「………あんたさ、その迷惑極まりない生き方変えないと、
 絶対夜道で刺されるわよ、全世界の人々から」
「はっはっはッ! 面白ぇ冗談だな、アンジェラ。
 俺みたいな人畜無害、世界の皆さんがズッ殺しにくるわけねぇじゃんか!」
「ちょっとプリムッ! こいつにこそ『悪即滅』を適用すべきじゃないのッ!?」
「………奇遇ね。全く同じ事を考えていたわ」
「このさい、さくっとやっちまうでち。
 ていうか、さらしくびにしたとき、どれだけのにんげんがおおよろこびするかみてみたいでちね」
「はっはっはッ! きっと世界中の皆さんが枕を濡らしてくれると思うぜッ!!」
「「「嬉し泣きでなッ!!!」」」


アンジェラとプリムが協力して形成した大規模かつ強固な【シェルター】によって、
なんとか生き埋めだけは免れた一行は、揃ってフラミーの背中の上から果てない雪原と、
どこかのバカのせいで完全にペシャンコになった【極光霧繭】を見下ろしていた。


「結局、あの氷の洞窟の秘宝は、【マナストーン】じゃ、なかったんだ…」
「…骨折り損っちゅうワケや。
 お前さんらの探しとった【ペジュタの光珠】とやらやったんやな」
「てゆーか、オイラも未だによくわかんないんだけど、
 【ペジュタの光珠】って何なのサ?」
「頼むよ、ポポイ………キミだって、【ジェマの騎士】の一員なんだからさ…」


あっけらかんとしたポポイに、やや引きつった苦笑いを浮かべるランディの装いは、
普段のボロ布に近い衣服に戻っていた。


「【ペジュタの光珠】って言うのは、
 【聖剣・エクセルシス】の真の力を覚醒させるための、いわば秘鍵なんだよ。
 【ペジュタの光珠】は真の【ジェマの騎士】の魂によって解放され、
 その力となるんだけど………ま、腐っても現世の英雄ってトコかな。
 “THEダメんず”は一発合格だったみたいだね★」
「う〜ん、そらね、そうだよねぇ。あれだけクサい台詞吐いたんだから、
 合格しなけりゃマヌケだよな、ただの」
「や、やめてくれよ、恥ずかしい………」


フェアリーの説明を補足するなら、真の力を解放された【聖剣・エクセルシス】は
持ち主に【勇者】としての神気を付与し、白熱の甲冑とは、その象徴なのである。
これからはランディの意思に応じて、その異装を励起・蒸着できるのだ。


「あの…デュラン………」
「声をかけるだけが優しさじゃねぇぜ、リース。
 ………整理が付くまで、そっとしておいてやるのも気遣いだ」
「………はい………」


【ペジュタの光珠】にまつわるウンチクを披露するフェアリーに背を向けて、
独り呆然と流れて消える空を眺めているホークアイが望むのは、
慰めの言葉か、激励の言葉か、それは誰にも解らない。
だが、デュランの言う通り、失意に沈みこんだ人間を癒してくれるのは、
誰かの優しさでなく、失意と向き合えるだけの時間と静寂以外に無いケースも多い。


「今のホークアイ………まるで昨夜までのデュランのようです」
「昨夜までの………………………か」
「はい…。
 なにかこう、信じられない物に遭遇して、
 それを受け入れられずに立ち尽くすだけ…のような」
「随分と具体的じゃねぇか…」
「私も………そう遠くない過去に味わいましたから」
「………………………そうか」


それきり沈黙。背中に仲間たちの喧騒を浴びながら。


「………そういえば、デュランが放心していた原因、
 いまだにわかりませんけど、何かあったのですか?」
「………聴くなら聴くで、ちょっとタイミング遅すぎねぇか?」


思い切って切り出したリースの、あまりに遅すぎな質問に、
デュランは噴き出してしまった。
一瞬、遠い彼方を見るような眼を見せた後は、ずっと燻るように苦笑し続ける。
「そんなに笑わなくても…」とふくれるリースの心配はありがたかったが、
そこまで深刻に構えてもらっては、かえって申し訳ない。
デュランは、………少なくとも彼の“表層的な意識の上”では、
その問題と葛藤はとっくの昔に解決しているのだから。


「ま、大した理由でもねぇし、
 話したくなくてもイヤでも向こうからやって来るだろうからな………。
 そのうちに話してやるよ」













―――――――――これは、“そのうちに”と語られなかった物語の断片。
ヒースの転送魔法で北の地の雪原へ放り出され、
【エルランド】の救助隊に発見されるまでの、空白の時間の出来事。


「………死んだと思えば生きていて、
 九死に一生かと思えば今度は討手かよ………ッ!」
「そう噛み付くな。何も取って食おうと言うわけではないのだからな」


同じくヒースの魔法によって後を追いかけてきた黒騎士から
転送のショックで意識を失った仲間を庇うようにデュランが立ちはだかる。
天候は最悪の豪雪だ。
吹きすさぶ冬の嵐に妨げられてしまい、満足にツヴァイハンダーを操る事もできない。
このままでは確実に殺られる―――死への恐怖と、仲間を護るべきリーダーとしての責任感で
今にも崩れ落ちそうな身体を奮い立たせた。


「………それではこうすればどうだ?
 お前と戦うつもりが無いという証明にはならんか?」


得物が使えないのなら、せめて、この身を盾にしてでも………そう決意し、
壮烈な形相で噛み付いてくるデュランへ、敵意が無い事を証明するにはどうするべきかと
思案した黒騎士は、まず腰に携えた剣を放り投げた。                                                                                                                    


「………………………」
「疑り深く育ったものだな…ステラの教育の賜物か、お前自身の経験から得た智慧か。
 何にせよ、戦士の一族として、これほど喜ばしい物は無いな………」
「な…なんでおばさんの名前を知って―――………」


不意に発せられた師の名に驚きを隠せないデュランの瞳は、
黒騎士の顔面を覆うフルフェイスの兜が取り外された時、これ以上ないくらいに見開かれた。
同時に、腰へ提げた布の奥底で、
チリンチリン、とけたたましいまでの金打ち音が伝わってきた。


「な…んで………だって、あんたは………―――」
「対話………という物がしてみたくてな」


デュランの瞳が捉えたモノは―――――――――………………………






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