己の生きる道に迷いが垂れ込めた時、人は何をもって霧を振り払うのか。
思考の混線から解き放たれるまで我武者羅に剣を振るい続けるのか、
享楽に身を委ね、精神まで深酒に泥酔させるのか。
迷い払う手段は人の数だけ千差万別に分岐するが、ある意味において究極的な求道を志す彼の場合は、
身を成す甲冑と同化する漆黒の闇の中で一人粛々と座禅を組むことによって心を落ち着けるようだ。
(………………………)
精神を安息させる最中、今日までの行程を振り返る。
志した道に誤りは無かったのか、もし間違っていたのなら、どこで食い違ってしまったのか。
深く熟考しなくてはならない時期に彼は差し掛かっていた。
【比例贖罪】、世界の主導を【マナ】に置換する真の【未来享受原理】、【女神】よりの簒奪―――
―――夢に見た理想がことごとく覆された。
利己に囚われる【ローザリア】の裏切りなどは考えの外だ。
土壇場になって手の平を返すなど、仁義を踏み外した畜生の行為ではあるが、為政者とは得てしてそういう存在。
心のそこから信頼を置いていたわけではないので、裏切られた当初こそ腹が立ったものだが、
今では自嘲に鼻を鳴らすだけで済んでいる。
(………リチャード………ヴァルダ………)
彼の心に波紋を落とすのは、そんな取るに足らない為政者の裏切り行為ではない。
かつて同じ夢を抱き、共に見果てぬ原野を突き進んだ親友たちから浴びせられた痛切な叱声だった。
『俺たちに出切る事を精一杯に努力して、今よりもっと光あふれる世界にしよう』
思い返せば、もう何年前になるのかさえ解らない。
この身がまだ生身であった若かりし頃、それぞれがそれぞれの道へと歩みを向ける旅立ちの朝に交わした約束を
ただ一つの信念に、今日までずっと戦い続けてきたのだ。
【黄金の騎士】を拝命し、【社会】の導き手である【アルテナ】の尖兵として諸手を血で塗りたくり、
家族をも犠牲にして今日まで戦ってきた。
今日までに降りかかった数々の難儀の中には、思えわず目を覆いたくなるものだって山ほどあった。
【アルテナ】の暗部を目の当たりにし、【イシュタリアス】にかけられた【女神】の呪いに絶望した。
(………そう、だから俺は立ち上がったんだ………)
『光あふれる世界』を築くには、何としても【アルテナ】を転覆させなければならないと考え、
自ら【サミット】へ出向き、まことの【未来享受原理】を説いた。
親友を手をかける結果になっても後悔はすまいと覚悟して臨んだ【サミット】だったが、
終わってみればヴァルダの政治手腕にやりこめられてしまい、転覆どころか大国の威信を増大させるという最悪の裏目。
しかも、先の【フォルセナ】では、かつての過ちである【ローラント】征伐の【比例贖罪】として
実の娘の命を捧げようと考えたが、これも直前で阻止され、
あまつさえ大親友であったはずのリチャードから信念そのものを否定される痛手を被った。
阻止者が【ローラント】の末裔である【アークウィンド】家の娘であった事も彼に深い衝撃を与えた一因だ。
【フォルセナ】を憎しみ、故郷の受けた跡に比例して報いを受ける町並みに、黒い英雄の娘に歓喜すると思っていた彼女は、
「被災者が望むのは、同じ悲劇が繰り返されない事」と敢然と立ちはだかった。
(………俺は間違っていたのか………?)
恨みに身を焦がしているはずの末裔には贖罪を拒絶され、
約束を交わし、最大の理解者であるはずの相手には信念を否定された。
これで心に波風が吹き荒れない人間など、どこにいるだろうか。
理想の実現のために肉体こそ【マナ】へと作り変えたものの、世界を憂う【人間】として生きてきた彼の心は、
迷いと、憔悴と、失望でグラグラに揺らいでいた。
(………間違っていたなら、あの人たちは笑って出迎えてはくれなかった………)
葛藤に思いが及べば、凪いだばかりの心へ再び嵐が呼び込まれ、禅に乱れが生じる。
そうやって傾ぐ信念を奮い立たせる時、彼は決まって未熟だった頃の想い出を回顧する。
未熟だけど、理想と信念に燃えた日々―――リチャードや、ヴァルダ、フレイムカーン、
今では【獣王義由群(ビースト・フリーダム)】を率い、【獣人王】を名乗るバシュカーたちとの冒険の日々だ。
5人で過ごした若き日の想い出は、今なお心の奥底で輝きを放ち、
この先も永遠に勇往邁進への動力源として燃え続けるだろう。
(………【スコーピオン団】との諍いで、俺たちの未来は決まったんだ………)
それは、数年後に世界的クーデターの舞台となる小国【パンドーラ】に宿を取った時の事。
【スコーピオン団】を名乗る私掠の盗賊団に住民が日夜悩まされていると聞きつけ、
なんとしてもこの悪党を打倒しようと息巻いたものだ。
正面切って突貫しようとのフレイムカーンの主張には即座に投合できたが、
損害や危険諸々を慎重に考えるリチャードとヴァルダはなかなか腰を上げず、
真っ先に乗ってきそうなバシュカーも突貫には首を縦に振らなかった。
結局、一進一退のミーティングだけで陽が暮れ、その日はお開きになった―――かに見えた。
(………今になって思えば、よくもまぁ、あんな無謀をしたもんだな………)
待ちに入れば、それだけ住民の受ける被害が拡大すると考えたフレイムカーンと自分は、
仲間たちが寝静まったのを見計らって宿を抜け出し、
たった二人きりで【スコーピオン団】のアジトへ夜討ちを仕掛けた。
剣腕には自信があったし、たかが盗賊団に遅れは取らない自負もあったのだが、この過信が油断を招くアダに変わった。
数十からの盗賊団に二人きりで挑んだところで劇的な勝利を得られるはずもなく、
多勢に無勢で競り負け、袋叩きに遭った上に縛り上げられてしまった。
いよいよ処刑される頃合になって、二人の突貫に気づいたリチャードたちが駆けつけ、
間一髪で起死回生を拾う事ができたのだ。
(………あの時は、特にバシュカーにこっぴどくやられたっけな………)
【スコーピオン団】を捕縛した直後に口火を切った仲間たちのお説教は数時間に及び、
あまりに厳しく叱り飛ばされるものだから、連行途中の盗賊どもに同情までされてしまった程だ。
若気の至りとは言え、思い上がりも甚だしい無茶苦茶な行動には、十年以上経た今も顔を覆いたくなる。
しかし、一から十まで悪い事ばかりではなかった。
【スコーピオン団】のアジトから引き上げてきた自分たちを出迎える住民たちは安堵の笑顔に包まれており、
盗賊団の横暴に怯える必要が無くなった事を心の底から喜んでくれた。
何度も、何度も感謝と労いの言葉をかけてくれた。
(………そうだ、全てはあの出来事から始まった………)
一時は生きるか死ぬかの危地にまで追い込まれたけれど、
こんなにも笑顔が沸き立つのなら、傷付く事は怖くない。
傷付く事で誰かの笑顔が守れるのなら、勇んで苦難へ身を投じよう。
無謀を働いた2人も、支援に走った3人の仲間も、皆が皆、この思いを抱いていた。
全てはここから。現在の【イシュタリアス】を担う人々の始発は、ここから伸びていた。
ヴァルダは掠奪の暴徒が横行しない世の中を作ると誓い、
フレイムカーンは【社会】からあぶれざるを得ないドロップアウターの生きる道を共に探したいと話し、
臆して満足な警備もしなかった騎士隊に代わる最強の自警団を組織してみせるとバシュカーが豪語、
騎士の国の出身であるリチャードは、それなら自分は何物にも屈しない騎士団を作ると反論した。
そして、自分は、ロキ・ザファータキエは、4人の理想を叶える剣になると理想に燃えた。
(………この身は既に果てぬ骸と化した身なれど、
あの日に抱いた信念だけは何人にも折る事叶わぬ………ッ!!)
未熟だけど、理想と信念に燃えた日々が、今を生きるチカラを呼び起こしてくれる。
あの日、自分たちを迎えてくれた笑顔を、もっともっと見ていたいから。
もっともっと『光あふれる世界』に笑顔の花を咲かせたいから。
「―――――――――だから、俺は、戦うのだッ!!」
瞑想から明け、禅を解いたロキは、信念を新たに再び立ち上がった。
あの日の約束を果たすためなら、親友たちと刃を交える事になろうと後悔はしない。
己を取り巻く【現在】に埋没し、【理想】を失くした親友たちを自ら葬ってくれよう。
愛しき友に果たす約束を胸へ灯したロキは、二度と迷いに揺れる事のないしっかりとした足取りで
闇の安息を後にした。
†
「………臆して逃げたのかと思っていたぞ」
「数で競り合おうと考える人智の限界に臆する余地がどこにある?
【マナ】は、ヒトと【女神】をも超越した威光なのだぞ」
安息の闇を抜けた先に待ち受けていたのは、無機質な光沢を放つ【マナ】の兵団と
無数に展開された【デジタル・ウィンドゥ】、そして―――
「私の前で【マナ】という単語を出すな。
………今にもはち切れそうな恩讐が貴様に喰らい付けと低く戦慄く」
「………善処しよう。協力者の気分を害するのは、私とて望むところではない」
「協力者………? 心にも無い事をいけしゃあしゃあとのたまったものだな。
貴様が私を敬意を持って接すべき協力者と見ているのならば、
なぜ、私から最愛の御方を奪ったのだ?」
「イザベラ………」
「その名で私を呼んでよいのはアークデーモン様のみ。
―――そして、御方が入滅された今となっては、“イザベラ”の名は奈落の瓦礫に埋もれたものと心得よ」
「了解し、訂正しよう………美獣よ」
―――交誼を結ぼうと歩み寄るロキに対して剣呑な態度で返す協力者、イザベラ…もとい、美獣だった。
鋼鉄の兵士たちに囲まれた【セントラルスクウェア(作戦司令室)】の中央には操作端末が設置され、
美獣は慣れない手付きでそのコンソールをいじりながら、ロキの入室を背中で応対した。
「動きは無いようだな………」
彼女の目の前に表示された【デジタル・ウィンドゥ】へ一瞥くれたロキは、
座禅堂へ入る前に見た状況と現状の変化の無さに眉を顰める。
「着陣から既に5時間も経過しているが、奴ら、こちらに攻め入る気配も無い。
ようやく戦支度を始めたかと思えば、何を血迷ったか、明後日の方向へ干戈を取った。
………ニンゲンの思考は私には理解できないな」
【デジタルウィンドゥ】には、10年前の民族虐殺から今日まで野ざらしにされ、
風化寸前の廃墟と化した【ローラント】の情景と、そこへ陣を布いた【官軍】の群れが映し出されている。
着陣当初は【聖域(アジール)】を攻め落とすべく、ヴァルダが差し向けた軍勢かと
ロキも美獣も考えたのだが、それにしては動きが妙だ。
【聖域(アジール)】への路を模索する斥候を出すのでもなく、陣形の調整もそぞろに簡素な兵営を築いてからは、
美獣をして明後日の方向―――自分たちが行軍してきた方角を警戒したまま、
微動だにしなくなったのだ。
「明後日の方向では無かろう。連中は確たる狙いを定めている。
着陣したのは巷を揺るがしてやまない【官軍】輩だ。
権力者の犬が狙う第一の標的は我らではない」
「………【草薙カッツバルゲルズ】………」
「正式には“旧”、だがね。
逆賊となって彼らが最後に辿り着くのは、ここ、【ローラント】をおいて他にはあるまい。
それが割り出せれば、どこにいるとも知れない鼠輩を燻り出すに労を重ねるより、
こうして最大勢力を結集して待ち構えるが最良の策だろう」
「たかだか10にも満たぬ手勢を相手に50倍以上の軍隊をぶつけるのか。
ますますニンゲンの思考は理解し難い」
その妙な動向へロキには直感するものがあった。
世界規模の連携を繋ぐ【官軍】だ。【ローラント】の深奥に【聖域(アジール)】が鎮座している事は、
もしかすれば、既に嗅ぎ付けられているかもしれない。
しかし、【官軍】の最大の目的は【聖域(アジール)】攻めでは無いのではなかろうか。
だとすれば【官軍】がここへ陣を布いた理由はただ一つ。
【聖域(アジール)】を最終決戦の舞台に見定めて決死行を往く【逆賊】たちを待ち伏せしているに違いない。
(さすがは戦の鬼才。同じ総大将でもバンドールの短慮とは質が違うな)
【三界同盟】のような組織であれば尻尾も大きく、それだけ手繰り易いが、逆賊たちはなにしろ少数。
しかも人里を避けて悪路を進んでいるようなので、指名手配書で炙り出すのも難しい。
見つからない、見つけられない。砂漠で一欠けらの石を見つけ出すようなものだ。
そればかりか、首尾よく発見できても段違いの戦闘力の前に返り討ちに遭うのが関の山。
捕縛へ到達できる要因を【官軍】は一つとして用意していなかった。
そこで戦の鬼才にして【官軍】の総大将が考案した作戦は、残存する全兵力の【ローラント】への結集。
逃避行でなく【ローラント】を目指す決死行であると判明すれば、
闇雲に探し回るのでなく、彼らの目的地に陣を布いて待ち伏せるのが上策だ。
結集された兵力は50倍以上。いくら少数精鋭と言えども歴然たる手勢の差には一たまりもあるまい。
また、彼らよりも先に【ローラント】へ入ってしまえば攻撃に適したポイントも抑えられる。
合理性と地の利の双方を加味した見事な采配にロキは舌を巻き、おそらくはこの度の進軍を指揮したと思われる
総大将【ジェマの騎士】ランディへ心の中で賞賛の拍手を送った。
待ちに徹する理も、時に引く事も心得た慧眼も、一軍を率いる将の器には不可欠な物だからだ。
「私にとって重要なのは、その逆賊どもの中にゲイトウェイアーチが含まれているか否かだ」
「どちらのゲイトウェイアーチを指す?」
「どちらもだ。直接手を下した憎きあの男も、その従属物も、【マナ】を司る者は全て私の敵」
「黒の貴公子を死滅せしめた【マナ】の悪夢、許せるべくもないか」
「―――そして、くれぐれも忘れるな。
貴様とてゲイトウェイアーチと同属であると。
ゲイトウェイアーチを葬った次は………貴様の番だ、黒耀の騎士よ」
「忘れるものか。蛇蝎の恨みを背負って生きる私だ。
己へ向けられた頂門の一針より眼を逸らした事は一度たりとて無い」
「それでよい。そうでなくては殺す価値も無いという物よ。
………ヒース・R・ゲイトウェイアーチ。あれは貴様のような真摯さを持ち合わせぬ愚物だがな」
「そのような事はあるまい? あれの元来の生業は【サーキットライダー】。神官だ。
生命を軽薄に扱うなどとは考えにくいが」
「自ら手をかけた生命へ何ら感慨を抱いているとは思えぬ。そして、それが最も気にかかる。
百億の痛みと千億の懺悔にまみれて崩壊してもらわねば、この身のたうつ恩讐を消す天誅は叶わぬ。
………予め予告しておく。ヒース・R・ゲイトウェイアーチの姿が僅かでもこの表示板に映れば、
私は飛び出していくぞ。よいな?」
「止めても無駄な衝動の許可を返答に窮する」
「私が許可を求めているのはそんな事ではない。………“例の【マナ】”はすぐにでも使えるのか?」
「最終調整は昨日のうつに済ませたよ。【ファイアーウォール】の術式も施してある。
これで、私と同一のDNAを持つ者の手による機関停止の命令も受け付けぬだろう」
「つまり、貴様が懸念していた弱点を気にせず暴れられるというわけか。
………それでよい。存分に踏み砕いてくれよう」
武人らしいロキの感心も、【官軍】の目的も美獣には知った事ではない。
【マナ】を司る者どもを、愉快げに冷笑しながら愛する盟主の命を奪った
ヒースを八つ裂きにできれば美獣はそれだけで良かった。
【三界同盟】を潰滅させられ、アークデーモンをも惨たらしく屠殺されて憎しみに狂った美獣が吼えた
“踏み砕く”という括りの中には、もちろんあの一件の首謀者であるロキも含まれている。
(生皮を剥ぎ、肉を穿り、神経を削ぐ。骨を食い破るのはその後だ。
この世で最も残酷な方法で弄り、死に至る断末の瞬間まで生き地獄を味わわせてくれるぞ。
………貴様らがアークデーモン様へしたのと同じように、な………ッ!)
愛しき盟主の仇討ちを果たすため、憎んで憎んで、いくら憎しみに脳髄を焦がしてもまだ足りない
怨敵・ロキと手を結んだ美獣は、やがて攻め入って来るだろう【“旧”草薙カッツバルゲルズ】から
【聖域(アジール)】の防備を引き受ける代わりに“例の【マナ】”とやらを譲り受け、
報酬代わりに『私に隙があれば命を奪って構わない』とロキから復讐を許可されていた。
(やはり、邪眼の伯爵については反応無し………か)
【三界同盟】崩壊後、離れ離れになっていた邪眼の伯爵について、ロキの知る限り、
美獣は微塵も反応を示さなかった。
絡まり合う毒蛇のように常に行動を共にしていたパートナーと散り散りになったのだから、
慌てふためくなり捜索へ走るなりの反応は当然と考え、疑問に感じていたロキだったが、
「イザベラと呼んでよいのはアークデーモン様のみ」との諌めの言葉に蟠りは氷解した。
(熱を上げていたのは伯爵だけのようだな。
それにしても愛する者のために好意を利用するなど………)
逆賊の汚名を着せられながらも【ローラント】を目指す【“旧”草薙カッツバルゲルズ】の中には、
伯爵もマサルに紛れて名を連ねている。それについても反応が皆無だ。
今は亡きアークデーモンへ奉公するために伯爵の好意を利用していただけ―――
―――とロキが考えるのも仕方が無いようにも思える。
(利用するだけ利用して、使い道が無くなれば知らぬ顔と来たものだ。
………げに恐ろしき魔性よ………)
使い捨てられた伯爵に対し、同じ男としてロキにも少なからず思うところはあったが、
ここで美獣へ余計な口出しを挟めば、せっかく結んだ同盟が崩れかねない。
「貴様にとってこの泥沼の様相は好都合ではないか。
件の【神獣】、起動までにまだまだ時間を要するのだろう?
多勢に無勢の極地にあっては、いかに【草薙カッツバルゲルズ】とて勝機は薄い。
総大将へ【ジェマの騎士】が立つのならなおさらだ。
よしんば勝ち残って攻め入られようとも、世界が終局するまでの時間は存分に稼いでもらった後。
およそ考えられる最良の条件が整っているな」
「楽観はできぬよ。卿は戦における【草薙カッツバルゲルズ】の獅子奮迅を見ていない。
【官軍】1,000有余の戦騎を圧倒する可能性は五分以上だ。
それに加えて相手は有象無象の集まった【官軍】―――」
予定外のイレギュラーはもうたくさんだ。
美獣に感づかれない内に抱いた蟠りを飲み込んだロキはもう一度【官軍】の様子を観察し、
「―――意思のバラバラな鵺に、果たしてどこまで迎撃できるものか。
油断しておれば、たちまちの内に斬り込んでくるだろうよ」
―――と最後に付け加えて瞑目した。
【本編TOPへ】 NEXT→