「どうした、耽美系。お得意の石化ビームは出さねーのかよ?」
「フッ、ヘタに石化の呪いなど使おうものなら、
 貴様の能力で逆に返されるだろうからな。
 ならばエミュレーショニアには模倣の仕方も無い直接攻撃で挑むだけよ」
「よぅくわかってんじゃねーか!
 男ぁやっぱ正々堂々ガチンコが一番よぉッ!!」


ルガー率いる【獣王義由群(ビースト・フリーダム)】の小隊は
ビルとベンを伴って別の回廊で戦いを続ける仲間たちの援護に向かったため、
今現在、【ヒエラコの回廊】で激闘するのはマサルと邪眼の伯爵の二人だけだ。
否、マサルが伯爵とのサシの勝負を望み、ルガーたちを別な戦場へ押し出したというのが正確か。
ともあれ開幕した、一対一のカード。
もとよりデタラメな体力を備えたマサルに対し、フンドシ姿で現れた伯爵の気迫も壮絶で、
耽美な佇まいをもかなぐり捨てた持久戦へもつれ込んでいた。


「私は貴様が憎い。心の底から憎いのだよ………ッ!」
「さっきからそればっかしだな。
 ま、野郎にアイラブユーされても困るんだけどよ」
「貴様と出会わなければ、貴様さえいなければ、
 戦う事に何のためらいも感じなかったと言うのに………ッ!」
「あ………………………?」


さすがにスタミナが尽き始め、揺れる肩も荒い呼吸を整えていたマサルは
顔を上げた瞬間、伯爵の様子に予想もしない物を見つけて目を丸くした。
泣いていた。伯爵は、鼻水まで垂らして、落涙していた。


「ニンゲンなど、下賤で、矮小で、
 高位な我らとは比べるべくも無い下等種とずっと見下していた、
 ずっとそのように教わってきた………なのに、なのに………ッ!!」
「お前………」
「貴様は俺にニンゲンの温もりを植え付けたッ!!
 ニンゲンは我らと何ら変わらぬ生き物だとッ!!
 楽しければ笑い、悔しければ泣く、血の通った存在だと………ッ!!」
「………………………」
「貴様と出会わなければ、ニンゲンなど、ニンゲンなど………ッ!!」


深い葛藤が泪となってあふれ出し、伯爵の頬を伝って落ちる。
後から後から止まる事なく滴り落ちていく。
それがマサルには嬉しくて仕方が無かった。
ファーストインプレッションこそ良いものではなかったものの、
夜祭での対決以来、戦う時は戦う男だと、マサルは伯爵に好感を覚えていた。
彼の葛藤にも共感できた。
なぜなら、ヒトと魔族の間には何の隔たりもない、生まれた場所が違うだけなのだと、
マサル自身も同じように感じていたからだ。


「なら戦わなけりゃいいじゃねーか。
 よし、ガチンコ張んのはもう仕舞いだ、仕舞い」
「バカを言うな。私たちは敵同士なのだぞ?
 相容れぬヒトと魔族は戦うが運命ぞ。ならばせめて………」
「何言ってんだ、相容れてんじゃねーか、しっかり。
 俺はお前と戦いたかねぇ。お前はどうなんだ?」
「………………………」
「戦うのがいやなら、戦わずに終えられる道を考えればいいじゃねーか」
「そのような道など………」
「なけりゃ作ってみせようぜ? それともお前、そんな甲斐性も無いのかい?」
「甲斐性の問題では無いだろう………」
「面白そうじゃねーか!
 世界中の誰もが考えもしなかったビッグアイディア、
 やれるトコから試してみようぜ?」
「………………………バカも休み休み言え」
「バカと煙は高いところが大好きでね。
 どうせ見るなら、一番てっぺん行ってみようじゃねぇのッ!」


力強く頷き、右手を差し出すマサル。
彼の眩しい笑顔へ引き込まれるように、伯爵も自分の右手を差し出した。
―――差し出したところで平穏にまとまってくれないのが運命の不思議さか。


「いたぞッ! 【三界同盟】の残党だッ!!」


合戦の大勢決し、【キマイラホール】内部を逃げ惑う残党狩りに着手した
【黄金騎士団第7遊撃小隊】の騎士たちが四辻までやって来たのだ。
せっかく絆を結べた時だと言うのに、事情を知らない彼らは、
魔族と見るなり斬殺すべしと息巻き、各々武器を構えた。
異口同音して「奸賊討つべしッ!!」と。


「………【新しき国】への階、ようやく見つけ出せたと言うのに、
 現実とは存外に難しいものだな、フランカー………」
「難しか無ぇさ。難しいならブッ壊して進めばいいッ!!」
「―――えっ!? なッ………!?」


誰もが呆気に取られている内の出来事だった。
一斉に攻め入ろうとしていた矢先の【黄金騎士団第7遊撃小隊】を
マサルの拳が次々となぎ倒し、瞬く間に全滅させてしまった。
殴られた側もされるがまま呆然と倒されたが、
傍観していた伯爵の呆れと驚きは彼らよりも遥かに大きい。


「うし、邪魔者も片付いた事だし、とっととズラかろうぜ」
「き、貴様と言う男は、ど、どこまで常識外れなのだ…?
 私を、魔族を庇い立てして、しかも乱暴狼藉を働いたとなれば、
 間違いなくお尋ね者になるぞッ!?」
「だーかーら、そーゆー古臭いルールも変えてきゃいいじゃねーか。
 そうだな、今みたいなバカを殴ったら金一封とかよ。
 ………ヤベ、それじゃ俺、大富豪間違いナシじゃねーか」
「取らぬコカトリスの皮算用などしている場合か!?」
「お、魔界じゃコカトリスなのな。人間界じゃ狸なんだよ。
 取らぬ狸の皮算用ってな。他にもな、たんたん狸のキン―――」
「それは後で聞く!! …いいのか!? 本当にいいのか!?
 【草薙カッツバルゲルズ】の面々を敵に回す事にも繋がるのだぞ!?」
「心配いらねぇって。あいつらなら解ってくれるからさ。
 それよりも今はお前のコトだよ。
 逃げるにしても、美獣だっけ? お前のパートナーを探さねぇとな!
 ―――オラ、行こうぜッ!!」


なぜここまでメチャクチャに生きられるのか。
なぜ途方も無いような夢を平然と言ってのけられるのか。
呆れ返るくらいに破天荒、いや、デタラメなマサルの背中に
伯爵は驚きと共に何か確信めいた思いを感じていた。


「【新しき国】へ………!」


改めて反芻された言葉は、前日に呟いた時よりも力強く響いた。













「これは―――………………」


残党狩りを【黄金騎士団第7遊撃小隊】や【ナバール魁盗団】らに任せ、
デュランたちの後を追って玉座へ駆け込んだランディたちだったが、
先に到着しているはずの仲間たちはそこにはおらず、
あちこち探し回る内、【ヒエラコの回廊】三叉路の右通路―――見取り図の上では
謎とされていた石室へ辿り着いた。
そして、辿り着いた瞬間に言葉を失った。
ブラック・オニキスに囲まれた石室の至る場所へ亀裂が走り、
部屋中に吐き気を催す死臭が垂れ込めていたのだ。
死臭を発するのは、部屋の中央に撃ち棄てられた肉の塊だ。
塊は幾つかの肉片が集まって出来ているらしく、
竜の翼や死者の顎、魔族の指先などが不恰好に飛び出している。


「これはと問うならば、三界の盟主と答えねばなるまいな。
 厳密には、かつて盟主だった物体、なのだがな」
「あなたは………」
「お初にお目にかかるな、伝説にのみ名を残す【ジェマの騎士】殿。
 黒耀の騎士として革命闘士【セクンダディ】の主導を仰せつかる―――」
「―――ロキ・ザファータキエ………」
「ほう、自己紹介の手間が省けたようだな」


傷自体は【エンパワーメント】で癒しているが、
着衣はボロボロそのままの【草薙カッツバルゲルズ】の仲間と対峙した一団の中心人物に
見覚えのある顔を発見したランディは、再び絶句する。
栄光の歴史に散った偉人が、死を穿つ炎を耐え抜き、生存していた。
生き残り、不倶戴天の敵として目の前に現れて、二の句を継げる者はいない。


「こいつはどういう出し物だ? 造反しやがったのか…、てめぇ…ッ?」
「造反…か。傍目に見ればそう映るのも無理はあるまい。
 だが、あえて訂正させてもらうならば、これは純然たる造反ではない」
「ゴチャゴチャと言い訳抜かしてんじゃねぇ…!」
「デュランくんには私から説明しますよ。
 造反とは、ざっくばらんに言えば裏切り、でしょう?
 ところが我々は誰も裏切ってはいないんです。
 ………この意味、お解り?」
「まさか、あなたたちは、最初から………」
「さすがは【太母】様。
 ………おっと、既にこの敬称は無用の遺物でしたね。
 リースさん、あなたの推察の通りですよ」
「はなから、はなっからうらぎるつもりで
 【さんかいどうめい】をりようしてたってんでちか………っ!?」
「利用なんてとんでもない! それは仕事もしないグータラ者のやる事ですよ。
 ワタクシたちは自分の異能できちんとお仕事してましたよ〜?
 ま、それに対する見返りとするには、
 少々大掛かりになってしまった感は否めませんけどね♪」
「ぬけぬけとほざくやないか、ええ、ピエロ野郎が………!」
「ちょっと待ってください、
 それではそこに転がっている肉の塊は本当に………ッ!?」
「【超神(トリニティ・マグナ)】の計画は既にご承知ですね?
 ………進化の究極に行き着いたモノの末路と言うわけですよ」
「具体的に何をしたかはわからないけれど、
 アンタたちがロクでもない事やらかしたってのはよく解かったわ…!」


ロキの右隣でメガネを光らせるヒースの口元には、
いつもと同じく、見るものに戦慄を与える不気味な笑みが張り付いている。
ヒースの反対側に、ロキの左隣でカラカラと喉を鳴らす道化師の、
決して人には見せない素顔にも同様のモノが張り付いている事だろう。


「………それで?
 アタマをブッ潰して、てめえらは何をおっ始めようってんだ?
 【三界同盟】の乗っ取りでもやろうってのか」
「【三界同盟】………?
 いつまで寝ぼけた事を言っているのだ、お前は。
 このような脆弱なコミューンに、
 なぜ我らがいつまでもしがみ付く必要がある?
 役目を終えたのだよ、【三界同盟】はな」
「三界の雄を募った秘密結社の幕引きにしてはチンケな散華でしたがね。
 ま、こんなもんでしょう」
「ワタクシは大満足でアリマスよ、
 とびきり上等なディナーをいただけたのですからねェ♪
 わがままを言わせてもらうなら、
 もうちょっと味わいが柔らかな方が好みだったのですけどネ♪」
「ブライアンからも聴いたであろう?
 我らの成すべきは【革命】よ」
「―――【革命】ッ!?」
「そうだ、【アルテナ】の姫君よ。
 真の【社会悪】たる悪の枢軸の末裔よッ!!」


ブライアンから直接【革命】という原理を聴かされたアンジェラが
誰よりも真っ先に反応した。
あれは、ブライアン個人の意思では無かったのか。
かつて、【アルテナ】の尖兵として武功を挙げた【英雄】が、
徒党を組んで【革命】を宣言しようと言うのか。
その切っ先を、初めて【アルテナ】に向けようと言うのか。


「―――我らは【アルテナ】とその属国および【女神・イシュタル】を奉じる
 愚かな殉教者諸君に対し、ここに宣戦を布告するッ!!
 失われし人間の秘術【マナ】をもって、世界に【真実】の【未来享受原理】をもたらすのだッ!!」


アンジェラの衝撃へ追い討ちをかけるように、高らかな宣戦布告が轟き響く。
標的は【社会悪】。【社会】が【正義】と称え、彼らが【悪】と断じる全ての存在。
革命宣戦の首魁は、かつて【悪】を【正義】と愛し、誰もの尊敬を集めた英雄、
【黄金の騎士】ロキ・ザファータキエ。
首謀に走った理由も動機も不明だが、彼の背後で突然起きた爆発が、
事態の重大さを、まるで【草薙カッツバルゲルズ】へ突きつけているかのようだった。


「というわけで、ここからが造反です」
「―――どういう了見だ、ヒース。
 このような仕掛けなど、私は聴いてはおらぬぞ」
「だから今申し上げたじゃありませんか。
 せっかく兜を脱いだのだから、耳の穴かっぽじっといてくださいね」
「造反………するつもりなのか…ッ!」
「―――ああ、考えてみたら、
 我々の目的は貴方の監視でしたので、やはり純粋な造反とは異なりますかね。
 言い換えましょう。
 陥れさせていただきましたよ、黒い英雄サン」


涼しげな顔で造反を言ってのけるヒースに反応したのか、
やがてブラック・オニキスの石室の至る場所で爆発が連続し、
【草薙カッツバルゲルズ】とロキ、死を喰らう男は完全に隔絶されてしまった。


「てめえ、ヒースッ!! 何しやがったぁッ!?」
「言ってしまえば、立つ鳥跡を濁さずってヤツですよ。
 【キマイラホール】のあちこちに爆発物を仕掛けさせていただきましてね、
 今それを一斉に起動させていただいた次第です」
「ちょ、ちょっと待てよ、【キマイラホール】にゃ俺の家族も戦ってんだぞ!?
 【ナバール魁盗団】がさぁッ!?」
「皆さんのお仲間の脱出の手引きはライザさんに頼んでありますよ。
 何のための【エルドリッジオーブ】だと思っているんですか。
 我々も早いところ逃げ出さないと、そこのミンチと同じになっちゃいますよ?」
「てめぇのかしらあいてによくいったもんでちね、このやどろくが!」
「またまた、本当は私が帰ってきて嬉しいくせに。
 可愛いんだからなー、もう、ハニーは♪」
「ロリコンやってる場合じゃねぇだろッ!! とっとと逃げ―――」
「―――られると思うたかぁぁぁああああああッ!!」
「お前は………ッ!?」


灼熱の炎に包まれる石室に、
崩れて落ちていくだけの死地にわざわざ入り込んでくる影があった。
ジュリアスだ。満身創痍のジュリアスが、
息も絶え絶えの状態で三盟主の骸横たわる石室へ到着したのだ。


「ゾンビかよ、あいつッ!!
 ランディの兄ちゃんにバッサリやられたじゃんか!!」
「ほざくな、エルフの童がッ!!
 バンドール家の御曹司である私がニンゲン如きに弑られるものかよッ!!」
「ならば今一度、今度こそ黄泉返る事ないように斬り捨て、
 塵へと砕くまでッ!!」
「抜かせッ!! 今こそ我が真の力、真の姿を見せてくれるわぁッ!!」


【魔界】に棲む魔族には、ヒューマン型と魔獣型の二種類が存在する。
基本的にはどちらも同級の存在だが、稀に二つの姿を自在に使い分けられる希少種が誕生する。
魔族のヒエラルキーにおいてはこの希少種が上等とされ、
その中でもとりわけ大きな魔力を秘めた種が【支配階級魔族(サタン)】と畏怖されている。
ジュリアスもまたその希少種の一人であり、今、闘争本能を剥き出し、
更なる戦闘力を発揮できる魔獣型へと変化しようとしていた。


「おや? 塵へと砕くのがお望みでしたら私に言ってくださいよ」


筋肉が膨張し、全身が変形していく途中の事だった。
一発の破裂音が爆発音に重なったと思った瞬間、
ジュリアスは何かに痛烈に跳ね飛ばされて膝をついた。
肩口を射抜かれ、変化途中の不恰好のまま、大量の血を流している。


「なんだそりゃ、鉄砲かッ?」
「鉄砲タイプの【マナ】と把握していただければそれで結構です。
 ちなみに正式名称は【ハイゼンベルグ】と………」
「うんちくならべてるじょうきょうでちかっ!」


銃口から硝煙を燻らせるモノはホークアイの見立て通り鉄砲の一種らしいが、
火蓋を切って弾丸を先込めするには、あまりに小さく、殆ど掌に収まるサイズ。
発射の瞬間、銃口と一組になっている筒のような部分がスライドしたが、
その動作も、長大なライフルしか見た事の無い人間には未知の存在だった。


「なッ、なんだこれは―――――――――………………………」


未知との遭遇はなおも続く。
撃ち抜かれた肩口から、ジュリアスの身体がボロボロと崩れ始めた。
爆発と炎に焼かれる三界の盟主と同じように、肌が、肉が、骨が、腐って落ちていく。
名門の出自を自尊するジュリアスの最期に最も相応しくない、
見るも醜い凄惨な結末へ、断末魔の叫びを上げる間も無く毀れ落ちていった。


「お、おい…、なんだよ、なんなんだよ、それは………」
「劣化ウラン弾を撃ち込みました。
 遍く生物を腐らせ、最も残酷な死に至らしめる悪魔の瞳を、ね」
「わけわかんねぇよ………。
 【マナ】ってのは、【マナ】の威力ってのは、
 こんなにもわけわかんねぇもんなのかよ………」
「今は【マナ】を気にしている場合ではないでしょうっ!?
 一刻も早く逃げるんです、デュランッ!!」


腕を掴んだリースに引かれるまま、石室を後にするデュランは、
初めて目の当たりにする光景に激しい動揺を覚え、
生まれて初めて芽生えた心の底からの恐怖に混乱した。
傾いだ心は簡単には戻らず、ただ、指先だけがカタカタと震えていた。


「ちっくしょう! マッちゃんはどこいったんだよッ!?
 どこ探してもいないぞッ!?」
「なんて言うてもこの爆発や! 先に逃げてくれとると嬉しいんやが………」
「でも、マサルさんの事だから、
 もしかしたら、オイラたち、待っててくれてるかも!」
「今日ばかりはありがた迷惑だな、ソレ!
 つかホントにありそうでたまんねーよ!」
「ケヴィンもポポイも、おしゃべりしながら箸っていると舌噛むわよ!」
「うへぇ〜、このクソメガネ、ちょっと考え無さ過ぎじゃない!?
 爆風強すぎて【エルドリッジオーブ】に辿り着くまで回廊が保つかわかんないよ!
 先の方なんて、だいぶ崩れ落ちてきちゃってるし★」
「なにいいはじめたでちか、このぎんばえは!!
 あんたしゃんも【めがみ】のこうけいしゃなら、
 ここぞとばかりのきせきでいちどうそろってちじょうへわーぷ!
 …くらいのだいどんでんがえしをさくれつさせてほしいもんでちっ!」
「崩落が激しいんじゃフラミーも呼べない! 【エルドリッジオーブ】が頼みの綱かっ!」
「はっはっは、なかなかスリリングじゃないですか。
 狙って生み出せるシチュエーションじゃ無いのですから、
 もっとエンジョイしようじゃありませんか、皆さん」
「人の迷惑も考えずにスリリングなシチュエーションを
 作り出したアンタがエンジョイすなッ!!!!」
「デュラン、早くっ!」
「あ…、ああ………」


余韻も無常感も全て焼き尽くす爆炎と黒煙の中、
【イシュタリアス】の命運を賭けた決戦はここに幕を下ろした。
【三界同盟】は名実共に消滅し、黒耀の騎士は、
いや、ロキ・ザファータキエはその混乱の中、同志と共に組織から遊離。
対して人類側の損害は極めて軽微で、重傷者こそあれど死者は無し。
僅かな黒点を穿ちつつではあるが、決戦は人類の勝利に終わった。






(あんなもん使って、あいつは何をやらかそうってんだよ………!)






黒点はデュランの心にも穿たれ、指先の震えはいつまで経っても収まらない。
常闇よりも更に昏い深淵へ踏み込んだ父の背中に新たな戦いの兆しを見ながらも、
あれほど決着を望んでいたと言うのに、デュランには解らなくなっていた。
彼が憎んで仕方が無かった【黄金の騎士】は既に存在せず、
代わりに【マナ】を用いて【革命】を起こそうと画策する黒耀の騎士が誕生した。
自分はどちらのロキ・ザファータキエと戦い、倒すべきなのか?
こんな状態に陥った今の自分に、勝利への前進が踏み出せるのか?
デュランには、とても解らなくなっていた。






(………………………俺は…戦えるのか………………………)






―――――――――その瞬間から、いや、その瞬間こそが、
デュランにとって本当の戦いの始まりである事を、
彼自身も、彼を支えるリースも、仲間も、誰もまだ知る由も無い。

一つの戦いが幕を閉じたのを契機に、
世界の【偽り】を塗り替える第二幕が開こうとしていた。







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