ヒースがラボとして愛用する【ペダン】は、灼熱の狼煙を合図に壮絶な決戦場と化した。
【セクンダディ】に名を連ねていた時と同じ紅蓮のマントを身に纏ったブライアンが
姿を現すなり猛然と攻撃を仕掛けてきたのだ。
【ファランクス】、【エノラ・ゲイ】………ありとあらゆる火炎魔法が乱れ飛び、
コントロールパネルを巻き込みながらデュランたちへ襲い掛かる。


「どうして…、どうして戦わなければならないのですかっ!?
 貴方はアンジェラのお友達ではないですか…っ!
 一度は私たちに力を貸してくださったではありませんかっ!!」
「私はロキ・ザファータキエに賭けたんだよッ!!
 【アルテナ】を覆し、【革命】をもたらせる者は【英雄】をおいて外にいないとッ!!
 【英雄】の行く末を阻む者は【革命】の障害ッ!! 障害は振り払うまでだッ!!」
「戦う以外に【革命】の術を探してもいいじゃないですか!
 どうして無理やりに暴力へ訴えようとするのですかっ!!」
「腹ァ決めちまった男には何言っても無駄だ、リースッ!!
 ヤツの言う通り、戦うってんなら振り払うしかねぇッ!!」
「でも………そんなの………アンジェラが………っ!」


突きつけられた黒い歴史に打ちひしがれ、
ブライアンの【革命】への意思が本物だった事に困惑したアンジェラは
これまでにない激戦であるにも関わらず、戦意を喪失して立ち尽くすしか出来ないでいる。
受け止めがたい衝撃を二つも同時に投げつけられたのだ。
肩を震わせ、真っ青に硬直してしまっても誰も責められない。
ほとんど無防備のアンジェラを守るべく、
今はカールが援護にへばり付いているので安心は安心なのだが―――


「うずりゃあッ!! 【撃斬】ッ!!!!」
「うわっ、あのバカチビッ!!」


―――それよりも問題なのはエリオットだ。
戦闘が終わるまで隠れていろとのデュランの言いつけをちっとも守らず、
果敢にもカタナを抜いてブライアンへ斬りかかっていってしまうのだ。
今もそうだ。危険に感づいたホークアイが【影抜け】で瞬速接近し、
抱え込んで離脱しなければ、迎撃の【エノラ・ゲイ】で蒸発させられていた事だろう。


「お前ッ、何やってんだよッ!!」
「それはこっちの台詞だ、バカッ!! 自殺願望者か、お前はッ!!」
「ふざけんなッ、死中に活ありだッ!!
 ボクの必殺剣がアイツを仕留めるところだったのに邪魔しやがってぇッ!!」
「遊びじゃねぇんだよッ!! チャンバラだったら家帰ってからにしやがれッ!!」
「なっ、なにをこのヘタレが―――」


いちいち自分の邪魔をするヘタレに対する罵声が言い終わらないうちに
ホークアイの背中は目の前から消えていた。
炎に足を焼かれたケヴィンがシャルロットに治療を受ける間、
二人を守るべく即座にフォローへ回ったのだ。


「やれやれ、私のラボを破壊しないで欲しいもんですね。
 修理費、どちらに請求すればよろしいのですか?」
「ヒース・R・ゲイトウェイアーチッ!!
 我らの【革命】に組すると見せ掛けて最後に裏切った
 人間のクズが何を言うのかッ!!」
「はははっ、なかなかユニークなジョークですね。
 私は愛する【マナ】をくだらない陰謀に使わせないよう監視していただけですよ。
 勝手に馴れ合いを感じて裏切り者呼ばわりされるのは心外ですねぇ」
「―――殺すッ!!!!」


再びカタナを構えて攻め入ろうとした瞬間、
目に飛び込んできた光景にエリオットは竦み上がり、立ち止まってしまった。
破裂せん限りの殺意が荒れ狂い、炎が、銃弾が、
噴き出した殺意が互いの血肉を削ぎ落としていく。
命と命を奪い合う、極限の狭間。稽古では味わう事のない【極限】が眼前に広がっていた。


「合わせてくれ、リースッ!!
 【谺閃】を放った後、すぐに【クロスクラッシュ】で追いかけるッ!! 
「………わかりました………っ!」
「賢しいッ!! どのような小技で細工しようとも、
 紅蓮の炎の前には意味をなすものかァッ!!」


兄貴と慕うデュランと実姉のリースも、
普段は決して見せない殺気を漲らせて戦いに望んでいる。


「だッ………がああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」
「おいおい、いきなり【アグレッシブビースト】かよッ!!
 大判振る舞いじゃんか、ケヴィン!!」
「いきなりでなくいまだからこそちゃんすじゃないでちか!
 やっこさんはぶつりこうげきにすこぶるよわいはずでち!!
 ぶつけるにはケヴィンしゃんのすーぱーじゅうじんぱわーがいちばん!!
 いっきにかたをつけちまうでちよっ!!」


咆哮と共に黄金の闘気を纏ったケヴィンの拳が、蹴りが、
デュランとリースの連携技【クロスクラッシュ】の後を追ってブライアンを捉える。
純真な笑顔のどこにここまでの殺気を隠していたのか、
震え上がるくらいの豹変にエリオットは恐怖すら感じ始めていた。


「小賢しい………ッ!! 小賢しいぞッ!!
 【革命】の炎、その程度でかき消せるものと思うなッ!!」
「―――これはいけませんねッ!!」


速射砲と化した【ジャイロジェット・ティーガー・バルカン】を
炎の防壁で一蹴したブライアンの全身から膨大な魔力が溢れ出した。
魔力は空気中の火種を瞬時に触発し、広域を薙ぎ払う魔法となって凝縮されていく。


「焦熱の彼方へと爆ぜろッ!! 【カルネージ・ドグマ】ッ!!!!」
「間に合いますか…! 【アポート】ッ!!」


一点に凝縮された魔力はついに臨界点を超え、光熱の暴威が白い闇の中にのた打ち回った。
視界の一切を封殺する白い闇が晴れ、彩りが再生された世界には、
ただ、破壊されたオブジェが散乱するばかりだった。


「…瞬間移動で難を逃れたか…、くそッ…、小癪な真似を………ッ!!」


瓦礫の中に敵の塵一つ見つけられなかったブライアンは、
メチャクチャに破壊された室内を見回し、忌々しげに地面を蹴り上げた。
【カルネージ・ドグマ】とは、限界を超えて凝縮した酸素を急激に燃焼する事で
局地的な大爆発を引き起こす、最高クラスの火炎魔法だ。
ブライアンが習得した魔法の中でも最強の攻撃力を有する切り札だったのだが、
ヒースが案じた緊急回避の策によって、その暴威を生かす事なく終わってしまった。
切り札である以上、消耗も激しく、一日に二度と使えない。






(今ので決着をつけるつもりだったのだが…、こうなっては已む無し、か…)






ただ一回きりの切り札を使ってしまったブライアンは、
ズボンのポケットから小さなカプセルを取り出した。
鉄製の光沢を放つカプセルの側面には、【X/VN04ボナパルトXt=E−】と
コードネームらしき文字が刻み込まれている。


「全ては【革命】のため………、この身焼け果てようと後悔は―――」
『―――後悔するさ、キミは、必ず』


カプセルの先端に飛び出したボタンをブライアンが押し込もうとした時、
胸ポケットから場違いに穏やかな声が漏れ出し、指先の動きを制止した。


「ヴィクター………」
『そうやって気丈に振舞っているけど、心の奥底には恐怖を抱いてる。
 違うかい? …いや、違わない。
 私はキミの事を誰よりも知っているつもりだからね』


胸元へ忍ばせた【モバイル】から漏れ出した声の主はヴィクターだ。
いつも通りの穏やかな声がブライアンを包み込み、
カプセルを握る手の力を弱めさせていく。


「………俺が何を怖がってるって言うんだ」
『怖いのは、そう、失う事だ。
 面と向かって戦う事でこれまでの関係を壊してしまう。
 キミはそれが怖いんだろう?』
「怖気づくくらいなら最初から【革命】の炎を抱く事は無いッ!!
 俺は、俺の…、俺たちの信念を貫くまでだッ!!」
『果たしてそうかな? 言い切れるのかい?』
「言い切れるともッ!! 俺はそのために生きてきたッ!!
 腐臭漂う【アルテナ】の闇を転覆し、俺たちの故郷を浄化するッ!!
 【アルテナ】を誰にも誇れる本当の理想郷に、
 真の【未来享受原理】を達成するまで、俺は戦い続けるッ!!」
『キミにとって【未来享受原理】とは何だ?』
「民主とか、社会とか、そんなものは関係ないッ!!
 俺は故郷を救いたい!! 誰に憎まれるでもなく、誰を憎む事もない故郷に変えてみせるッ!!
 ………そうだ! そのために俺は【英雄】に賭けたんだ…!
 だからこそ、【英雄】を阻む者は俺が引き受ける………ッ!!」
『それがキミの【未来享受原理】か………』
「俺じゃない。俺たちの…、俺とお前が約束を交わした【革命】の原理だ…!!」


カプセルを手にした瞬間、確かに彼は恐怖に躊躇を覚えた。
このボタンを押し込めば、自分の人生は終わる。自らの人生に終わりを告げる。
例えようもない恐怖に心を震わせ、【革命】の灯火が揺らいだブライアンだったが、
ヴィクターの言葉に背中を押された今、もはや迷いは無い。


「礼を言うよ、ヴィクター。
 心置きなく俺は、『俺』としての最後を迎えることが出来る。
 夢見た夢を【英雄】に、果たすべき約束をお前に――――――託したぜ」
『………………………』
「………………………【革命】の炎は、ここに起つッ!!!!」


ボタンを押し込んだ瞬間、カプセルを破って鋼鉄の触手が溢れ出し、
ブライアンの頭部を侵食していき―――――――


『………【革命】って、なんなんだよ………』


――――――胸ポケットの中で呟かれたヴィクターの言葉も、
最早彼の耳には届かなくなっていた。













「ここは…?」
「今しがたの観測センターにほど近い区画に位置する隠し部屋ですよ。
 ………本当はお話が全て済んでからご案内するつもりでしたが」


ブライアンの奥の手【カルネージ・ドグマ】が炸裂する直前、
瞬間移動の魔法を発動させる事に成功したヒースの機転で
暴威の直撃を免れた一行は、死闘の舞台から程近い一室へ逃げおおせていた。
広々とした観測センターと真逆に、狭く薄暗い一室だ。
その中央にボンヤリと燐光を放つ台座を見つけたケヴィンとエリオットは、
何かが安置されているのかと物珍しさに覗き込んだ。


「【マナ】…だよね? 剣っぽい形、だけど………」


果たして長方形に拡がった台座には、
クリスタル製のカバーを被せられた短剣状の機械が横たえられていた。


「ええ、名づけて、“AMD01【エランヴィタール】”。
 対【マナ】用に調整した、私オリジナルのレーザーソードです」
「そのレーザーってのはよくわかんないけど、
 剣タイプって事はデュランにも使えるって事だよな?」
「おい、そりゃどういう意味だよ、ホーク。
 俺に【マナ】なんて物騒なモンを握れってのか?
 ………冗談はお前とジェシカの関係だけにしてくれ!」
「えぇ!? いらないの!? 兄貴にゃピッタリだと思うのにぃ!!」
「なんだったらお前が使え、エリオット。俺はごめんだぜ」
「それは弱りましたね。
 この【エランヴィタール】はデュランくん、
 貴方のためだけにオーダーメイドした逸品なのですけどねぇ」
「あぁっ!? なんだってッ?」
「ひゅーっ♪ ニクい演出してくれるじゃん、このハカセ!
 貰っちゃいなよ、兄貴。武器のパワーアップは男のロマンじゃん♪」
「バカ言え! こんな短ぇ、しかも【マナ】なんて物騒なもん、使えるかッ!!」


自分の預かり知らないところで、自分専用の武器を作られてもいい迷惑だ。
加えてこの短さ。両手持ちの【ツヴァイハンダー】で生死に活路を開いてきた自分には
あまりに不釣合いではないか。


「静止状態だからこの短さなんですよ。
 そもそも先端に付属する刀身はあくまでジェネレーター。
 直接これで戦うわけではありません」
「なんだよ、そのジェネレーターってのは。
 つか静止状態とかなんとか言われてもわかんねぇって!!」
「せんとうじにはこのとうしんからびーむ…、
 わかりやすくいうならまりょくのやいばがのびるってすんぽうでち」
「魔力の刃って…、そもそもデュランにゃ魔力は無いじゃんか。
 どうやって魔力をかき集めるつもりだよ」
「だからそれはもののたとえってやつでち! へんにものわかりのわるいへたれでちねっ!」
「一種の電流が刀身を形成するイメージを想像してもらえれば
 比較的わかりやすいかと。
 デュランくんは【ツヴァイハンダー】に慣れていますから、
 出力をアップして大型剣に調整すると、これまでとほぼ同じ感覚で扱えますよ」
「刀身のデカさを自分で調整できるんかい?
 はぁ〜、えらいベンリやないか、それ」
「最終調整段階なので、まだ起動はできないのですけどね。
 完成をお楽しみに!」
「お楽しみに、じゃねぇ!! 俺は使わねぇっつってんだろッ!!」
「でも残念だよな。こいつが今使えれば、兄貴一人で大逆転ってカンジじゃないの?
 ホラ、マンガとかでもよくあるパターンじゃん」
「………逆転どころか、このまま戦う事も難しい状態ですよっ」


リースが窘める通り、どうやら呑気に構えていられる状態ではなさそうだ。
二重のショックに打ちのめされたアンジェラの顔は痛ましいほどに蒼白で、
とてもブライアンとの戦闘を続行できそうな気配は無い。


「どうする、デュラン? 確かに今のアンジェラを戦いへ引っ張り出すのは無理だ」
「だけど、相手はブライアン。アンジェラにしか、きっと、止められないよ」
「………………………仕方無ぇ。
 相手に背中見せるのは癪だが、今はそんな見栄張ってる場合じゃねぇしな。
 仕切りなおしだ。ここは一旦退くぞ」
「なッ、何言ってんのよ…ッ! アタシはまだ戦えるわッ!!
 【革命】なんてテロリズムを振りかざす敵から逃げるなんて絶対ダメッ!!」
「………………………」


気丈に振舞うアンジェラだが、無理を押してブライアンを
“敵”と呼んでいるのがありありと見える。
小刻みに肩を震わせ、涙目に揺らぐ彼女のどこに立ち向かうだけの余力があるものか。
それでも戦うと主張するアンジェラをしっかりと見つめて、デュランは首を横に振った。


「完全に精神が傾いでいるお前を連れていくわけにはいかねぇ。
 みすみす死にに行かせるようなもんだ」
「たったそれだけの理由で、尻尾巻いて逃げ出すって言うの!?
 ふざけないでよッ!! アタシにだってプライドがあるわッ!!
 ちょっと不安定だからって遅れは取らないッ!!」
「………アンジェラ、デュランの御心を察してあげてください。
 ううん、デュランだけじゃない。
 みんな、貴女に辛い目に遭って欲しくは………」
「辛い目とかそういうんじゃないッ!! アタシは、アタシはぁ………ッ!!」
「どうしても戦うと聴かねぇのか…」
「だったらどうするの!? 引っ叩いて押しとめるのかしらッ!?」
「………………………」


唇を噛んで反抗するアンジェラの瞳から、とうとう涙が零れ落ちた。
戦うさだめにあるのなら、自分自身で決着をつけたい―――悲壮なまでの
アンジェラの想いが解ってしまうからこそ、仲間たちはそれ以上強く押さえつける事は出来ず、
困ったように眉を顰めるしかなかった。
とはいえ、情に絆されただけで参戦を許すわけにはいかない。
生気すら感じられないアンジェラの現状では、一瞬で焼き尽くされてしまうのは明白だった。


「逃げ出して後悔しないためにもアタシは戦―――」
『―――後悔するさ、キミは、必ず』


今にも崩れそうな膝で立ち上がろうとするアンジェラを、
胸ポケットから漏れ出した優しい声が制止した。


「この声、【モバイル】………?」
「ヴィ、ヴィクター………?」
『そうやって気丈に振舞っているけど、心の奥底には恐怖を抱いてる。
 違うかい? …いや、違わない。
 私はキミの事を誰よりも知っているつもりだからね』


胸元へ忍ばせた【モバイル】から漏れ出した声の主はヴィクターだ。
ポケットから取り出すと、どこかの森の中をひた走るヴィクターの姿が映った。
焦った様子を見せながらも、いつも通りの穏やかな声がアンジェラを包み込み、
彼女の心の底に潜むモノを刺激していく。


「………怖がってなんかないッ!! 怖いのはここで挫ける事ッ!!
 暴力で何もかも押しのけようとするバカを許してしまう事よッ!!」
『怖いのは、そう、失う事だ。
 面と向かって戦う事でこれまでの関係を壊してしまう。
 キミはそれが怖いんだろう?』
「違うッ!!」
『果たしてそうかな? 言い切れるのかい?』
「………………………」
『キミにとって【未来享受原理】とは何だ?』
「アタシの前でその単語を出さないでッ!!
 アタシは…何も知らないでいた頃のアタシなら、きっとバカな答えを返していたッ!!
 でも、今は違う!! 権力で人を傷付ける事の痛みを知ったわッ!!
 【未来享受原理】って名前の権力でさッ!!」
『それがキミの【未来享受原理】か………』
「そうよ!! これがアタシの貫く信念よッ!!
 だからッ、だからこそアタシはここで挫けるわけにはいかないのッ!!
 アイツに、ブライアンに【アルテナ】と同じ過ちを繰り返させたりしないためにッ!!」


心の底に潜むモノ―――何者にも変えられない信念が湧き立っていくのが解る。
そうだ、挫けれはならない理由、引けない勇気。
それは、大切な幼馴染みに【アルテナ】と同じ過ちを、
彼が憎悪する権力と同じ失敗を繰り返させないために在る。
例えようもない恐怖に心を震わせ、信念が揺らいだアンジェラだったが、
ヴィクターの言葉に背中を押された今、もはや迷いは無い。


「ありがと、ヴィクター。
 こんがらがって忘れてた物、貴方に思い出させてもらったわ」
『………………………』


ヴィクターが声をかけてくれなければ、ただただ戦って決着を付けると駄々をこねて
仲間を困らせるだけだっただろう。
だが、今は自分にしかできない事、自分が成すべき事をしっかりと見据えられる。
その証拠に、気力を取り戻したアンジェラを見つめる仲間たちは決意を受け止め、
無言で頷いてくれた。


「行こう、みんな!
 アタシはもう大丈夫だから、今度こそブライアンと決着をつけようッ!!
 【革命】なんてバカげた自己満足、絶対に止めようッ!!」
「言っとくけど、またヤバくなったらすぐに退却するからな。
 お前がしっかりしてねぇと、この勝負、話にならねぇからよ」
「大丈夫だってアンジェラも言ってるじゃないですか。
 行きましょう。行って、暴力の叛乱を止めましょう!」


決着の覚悟を決めて決戦場への進路を定めたアンジェラたちには、
蚊の鳴くような小さな呟きは聴き取れなかった。


『………【革命】って、なんなんだよ………』


人間はこんなにも悲しい表情を作れるのか。
人間はこんなにも辛い呻きを搾り出せるものなのか。
誰の耳にも入らない声で呟いたヴィクターの顔は、
悔しさと悲しさでグシャグシャに崩れていた―――――――――………………






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