「【女神】が最低限の記憶しか継承されないのは、
 人間の行く末を本当の意味で見守ってくださっている、という事ではありませんか?
 本当の意味で世界を我々に託してくださったのではないでしょうか?」


ヴァルダとロキ。相容れない両極端の頂に座する二人の決戦は、
ロキが弾劾の対象としたフェアリーの記憶継承を肯定する下りに幕を開いた。


「【魔法】の授与は【発展】の抑圧ではありません。
 自然と共に在る精霊の力へ依る【魔法】とは、
 世界を滅ぼすほどに異質な【マナ】に代わる萌芽に違いありません。
 そう、【魔法】とは、新しき【発展】の可能性っ」
「停滞を産む微温湯に可能性など無いッ!!」
「これからの1,000年が貴方が偏見するような停滞に終始すると、どうして言い切れるのですか?
 貴方は過去に囚われるばかりで未来をまるで見越していない。未来に希望を抱いてもいない。
 【テスカポリトカ】なる【マナ】の瞳は、未来まで映し出す機能が備わっているのですか?」
「未来の惨状など、未来視(さきよみ)の機能など無くとも
 過去と現在の停滞からいくらでも演算できるわッ!!」
「演算は一種の仮定。確定要素と呼ぶにはあまりに信憑性に足りない代物です。
 ヒトが【女神】より与えられた可能性の未知数を、貴方は計算に入れていないのでは?」
「………………………」
「今、貴方の心に生じた蟠りが、貴方が二度と歩めなくなった新しき未来への階なのです。
 ………貴方は過去から這い出た亡霊にしか過ぎない」
「亡霊にしか見えぬ未来もあるのだッ!! 自らの理論を正当化するにこだわり、
 なぜ汲々と進まぬ【発展】の遅延を理解できぬのかッ!!」
「持論の正当化にこだわっておられるのは、亡霊の貴方だけです。
 ………重ねて問いましょうか、ロキ・ザファータキエ。
 貴方は先ほどから【イシュタリアス】を否定する持論を振りかざしておいでですが、
 それでは貴方は最終的に何を為そうとしているのですか?」
「【革命】だッ!! 未来を滅びから護るためのッ!!」
「具体性がありませんね。現実には何を?」
「………何?」
「何をもって【革命】の達成と手意義付けるのか、まるで不明瞭。
 最重要な部分を抜かしてもらっては困ります」
「………………………いいだろう」


持論の軽薄さが一つずつ暴かれる度に始まりの火勢が衰退し、
次第に追い詰められていくロキにとって【革命】達成の手段を持ち出す事は
ある意味において切り札だったに違いない。これでヴァルダを絶句させられれば起死回生だ。
堂々と【革命】の炎の正体を言い放った。


「【神獣】と通称される、【ローラント】最後にして最大の【マナ】…、
 八基の戦略核ミサイルを【イシュタリアス】全土へ一斉に叩き落す!!
 一度世界を完全に消滅させ、その上に【魔法】などという澱を廃した真の桃源郷を築くのだッ!!」


【イシュタリアス】に暮らす人々には、いま一つピンと来ない専門用語で語るロキの脅威は、
現実を生きる諸氏になら背筋が凍りつくくらい理解できる事と思う。
世界を一瞬にして死滅へ追いやるこの最悪の対地波状攻撃こそロキが灯す【革命】の焔であり、
エルフの族長が口に出すのも忌んだ【神獣】の正体である。


「【神獣】…。【アークウィンド】の一族が封印してきたとされる存在ですね」
「人類に残された選択肢は二つッ! これを置いて他に逃げ場無しッ!!
 【発展】なき【偽り】の呪縛に埋没するかッ!!!
 一先ずの【消失】をもって【新世界】へ解脱するかッ!!!!」
「………それで?」
「それで、とは………?」
「世界を一旦滅ぼしてしまおうとする貴方の狂気は立証されました。
 それで、その後はどうするのです?」
「【聖域(アジール)】にて最終調整を推進している環境復元ユニットにて地上を浄化。
 と同時に【魔法】の支配から人間を解き放ち、自主独立を促す…ッ!!」
「その後は?」
「………………………」
「【女神】や【魔法】を廃した【新世界】へ移行してから、
 ヒトは何を寄る辺に生きていけばよいのです? 原始の暮らしへ退行するのですか?」
「【マナ】を【魔法】の代わりに代替すれば良いではないか!!
 そのための準備は完了している………ッ!」
「おかしいですね………。
 貴方は誰かから与えられた力が【発展】を鈍らせていると仰った。
 しかし、【マナ】と代替しては、主導となる技術が【魔法】と挿げ替えられただけで
 根本的な問題は何ら解決されていませんよね」
「【マナ】はヒトが自ら産み出した技術だぞ…?
 優れた技術に触れる事でヒトは自主独立へ目覚め、更なる高みへ―――」
「―――生み出したのは【旧人類(ルーインドサピエンス)】であって、
 現在の【イシュタリアス】に生きる我々ではありません。
 それはつまり、貴方が嫌悪する“誰かから与えられた力”と同義ではありませんか」
「………………………」
「お答えください。ヒトは何に足がかりに【発展】へ向かえばよいのか。
 【魔法】でも、【マナ】でもない、第三の存在を用意しての【革命】なのでしょう?」
「………………………………………………………………………」


絶句するのはロキ自身の方だった。
確信を持って明かした切り札を見るも無残に破壊されたロキは、
考えも及ばなかった己の失態に持ち直す事も不可能なほど狼狽し、
二の句も反論も、一切の言葉を失ってしまった。


「長考に入られてしまったようなので、質問を変えましょうか。
 ………貴方は【アルテナ】をいたく憎んでおいでのようですが、
 後学のために動機を教えてはいただけませんか。
 かつて【アルテナ】の先鋒として【ローラント】をも滅ぼした貴方の変調の在り方を」
「【女神】の呪縛を研究し、あまつさえその威光を背負って世界を牛耳る【悪】の枢軸…!!
 いや、それだけならまだよかったッ!! しかし、膨れ上がる利己は留まる事を知らぬッ!!
 汚職ッ! 暗殺ッ! 民意を無視した断行ッ! 【社会悪】への一方的な制裁ッ!!
 【アルテナ】を富国するために貴様らが手を下してきた悪行の数々、知らぬ存ぜぬは通じぬぞッ!!」


首脳陣たちの目の前に表示された【デジタル・ウィンドウ】上には、
ロキが目の当たりにし、絶望のどん底へ叩き落された【アルテナ】の醜聞が事細かに記載されている。
【悪の枢軸】と弾劾するための、ロキ秘蔵の手札だ。


「かつての尖兵だったからこそ、私はこの事実に気付き、【革命】を―――」
「―――まさか、たったそれだけの理由で?」


しかし、ロキが有効と思って手札に、ヴァルダは呆れたような口ぶりで切り替えした。


「た、たったそれだけとは何だ…!! 現にお前たちは強大な発言力で【イシュタリアス】を
 意のままに操っているではないか…!! これが【悪】でないなら何だと言う…!?」
「………………………」
「言葉を失ったという事は思い当たるフシがあるようだな…!」
「残念ながら、この絶句はそういった類の物ではありません。
 ………あまりに貴方の主張があまりに貧困で、思わず眩暈がしてしまったのですよ」
「………………………」
「ちなみに現在の【アルテナ】が倒れた事態を想定した事は?」
「一極支配の体制が崩れると言う事だ。げに素晴らしき時代では無いか」
「先導する者が倒れれば、後に残るのは無政府状態のみであるとは思わなかったのですか?」
「それは傲慢というものだ、ヴァルダ!! 自国の富裕に瞳が濁っている証拠だッ!!」
「私は極めて冷静な慧眼を備えているつもりですよ、ロキ。
 【社会】のバランスを崩すというのは、つまるところそういう事なのです」
「………【社会悪】が【社会】を語るかぁ………ッ!!」
「【社会悪】と罵るなら好きなように罵りなさいっ!
 汚職ッ! 暗殺ッ! 民意を無視した断行ッ! 【社会悪】への一方的な制裁ッ!!
 穢れた暗部を受け持つのは我ら【アルテナ】のみで十分ッ!!
 戦火の分散が防げるのなら、叛意を一身に浴びるもまた幸福ッ!!
 それによって民衆の平穏が保てるのなら、例え肥溜めだろうと私は飛び込みましょうッ!!」
「………………………」
「【社会悪】ッ!! これ即ち【必要悪】ッ!!
 【社会】を主導するモラルリーダーとして議長を執る立場と責務、
 まさか承知もしない上での批判ではありませんよねッ!?」
「………………………」
「貴方は【社会】に対してあまりに無知ッ!!
 そのような人間が【社会】を語る事こそ愚の骨頂ッ!!
 己の器を弁えなさいッ!!」
「………………………」


【社会】の均衡を護るためなら、自分は泥も呑むし、憎まれ役だろうと喜んで引き受ける。
罵倒するならすれば良い。石を投げるなら投げれば良い。
それで【イシュタリアス】の平穏が保てるなら、この身の痛みを捧げよう。
あれだけの自信を備えていたロキをも黙らせたヴァルダの演説は、
【アルテナ】の正当性ばかりでなく、【社会】に対する日向と影の貢献をも立証していた。
それが証拠に、これまで反対派を標榜して【アルテナ】を糾弾していた小国の代表までもが
真摯な瞳でヴァルダの演説に聞き入っている。しかも、瞳に涙まで浮かべて、だ。


「あーあー、アホみたいに感動しちゃってさ〜。
 今、何を言われたのかわかっちゃいないね、お偉方のミナサマは」
「………君もヴァルダの隠し剣を見抜いたのか?」
「ダテに本の虫でいたわけじゃないからね、ボク。
 『汚職ッ! 暗殺ッ! 民意を無視した断行ッ! 【社会悪】への一方的な制裁ッ!!』だっけ?
 アレ、暗に反対勢力を牽制してるよ〜なもんじゃん。
 ナイトハルトだっけ? あの人も気付いたのか、これ聴いた瞬間サッと顔つき変わったよ」
「牽制と引き込みを同時にこなす政治手腕の持ち主は、
 長い【アルテナ】の歴史を紐解いてもヴァルダくらいだろうな。
 ………恐ろしい女だよ」


もちろん、感動の坩堝の只中にあって冷静に状況を洞察している人間もいる。
エリオットと英雄王、そしてナイトハルトは、演説の中にヴァルダが仕掛けた“隠し剣”を見極め、
感動どころか恐怖にも似た緊張に表情を強張らせた。


「普段は議題を一方的に進めるだけだったから見えていなかったけれど、
 相応の政敵を向こうに回すとこうなるのね」
「………………………」
「………貴方の母親は、どうやら私たちが想像していたより遥かに大きな存在のようね。
 まさか、これほどの求心力を持っていたとは………!」


英雄王をして【アルテナ】有史以来最高の政治手腕を見せ付けられたアンジェラは、
窮地をも良薬へ変える鮮やかな逆襲劇に深いショックを受けていた。






(………完敗よ。今のあたしにママを、【アルテナ】を倒す事は出来やしないわ………)






これまでの旅を通して【アルテナ】の一極支配に決して小さくない疑問を抱いていた事もあり、
少しでも綻びがあれば異議を申し立てるつもりでいた。
ところがどうだ。打てばそれ以上の弁論で逆襲し、完膚なきまでに政敵を撃破するヴァルダへ
確たる政治基盤も手腕も持たない自分の異論が通じるとは到底思えない。
そればかりか、打ちひしがれたロキの二の轍を踏み、【アルテナ】の肥やしに換えられてしまうだろう。
厳しくも優しい“母”としての顔しか知らずにいたアンジェラが
初めて目の当たりにした“政治家”ヴァルダの姿は、
まさしくモラルリーダーを冠するに相応しい、比翼許さぬカリスマ性と威厳に満ちていた。


「貴方の理想とは、視野狭窄な思い込みを背景とした、
 極めて自己中心的かつ自己満足な傲慢ッ!!」
「………………………」
「手前勝手な正義感しか振りかざせない幼稚な人間に
 救世を口にする資格など無いのですッ!!」





(………でも………)






でも、揺ぎ無い政治力を持つ【アルテナ】の威光を逆手に取れる事が出来れば、どうなる?
今の自分ではどう足掻いても不可能だが、これから先、【王女】という立場と権力を行使し、
各界の有識者と連携を組んで【アルテナ】の体制を内部から塗り替えていけば、どうなる?
それは、一極支配を覆す【革命】に繋がるのでは無いだろうか。
ブライアンやヴィクターが見た【夢】の実現では無いだろうか。


「―――――――――あッ!!」
「ど、どうしたと言うの、突然?」
「………あ? あッ! え、えっと、ごめん、おかしな事思いついたら、
 無意識でつい立ち上がっちゃった………」
「………怖いくらい挙動不審よ。気をつけなさい」


ヴァルダの圧倒的な権力を観察するうちに自然と閃いた一つの仮説に
アンジェラが思わず立ち上がってしまったのと時同じくして、
とうとう【サミット】は最終局面へと差し掛かった。


「素晴らしいッ!! さすがはヴァルダ王女ッ!!
 私はいささか思い違いをしていたようだッ!!
 貴女こそ【イシュタリアス】を統べるに相応しいッ!!」
「なッ…、け、卿は自分が何を喋っているか、解っているのか………!?」
「黙れ、【社会】への反逆者めッ!! 貴様の詭弁など最早誰も耳を貸さぬわッ!!」
「な…に…ッ!?」


覆しがたい難局に苦渋していたナイトハルトが、突然掌を返したように
さんざん糾弾していたヴァルダを持ち上げ始めた。
そればかりか、あまりの変わり身の早さに愕然と呆けていたロキを突き飛ばし、
自ら重要参考人として召喚した彼を反逆者と詰り、罵る。


「どういうつもりだ…!? 【アルテナ】を潰すためには俺の力が必要だったのでは無いのか!?
 俺は卿の呼びかけに応じて【サミット】へ参加を………」
「勘違いも甚だしいわッ!! 全ては反逆者である貴様を燻りだすための策ッ!!
 まんまと引っかかってくれたものよ、ロキ・ザファータキエッ!!」
「貴…様………俺を謀ったかぁぁぁ………ッ!!」


ヴァルダの土台を揺さぶるために用意したロキが最悪の形で陥落した今、
彼を召喚した自分が逆賊として糾弾されるのは明白だ。
とすればナイトハルトが取るべき選択肢はただ一つ。
ロキを引きずり出した【アルテナ】の尖兵に自らの立場を摩り替え、逆賊認定を免れる他無い。
政治的判断によって弄ばれたロキは、己の置かれた状況を悟り、歯軋りで煮えたぎる怒りを噛み殺した。


「ヴァルダ王女ッ!! 今ここで逆賊討伐の勅命を賜りたく存じますッ!!
 【社会悪】、ロキ・ザファータキエ誅滅の任務、何卒我が【ローザリア】にッ!!」
「………いいでしょう。
 【ローザリア】代表、ナイトハルト皇太子に
 逆賊、ロキ・ザファータキエの追討を命じます」
「クッ………! どこまで腐れた奸賊輩どもがぁッ!!」


【理想】を踏みにじられたばかりか、逆賊として【社会悪】に認定されたロキは逆上し、
為政者たちを殲滅せんと腰に提げた【ディーサイド】へ手をかけた。


「………【機関停止(フリーズ)】………」


―――が、激しい刃の回転音は、誰かの唱えた魔法の呪文を合図にピタリと止み、
【ディーサイド】は単なる鉄の塊と化してしまった。
同時にロキ自身の身体も鉛のように重く固まり、極端に動きが鈍くなる。
無理やりに動こうとすれば関節からギシギシと痛切な悲鳴が上がった。


「クッ…、なッ、なんだッ!? こ、これは一体………ッ!?」
「どうやらこれで確定のようですね」


満足に動く事さえ適わなくなってしまった身体を嘲笑するような声が響く。
引きずるように振り向いた声の先では、ヒースとシャルロットの二人が腕組みして
無様なロキを睥睨していた。


「ロキしゃん、あんたしゃん、【ふぉるせな】のたたかいで【エランヴィタール】をくらったとき、
 いきなりうごきがよわまったでちよね。そとみにはほとんどだめーじがないのに。
 それでぴんっときたんでちよ」
「【エランヴィタール】は対【マナ】をコンセプトに完成された決戦兵器。
 機関停止を引き起こすウィルス粒子【グレムリンパルス】の刃が形を成す光剣です。
 ダメージこそあれど普通の肉体を持った人間の行動を制限する機能は持たない」
「………………………」
「それなのに貴方は悶え苦しんだ。
 ………ああ、この男は肉体を【マナ】へ置換しているのだな、とね」
「A/VM666-XXX…通称【シュワルツリッター】。
 それがあんたしゃんのにくたいのしょうたいでちねっ!」
「………………………」


【キマイラホール】の戦いの折、デュランたちの決死の猛攻にさらされても傷一つ付けられなかった
難攻不落を誇る黒耀の甲冑は、その身を護る絶対の防具ではなく、
彼自身の肉体そのものだ、とヒースとシャルロットは推理し、【フォルセナ】襲撃時から現状を経て、
推理は確信に至った。
【シュワルツリッター】。【マナ】の動力をそのまま爆発的な戦闘力へ転換できる機械体こそ、
【黒耀の騎士】ロキ・ザファータキエの正体だった。


「全く持って人が悪いですね、貴方も。
 一時とはいえ交誼を結んだ共同研究者に最も大事な事を話して下さらないなんてねぇ」
「いッ、今の一声は………!!」
「無論、機関停止命令ですよ。貴方が【マナ】の魔人であると把握できた以上、
 わざわざ【エランヴィタール】をぶつけるまでもありませんから」
「だ、だがッ、【マナ】はッ、個別に登録されたDNA配列を持つ人間以外の命令を
 受け付けぬではないかッ!! それが、なぜ―――」


閃く物があったロキは、そこで言葉を区切り、自分と同様に【ローザリア】の補助参加人として
招かれた息子の姿を探した。


「―――そうかッ、デュランが………ッ!!」
「ご名答。同一のDNA配列を有する人間であれば本人以外にも存在します。
 ………貴方が復古させた【マナ】のDNA認証システムがもう少し上等であったなら、
 この作戦自体がオジャンになるところでしたがね」
「ひゃっひゃっひゃっ!! てめぇのいたらなさをくやむんでちね、このさんぴんやろうがっ!!」
「…あぁ、貴方の薄っぺらい希望を根こそぐなら、デュラン君の【エランヴィタール】には
 パーフェクトなDNA認証システムを組み込んであります。
 貴方の機関停止命令には従いませんので悪しからず♪」
「小癪…なァ………ッ!!」
「ゴチャゴチャとうるせぇんだよ、さっきから………」


ようやく探し当てたデュランの表情は冥府の使者のように昏く、
全身からは【フォルセナ】での一戦以上の殺気が噴き出していた。
両手で構えた【エランヴィタール】から放射された碧の烈光が顔の輪郭線を照らすと、
氷の如き不気味な修羅が浮かび上がる。


「てめぇの肉体が【マナ】だろうが、DNAたら言うモンが俺と同一だろうが、
 そんなもん知ったこっちゃねぇ。
 ………俺はてめぇを殺れりゃそれで満足なんだよ」


単独での【ニルヴァーナ・スクリプト】(ランプ花の森で使用した【マナ】のテレポート技術だ)が
【シュワルツリッター】には機能として備わっており、緊急回避は万全と言える…筈だが、
機関停止状態に陥ったこの身では、テレポート先の位置を演算し、実際に離脱するまで
多大なロスタイムが必要となるだろう。
無敵の肉体が一転して窮地の火種となってしまった形だ。


「デュラン・パラッシュッ!! さぁ、【正義】の勅命のもと、逆賊を討ち果たすのだッ!!」


見慣れぬ【マナ】の光剣にうろたえる首脳陣の中でもナイトハルトだけは一人高く昂ぶり、
【フォルセナ】では果たせなかった斬首へ踏み込もうとするデュランの背中を
逆賊討伐の勅命で後押しする。
為政者の煽り文句をきつい一瞥で黙らせたデュランは、【エランヴィタール】の切っ先を
ロキの首筋を狙って水平に構えた。


「………ヒースからこいつの戦闘術を教わったからな。
 今度は前回のように取り逃がしたりしねぇ」
「………クッ、デュラン………ッ!」
「あばよ、【黒耀の騎士】。………逆賊としてくたばりな」
「―――逆賊の烙印は、【アルテナ】にこそ刻むものだ―――ッ!!」
「―――――――――ッ!!??」


【プレーンランチャー】と呼称される【エランヴィタール】独自の攻撃技が
ロキの首を弾き飛ばす寸前、【サミット】会場の中央で凄まじい光爆が巻き起こり、
世界の全てを白い闇へと塗り潰していった。






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