多士済々の達人同士による激しい立ち回りを見どころのひとつに掲げている
〈トロイメライ〉に驚愕の新展開!
シーズン2からはアメリカ拳法をフィーチャーしたサイドストーリーが開幕します。
そもそも、アメリカ拳法とは何なのか? サイドストーリーに託されたものとは何か?
間近に迫っているという新たな戦いに先駆けて、その見どころを一挙解析!


●アメリカ拳法が生まれた時代、その点描――
本編第18回にて初登場したアメリカ発祥の格闘技、『トレイシーケンポー(Tracy kenpo)』。
続く本編第19回では、アルフレッドが身に付けた『ジークンドー(截拳道)』と
『トレイシーケンポー』の浅からぬ縁が描かれました。
今までは『軍師(あるいは戦略家)』としての知謀が中心であったアルフレッドに
『武術家』としての戦いが加わることになったのです。
ご存知のように『ジークンドー』は香港最高のスーパースター、
ブルース・リーが編み出したハイブリッドな武術です(リーは優れた武術家でもありました)。
しかし、その『ジークンドー』の発祥の地が香港ではなくアメリカであることは、
実はあまり知られていません。
武術・格闘技ファンの間では常識かも知れませんが、
一般的にはまだまだ馴染みが薄いのでしょう。
『ジークンドー』が誕生した頃、ブルース・リーは活動の拠点を
アメリカに移していましたが、当時のアメリカは武術交流が非常に盛ん。
いくつもの優れた武術が流れ込んでいた時期でもあります。
アメリカ本土はもちろんハワイなどでも様々な人々が修行に励んでおりました。
さらに時代を遡ると日本柔道界の精鋭たちも柔道普及に訪米しており、
その中には後に『グレイシー柔術』の祖となるコンデ・コマ(※1)の姿も…。
ブルース・リー、そして『ジークンドー』は、格闘技維新の時代とも言うべきアメリカで
飛躍を遂げたのです。
『ジークンドー』と時を同じくして『トレイシーケンポー』、
その本家である『ケンポーカラテ(American kenpo karate)』など様々な新武術が誕生。
『ケンポーカラテ』の創始者にしてアメリカの伝説的な武術家、エド・パーカーは
ブルース・リーと親しく(パーカーはリーを世界最高の武術家と絶賛!)、
技術交流も深めていきました。


●アメリカ拳法の祖とは――
アメリカ拳法界の礎を築いたのが日本の古武術であることも
一般には馴染みが薄いのではないでしょうか。
『ケンポーカラテ』の歴史を遡ると、その祖は日本からハワイに渡ったとされる
『kosho‐ryu』なる武術に辿り着きます。
吉田家という一族に伝わってきたとされる『kosho‐ryu』は、
ジェームズ・ミトセなる人物の代でアメリカ武術界と結びつきを強め、
優れた武術家を何人も育てます。
ミトセの弟子であり、『Kara‐Ho Kempo』なる流派を開いたウィリアム・チョウは、
エド・パーカーの師匠に当たり、『ケンポーカラテ』の骨子を作り上げたとも
言われています。
そのケンポーカラテから分かれた『トレイシーケンポー』、
エド・パーカーに見出され、チャンスを獲得した(※2)ブルース・リー。
ジェームズ・ミトセなくしてこれらの武術の誕生はなく、
ミトセは「アメリカ拳法の祖」と言うべき存在でした。
また、『トレイシーケンポー』創始者、アル・トレイシーの兄弟は、
ジェームズ・ミトセの妹にして『kosho‐ryu』の担い手でもあるフサエ氏から
直接教えを授かったと伝えられています。


ジェームズ・ミトセ James masayoshi mitose


ハワイ出身。日系アメリカ人。『kosho‐ryu』の第21代グランドマスター。
幼い頃に日本(熊本と思われる)へと渡り、家伝の武術を修行した。
また、彼の祖先にあたる「吉田家」は神道の家柄と伝えられており、
吉田神社の血筋とも考えられる。
帰国後、アメリカ拳法界を背負って立つ多くの武術家を育てた。
晩年を獄中で過ごし、64歳で没する(1916〜1981)。
その来歴から宗教への造詣も深く、幼少期から日本の文化に触れて育ったこともあり、
哲学的な人物であったことが窺える。
『Kenpo sai(拳法斎か?)』という異称を名乗ったとされている。




●「武術家・アルフレッド」の進む先には――
『ジークンドー』と『トレイシーケンポー』の手合わせは
第19回で描かれましたが、完全に決着したわけではありません。
制作総指揮の天河曰く、第19回だけでは『トレイシーケンポー』のテクニックは
二割も描けていないとのこと。つまり、再戦も多いに考えられます。



シーズン2からは武術家集団のスカッド・フリーダムが本編に深く関わるのですが、
武術家集団という題材を活かさず勢力相関に終始するのは勿体ないと思ったんです。
しかも、アルフレッドはれっきとした武術家。
そのキャラクタリスティックを武術家集団と絡めて
サイドストーリーを作りたいと考えたのがスタートです。
アメリカ武術界は小さな頃に映画『ベストキッド』(※3)を観てから関心が強く、
またアメリカ拳法そのものも以前から研究しておりましたので、
エド・パーカーを一本の軸として、『ジークンドー』と『トレイシーケンポー』の因縁を
設定し、武術家たちの腕比べというシチュエーションを作っていきました。
構想を進める中、アメリカ拳法のヒストリーをサイドストーリーの核にしてみようと
思い至り、その祖に当たる『kosho‐ryu』の網羅にまで発展した次第です。
そうは言っても、トロイメライは格闘作品ではありませんから、
果たしてどこまで掘り下げられるかは分かりませんが、
可能な限り、アメリカ拳法のドラマをクローズアップしたいと思います。
資料に基づき、『kosho‐ryu』をトロイメライでは『古松奨励流』と表記しますが、
この知られざる武術もトロイメライで紹介できればいいな、と。
日本の古武術が海を渡って他国の武術を興したなんて、
それだけで浪漫を感じるじゃありませんか。
スモール・タニ(※4)やタイガー・モリ(※5)といった例を挙げるまでもなく、
日本武術の海外雄飛には血が騒ぎますね。
アメリカ拳法の祖となった古武術と、
近代総合格闘の先駆けとも言うべきハイブリッドな武術。
つまり、『古松奨励流』と『ジークンドー』。
伝承と共に磨かれてきたミトセの技と、古流から新時代の哲学を完成させたリーの技。
いずれ両武術を対決させたいものです(アルフレッドはサバット等も混ぜていますが)。
その流れの中で、ジークンドーの原型(これもブルース・リーが創始)になった
『ジュンファン・グンフー(振藩功夫)』や、
カナダに伝わる北米先住民の武術、『オキチタウ』なども取り上げられたら……。
いずれにしても、手垢がついたお話を作りたくないという思いは強いです(天河談)



『トレイシーケンポー』との初対決を終えたアルフレッドと『ジークンドー』ですが、
アメリカ拳法をクローズアップするサイドストーリーに於いては、
『ケンポーカラテ』との手合わせも間近に迫っていると天河は続けました。
何しろブルース・リーの恩人が開いた流派との直接対決ですから、
今までになく激しい戦いが予想されます。
この武術の使い手としては第17回(シーズン1最終回)にビクトーなるキャラクターが
登場しています。ビクトーはヒロインのひとりであるジャーメインの義兄を名乗っており、
人間関係の上でもアルフレッドに肉薄するのは間違いありません。



さらに付け加えると、『トレイシーケンポー』のシルヴィオは、
スカッド・フリーダム内部のドラマを描く上で中心となるキャラクター。
一武術家としての思いだけでなく、それぞれが担う立場を踏まえながら
両者は拳を交えていきます(天河談)



ブルース・リーへのオマージュから『龍の魂』という仮タイトルを与えられた
サイドストーリー(アメリカ拳法編とも言えそうです)からも目が離せません。




(注釈)

※1 本名、前田光世。講道館に学ぶ。柔道振興の為に欧米で他流試合を繰り広げる。
   道衣を着用した試合で無敗を誇ったとされる日本武道界の伝説。
   グレイシー柔術の祖としても知られる。ブラジルにて没(1878〜1941)。
   「コンデ・コマ」はブラジル帰化後の名前。
※2 エド・パーカーに招かれて参加したロングビーチ国際空手選手権がきっかけとなり、
   ブルース・リーはテレビ業界から注目され、後にデビュー果たす。
※3 1984年公開。原題は「The Karate Kid」。ジョン・G・アヴィルドセン監督。
   後年、ジャッキー・チェン主演でリメイクされた。
※4 本名、谷幸雄。講道館に学ぶ。欧州に渡り、イギリスにて他流試合を繰り広げる。
   イギリスの柔道普及に努めた。同地にて没(1880〜1950)。
※5 本名、森寅雄。剣道家。アメリカにてフェンシングを学び、
   僅かな練習期間にも関わらず、全米選手権で輝かしい実績を築く。
   世界大戦の影響に翻弄されながらも国際的な剣道の普及に努めたが、
   稽古の最中に病で急逝する(1914〜1969)。