デュランがロキと別れの挨拶を交わしてる頃、
崩壊する決戦場を離れた安全地帯では、よくもまー飽きもせず、
またもやマサルたちバカ代表組が一悶着を起こしている真っ最中だった。
そりゃそうだとも。デュランが一人残って戦ってるなんて聴かされたら、
助けに行くのが【仲間】ってもんだもん。


「私たちに出来る事は、デュランが決着をつけて帰ってくるのを待つ事です」


だから、逸る仲間たちをリースが制止したのはちょっと意外だった。
こんな時、我先に駆け込みそうなものなのに、取り乱したりせず、
努めて冷静にリースは仲間たちへ諭した。


「デュランにはデュランなりの考えがあって残ったに違いありません。
 誰よりも生きる事に真剣なあの人が、命を投げ出すようなマネをするわけがない。
 デュランは死んだりしません。必ず私たちのもとに帰って来てくれます」


信じろとリースは諭した。信じて待つのが仲間の務めだ、と。
無鉄砲に動いては仲間に迷惑をかけてばかりだったリースが、
いつしか仲間たちの暴走を止める役割になってたなんてね。
デュランとの出逢いに始まった旅の中で、きっと、…ううん、“きっと”なんて不明瞭なもんじゃないね。
あの頃よりも“ずっと”人間として大きく成長したんだね。


「よぉ、ちぃとばかり待たせちまったな」


―――でも、やっぱり心のどこかでは不安で、心配で、心細くて―――


「ただいま、リース」
「………お…かりなさ…い………デュラン………っ!!」


―――決着をつけてデュランが無事に戻ってきた時には、
顔をくしゃくしゃにしながらアイツの胸の中に飛び込んでったっけ。


「ったく………泣くヤツがあるかよ」
「だって………だって………」
「―――ずっと支えていくって約束したんだ。
 なのに、お前を残して死ねるわけねぇだろ、バカ」
「………はい………はい………っ!」


「俺は、リースを守ったりしねえ―――――――――ただ、俺はリースを支えていく」。
ライザの前で誓った約束を、デュランは改めてリースと交わした。
長い旅の中で育まれ、しっかりと結ばれた【愛】が幸福な【未来】をたぐり寄せた瞬―――――――――














「“長い旅の中で育まれ、しっかりと結ばれた【愛】が幸福な【未来】をたぐり寄せた瞬だった”。
 ―――じゃねぇっつのッ!! なにさ、コレ! どんな茶番!?
 長々と振り返ってみりゃ、【革命】を巡る【草薙カッツバルゲルズ】の軍記じゃなくて、
 デュランとリースの愛の軌跡じゃんッ!! ワタシらおまけじゃんッ!! 刺身のツマじゃんかッ!!」
「ど、どうしたのですか、ずいぶん真剣な顔して黙っていたと思えば、
 今度は急に頭を掻き毟り始めて………」


くッぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああーーーーーーーーーっ!!
このナチュラルな反応も腹の底からムカつくねェッ!!
長く苦しい【草薙カッツバルゲルズ】の戦いがトレンディドラマの付属品でしかなかったコトに
アレは気付いてないね! 気付いてないから余計にタチが悪いッ!! 倍率ドンでご立腹だよッ!!


「あのさ、“最終兵器怪女”さぁ、例えば悲惨な事件ばかりの年代記があったとするじゃない?」
「………私はいつまで経ってもそのニックネームなんですね」
「そこはブッチしていーからっ!
 ………そんな年代記が、フタを明けて内訳を解読してみたら、主役同士のラブコメがメインで、
 その他の悲喜こもごもな事件はおまけでした―――なんてビックリ解読、許されると思う?」
「あの、例えがいまいち解らないのですけど………」
「他の人たちが命削ってバトるってる時にイチャつくバカップルが時代に名を残すのはどうかって聴いてんのッ!!」
「なぜに叱り飛ばされてるのはわかりませんけど………、
 客観的な立場から申し上げますと、ちょっと誉めれたものではありませんね。
 そもそも歴史の検証というものは、色恋でなく、時代時代に生きる人々とその背景を………」
「お前が言うなッ!! お前が言うなァッ!!」
「で、ですからどうして怒られてるんでしょうか?」


アンタら主役陣にはわからないよねぇ、ラブコメの中心で華々しく注目されるアンタらには、
おまけ扱いされるレギュラー・エキストラの気持ちなんかさぁッ!!


「エリオット、私、なにかフェアリーの気に障る事をしてしまったのでしょうか?」
「………あー、うん、ボク、フェアリーの気持ちがすっげぇ解るけどさぁ。
 今は何も言わず黙っといた方が身の為だよ?」
「は、はぁ………」


もー頭来たッ! 本気レベルでムカついてきたッ!!
【草薙カッツバルゲルズ】や【ジェマの騎士】どころか、
【女神】であるワタシまで歴史の付属品にしくさりやがった色ボケ野郎には
なんとしても制裁加えてやらなきゃ気が鎮まらないッ!!


「ちょいとそこな妹ッ!! ワタシがその槍にありったけの魔力を込めたげるから、
 確実にあのヤロウの頭蓋骨を粉砕するんだよっ!?」
「え、え、え?」
「ちょい待て、オイッ!? なんでフェアリーまで参加すんだよッ!?
 お前まるっきり関係無いじゃねーかッ!!」
「うっさいボケッ!! 次に生まれ変わる時も、またその次も、
 死ぬ時は必ず脳漿ビキバキ爆発四散の呪いをかけてやるぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「いや、意味わかんねーからッ!! ちょ…、待…、おま………やめろぉッ!!」


権威ある【女神】を貶めた冒涜、その身で購えや、デュラン・パラッシュッ!!!!


「―――? およ? なぁ、姉様、なんか村の入り口に、ホラ、誰か来てるよ?」
「え?」
「身なりからして、新しい入植者じゃないかな。なんかこっち見てるしさ」
「あ、は、はいっ。今行きます、ちょっと待っていてくださいっ」


【ローラント】村落に設えられた囲いの外でこちらの様子を窺っているのは
あちこち継ぎ接ぎだらけのずた袋を担いだ、これまた薄汚い身なりの青年だ。
イッチョマエに腰へブロードソードを帯びているあたり剣士くずれってとこかしら。

リース―――もとい、“最終兵器怪女”が、開拓者の代表として彼のもとに駆けていくのを尻目に
ワタシと“歩く桃色リビドー”の妹は、ブザマに逃げ惑う色ボケめがけて、
地獄へ落ちろと言わんばかりの鮮烈なトドメを振り下ろした★


「―――ようこそ、新しい【ローラント】へっ!」


青年が「シオン・コリシュマルド」と名乗るのと、
“歩く桃色リビドー”が断末魔の絶叫を上げたのはちょうど同じタイミング。
そこへリースの歓迎の言葉が溶け込めば、ほら、雲ひとつない【イシュタリアス】の青空に
また一つ新しい笑い声が上がる―――――――――






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