「これまでの経過を振り返るとだな―――」


【極光霧繭】から辛くも脱出し、【エルランド】へ帰還した合同チーム+マサルは、
ヴィクターを交えたブリーフィングを、ホークアイ率先のもとで行う事になった。
ブライアンは公用で遠征しているとの事で、この場にはいない。

リースを狙う敵が明確になり、しかも相手はどうやら【三界同盟】なる一大結社。
二人の【魔族】の嘯いた事が本当なら、やっと十人に達したかどうかの手数で
【竜(ドラゴン)】・【魔族】・【不死者(イモータル)】の血盟軍勢に立ち向かわなければならないのだ。
多勢に無勢を跳ね返すには、これまで以上に完璧な作戦が必要となる。
それには何が必要か? 状況の整理だ。デュランもランディも、二つ返事で承諾した。


「ルサ婆はリースに『人の手が伸ばす事叶わぬ場所』とやらへ到達するには、
 【マナストーン】が必要だって言ったんだよな?
 それって、つまり【三界同盟】のアジトって事になるんじゃないかな」
「『人の手が伸ばす事叶わぬ場所』…か。
 人外の者共が屯しているからには、
 ニンゲンの手にさらされない一等地を用意していると考えるのが妥当ね」
「つまり、【マナストーン】の探索が、奴らへ辿り着く鍵だと思うんだ。
 奴らのアジトへ辿り着くためのキーアイテムを俺らが手に入れたとあっちゃ、
 向こうだって黙っていないはずさ。かならず討手をけしかけてくる」
「そこが狙い目…ちゅうわけやな?」
「現にあの【魔族】、【マナストーン】を護るように待ち構えていただろ?
 だったらその討手から、連中のアジトを割り出す事だってできる筈さ」


ホークアイの推論にプリムとカールは賛同するが、デュランは異を唱えた。


「けどよ、ちょいとばかしおかしくねぇか?
 爵位気取りのあの【魔族】、俺らが【マナストーン】と思って狙ってた、
 【ペジュタの光珠】には全くノータッチだったよな?
 真贋はともかく、俺たちにとって有利になるようなモノを
 そのまま放置ってのはどうかしてるぜ」


デュランの言い分は、【マナストーン(本当は別の物だったが)】と目される、
【三界同盟】にとって不利となる輝石をどうして自分たちが到達する前に
処分していなかったのか、という事だ。
忌むべき危険物を目の前にして棒立ちしているのは、なんとも不可思議な話である。


「もしかしたら………」


と一度言葉を区切ってリース。


「もしかしたら、あの【魔族】は、
 【マナストーン】そのものが目的では無かった…とは考えられないでしょうか?」
「【マナストーン】は道標に過ぎないってコト?」
「私の当て推量に過ぎないのかも知れませんが、
 私たちが到達するであろう【マナストーン】の前に陣取って、
 ………まるで、私たちを待ち構えていたような………」
「リースの仮説を正しいとするなら、連中の目的は………」
「リースしゃんでちょうね」


ずばりと断言したシャルロットに、皆の視線が集中する。
容姿こそキンダーガートゥンだが、【マナ】の研究者らしく頭脳は誰よりも上等にできている。
彼女の頭脳を信頼しているからこそ、誰もがシャルロットの発言に耳を傾けるのだ。


「おうおう、お嬢ちゃん。
 こっからは大人のお時間だからよ、お前さんはあっちでケヴィンやポポイと遊んでな」


そんな明晰さを理解しておらず、
不躾な反応を返したがためにテーブル上の花瓶をブン投げられたマサル以外は。


「あのやさおとこ、【まなすとーん】にはめもくれず、
 リースしゃんとたたかうことにしゅうちゅうしてたじゃないでちか」


【極光霧繭】での戦いを振り返ると、なるほど、思い当たるフシがある。
「私とこれから戦っていただく」とか「戦いの先には【共産】が待つ」とか、
邪眼の伯爵は大仰に宣言していたが、その中には一度も、
「私を倒せば【マナストーン】はお前たちの物だ」という旨の一文は登場しなかった。


「リースしゃんへなにをもとめておそいかかってきたのか、【たいぼ】がどーとか、
 げんじてんではざいりょうがたりずにわかりかねるのでちが、
 これだけははっきりといえるでち。
 れんちゅうのねらいはリースしゃん。それも、ゆうかいとかそうしたたぐいでなく、
 あんたしゃんとたたかうことにめがむけられているでち」
「私との戦いの先に【共産】が、【三界同盟】の目的がある…という事でしょうか」
「意味わかんない連中よね。それじゃタダの変態じゃないの。
 思う存分ストーキングしておいて、ブッ飛ばされてもウフフのフって、あるイミ最強よね。
 手を出さなくてもウザくて、手を出したら余計にウザいなんて、始末に終えないわ」
「ア、アンジェラ…じゃない、姫様。
 それではあまりにざっくばらん過ぎますよ。短慮はいけません」
「………まあ、粘着系ってトコは、ヴィクターやブライアンといい勝負よね」
「粘着系って………………………」


ますますもって【三界同盟】の真意が解せない。
リースを誘拐するのが目的で襲撃を仕掛けてくるならまだしも、
戦闘そのものを望んでやって来るとなると、マゾヒストかサディストか、
偏執的な嗜好としか考え付かなくなってくる。


「ともかくっ! 【マナストーン】を探索していれば、
 そのうちに【三界同盟】のアジトへ辿り着くというコトね。
 ならば私たちの成すべきは一つよっ!」
「―――ですね。机上の空論からは答えは見つかりません。
 まずは動いて、立ち向かって探していきましょうっ!」


袋小路へ迷い込みそうになる議題をプリムが上手にフォローしてくれた。
かつてデュランに講義された言葉でもって、リースもそれに続く。
頭で考えてから行動すべきとはリースの持論だが、
その割には無鉄砲な行動が目立つリースだが、今ならデュランの持論の意味が理解できた。


「意気を上げるのはケッコーだけどよ、狙われてんのはお前なんだから、
 もうちょい落ち着いて行動してくれよな。
 前に言ったじゃねぇか、頭で考えて行動しろって。
 能動的と無鉄砲は別物だぜ?」
「あ、あう…、すみません」


…これも無鉄砲の一つと言えるか。
自分の立場を忘れて、今にも駆け出しそうなリースへ、デュランが苦笑交じりに釘を刺した。


「いいじゃない、意気衝天。大変結構よ。
 うちの勇者サマにも爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだわ!」
「―――あいたっ! …ちょっとさ、プリム。
 そうやってポンポン小突くのやめてくれないかな…」
「みんなを引率すべき立場の勇者サマが、
 これまで一言も会議へ参加していないのが情けなくってねぇ!」
「いってぇッ!? だからやめてって! ちょ…鞭はやめて! ホントに痛いからっ!」


人外の結社との戦いは【ジェマの騎士】にとっての使命であり、
だからこそプリムもポポイも諸手を挙げて『チーム・デュラン』との共同戦線に賛成して、
このブリーフィングへ出席しているのだが、共同戦線のそもそもの発案者であるランディは、
叱声の通りに会議終結まで何一つ発言らしい発言をしていなかった。
それがプリムの逆鱗に触れ、鞭の柄でこめかみをブチ抜かれる事態へ発展したのだ。
合掌というか、自業自得というか、とにもかくにも、見ている側には漫才以外の何物でもない。


「ここからは三手に分かれて行動しましょう。
 私たちも独自に【マナストーン】の探索に入るわ。
 マサル、あなたもその方向でお願いね」


思う存分ランディをどつき回して気分爽快なプリムが、
それはとてもいい笑顔でブリーフィングの締めに入った。
彼女へ集中すると、その背後でボコボコにされて泣き腫らすランディがどうしても目に入り、
そのあまりに情けない姿とプリムの爽やかな笑顔のコントラストに、
一同噴き出しそうになるのを我慢しながらの、とても締まらない終結だが。


「おう、ラジャッ!
 なァに、俺に任せとけば、今日中にもグッドな報せを持ってきてやるぜェ!」
「正直、お前に借りを作ると、
 とんでもねぇ局面で返せとか言ってきそうで怖ぇんだけどな。
 ………ま、アテにはさせてもらうぜ」


なんだかんだ言って、デュランのピンチを放っておけないマサルも、
この共同戦線への参加を二つ返事でOKしてくれた。
敵に回すと、あらゆる意味で厄介極まりないマサルだが、味方につければこれ以上に心強い援軍は無い。
無軌道な攻撃の矛先がこちらへ向かない事は何より大きいのだから。


「よっし! 全会一致で決まったところで、俺たちも次の進路を決めなくちゃな!」
「何言ってんだよ。進路ならもう決まってんじゃねぇか」


【ウェンデル】を出立した時は、行方すら定まらないくらいにか細かった絲が、
人外の結社という巨大な相手にすら負ける気が起きないほど、
今では幾筋もの束になって力強く紡ぎ上げられていた。
前途洋洋の駆け出しへ「俺たちなら、なんだってできるさ!」とホークアイが明るい調子で加速を添えた。


「…ホーク、なんか、辛そう、あんまり、無茶するの、いけない」
「辛そうって、俺がかぁ? なに言ってんだよ、ケヴィン。
 ほら、この通り、俺はピンピンだぜ?」
「オイラ、難しいこと、よくわかんないけど、これだけは、わかる。
 ホーク、今、すごく無理してる。ジェシカさん、心配で、ホントは、誰より、辛い。
 ………違う?」


底抜けに明るく努めていたホークアイは、

ケヴィンの気遣いを心外とばかりに笑い飛ばそうとしたが、
『ジェシカ』と固有名詞を出されては、図星のド真ん中をつかれては、
自慢のポーカーフェイスも一瞬だが揺らいでしまう。
それは、ケヴィンが声をかけるまでもなく、誰もが懸念する問題だった。
ホークアイの最終目的は幼馴染みのジェシカを救う事にある。
ジェシカへ呪いをかけた張本人の言いなりになって働いていた悔恨と、


「呪いをかけた人間が取る行動は一つだな」


依頼の反故に対する美獣の報復宣言に激しいショックを受けたホークアイは、
フラミーの背中の上で呆然自失と絶句してしまったのだ。
その痛ましげな背中を受け止めているからこそ、ケヴィンは一歩も譲らなかった。


「仲間が辛い想いするの、オイラ、見てられない。
 それとも、オイラたちじゃ、ホーク、支えられない? 仲間と思ってくれないのか?」
「そうじゃなくてだなぁ………」
「ねえ、師匠、【マナストーン】、確かに大事。
 でも、ホーク、このままにしておくなんて、オイラ、できない。
 先に、砂漠へ…、ジェシカさんのところ、行ってあげられない、かな?」
「おい、待てったら、ケヴィン!」


二人のやり取りを腕組みして傍観していたデュランは、
ケヴィンに振られた提案に「何言ってやがる」と返した。
ともすれば砂漠行きを否決するかのような語感に、ホークアイは胸を撫で下ろし、
ケヴィンの毛むくじゃらな耳が垂れ下がる。


「だから、もう決まってるっつってんだろ?
 俺たちの次の目的地は【ガラスの砂漠】…ナバール快盗団の根城だよ」
「それには反対させてもらうぜ、デュラン。
 気遣いはありがたいけどさ、私事でみんなの足を引っ張るわけにはいかないよ。
 そんなみっともない俺を、ジェシカも望んでいないしさ」


この大逆転の決定への二人のリアクションも、まさに大逆転。
ケヴィンは耳をツンと尖らせ歓喜し、ホークアイは目を見開いて当惑した。
アンジェラもリースも砂漠への進路に異論は無く、了承してくれたのだが、
当のホークアイはデュランに詰め寄り猛抗議する。
気遣いは無用と言いながらも、本音では一刻も早くジェシカのもとへ駆けつけたい。
しかし、“ジェシカを救う”という目的はあくまで私事であり、
そんな個人的な理由で折角揃った【チーム】の足並みを乱すわけにはいかないのだ。
なによりこれは【三界同盟】という一大結社との戦いだ。
大事を前に小事を優先させられない。
誰よりも頭の切れるホークアイだからこそ、たとえ涙が出るくらい嬉しい提案でも、
仲間の気遣いを承服する事はできず、頑として首を横には振らなかった。


「バカ言うな。俺はチームの事を考えて、進路を決めただけだ」
「だったら個人の事情には目をくれるなよ。
 俺たちが何をすべきか、まず考えるのがリーダーってもんだろ?」
「だから俺はリーダーとして言ってるんだよ。
 ………空元気振りまく仲間を見てたら、こっちまで辛くなっちまうからな。
 それこそ足を引っ張る結果になるだろうが。
 錆付いたままじゃロクな進路は取れねぇってわけだ。潤滑油を差さなきゃな」
「自分の感情くらい、自分でコントロールするから!
 ―――だから余計な世話を焼くなッ!!」


いつもは軽妙に力を抜いているホークアイが柄でもない怒声を張り上げた事は、
無節操なマサルですら息を呑んでしまうほど衝撃的だった。
ポーカーフェイスを崩してデュランと激しく睨み合うホークアイの表情には
どこにもカケラも余裕が無い。
『自分の感情くらい、自分でコントロールする』という前言は、彼自身によって覆されていた。
空元気を振りまく術は身に着けていても、心根に巣くう逼迫を隠せるほど、彼は大人ではなかった。
それだけジェシカの身を案じて不安に駆られているのだ。
だから、デュランも譲らない。仲間の辛い思いを汲むからこそ、譲らない。
お互いにお互いの胸のうちを察するがゆえに一歩も引けない、男と男の闘いだった。


「みなさんがこれから向かおうとする【ガラスの砂漠】にもありますよ。
 【マナストーン】の輪郭をなぞる秘宝の言い伝えが」


激しく火花を散らす二人の耳へ入るような声でヴィクターがある伝承に語り始めた。


「『流れし熱砂の渦中に輝くとこしえの炎。其は恒常の宝石。人の手を超えしモノ。
 手にした者を名誉と栄光に包まれたバラルの園へ誘うだろう』…と。
 随分と伝承ではありますが、確かめてみる価値があるとは思いません?」
「見え透いた嘘で誰が騙されるもんかよッ! 俺は【ガラスの砂漠】で生まれ育ったんだぜ?
 そんな、今適当にこさえたような与太話、当たり前だが聞いた事もねぇよッ!!」
「………決まりだな。
 プリム、俺たちはとりあえず砂漠へ行くぜ」
「おいッ、デュランッ!!」
「お前個人の理由は関係無くなったわけだ。
 チームにこだわってくれるなら、チームの方針には従ってもらうぜ?」
「そのついでに、ジェシカさんの様子、見てもいいしね」
「………お前らなぁ………」


贋作がありありと見えるヴィクターの作り話に乗じたデュランがホークアイを押し切り、
【ガラスの砂漠】への進路が正式に決定された。
名目は【マナストーン】と思しき宝石の探索。ジェシカの安否確認は、あくまで“事のついで”だ。


「そ〜こで俺たちの出番でさぁッ!!」
「オウさッ!!!!」


ヴィクターの結託によって、グウの根も出ないほどにやり込められて不貞腐れてしまったホークアイに、
憤る暇さえ与えない驚きの来訪者が、勢いよくドアを開けて駆け込んできた。
ビルとベンのずっこけコンビである。


「お、お前ら、どうしてここに………」
「ホークアイの兄ィが【アルテナ】入りしたと聞いて、カッ飛んできたんじゃないですか!」
「オウさッ!!!!」


隠密行動に入っていたビル&ベンのコンビとホークアイは、
定期的に手紙のやり取りを続けていたが、最後に受け取った手紙の中身では、
二人は今、【アルテナ】からは程遠い秘境で【マナストーン】の情報収集に動いていた筈である。


「それがなんでこんな………」
「いえ、転送魔法でも何でもないんですけどね、こいつがまたすっげぇシロモノ発見しやしてね!」
「オウさッ!!!!」
「兄ィたちの冒険のお役に立てるんじゃないかって、取り急ぎ現地調達して参りやした!
 とにもかくにも、外へ出てみてくださいな。目ン玉飛び出やすから!」













ブリーフィングの会場となったホセの屋敷から庭へ出てみると、
そこにあったのは、人間界の常識では考えられない、まさに“すっげぇシロモノ”。
一門の超巨大な砲台が設えられていた。
屋敷の家人であるヴィクターは「いつの間にこんなものを…」と呆れ、
蹂躙された庭の芝生を嘆いたが、興奮のるつぼにあるビル&ベンには聞こえていない。


「こいつは…【マナ】か?」
「いえいえ、そいつが全くの別物!
 旅の途中で出会ったボン・ボヤジってぇ面白いオヤジが作った、正真正銘の人間砲台なんです!」
「「「「「「「人間砲台っ!?」」」」」」」


あからさまに危険な臭いの漂う砲台を見上げていると、首筋が痙攣を起こしそうになる。
デタラメに巨大な砲門を覗き込めば、成程、十人程度をスッポリと装填できそうだ。
―――と、そこまで観察したアンジェラの脳裏に、一つのイヤな仮説が急浮上した。


「名前は【マスドライバーくん弐式・改】って言いましてね、
 ええ、文字通り、同機種のマイナーチェンジ版ってヤツでさぁ」
「ちょっと、ビル………」
「一号機はもちっとデカかったんですがね、ええ、この二号機が納まるくらいに。
 んで、俺らと一緒に打ち上げてもらって、
 そいでもってココまで持って来れたってワケでしてね―――」
「ウンチクはいいからっ!
 ねえ、もしかしてアンタたち、こいつであたしらを打ち上げるつもりじゃないでしょうね?」


『冒険に役立てる』『人間砲台』と来て、弾き出される答えはただ一つである。
一つではあるが、正気の沙汰とは思えないこの答えが間違っている事を祈って、
アンジェラは今一度、この砲台の用途をビルに確かめた。


「もしかしても何も無いでしょうに。
 こいつがありゃあ、【ガラスの砂漠】でも天国でもひとっ飛びでさぁッ!」
「ふざけんじゃないわッ! あたしたちに心中しろって言いたいワケッ!?
 間違いなく天国へひとっ飛びじゃないのッ!」
「心配ありやせんって! 俺たちもこうして無事に着陸できたんですから!
 落下傘だって完備してやすし、座標を定めれば、行きたい場所へ一発ゴーですっ!」
「逝きたい場所なら一発ゴー・ア・デッドしそうだけどな〜」
「そこッ、ポポイッ! 不吉なことをボソッと言わないッ!!」


サムズアップで最悪の事態を突きつけたビルの胸倉を掴み、
グワングワンとアンジェラが激しく上下させる。
自分にもシャルロットにも、リースにさえも使えないほど高等ではあるが、
安全性が保障される転送魔法と異なり、
こちらは生身の人間を火薬で物理的に発射するのだ。危険でない筈が無い。
ポポイの二の句は「空中分解して終わりだって」と続いたが、その通りだとアンジェラは青ざめた。


「見た目は広そうなのに、けっこ狭いんだな…」
「待った、ホーク、スシ詰めの中、動かないで、気持ち悪い…」
「うへぇ、空気めっちゃ薄いやんか。こらさっさと打ち出してもらわなアカンわ。」
「あっ! デュ、デュラン! ドサクサに紛れてどこ触っているんですかぁっ!」
「わ、わざとじゃねぇよ! 不可抗力だって…!」
「………デュランしゃんもなかなかこうとうてくにっくをおぼえてきたでちねぇ。
 へいしょでみっちゃくしているときにおさわりしても
 『わざとじゃねぇ』ですまされることにきづくとはなかなかうでをあげたもんでち。
 あんたしゃんはもうりっぱなちかんよびぐんでちよっ! どこにだしてもはずかしくないでち!」
「バッ、てめえ、シャルッ! ありもしねぇコトをリースへ吹き込むんじゃねぇッ!」
「………ひどいです、デュラン。責任取ってください………」
「ほら見ろッ! 拗ねちまったじゃねぇかッ!」
「てゆーか、アンジェラしゃんはいつまでそこへつったってるつもりでちか。
 あんたしゃんまちなんでちから、さっさとじゅんびするでち、このどんがめがっ!」


ここから仲間たちとコンビネーションを組んで、
ビル&ベンの暴挙を制止しようと考えていたアンジェラは、
自分ひとりだけがゴネていた現実に、既に仲間たちが砲門へ飛び込んでいる事実に、
肩を落として絶句した。
仲間たちが覚悟を決めた以上、自分もそれに従わないわけにはいかない。
そうなればこの砲門の噴火に消えるのは確定的=逝きたい場所へ一発ゴー・ア・デッド確定というわけだ。


「…あんたもさぁ、あれだけ駄々こねておいて、ちゃっかり乗り込んでるあたりさぁ………」
「むかついて仕方無いんだよな…!」


密着した砲門の中に、ホークアイの悪態はよく反響した。


「むかついて仕方無いんだよ。どっかの誰かさんたちのお節介がさ。
 こっちの想いも考えず、ズケズケと押し付けてくるのとか、すっげぇ腹立つんだよ」
「………………」
「―――だから、とっとと済ませてくる事にしたのさ。
 俺がジェシカに顔見せりゃ、お前ら、みんな満足なんだろ?
 そいつがチームの決定だっていうなら仕方無いじゃんか。
 こんな、腹立つくらいお節介なヤツらと………しかめっ面のケンカしながら旅なんかしたくないからさ、
 だからとっとと済ませるんだよ」
「………っとに、男って面倒くさいわね。素直じゃないっていうか」


本当は仲間たちの心配が嬉しいくせに、我を張って強がってるだけのくせに。
いつまでも素直になれずにいるホークアイと、
彼を真っ先に気遣ったケヴィンのちょうど間へアンジェラは身を躍らせた。
その横顔には、押さえきれない微笑が零れている。


「いいわ。あんたの純情に免じて、一緒に心中してあげるわよ」
「不吉な事言うなよ………」


落下傘が仕込まれたナップザックを着用しているものの、
やはり人間砲台の弾丸となる不安はあるらしい。
『心中』という物騒な単語に、ホークアイもケヴィンも、みんながブルリと身震いした。


「行き先は【ガラスの砂漠】で固定しやした! 10カウント後に発射しやすんでッ!」
「オウさッ!!!!」
「向こうへ着いたら、【モバイル】で連絡くださいね!」
「いいなぁ〜、面白そうだなぁ、ソレ。
 よっしゃ! こいつら飛ばしたら、次は俺の番なッ! な、ビルッ!?」
「仮に四散したら、供養くらいはしてあげるわ」
「うげ〜、供養ったって、最終的に地獄か極楽か振り分けんのって女神の後継者のワタシじゃん。
 やめてよね、これ以上ムダな業務増やすの。
 散華するならあの世へ逝くような魂も残さず爆散しちゃってっ!」
「うわッ、それグロッ!?
 空中からバラバラ死体が落下してくるなんて、どんなミステリーだよ!
 どんな名探偵にかかっても迷宮入り間違いナシじゃん! つーかホラーじゃん!」
「………あのさぁ、みんなさぁ、
 いたずらにデュランさんたちを不安がらせるの、やめとこうよ………」


天に向けて狙いを定める砲門から別行動を取る仲間たちが顔を覗かせた。
心配する者、羨ましがる者、不安を煽る者…反応は様々だが、共有する思いは一つだ。


「というわけで、デュランさん、次の戦場で、また肩を並べましょう!」
「それまでにくたばるんじゃねぇぞ? お前がいなけりゃ、ハリが出なくて仕方ねぇ!!」
「真っ先に特攻しそうなお前が言うんじゃねぇよ、マサル。
 それからな、俺と肩を並べたけりゃ、もうちょい度胸つけとけよ、ランディ。
 せめて、そう、プリムに尻引っ叩かれねぇ程度にはな」


ぶつける先は届かないが、互いに拳を突き出し、再会を約束するデュランとランディ、そして、マサル。
「次の戦場にて」………誰もが共有する、胸に秘めた再会の約束と意思が高まった時、
最後の1カウントが終わった―――――――――






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