「中央突破だ。それ以外に俺たちに勝ち目は無い」


木製のラウンドテーブルへ敷かれた【ローラント】の平面図に一本の赤線を引きながら、
ホークアイは着席した仲間たちを見渡してそう断言した。
決死行を離脱したデュランを除く【“旧”草薙カッツバルゲルズ】一行は、
現在、【ナバール魁盗団】のサンドシップ【オアシス・オブ・ディーン】へ乗船している。
【官軍】の取り締まりは予想以上に厳しく、地続きで【ローラント】を目指す事が困難になってしまった為、
ホークアイの発案で【ナバール魁盗団】の助力を求める事になったのだ。

とは言え自分たちは逆賊。そんな最悪の厄介者が転がり込めば、魁盗団の人々に迷惑がかかるのは明白だ。
迷惑どころか間違いなく逆賊の一員として認識されてしまう。
いくらホークアイの発案でも、こればかりは鵜呑みにするわけには行かず、
リースを始め、懸念の声が次々と挙げられた。


「逆賊と盗賊のどこに変わりがあるってんだ。
 それを言えば、【ナバール魁盗団】は何年も何年も【アルテナ】とやり合ってらぁな。
 ―――………一度は背中を預けあった仲。最期まで付き合うのが【仲間】ってもんさ!」


危険へ巻き込む事に躊躇していた彼らを引き入れてくれたのは、他ならぬフレイムカーンだった。
何も心配するな、任せとけと【ナバール魁盗団】の誰もが温かな声で迎えてくれ、
あまりの懐の大きさに触れたアンジェラなどは、ジェシカに肩を叩かれた瞬間、
感極まって泣き出してしまったくらいだ。


「おぉぉーーーしッ!! 不肖、このジェシカ・ザ・オアシス・オブ・ディーン、
 皆さんの為に一肌も二肌も脱ぐ覚悟が決まりましたッ!!
 覚えたての【仏壇返し(※極東の武術“スモウ”の技。禁じ手)】で
 あンの腐れ外道どもの脳天をギッタンギッタンのメッタンメッタンのグッチャグチャにしてみせますッ!!
 ブチ撒けた脳髄、鼻の穴からねじ込んで奥歯で咀嚼させてやるぁぁぁああああああッ!!」


当事者以上にエキサイティングしちゃうヒト約一名はある意味別枠に置いておいて、
心強い仲間を得た一行は、砂の海から最終決戦の地、【ローラント】を目指していた。
【ナバール魁盗団】が根城に据えている【ガラスの砂漠】と【ローラント】は隣接しており、
【官軍】の眼を掻い潜って上陸するにはもってこいなのだ。


「ちょっと待て、ホーク。もっとよく考えたらどうだ?
 【官軍】1,000有余が着陣しているのだぞ?」


そう、相手がロキだけなら陸路で【ローラント】へ向かっても構わなかったのだが、
完全武装した【官軍】が手薬煉引いて待ち構えているとなればそうも行かない。
【官軍】との武力衝突と【神獣】阻止の二連戦に備えて、体力を温存して臨める経路を選ばなくてはならなかった。
と同時に1,000以上の精鋭に立ち向かえるだけの手勢を調達する必要もある。
それもただ対等数を急ごしらえすれば良いというわけでなはなく、戦の経験を持ち、
かつ一行と密に連携を取れる集団となれば、【官軍】に参加している【黄金騎士団第7遊撃小隊】や
【獣王義由群(ビースト・フリーダム)】を除くと、もう【ナバール魁盗団】しか残されていない。
最初こそ懸念が挙がったものの、ホークアイの発案以外に血路を見出す術は無かったのだ。


「そんな修羅場へ策も何も立てずに猪突猛進してみろ。
 四方八方から突き崩されて全滅するのは火を見るより明らかだ。
 悪いが俺は賛成しかねる………ッ!」


最善の経路を確保し、50にも満たない数だが何より心強い味方の協力も取り付けた。
後は【ローラント】へ上陸し、【官軍】の中央を突破するのみ―――となったところで
ホークアイの作戦へイーグルから反対意見が向けられた。


「おいおい、いいところで腰を折るなよな、イーグル。
 これから一丁デカいのかましてやろうって時にテンション下がるだろ」
「気分の問題で解決できるか! この戦、数の上では分が悪すぎる。
 それなのに正面から衝突して勝ち目があるものか! もっと策を練り上げるべきだ!」
「よくよく考えた末が中央突破なんだけどな」
「俺たち【ナバール魁盗団】一同、お前たち同胞のために命を賭ける覚悟は出来ている。
 しかし、それと無駄死にでは話が別だ。
 むざむざ死にに行くための戦、俺は許すわけにはいかない」
「まぁ、聴けよ、イーグル。
 俺はな、頭ン中が整理できなくて、もうどうにでもなっちゃえ、えい! みたいなヤケクソな
 中央突破を推してるわけじゃねぇんだよ」


「違うのか?」と眼を丸くするイーグルに、「俺ってそんなヘタレに見えるかねぇ」とホークアイの嘆息。
戦の旗色を左右する軍議だけに緊迫感も相当に張り詰めていたが、
二人の息の合ったやり取りでほんの少しだけ和み、固唾を呑んで見守っていたリースたちも苦笑混じりに深呼吸。
なにしろ【官軍】との最初で最後の合戦だ。武力衝突の前から僅かも油断はできない。
皆が人心地ついたのを見計らって、ホークアイは反対意見への抗弁を開始した。


「数の上で圧倒的に不利なのは、もう覆しようのない事実だ。
 いくら俺らが芸達者でも分裂するなんて芸当は出来やしないしな。
 だったら、敵さんの脆い部分を突いて体勢を崩すしかない」
「例えばこう言うのはどうだ? 官軍の背後から回り込み、バックアタックを仕掛ける。
 これならもっと容易に敵方を攪乱できる」
「いいか、ここで重要になってくるのは、【官軍】の総大将がランディだって事だ。
 下手な奇襲や包み込むような波状攻撃の類は通用しないと考えた方がいい。
 奇策を用いれば用いるほど、俺たちは逆に不利になる」
「………なぜだ?」
「あいつは必ずこっちの考える以上の策を練り上げて逆襲してくるからだ。
 わざわざ相手の戦いの質を高めてやるなんて、それこそバカのやる事だろ」
「………………………」
「ま、アレだ、イーグル、俺たちゃ付き合い長いからな。
 相手のクセやら何やら、全部解りきっちまってるってワケさ。あんたが凹むこたぁ無いって」
「マッちゃんの言う通りだよ。
 解りきってるからこそ、策を用いないのが最大の策。
 戦の鬼才に回転が速いだけの秀才が立ち向かったって歯が立たないしさ」
「へけけっ、みごとなかみんぐあうとでちね!
 いいでちよ、いいでちよ、ひくつなへたれほどこっけいなみせものはないでちからね!」
「うっさい、そこッ!! 鬼才を驚かすくらいなら秀才にもできるんだから黙って聴けッ!!」
「ビックリさせたら、勝負はワイら個人の力量で決まるっちゅう寸法かい?
 お前さんらしい、姑息で合理的な策やな」
「姑息は余計だっつのッ!!」


緊張が解けた途端におちゃらけてしまうのはこのチームの悪癖だが、
会話の一つ一つに互いへの信頼感、相手に対する理解の深さが滲み出している。
立場の違いから敵味方に分かれてしまったものの、今でもランディへ信頼を置いているからこそ紡げる理解ある言葉に、
イーグルは重みある説得力を感じた。


「―――でも、それじゃランディに小細工が通じないって事を証明しただけよね。
 数の優劣は変えれないんだから、ランディと張り合わない程度には、やっぱり作戦が必要よ」


説得力に頷かされて納得しかけたイーグルと入れ替わりに、今度はアンジェラが異論を唱えた。
するとどうだろう。イーグルの反対意見は普通に受け止めていた一同の顔が、
グリンッ、とアグレッシブな音を立ててアンジェラに向けて急旋回。
丸く見開かれた視線を無数に浴びたアンジェラは、この反応の意味が理解できずに閉口し、
他の皆はただただ顔を見合わせて驚愕するばかりだった。


「な、なによ、一体全体なんの騒ぎよ?」
「なんの騒ぎったって、なぁ?」
「ああ。アンジェラの口からそないな言葉が出るとは思わんかったわ」
「ど、どど、ど〜ゆ〜意味よ、それぇっ!? まるであたしが暴れ馬みたいな言い方してっ!!」
「ケヴィンしゃん、【ジャド】でのいざこざはまだじこうじゃないでちよね?」
「えっと、一応、処分保留中だけど、アンジェラ、履歴書の、過去の犯罪欄に、
 器物破損と公務執行妨害、書かないと、ダメかも………」
「………………………」
「そ、そんなに古いお話を持ち出したら、アンジェラが可哀想ですよっ」
「し、知らなかったぞ。貴様、正義の味方を気取る割にろくでもない素行不良娘だったのだな」
「いや、ま、でもカッちゃんにも納得はできるだろ?
 『あんなにおとなしい娘が、まさかあんな事件を』チックな街角ご意見と違って、
 こいつの場合、暴れて捕まるのは頷けるよな〜っていうか、逆に余罪が無いのがウソっていうか」
「どんな言い草よッ!! ちょ、ホークッ!!」
「つまりな、考えもナシにまず暴れるだけやったお前さんが、
 慎重な物の考え方をでけるようになったんが意外で驚いてしもたわけや」
「し、失礼ね、みんなしてっ! あたしだってちょっとは【大人】になったんだからっ!!」
「そ、そんなに無軌道だったのか………」
「マッちゃんの女版と思えば解りやすいぜ?」
「………成程」
「え、あれッ!? そこはフォローするとこじゃねぇのか、相棒ッ!?
 なんか、今、俺、微妙に貶された感があるんだけどッ!!」
「ていうかッ!! あたしだって、いくらなんでもマサルほどイカれてないわよッ!?
 無軌道ってのは、コイツのためにある言葉じゃないのッ!!」
「ケヴィンしゃん、このひと、【ジャド】ではなにをしでかしたんでちたっけ?」
「シャルっ、『めっ!』ですよ!! そんな風に困らせちゃいけませんっ!!」
「―――とまあ、これがな、俺らのこう言うトコが勝利の鍵になるんだよ」


本題崩壊寸前の脱線っぷりに「どこがだ?」と呆れていたイーグルへホークアイの二の句が続く。


「【官軍】だとか偉ぶっちゃいるが、俺に言わせりゃ、あいつらは寄せ集めの烏合の衆だ。
 中身を見てみろ。【アルテナ】を中心に大国が集まっているから強そうに見えるけど、
 戦力の中心は反【アルテナ】派の連中ばっか。足並みだって覚束無いんだぜ?
 最大の決戦だってのに1,000騎しか精鋭部隊が集まらなかったのも好例さ。
 本気で【アルテナ】に追従する気があるなら、数千、数万と世界中から集まるってもんだろ。
 ………そこんとこを突けば、たとえ10分の1にも満たない少数でも必ず崩せる」


確かに【官軍】の主導は【アルテナ】に委ねられているものの、
戦力の中心を固めるのは【ローザリア】を初めとする反【アルテナ】派の列国だった。
と言うのも【アルテナ】派の属国には弱小国家が多い。
武力も財力も乏しい小国が大国のとぐろに巻かれ、いつしか主従の構図が生まれたのだから、
大国の権威に縋る事なく自主独立を保てる反体制派が中心戦力になるのは自明の理か。
武勇に優れた属国として挙げられる【フォルセナ】などは例外中の例外なのだ。


「どないして崩すんや?」
「そこで重要になってくるのが、いつ戦を仕掛けるか、このタイミングだ。
 ………俺たちは【官軍】に対して夜討で挑む」
「夜討………夜襲を仕掛けるっちゅうんかい」
「確かに闇に紛れるのは体勢の撹乱を狙う上でも理に適っていると思いますが、
 しかし、向こうも夜討は警戒しているはず。
 見張り番に見つかれば、照る陽のもとで戦うのと変わらないのではありませんか?
 総勢1,000以上の兵団ならば、篝火もそれだけ盛大に焚き付けるでしょうし………」
「その心配は無いね。夜討を仕掛ける頃には、奴さんの殆どがぐっすり夢の中だ」
「ど、どうして? 相手は、【官軍】。世界中の、兵隊さんが、集まってるんだよ。
 そんな初歩的な油断、するなんて、オイラ、思えない」
「そうよ。第一、ランディが指揮執ってるんでしょ?
 あたしらを向こうに回してるってのに、あいつが油断するわけないわ」
「………“だからこそ”ってやつでちね、ホークしゃん」
「さすが性悪代表のシャル。こすっからい目論見はすぐ察知してくれるねぇ」
「ほめことばにうけとっとくでち」


ホークアイの狙いにいち早く感付いたシャルロットが、
彼と顔を見合わせて共犯めいた微笑で口元を歪める。
続いてカールも“こすっからい目論見”を察知し、「成程、その手があったかい!」としきりに頷いた。
三人の微笑が理解できない他の人々は置いてけぼりだ。


「秘密同盟組んでんじゃねぇよ! 頭の悪い俺らにも解るように説明してくれや」
「【アルテナ】本国に仕官する総大将のランディが俺たち相手に油断するなんてあり得ないよな。
 きっと夜が更けても襲撃を警戒してずっと起きてる。何があっても対応できるようにな。
 マジメで努力家のあいつらしいよ。
 で、そんな風にやる気ギンギンの【アルテナ】を見た反対派はどんな態度を取るか?」
「恭順するつもりでいるんだから、おとなしく徹夜に従―――あっ!」
「アンジェラも気付いたみたいやな」
「【アルテナ】側の人間が厳戒態勢を取ったなら、
 反対派はそれに反発して早々に寝てしまう………という事でしょうか」
「おおあたりでちよ、リースしゃん。このほころびがねらいめなんでち」
「しかし、そう上手く事が運ぶのか? 貴様らの意見は当て推量や希望的観測ばかりで、
 申し訳ないが、信憑性に欠けると思うぞ」


唯一【草薙カッツバルゲルズ】に不参加の、いや、不参加どころか敵対関係にあった伯爵が、
第三者の目線で見えた意見を述べる。
同じ空気に包まれてついつい見落としがちなアラを看破してくれる意見は、
命に関わる軍議において最も貴重な物だ。


「いい物の見方だな、カッちゃん。
 それじゃ今度はこないだの事件を思い出して意見を聴かせてくれ」
「この間? ………あぁ、【インペリアルクロス】とか言うふざけた連中の事か」
「あいつら、【アルテナ】に恭順してるのは建前で、
 腹の底じゃ転覆の機会を伺ってるって話してたよな」
「おう、俺も覚えてるぜ。ヒースのヤツも、もう一匹紛れ込んでた女から
 聞きだしてたんだよな、ソレ」
「………【官軍】とは、そうした叛意を抱えた連中が凝り固まってできた集団だと
 貴様は私に言わせたいのだな」
「敵同士が同じ舟に乗り合わせてしっくり行くなんて都合の良い話は無ぇ。
 しかも、今回顔を突き合わせてるのは世渡り上手な政治家じゃなく、
 むしろ世渡りとか駆け引きから遠く離れた無骨な戦士たちだ。
 そんな連中が、敵国の人間相手に恭順なんかすると思えるか?」
「………作戦の信憑性を人間の心に求めるわけ、か」
「深夜にもなれば、中心戦力の反【アルテナ】派は熟睡。
 そこに夜討を仕掛けりゃ、まともに応戦できるのは【フォルセナ】か
 【獣王義由群(ビースト・フリーダム)】あたりだけだ。
 後の連中は起き抜けを襲われた混乱で戦いどころじゃ無くなるって寸法さ」
「も一つ付け加えるんなら、【アルテナ】寄りのランディが指揮を執っとる以上、
 反【アルテナ】派にまで統制は行き届いとらんはずや。
 まさに烏合の衆。数が多い分だけ、一度崩れたら後は雪ダルマ式に堕ちるやろな」
「かずのおおさをさかてにとったぱーぺきなせんりゃくでちね。
 うぞうむぞうがあわてふためくまぬけづらがめにうかぶでち」
「俺たちにあって、あいつらに無いもんが勝敗を分けるんだよ。
 さて、そいつは一体なんじゃらホ―――」
「―――【結束】ッ!!」


正面きって口に出すには照れくさい勝利の鍵をなぞなぞのように出題してみたホークアイだったが、
最後まで言い切らない内に仲間たちから異口同音に正解が挙げられた。
その言葉の持つ意味を、今の行動で再確認できたホークアイは、確信を持って答えた仲間たちを見渡すと、
「俺らのこう言うトコが勝利の鍵になるって言ったろ?」と心の底から満足げに微笑んだ。

出会いから今日までの間に苦難の旅の中で紡いできた【草薙カッツバルゲルズ】の結束力は、
利権や政治的な駆け引きの柵から結成された【官軍】には到底真似のできない、唯一無二の強き紲(モノ)。
束ねる事で一本の最強の槍と化す紲が、有象無象の集団に競り負ける事など無いと確信しているからこそ、
相手の心理へ活路を見出すという、保証には程遠い作戦をホークアイは立案できたのだ。


「夜討に混乱する【官軍】の中央を突破したらいよいよ最終段階。
 草の根掻き分けて【聖域(アジール)】への入り口を探し出す。
 片っ端から探索して、見つけられたら―――」
「見つけられたら?」
「―――見つけられたら、今度はそこを死守する」
「死守? 突入しないのか?」
「そりゃそうさ。主役が来ない内に突入したら大問題でしょうが」


―――主役。いちいち名前を口に出さなくとも、
誰もが主役のシルエットを思い浮かべる事が出来る。
今はこの場にはいないけど、どこで何をしているのかもわからないけど、
この戦いで主役を張れる人間はアイツしかいない。


「本気で戻ってくると信じているのか? それこそ俺は大反対だ」


アイツが到着する前に突入するわけには行かないと語るホークアイへの反論を
イーグルはおよそ20分ぶりに再開した。


「中央突破が出来たのなら、終着点まで一気に突き進むのみ。
 でなくば今度こそ無駄に命を散らす事になるんだぞ」
「私もサンド・ベージュに賛成だ。
 虚を衝く事で誘えた混乱も、その場に踏みとどまって戦っていれば
 やがては平常心を取り戻すだろう。そうなれば数で押されて撃破される。
 貴様の立案は水泡に帰すのだぞ」
「まして、彼はお前自身が決断して切り離した相手だ。
 決裂した仲間のもとへ、しかも絶体絶命の死地へノコノコと現れるなどとは思えない…ッ!」
「決裂? 誰がデュランを切り離したって?」


あれだけ辛辣に訣別しておいて、今更何を言うのかとイーグルと伯爵は呆然と絶句するが、
【草薙カッツバルゲルズ】の面々はホークアイの言わんとしている事を理解し、
さも当然のようにウンウンと頷いた。


「ありゃあショック療法みたいなもんだよ。
 あれくらい厳しくやっつけてやらなきゃ、あの強情っぱりを更生させるなんて無理だもん。
 ま、荒療治になっちゃうから、言ってるこっちも結構しんどいけどさ」
「ワイらとデュランはホンマもんの【仲間】や。
 【仲間】やから辛い事も言うし、必要なら喧嘩もしたる」
「そうそう。あたしやリースなんか、その好例みたいなモンよ。
 あいつに何べん叱られたか、片手じゃ数え切れないくらい。
 ………そのお陰で、今、こうしていられるんだから、今度はこっちが教えてやらなきゃね」
「オイラ、喧嘩とか文句とか、得意じゃないから、
 今、『ビルバンガーT』の新作、作ってるとこなんだ」
「おう! あいつぁ、どんだけフザけた態度取ってても、それでも左腕のバンダナ外さなかった。
 ありゃぁな、俺たちにとって魂の架け橋、みたいなもんなんだよ。
 そいつを外さずにいてくれるんだ。あいつを信じて待つのに、これ以上の証拠が必要なもんかよ」
「そうです、私たちにできるのは信じて待つこと。
 足踏みしてしまう原因を解消して、再び戻ってきてくれるまで、
 あの人の立つべき戦場を護るのが私たちの務めなのですからっ!」


【オッツ=キイム】での決裂に秘された【草薙カッツバルゲルズ】の想いは、
イーグルや伯爵には立ち入る事も出来ない深い友情そのものだった。
第三者の目線で見れば修復不可能なくらいの手酷い決裂も、本当の【仲間】にとっては荒療治。
必ず戻ってきてくれると信じられるからこそかけられる、辛辣だけど何より真摯な友情。
愛しき友へと翔ける熱き想いに当てられた二人の瞳には、いつの間にか説明の付かない不思議な涙が、
琴線を刺激する魂の雫が滲んでいた。


「―――あーっと、ちょい待った、リース。
 俺らの『待ってる』とお前の『待ってる』ってさ、きっと意味合い違うよね?」
「………? 何を言い出すのですか、ホーク?
 信じて待つ事のどこに意味の違いがあると言うのです?」
「それってアレよね、ライクとラブの違いよね」
「ライクと、ラ、ララ、ラブッ!?」
「なにをいまさらじゅんじょうぶってんでちか、このおひめさまは。
 おわかれするときデュランしゃんにせっぷんぶちかましたのはどこのだれでち?」
「せっぷ…、接吻っ!? ちょ、ちょっと待ってください!!
 み、みみみ、見ていたんですかッ!?」
「そらもうバッチシ。ちゅうか、証拠も残っとるしな」
「しょ、証拠っ!?」


―――それでいいんですよ、デュラン。
 いつだって、誰にだって生身でぶつかるのがデュラン・パラッシュなんです。
 みんなが慕い、私が好きになった貴方なのですから―――


「………………………ッ!!??」


何の前触れもなく再現された、聞き覚えがあり、また、自分以外の誰にも聞かれたくない音声。
飛び上がって驚いたリースが振り返ると、アンジェラの掌の【モバイル】から
当時の情景がそのままの形で再生されていた。


「こーゆーのに疎いリースは知らなかったと思うけど、【モバイル】って録画機能も付いてるのよ?」
「わ、師匠とリース、すごい、キ、キス、しちゃって………」
「ケ、ケヴィンは特に見ちゃダメですっ!! 教育上不適切な表現ですからっ!!」
「いや、ケヴィンだってもう思春期のお年頃だ。
 免疫の無いまま育って毒婦に誑かされねぇように、今のうちに鍛えとくのも親心だぜ」
「この程度の絡みでは黄色い声を上げるまでもなかろう。
 私とイザベラなど、夜毎過激な特殊嗜好のプレイを―――」
「フンドシコンビはお黙りなさいッ!!!!」


“恥辱に悶えるリースを皆で弄ぶ”という字だけを読むと卑猥な、
しかして現実はスラップスティックなコントを見せ付けられては、折角滲んだ熱い涙も引っ込むというもの。
場面転換の早さに付いていけない観劇客のように、イーグルはポカンと口を開け広げて目の前の光景に呆れ果てた。


「………本筋を一つ語るのに、九つは脱線するのだな、お前たちの会話というのは」
「でも、最後にはちゃんと本質を掴んでるだろ?」
「そこは素直に尊敬するよ。ここまで支離滅裂な会話がきちんと帰結するなど、
 常識では考えられない事だ」
「普段はツッコミリーダーがいてくれるから、もっと円滑に進むんだけどね」
「ツッコミリーダー………か。
 お前たちの絆へ再三水を差すようで悪いが、本当に戻ってくるのか?
 いや、再起を疑うわけじゃない。再起によって自分の犯した過ちに苛まれるとは考えられないか?
 今更どの面提げて再会すれば良いのか迷うのでは………」
「ノー・プロブレムだろ。ホントのあいつは、頭で考えるよりも身体に任せて動くタイプだしさ。
 ―――ま、念には念の保険じゃないけど、そこらへんは【草薙カッツバルゲルズ】15人目のルーキーが
 うまく取り成してくれると思うよ」
「………15人目?」
「口の達者ないけ好かないクソガキだけどな」


【サミット】以来【アルテナ】に残留しているヴィクターでも、
どうしても外せない用事のために【オッツ=キイム】へ篭りきりのヒースでもない、
【草薙カッツバルゲルズ】15人目のメンバー。
生意気で足手まといのクセに誰より無茶苦茶に頑張る、15人目の小さな勇者。
崖っぷちに立たされたデュランでも、あの小僧に任せておけば安心だ、と
なおも気に病むイーグルをホークアイは笑い飛ばした。






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