「【マナ】が母体、【レインツリー】とは単に機械製造を行うプラントに非ず。
 無から有を生み出せし造物主の懐である。
 創造の一切は、あらゆる事象がバイナリィ(二進数)で構築されるこの領域にて行われる。
 すわなちここ第65536階層とは、真世界創造の開闢地………ッ!!
 貴様らは【偽り】の先駆者を代表し、古き世界が新たな世界へ塗り替えられる様を
 見届ける資格を得たのだよ」


―――【セワンナク】の決戦が終着した頃になっても、
黒耀の甲冑を纏うロキの演説は、なおも朗々と続いていた。


「………一つ面白い事を教えてやろう。
 貴様らが不思議そうに見蕩れるこの数字の連続は、現実世界における物質なのだ。
 正確にはマテリアライズ(物質化)される前の素材と言うべきか。
 製造する【マナ】の指示を下すと、【レインツリー】の内部ではそれに応じた1と2の組み合わせが発生する。
 物質を構築する情報だ。世界に存在する全ての物質、全ての事象は、
 規模と程度の差こそあれ【情報】によって構築されている。
 組成、素材、記憶、動作………定義付けの難しい精神まで含めて、全て【情報】だな。
 つまり、理論的には、【情報】さえ正確に成立させられれば、具材を用意せずとも
 物質を“発生”させられるというわけだ。………雲を掴むような理論だがね。
 そもそもデータ上の情報を物質化する事など常識で考えれば可能であるはずもない。
 ―――その途方も無い理論を現実のモノとして完成させたのが、
 【旧人類(ルーインドサピエンス)】の最高傑作、【レインツリー】なのだ………!!」


相変わらず自己満足でしかない演説を際限なく放言するロキに対して、
いつもならデュランあたりから激しい糾弾と叱声が飛ぶところなのだが、
この場に限っては誰の制止も挙がらない。


「私自ら引導を渡してやろうと考え、今でこそ貴様らは物質化していられるが、
 全ての物質が数字で記号化されるこの【情報の海】では、本来なら―――」
「―――要するに、何でも作れる万能マシーンなんだろ!?
 いちいち回りくどい説明なんかすんじゃねぇッ!! こっちゃそれどこじゃねぇんだよッ!!」


止め処なく続きそうだったロキの演説は、我慢の限界が暴発したデュランの怒号に遮られ、
ようやく一旦の打ち切りを迎えた。
恍惚と喋り続けていたロキとしては、実に不愉快な思いだろうが、誰も聴いていない以上、
続けられても傍迷惑なだけである。


「貴様らが【希望】とやらへ頼る足がかりを耳打ちしてやろうと言うのに………。
 堪え性が無ければ拾える物も拾えなくなると、終幕になって後悔するのは愚か者のする事だ。
 自重しろ、デュラン」
「聴いてるヒマがありゃあ拝聴してやったんだけど―――なッ!!」


確かに、現状のデュランたちにロキのご高説へ聞き入っていられるだけの余裕は欠片も無い。
ナノマシン群体が生成した擬似生命は、ニンゲンの形を―――それもデュランたちが心の深奥へ
トラウマとして封印している存在を形作って具現化し、覆いかぶさるように強襲してきた。


「―――さて、この舞踏会、貴様らがどれほど保つものか、
 高座にて傍観をさせてもらおうではないか」


有象無象のモンスターであれば、どれだけの数が束になろうと臆する事は無いのだが、
追想するのも躊躇される恐ろしいトラウマが相手となると話は違う。
忌むべきトラウマは、千億の怪物を屠ってきた勇敢な心さえもへし折ってしまう責め苦だった。


「もう一度、俺に斬り殺されに戻ってきやがったのかよ………ッ!!」
「クッ…、こんな形で、【マナ】を、悪用するのか、あなたは…ッ!!」
「死人に対する冒涜やぞコラァッ!!
 弔った命に鞭打つなんて、なんちゅう神経しとんじゃアホンダラァッ!!」


デュランの目の前には生まれて初めて斬った男が、
ケヴィンとカールの前には過去に自分のミスで殉職させてしまった同僚が、
彼岸へ渡ったあの日のままの姿で、血塗れた姿のままで立ちはだかる。


「なんで、どうちて―――どうして、貴方が私に銃口を向けるというのか?
 私の命を奪おうとするのか………?」
「し、しっかりしなさい、シャルッ!! こいつらはみんな偽者なんだからっ!!
 ………こうもそっくりじゃやり返すのだって戸惑っちゃうけどさ………ッ!」
「そっくりも何も、遺伝子上は同一人物なのだ。そう無碍に扱うものではあるまい?」
「なおの事、悪趣味ねッ!! かつての英雄が、今じゃスケベオヤジに大転落ってワケッ!?」


立ちはだかるのはトラウマばかりではない。
大切な存在として胸に秘めた人間が自分を取り殺そうと襲ってくるのだ。
自分のために命を犠牲にしてくれた義父のベルガーを前にシャルロットは立ちすくみ、
今も深い眠りに就いているはずのブライアンの紅蓮に再び襲撃されたアンジェラは反撃もままならず、
ジワジワと戦意が削ぎ落とされていく。


「うっわぁーッ!! ジェシカ、カンベンッ!!」


再びの邂逅を恐怖する存在、感謝や親愛を抱く存在―――心の一番奥底に隠したモノが
悪夢の牙となって迫り来る恐怖は筆舌に尽くし難く、
約一名に至っては羅刹の形相で追いすがる少女…ジェシカから鼻水を垂れ流しながら逃げ惑っているくらいだ。


「貴様らの記憶が止めている【情報】をベースにクローニングした人造人間―――
 ―――おっと、解りやすく説明しなくてはならなかったのだな。
 ………強いて言うなら、過去から復讐に現れた亡者、と言ったところだ」
「懇切丁寧でありがたいけど、それ、地上最悪のイヤミだからね、オヤジさん!!
 気を付けないとまた息子さんにどやされますよッ?」
「そんなヤツは放っとけ、ホークッ!! 今は目の前の敵だけに集中するんだッ!!」
「集中しろたって………どぅわッ!! ジェ、ジェシカッ、ウェスタンラリアットはやめろぉッ!!」


若かりし頃の【黄金の騎士】が兵権を取るクローンたちは
かつて過去へ遺してきたトラウマと共に襲い掛かり、デュランたちの精神を容赦なく攻め立てる。
対峙する事にも怯んでしまうような存在が相手では反撃の手さえ躊躇してしまい、
優勢であったはずの火勢から一転、デュランたちは段々と追い詰められていった。


「………リース、エリオット、私の可愛い子供たち………」


アークウィンド姉弟の戦いは、他の者よりも更に過酷なものとなっていた。
エリオットにとっては顔も見た事がなく、リースにとっては焦がれて仕方の無かった存在が
目の前で甘やかな誘惑の手のひらを差し伸べ、二人は戸惑いに混乱した。


「………お母様」
「あなたが、母様………なの、ボクの………?」


―――ミネルバ・アークウィンド。
【ローラント】の秘境始まって以来の天賦を持つ【レイライネス(精霊戦士)】であり、
10年前の造反の折に命を落としたジョスターと二人三脚でアークウィンド家を守り立てた二人の母が
「こっちへおいで」とリースとエリオットへ手を差し伸べてきたのだ。
自分を産むのと同時に落命したと教えられてきたエリオットは、
突然の母とのめぐり逢いにどうすれば良いのか解らず、尻餅を付いたまま、頭を振るしかできずにいる。


「………リース、エリオット………。
 私がいないばかりに、これまであなたたちには辛い思いばかりさせてしまいましたね。
 でも、もう何も心配する事はありません。これからはずっと一緒です。
 さぁ、私の胸の中へいらっしゃい、リース、エリオット。私と共に行きましょう。
 ―――お父様も、みんなも、待っているのですよ」


強い意思で戦ってきたリースも、この卑劣極まる精神攻撃には篭絡寸前だった。
幼い頃に別れたきり、声も聴けず、温もりに包まれる事もできなかった実の母が
招きかける優しい言葉を、どうして拒絶する事が出来るだろうか。
ミネルバはとうの昔に亡くなっており、これは明らかな非現実だ。
しかし、温かな母の声はそれすらも忘れさせる媚薬であり、
リースは魅了されたように招く手の方へふらふらと歩み寄っていってしまう。


「おいッ! リースッ!! バカッ、何血迷ってんだッ!!
 そいつは偽者なんだぞッ!! 誘いに乗るんじゃねぇッ!!」
「同じ事を何度も繰り返させるな、デュラン。
 あれは同一の遺伝子から組み上げられたもう一人の“本物”であって―――」
「うるせぇッ!! ………リースッ!! 気ィしっかり持ちやがれッ、リースッ!!!!」


いくら慈愛の言葉を投げかけてきても、目の前のミネルバは本当の母親ではない、
ロキが差し向けたクローン兵なのだ。
その胸元へ飛び込むという事は、すなわち【死】へ身を投じる事に他ならない。
両手を広げて待ち構えるミネルバ(のクローン)との距離はあと数歩。
迫り来る最悪の事態へ焦るデュランの思いも空しく、
静止の絶叫は虚ろな瞳のリースには届いてはくれなかった。






(畜生ッ!! 上のヤツらは何をモタついてんだッ!!
 あいつらがなんとかしてくれりゃ、この生き地獄も―――………ッ!!)






「システムジャックに期待しているのであれば無駄だぞ、デュラン」
「なッ………!?」


追い込まれた窮地も【セワンナク】へ突入したランディたちが
マザーコンピューターをシステムジャックしてさえくれれば切り抜けられる。
それまでの辛抱だと踏んでいたデュランの期待は、周到に用意されたロキの善後策によって
無残に打ち砕かれた。


「メインコンピューターは既にこの第65536階層の裡へ移し変えてあるのだからな。
 外部から如何に接触を試みようと尻尾を掴む事すら出来ぬ」
「それじゃ【エデン】は…、ヒースの作戦は………」
「この数字の大海へ直接踏み込んでくるなら話は別だがな。
 ………それ以外に【聖域(アジール)】を止める術などありはしないッ!!」
「………………………」
「最初に宣言したであろう? 卑怯打ちへの対策は万全であると、な。
 ゲイトウェイアーチの狡猾を考えれば、メインコンピューターを狙ってくる事は十分に想定できた。
 相手の出方さえ読み取れれば、いくらでも手の内ようがあるというものよ」
「………………………」


【聖域(アジール)】を掌握するロキとの最終決戦で勝利するには、
なにはなくともメインコンピューターを征圧し、システムの一切をジャックする必要があった。
でなければ先ほど【アルジェントレインボゥ】を打ち込んだ時のように、
いくら決定打を叩き込もうと【ケツァルコァトル】を使用して無限に再生・復元されてしまうのは明白だ。
ロキを打ち破る唯一にして絶対の条件が、【聖域(アジール)】のシステムジャックだった。

しかし、事前に【情報の海】へメインコンピューターを移し変えられ、
外部からの接触をシャットダウンされてしまった以上は手も足も出ない。



「―――そうそう、どこにも無いと貴様らが探し回っていた【神獣】もな、
 この【情報の海】を泳いでいるのだよ。
 発射の直前まで核融合の循環率を増幅しようと考えてな、今もこの大海にて強化されている真っ最中だ。
 極大質量の核ミサイルは、間違いなく【イシュタリアス】を洗い流すだろう」
「………………………」
「最早言葉も無いか。………だが、絶望に打ちひしがれる事は無いのだぞ。
 今、目の当たりにしているように、肉体も精神も、全てが【ケツァルコァトル】で復元させられる。
 一度は消失の光に包まれるが、次の瞬間には生まれ変わった姿で生まれ変わった世界を生きられるのだ。
 滅びではない。これは新生なのだよ、デュラン………ッ!!」


心を鬼にして目の前のクローンを薙ぎ払ったというのに、
覚悟を決めて同じ人間をもう一度手にかけたというのに、
【未来】へ続く路は無慈悲に踏み壊され、傲慢な滅びへ講ずる万策も尽き果てた。
【マナ】の脅威を抑えられなかった以上、齷齪もがいてみても、万に一つも勝ち目は無い。






(………ここまで来て諦めきれるかよッ!!
 なんとか、なんとかして起死回生を狙えねぇもんか………ッ!!)






「けれど、それは【自分】ではないもう一人自分………!
 そのような【偽り】を、どうして受け入れる事ができるというのですか―――ッ!!」


勝機を潰されたショックに力を失い、気圧されていく仲間の劣勢を見て取ったデュランが
どうにか戦局を覆す一手を弾き出そうと瞑目した瞬間、凛とした烈風が【情報の海】を吹き抜けた。


「リース………」


リースが、誘惑に屈したかに見えたリースが、勇ましく銀槍【ピナカ】を振るい、
【シャフト】の魔法でもってミネルバの甘言を跳ね飛ばしていた。
その瞳には【未来】を貫徹するだけの力が宿っており、先ほどまでの虚ろな鈍色は見る影も無い。


「リース!? あ、あなたは私の、母の命を奪おうと言うのですか!?」
「笑わせないでくださいっ!! あなたは母様なんかじゃないっ!!
 私の知っている母は、ミネルバ・アークウィンドは凛とした女性でしたっ!!
 甘言で篭絡を誘うなどという手段を用いるような人ではありませんっ!!
 姿かたちを真似れば騙せると侮られては屈辱ですねっ!
「………………………」
「亡き母の名を騙るという許しがたき侮辱、その身でもって懺悔しなさいっ!!」
「――――――くッ………!!」


柔らかなドレスから【レイライネス(精霊戦士)】の戦装束へ姿を変えたミネルバは
戦う意思を取り戻したリースの【ピナカ】と己のロングスピアを激しく衝き合わせた。
リースが素早いチャージ(突撃)を繰り出せば、ミネルバは半身を逸らして回避し、反撃に槍の柄を振り下ろす。
…が、柄が振り下ろされるよりも更に早い速度で反応するリース相手には空を切って地面を打つばかり。
背後へ回るや否やリースが発動させた【ペネトレイト】の魔法で逆に痛手を負う結果となってしまった。


「【撃斬】………だあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
「エリオット………ッ!!」


裂帛の気合いと共に打ち込まれた縦一文字の剣閃を篭手で受け止めると、
防御からの反撃を警戒したエリオットが、すぐさま後ろへ飛びのいていた。


「親不孝と罵りたきゃ思う存分罵りなよッ!! 悪いけど、ボクの母さんはライザ一人なんだッ!!
 今更しゃしゃり出てきて母親ヅラすんなって感じ?」
「エリオットっ!」
「………遺された子供だって受け止めてる【死】をほじくり返すんじゃねぇって話だッ!!」


同一の遺伝子を持つ“もう一人の本物”………宿りし魂以外は全く同じ母親と
戦う覚悟が辛苦を伴わないわけがない。
リースも、エリオットも、口では強い言葉を発しながらも、両目には涙をいっぱいに堪えて剣戟を振るっていた。
過去から現れた亡者の屍を、もう一度踏み越えていく決意を持ち、血で血を洗う戦いへ挑んでいた。


「………ちぇっ、あんなもんみせられたら、へこたれてなんかいられないじゃないでちか………!
 しょ〜がないでちねぇ。ちょいとほんきじるしでやってみるでちか。
 ちょうどいいから、せいぜんにははらのそこにかくしといたうっぷんほんね、
 ぜんぶここでぶちこませてもらうでちっ!!」
「ガキんちょが一丁前にハラ決めてんだ…! 俺たちが情けないカッコ見せるわけにゃいかねぇッ!!
 ………本音言えば死ぬほど怖いし辛いけど、だからって後ろに下がれるもんかッ!!」
「オイラの、ミスで、死なせてしまったんだ、それは、忘れないし、一生、心に、刻んでく。
 でも、後悔に、足を止めちゃ、ダメなんだよな…! 同じ失敗、繰り返さないために、
 【死】を、弔うッ!! 戦う事でしか、弔えないのなら、オイラは、鬼になるッ!!」
「死ぬほど辛い自分のヘマぁ受け止めて、それでも生きてくんが【大人】っちゅうもんやッ!!
 それをネチネチジグジグ引っ張り出そうなんざ、ホンマに救えんやっちゃでッ!!
 そないみみっちい器で大義貫き通す吹くやなんて、自惚れんのも大概にしとけやッ!!」
「ホントのアイツの炎は、もっともっとずっと熱かったわッ!!
 魂が宿ってるからよッ!! 無茶苦茶な理想だけど、信念のあったアイツに比べたら、
 魂のないあんたの炎は一息で吹き消せるほど弱っちいわねッ!! 焚き火なんかでアタシを止めれると思うなッ!!」


クローンとは言えミネルバを、実母を討ち果たすリースとエリオットの戦いは悲壮というより他は無いが、
その凄絶な奮起は、一度は崩れ落ちた仲間たちに再び立ち上がる気力を与え、屍を越える覚悟をもたらした。


「てめぇこそ何度も繰り返させんなよな…!!
 古ぼけた【過去】に俺たちが、【未来】が止められると思うんじゃねぇッ!!」


全ては【未来】の為に。【過去】と恐怖を乗り越えた先にある【希望】の為に。
【アレイスター】が、【エノラ=ゲイ】が、体術が、爪牙が、【シークレットギア】が、
歩みへ絡み付いては離れずにいた悪夢を引き裂いていく。
身を切って零れ落ちる涙が雨を降らせる中、デュランも最強の二刀で【黄金の騎士】を斬り払い、
精神の深奥より這い出た亡者の群れはここに費えた。


「………お前、堕とされたフリしてやがったな?」
「出方を見極めなければ勝てる相手とは思えませんでしたし。
 ………必死になって私の名前を呼んでくれるデュランが可愛かったので、
 それをちょっと長く観ていたかったというのもありますけど………」
「おい、今なんかボソッとフザケた事ぬかさなかったか、お前」
「気のせいですよ、気のせい」
「ウソつけ、コノヤロッ!! 人がどんだけ心配したと思って………」
「うん、師匠ってば、すっごく、リースのこと、心配してた。
 オイラも、ちゃんと、聴いてたよ」
「な…、バ…、あ、改めて言う事じゃねぇだろ、そういうのはッ!!」
「え? そ、そうなの? オイラ、また、失敗、しちゃった?
 ………? というか、師匠、どうしたの、顔、真っ赤」
「こ、こりゃ、その、なんだぁ、アレだ、流血だ、流血。
 頭割られてドクドクッと血ィ噴き出してだなぁ………」
「無理あり過ぎっつーか、どんな誤魔化し方だ、そりゃ………。
 素直にリースが心配で心配で仕方ありませんでしたって認めりゃいいじゃん」
「ひゃっひゃっひゃ〜、さすがのデュランしゃんも、
 ケヴィンしゃんからきらーぱすがかっとんでくるとはおもってなかったようでちねぇ。
 ずぼしつかれてかおがろぶすたーみたいでちよ、しおゆでされた」
「いやッ! 甘いぜ、シャル!! 塩茹でロブスターは姉様も一緒だッ!!
 よっぽど嬉しかったのか、思いっきり半笑いですゼッ!!」
「げ、元気いっぱいに何を言っているんですか、あなたはっ!!
 い、今はそんな話をしてる場合では………っ」
「あらら♪ からかったつもりがとんでもないカウンター貰っちゃったみたいね。
 自分で振ったネタは、最後まで責任持って処理しましょ〜ね、リース♪」
「愛されとるっちゅうこっちゃで。そない黙りこくってまうコトもあらへんやん?
 胸張って熱愛宣言したれや♪」
「あ、あう………」


満身創痍、疲労困憊。心身ともにボロボロであると言うにも関わらず、
一行に胸で燃え盛る【希望】の灯火が弱まる事は無かった。
むしろ、どんどん強くなっている。戦えば戦うほど、【未来】へ近付けば近付くほど、
【希望】の炎は、高く、熱く、天を焦がすほどに強まっていく。


「………甘き【死】に抱かれていれば幸せに逝けたものを………。
 今更足掻こうとも、貴様らに勝機は無いのだぞ?
 いかに武力で圧倒できても、負わせた端から損壊は修復されていく。
 待ち受けるは無間地獄だとわかっていながら、なぜ、戦う? なぜ痛みに急ぐ?」


悠然と傍観を決め込んでいたロキだったが、狂乱の舞踏会によって精神を削ぎ取るつもりが
逆に【未来】への全身を加速させるという事態を招いた失策に余裕の微笑を掻き消した。
一旦は鞘に収めた【ディーサイド】を抜き、重厚な足取りで再び一同と対峙する。


「おいおい、人をマゾみたいに言わないでくれるかい、オヤジさん?
 俺たちゃ好き好んで痛い目見に来てるわけじゃないさ。
 【未来】へ飛んでくために痛みを乗り越えなけりゃならないから、こうして戦ってんだよッ!!」
「うん、オイラ、いっくらでも、足掻くよッ!! 痛くたって、辛くたって、
 歯、食いしばって、突っ込んでくッ!! 道が、そこに拓けてるなら、
 針の山だって、踏み越えて、行ってやるんだッ!!」
「確かに死んでまうんは甘っちょろいわな。辛い現実、叶わん夢に涙呑む必要もない。
 ………そう、死んだら全部終わりなんや。せやからワイらは生きるんやろがッ!!
 泥水すすっても、砂を食ろうても生きてく現実のがなぁ、
 死んで拝める極楽浄土よりずっとも痛くて、ずっとも楽しいんやッ!!」
「ぶちのめすたびにさいせいするってんなら、それいじょうのかいすうぶちのめすっ!!
 あんたしゃんこそ、あほほどはったおされるかくごはできてるんでちょうね?
 いたいこわいじゃもーすまさないでちよっ!!
 しゃるたちは、そーやって、はぁくいしばってここまできたんでちからねっ!!」
「武力をもって相手を斃す事だけが勝利への道ではありませんッ!!」
「俺たちが胸に燃やす【未来】、てめぇの心に刻み込んでやらぁッ!!
 手前ェのバカさ加減に詫びいれて、俺たちに道開けやがれッ!!」







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