「―――【ローラント】を…、故郷を追われた私と、弟と、
…保護者として逃避行へ同道してくれた一族の戦士、ライザ・ロンダンスの三人は、
【アルテナ】の討手から逃れるために人里離れた森の中へロッジを建て、
そこで十余年、生活をしてきました…」
迎えにやって来たニキータの船に揺られながら、静かに、静かにリースの追想は始まった。
彼女の声以外に聴こえるのは、船体へ打ち寄せては砕ける、薄い波の音だけ。
誰も、彼も、言葉無く、彼女の追想へ耳を傾けていた。
「最初の一年は、それが苦痛で仕方ありませんでした。
故郷を失って、友達を奪われて、…家族を弑されて…、
それなのに、どうしてこのような辺境で、弾ける恨みを抱いたまま、
鬱屈と過ごさなければならないのか…」
「………………………」
「………………………」
彼女を苦境へ追いやった【アルテナ】の、それも王女という立場にあるアンジェラは、
リースの遭った難を聴く度、自らの身を焼かれるような痛みで心を苛まれて、瞼を伏せる。
【アルテナ】の属国として【ローラント】を実際に攻め滅ぼした【フォルセナ】出身である
デュランとて、それは同じだ。
彼の場合は、幾分、屈折した思いもあるようだが。
「…ある時、覚えたての槍と【イーサネット】の秘術をもって復讐を…、
【アルテナ】に加担する全ての者へ牙を突きたてようと、
ライザにも、エリオット…弟にも内緒でロッジを抜け出そうとしました」
「復…讐」
「私たちのささやかな幸せを全て台無しにしておいて、
英雄を気取って持て囃される【アルテナ】も、【フォルセナ】も、
憎くて、恨めしくて………私は復讐の誓いを立てたのです」
――――――【復讐】。
困っている人を見捨てられない慈愛に満ちた性情の彼女には
まるで似つかわしくない言葉だが、不条理に未来を閉ざされた者の取る行動としては、
これ以上に相応しいものはない。
なにより彼女の慈愛の根本に或るのは、不条理への怒りと哀しみなのだから。
「………でも、結局、ライザに見つかってしまいました。
彼女はこうなる事、私が暴走する事、全部わかっていたんです。
そうして、こう言いました。
『十年間で、私の持ち得る全ての技術を貴女に授けます。【アルテナ】をも滅ぼし得る力を。
十年後、全ての力を身につけた時、その時にも貴女の心に復讐が渦巻くのなら、
私は貴女の衝動を止めません。十年です。十年、貴女自身に猶予を与えてください』…と」
「おいおい、こわいコト、サラッと言うのな………」
十年後の、現在のリースが未だ復讐を宿していたなら、
果たして今日の【アルテナ】は、かくも安穏なものだっただろうか。
アンジェラをも遥かに凌駕する【イーサネット】を備え、銀槍の武技は精密無比。
たった一人で【アルテナ】そのものを滅ぼすには勿論足りないが、
【アルテナ】が黒い歴史へ遺した原罪の残滓が、安穏の現世へ蘇ったとあれば、
一極支配に座するかの帝国には、原罪を暴き立てる生き証人として、確実な脅威となっていただろう。
それも一つの復讐だ。
ホークアイが弱く悲鳴を上げた理由は、まさしくそこにあった。
「それからの十年間、私は無我夢中で鍛錬に励みました。
全ては【アルテナ】とその属国…、いえ、それだけではありません。
【ローラント】の危難を知りながら手を差し伸べる事すらしなかった全ての人間へ、
………【社会】の全てに復讐するために………」
「………………………」
千億の絶望を胸に抱いた人間の瞳には、千億の笑顔は侮辱と嘲笑として映る。
幼くして全てを奪われたリースの瞳が捉え、怒りに狂ったのは、間違いなくこの洗礼である。
「………十年が過ぎ、ライザの謂う【アルテナ】を滅ぼし得る秘術を修める頃には、
私の心からは復讐という二文字は消失されていました。
けれど間違えて欲しくないのは、時が怒りを忘れさせてくれたのでは無いということです」
「違う、の?」
「時間が癒してくれるほど、人の負の想念は安らかなものではありません。
十年という時間の中で、いやという程、味わいました…。
私の心から不条理への恨みを消し去ってくれたのは、
………皮肉にも不条理そのもの…【アルテナ】を問答無用で滅ぼし得る、
不条理の暴威だったのです」
「………………………」
「不条理に人の夢も希望も、全て奪い取る力でもって復讐を成したところで、
そこに残るのは、また、不条理。それでは恨み抱く【社会】と同じではないですか。
復讐を成せば、最も憎む不条理が連鎖し、永劫に続いていく。…これで何の恨みが晴らされるでしょうか。
―――そこへ行き着いた時、私は自分の進むべき路を見出したのです」
「それが…“不条理を許さない戦士”…なのね?」
「はい」
「………………………」
一片の淀みもなく頷いたリースから、ふいとアンジェラが視線を逸らした。
他者からの干渉…自分本位へ降りかかる不条理に激怒しておきながら、
自分では無軌道に暴れまわって、捻じ曲げた不条理を、これまで何度も突きつけてきた。
【獣王義由群(ビースト・フリーダム)】とのイザコザが好例だ。
気に入らない事があれば、すぐに得意の魔法で強引に我を通してきた。
(………………ホントの最低じゃない、あたし………)
そんな最低の人間にも関わらず、気安くリースの親友を気取り、
忘れてはならない【アルテナ】の罪を自分には無関係と言ってのけた。
原罪によって全てを奪われた彼女の前で、いけしゃあしゃあとよく言ってのけた物だ。
過去の原罪を受け止め、その上で新しい路を行くリースと自分はあまりに違いすぎる。
過去の原罪という、加害者側の背負うべきモノに見向きもしなかった自分は、あまりに醜過ぎた。
だから、どこまでも透き通った親友の瞳を直視する事ができなかった。
「―――そんな時、です」
それまでの淡々とした語り口調から一転して、リースの感情が初めて揺らいだ。
十年の昔、ライザへ叩きつけたものと同質の感情に揺らいだ。
それは、不条理への怒りと、哀しみ。
驚いて窺うリースの顔には、負の想念がありありと浮かんでいた。
「そんな時、【あの者たち】が私たちの前に現れました。
『失われた【ローラント】の秘術を受け継ぐ血族の力、我らが盟主の供物に相応しい』
………二人組みで現れたその者たちは、あっと言う間もなく、
エリオットを連れ去っていきました」
「二人組みか…。
それじゃ俺にリースちゃんを狙えと依頼したクライアントとは別人みたいだな…」
「―――ちょっと待て。それじゃ、リースの探し物は………」
「………そうです。
私が“ヒトの手の届かぬ地”へ伸ばして掴みたい物とは、
最後に残った家族である弟、エリオット・アークウィンドです」
なんとなくそんな気はしていた。
「弟がいる」と聞いた時から、誰もが、そう感じていた。
正義感に富む彼女が【マナストーン】を使ってまで手にしたいと願う物が権力や財宝の類ではある筈もない。
となれば、導き出される仮説は一つだけだ。
「彼らの上層に或ると思われる【盟主】なる者は、
おそらくエリオットに流れる、【アークウィンド】嫡子の魔力に目を付けたのでしょう。
修練こそ積んでおらず、精霊を使役する術をエリオットは持ち合わせてはいませんでしたが、
実際に魔力は膨大で、【ローラント】の秘術を悪用しようとする者たちには垂涎だったと思います。
………私は、目の前で最後の肉親を奪われたのです」
「………………………」
「ちょっと、待って、ライザさんは、どうしたの?
リースに武術教えた人なら、そんなヤツら、一発、じゃないの?」
「………ケヴィンッ」
“当然”ではあるが、あえて誰もが口を結んだ疑問を素直に投げかけるケヴィンを、
頭上のカールが静かに、けれど厳しく制した。
触れてはならないモノがある事を、朴訥なケヴィンはまだ知らなかった。
【アルテナ】を滅ぼす力を有するリースにすら抗えない程の戦闘力を有する【あの者たち】。
それほどまでに強大な力を持つ者を相手にして五体満足で済む筈のないリースが、
今、こうして旅を共にしているのが、ケヴィンの疑問を解消する何よりの答案だった。
「………ちゃんと花を添えて、旅立つ報告は済ませてきたんだろうな?」
「………もちろんです。
私にとって、姉であり、親友であり、母でもある、大切な人なのですから」
庇護の対象が命の危険に晒された時、姉であり、親友であり、母でもある存在が取るべきは一つだ。
アークウィンド姉弟を護る者として我が身を盾に、剣に、魂を削って抗戦しただろう。
その結果、エリオットはさらわれ、リースは生き延びた。
我が身を削って戦ったライザはどうなったのか、死闘の果てをあえてほじる者はいない。
「自分たちを守ってくれたライザを誇りに思う」と付け加えたリースの言葉だけで、察するに十分である。
「その後、以前から保護の申し出を受けていた【英雄王】を頼り、
そこでデュランに出会ったのです。
それからは、皆さんご存知の通りのこの旅路………」
【フォルセナ】での出会いから水平線へまで続いた旅路は皆の周知するところだ。
奇妙な縁で集った六人と一匹の物語は、
あの日の『最悪の初対面』に始まったと言っても過言ではない。
粗野な青年剣士、あけすけな神官、無軌道な魔法使い、常識外れの獣人コンビ、元・刺客の盗賊………
普通に暮らしていては、まず顔を合わせて旅を共にするなど考えられない取り合わせの面子が
同じ船に乗り合わせ、一人の少女の独白へ耳を傾ける光景など、それだけで不可思議だが、
今、確実に彼らの心は一つに結束していた。
「―――これで私の昔話はおしまいです………」
「…サンキューな、リースちゃん。
辛いコトだけど、全部話してくれて、嬉しかったよ」
厚く、長い物語を読み終えたように、静かに独白の結末をリースが告げると、
ともすればしんみりと沈み込みそうな空気を盛り上げようと、ホークアイが真っ先に反応を示した。
騒がしい仲間たちが、これに続かないわけはない。
「うん、ホークの言う通り。オイラ、やっぱりリースと旅してて、よかった!
リースのために、これからも、力、発揮できる!」
「リース、あんたの強さ、しかと受け取ったで。今度はワシらが応える番やな」
「話してくれてホントに嬉しいけど、
ま、なんにも言わなくたって、どこまで協力するつもりだったけどね。
…これはデュランの受け売りなんだけど、ねぇ?」
蟠りを感じて俯き加減だったアンジェラも、一度自分の頬を叩いて気合いを入れ直し、
親友の肩を組んで鼓舞した。
しんみりしてリースが喜ぶわけがない。自分にできる、最大限で親友を支えよう。
アンジェラらしいポジティブな切り替えだが、おそらくそれこそが正解なのだ。
「そ、そうなのですか、デュラン?」
「………るせぇな、忘れたよ、ンな昔の話」
「よくかんさつしておくでち、リースしゃん。
じぶんのきもちもすなおにだせないしろうとやろうは、
ひやかされるときまってあーゆーたいどをとるもんなんでち。
はやいはなしがてれかくしでちね。やろうのたいどをみぬけるようになれば、
リースしゃん、あんたしゃんもりっぱなあくじょのなかまいりでち」
「だッ、誰が照れるかッ!!!!」
「おおごえはりあげてうやむやにしようとするのは、てんけいてきなぱたーんでち。
そんなやすいてでシャルがやりこめられるとでもおもったでちか、このうすらばかが」
先走るアンジェラをいさめる言葉が後に自分を追い立てるハメになろうとは、
当時のデュランには想像もできるべくもない。
予測範疇内であれば、もっと別の言葉を考えただろう。
貧困なボキャブラリーでは限りがあるが、少なくとも、こうして冷やかされない言葉を。
そっぽを向いたデュランの横顔は、シャルロットの指摘通り、照れて薄く紅潮していた。
「よーしッ、それじゃ『ホントの仲間記念』として、
ココは宴会部長の、このホークアイが何か催し物を考えなくっちゃなぁ!
そうだろ、リーダーッ!?」
「―――はぁッ!? なんだよ、それッ? なんで俺がリーダーなんだよッ!?
つーか、お前、宴会部長で満足なのかっ!?」
「オール・オーケーさ! な、リース?」
就任以前に、いつの間に役職など定められていたのか。
宴会部長を自称するホークアイに“リーダー”と呼ばれたデュランは、あまりに唐突な任命に困惑した。
これまでずっと一匹狼でやって来て、到底人の上に立つような人間でないと考えていた自分へ
急にリーダーをやれと持ちかけられても、正直な話、迷惑以外の何物でもない。
「はい、私もホークアイさんの仰る通り、
デュランこそ、このチームのリーダーとして相応しいかと―――」
「―――はーい、そこまでっ! ちょっとストップしといてくれよっ」
「―――ふえぇっ?」
何一つ意見を異にする事なく賛同したデュラン・リーダー案へ、
当のホークアイから待ったをかけられたリースも、デュランと隣り合わせて大困惑だ。
「今、俺のこと、なんて呼んだ?」
「えっと…、ホークアイさん、ですか?」
「そうそう、それそれ! そいつを取っ払ってくれよっ!」
「? それでは何とお呼びすれば良いのでしょうか?
名前を取り払ってしまったら、
ホークアイさんは名無しのゴンダワラになってしまいますけど…」
「う〜ん、そこに食いつくか〜! さすがリース、一味違うなっ!」
「ふえええぇぇぇ?」
「アホタレ、いつまで一人でブツクサやっとんねん。
ええか、リース。ホークが言いたいんわな、名前を外してくれいうこっちゃない。
つまり仲間内で『さん』付けで呼び合うんは不自然や、もっとフランキーに行こう。
そう言いたいわけや」
「そーゆーコト! 犬コロ相手にまで気ィ配ってたら、それこそくたびれちゃうだろ?」
ホークアイの意図がわからないリースは、目の前で身悶える彼とは裏腹に、
どんどん困惑の度合いを強めていった。
そんな悪循環を見かねたカールが、リースへ助け舟を出す。
ホークアイの言いたかった事、『ホントの仲間』へ望む事の全てがそこにあった。
「あ、ソレ賛成! たまにはホークもイイこと言うじゃん。
そうよね、親友同士だってのに、遠慮して『さん』付けなんて、おかしいもん!」
「オイラも、そう思う。
オイラ、年下なのに、リースに、ケヴィンさんって呼ばれてる。
ちょっとだけ、くすぐったかった。だから、これから、オイラのコト、ケヴィンって呼んで!」
「しゃるのことはこれまでどおり『シャルロット様』でけっこーでちよ」
「………様なんて呼んでねぇだろ、誰も」
ドサクサに紛れてとんでもない呼び方を提案するシャルロットへは
デュランから的確なツッコミが入ったので反応を流すにしても、
真剣に見つめてくるアンジェラとケヴィンの二人はそうは行かない。
「え、えっと…ア、アンジェラ………ケ、ケヴィン?」
「んん〜! いいわね、その響きっ! ね、もっかい呼んでみて?」
「ア、アンジェラ」
「あんもうっ♪ ちょっと恥ずかしがってる初々しさがたまんないわっ!
もうサイコ〜っ♪ あたしんトコへお嫁に貰うわよ、リース♪」
「ふええええええぇぇぇぇぇぇ?」
他人行儀な『さん』付けを取り払ってもらえたのがよほど嬉しかったのか、
気恥ずかしげに名前を呼び捨てにするリースへアンジェラが抱きついた。
「誰が犬コロや! 大概にせんとそろそろドタマ齧り取るど、ダボハゼがぁ!」
「ぎゃあああぁぁぁッ!!
噛むなッ、親指と人差し指の間をピンポイントで噛むなぁッ!!」
そんなほのぼのとしたやり取りの後ろでは、
なにやら断末魔めいた絶叫が立ち昇っているが、一切無視。
「………………………」
一方、チームの中で唯一呼び捨ての仲だったデュランは、
ほんの少しだけご機嫌斜めで、どうしてこんな瑣末な出来事でムシャクシャするのか、
それすら解らず、心根は複雑に絡まり、乱麻と化していた。
(…なんだってんだよ…別に普通じゃねぇか、仲間同士で呼び捨てなんてのは)
頭ではそれが普通と解っているものの、
まるで自分だけの特権をかっさらわれたような奇妙な感覚に襲われる。
リースが呼び捨てにする人間が増える事が、なぜだかすこぶる癪に障る。
(…だぁぁぁあああッ! うざってぇッ!! 何を悔しがる必要があんだよ、俺ッ!?)
正体不明の悔しさを考察すれば考察するほど乱麻の結び目はきつく食い込み、
デュランの正常な思考能力を奪い取ってしまう。
朴訥なケヴィンは、純粋過ぎるがゆえに心の機微に少々疎いが、
師匠であるデュランもまた、それ以上のニブチンだった。
彼が持て余す心のモヤの正体に気付くまでには、まだまだ時間が掛かりそうだ。
「よっし! 『ホントの仲間記念』第二弾は陸へ上がってからの大宴会だ!
【マナストーン】とか、【あの者たち】とか、ついでにあのズッコケ三人組もだな。
全部ひっくるめて気になるコトばかりだけど、まずは景気付けしとかないと、
途中ですぐに息切れしちまうもんなぁ!」
「今日だけは冴えてるじゃない! それ、ナイス提案よ♪
払いは任せておきなさい、あたしが全部持ったげるわ。
なんたって、『ホントの仲間記念』なんだもんね♪」
「さっすがアンジェラ♪ その太っ腹に、俺、惚れちゃうそう♪
おう、ニキータ! まだ港は見えてこないのか?
宴会やったら次は北へ向かってもらうからな、しゃっかりき働けよ!」
「勝手にゃ人ですねぇ!
そちらさんでえらい盛り上がってるから、
オイラ、居た堪れなくて仕方にゃかったですよ!」
「はっはっは! 気にすんなって!
よし、折角の景気付けなんだ、謝礼にゃマタタビ酒も付けてやるよ!
こいつめ、お前もしっかり呑めよぉ〜?」
「…あのなぁ、浮かれんのも大概にしとかねぇと、いざって時に遅れを―――」
能天気にはしゃぐホークアイを見るに見かねたデュランが
殴ってでも少しいさめようと立ち上がったその時―――
「ッ!? デュラン、気をつけてくださいッ! 海中に何かいますッ!!」
「何ィッ!?」
―――海中から何物かが呻りを上げて急速にせり上がり、
それによって生じた高波がデュランたちを乗せる船の横っ腹を容赦なく打ち据える。
衝撃と鉄砲水で甲板から振り落とされないよう、一同はマスト等へ必死でしがみついた。
「ちッ…くしょうッ! モンスターかッ!?」
「モンスターなら、オイラ、気配でわかる! けど、こいつ、気配も何もないッ!」
「ゆ〜れいじゃないんでちよ!? それじゃまるで―――」
高波の衝撃を辛くも脱したパーティが、水棲のモンスターかと各々を警戒を構えるが、
『それ』は、たかがニンゲンの手で立ち向かえるべくもない、
この世界に生きる者が初めて眼にする極大質量の物体。
「―――まるでそのとおりに【まな】じゃないで―――」
海中からせり出した極大質量の『それ』の外見はすさまじく巨大な戦船を思わせ、
けれど木製の温かみも、海を割る力強さも感じられない、鋼とガラスで固められた、
【イシュタリアス】の錬金技術の産物とは、とても思えない異質な存在。
咄嗟にこの戦船の正体を看破したシャルロットの【マナ】という絶叫は、
第二次襲来した津波によって揉み消され、今度は抗う術も無く、
ニキータの船は乗員もろとも大海の藻屑へと四散した。
【本編TOPへ】 NEXT→