなければならないんですけど(笑)。

――間違いない!

天河: 例えば、長期連載の漫画とかあるじゃないですか。一気に読破するのは大変だけど、通勤の途中に少しずつ楽しむというような具合に、ユルく読み進めていただくのがベターじゃないかと思います。実際、通勤途中に読んでるという読者さんもおられたので。

――そこまで見きれる読者が少ない可能性もあるので、もう少しライトな見どころを(笑)。

天河: ヒロインがヒーローと化していきますので、そこはお楽しみに(笑)!

――序盤の導入からで(笑)。

天河: ストーリーをけん引する縦糸のテーマとして、「難民問題」というのを〈トロイメライ〉では扱っています。「ええー、なんか難しそうじゃない? 」と思われるかもしれませんが、ざっくばらんに申しますと、異世界ファンタジーの逆回しでして、 主人公が異世界に紛れ込むのではなくて、異世界からやってきた人たちをどう迎え入れていくのかというお話です。

――なるほどなるほど。

天河: 異世界からやってきた人たちだから身の保障などないわけで。そういった部分から難民というテーマにアプローチしております。 僕らは教材を作っているサークルではないので、「難民」というテーマもひとつの側面として捉えていただいて、エンターテインメント作品として楽しんでいただければと思います。

――それでは、これから読む方にメッセージをお願いします。

天河: 同人誌が出来たら送ってください!

――それだけ(笑)。

天河:やっぱり最初に言わなければならないのは、「長くてごめん!」というところなんですけど、〈トロイメライ〉という企画は、製作総指揮を務めている僕も含めて、スタッフが思いっきり楽しみながら作っている作品です。 そういう「オトナの部活」的な情熱が少しでも伝わったなら本当に嬉しいですね。「よし、自分もオトナの部活やってみよう!」という風に思ってくれる人がいたら、そのときはちょっと泣いてしまうかもしれない(笑)。 なにはともあれ、〈トロイメライ〉というオトナの部活を楽しんでいってくださいませ! あ、本編がとっても長いから、お茶を淹れて読み始めると冷めてしまうと思います(笑)。

――ありがとうございました!


●取材先概略
天河真嗣氏:web小説〈トロイメライ〉を発表しているアマチュア小説作家。
最近はソーシャルゲームのシナリオを担当するなど、活動の幅を広げている。
http://traumerai.kan-suke.com/





(インタビュアー 鶴岡八幡)