「それではこれより【草薙カッツバルゲルズ】主催・【官軍】ぶっ飛ばしツアー、
 第49回打ち上げパーティーを始めまーすッ!!
 というわけで、全員杯を持ってきりーつッ!!」
「うるせぇ、マサルッ!! 黙って呑んでろッ!!」


―――【官軍】を蹴散らし、ロキをも打破した後に催された祝賀会は盛大…というよりも
凄絶を極めるモノとなった。
まず【三界同盟】との決戦直前にマサルが開いた酒盛りとは比較にならない程の人数が
会場として選ばれた【オアシス・オブ・ディーン】へ結集したところからして
大幅に規模が異なり、あっという間に甲板はスシ詰め状態。
しかも、砂の海に浮かぶ【オアシス・オブ・ディーン】では、どれだけハメを外しても誰にも咎められる事が無く、
その治外法権が酒宴のボルテージを加速度的に上げていった。
個性的な人間の坩堝と壊れたボルテージが融合すれば、そこに現れるのは怒涛の如き狂宴だ。


「ランディ、コノヤロ、またてめえはオレンジジュースなんか飲んでやがんのか、コラ」
「うわ、臭ッ!! デュランさん、呑み過ぎですよ〜」
「るせぇ、こいつめ、ガキの飲み物じゃなくて酒呑めよ、酒ぇ!
 おう、マサル、そこのビール瓶貸せ、ビール。あとピッチャー二つだ!
 【大人】の呑み方ってモンを教えてやるぜぇッ!」
「ちょ、ちょっと、勘弁してくださいよ!
 僕が下戸だって事、デュランさんも知ってるでしょ〜?」
「知ってるから教えてやるっつってんだよ!
 それともてめえ、兄貴分の盃を受けられねぇってのか、コラッ?」
「だからっていきなりピッチャーは無いでしょうが! 死んじゃいますってッ!!」
「おうおう、そ〜ゆ〜面白い事には俺も誘えってッ!!
 良かったな、ランディ! 優しいお兄さん二人が手取り足取り酒の味ってモンを教えてやっからよ!」
「さすがマサル、話がわかるじゃねぇかッ!! よーし、呑め、たんと呑めッ!!
 呑むまで帰さねぇぞ、コラッ!!」
「た、たぁすけてぇぇぇ〜………ッ!!」


祝勝の歓喜も深いのか、デュランの酔い方は尋常では無い。
以前に設けられた酒盛りでは、むしろシラフを保ってハメを外す仲間たちの抑えに回っていたというのに、
今日は身体の芯までアルコールで漬け込み、ちびちびとジュースを舐めていたランディへ、
マサルと二人がかりで絡み、「呑め、呑めッ!!」と強要した。殆ど体育会系のノリだ。


「………最近、ケヴィンが浮気してるようなんですが、どうすればいいでしょうか………?」
「そ〜ゆ〜ときは、ぎゃくにきょりをとってつれなくするのがみそなんでちよ。
 つめたくされてふあんになったところをじょうねつてきにきりかえしておとすがきちでちっ」
「でも、それって一種のギャンブルでしょ? 他人様にアドバイスを求めてる時点で、
 そんな高度なテクニックをこのコに求めるのはムリムリムリ!
 ココはやっぱプレゼント攻勢だね★ カレの浮気相手じゃ手も出せないようなブランド物を
 送りまくって従順なハートをアピールするんだよ★ これっきゃない!
 ていうか、恋に恋してるようなダメ男にはこれくらいしか打てる手立てが無いッ!!
 良いトコロのが少ないようなアレな男の相談受けるこっちの身にもなってくれってカンジっ!」
「しからばワシはワシで別な一手を案じてくれよう。
 よいか、姿見えぬ浮気相手へこちらの存在感を突きつける事こそ寛容なのじゃ。
 例えば、そうじゃな、カレのシャツへルージュを落としておくのも一つの手じゃ。
 それとペアのピアスも良い。二人の間には付け入るスキが無い事を知らしめてやれ。
 じゃが、ペアリングはいかんぞ。ピアスであれば付けている事を忘れて会いに行く可能性も高いが
 指環を外し忘れる者はそうはおらん。
 よいな、こちら側の存在を強調するアイテムを意図的にチラつかせてやるのじゃぞ」
「要するに愛だよ、愛ッ!! 愛さえあれば壁だろうが身分だろうが、性別だって乗り越えられるッ!!
 同好の士として、俺たちゃアンタさんを応援しやすぜッ!!」
「オウさッ!!!!」


かと思えば、別なテーブルでは、経験豊富なご意見番の先生方へ
ルガーが恋愛(?)相談をしている。
よほど進展のない現状に参っているのか、訴えかける表情は真剣そのものだ。


「なんかコレ、いいな、ケヴィン! 原始の開放感ってヤツ?
 健康的なくらいテンションが上がってくるんだけどッ!!」
「うん! オイラも、相当、気持ちいいッ!! みんなで、踊るの、楽しいよねッ!!」
「ハッハッハーッ!! 真の健康優良児ってのは、俺みたいなのを言うのさッ!!
 見よッ、この褐色の肉体美ッ!! 見よッ、水墨画でも再現できない風光明媚なフジヤマ―――」
「―――だからそれやめろっつってんだろッ!!」
「恥というものを弁えよ、痴れ者ッ!!」


そんなルガーの純な気持ちにちっとも気付かないケヴィンは、
ポポイと二人でお得意の【もののけ節】を踊っている。
もちろんフレイムカーンも一緒だ。邪魔な衣服を脱ぎ捨てた三人が踊り狂う様を皆が手を叩いて囃し立て、
そうした不埒な連中を腹に据えかねたアンジェラとイーグルが
爆炎と旋光の輪舞の即席コンビネーションでもって一舐めに仕置いた。


「ぶッ………ごッ…ぶはぁッ!? なッ、なんだ、これはッ!?」


幹事を買って出たマサルの発案で極東ならではの味である“スキヤキ”を
囲むパーティーとなった今回の打ち上げパーティーだが、
どうも邪眼の伯爵の口には合わなかったようだ。
小鉢によそった牛肉を噛み締めた瞬間、隣で呑んでいたブルーザーめがけて
咀嚼途中の物体を壮絶に吐き出してしまった


「………いや、おい、なんだこれはってのは俺の台詞だろ。
 どうしてご丁寧に丸ごと吐きかけてくるんだ………?」
「す、すまん…、だが、これは…、ぐぅッ…スキヤキとは、
 こんなにも、か、辛いものであったのか…ッ!?」
「辛いぃ?」


醤油ベースの香ばしい出汁には先ほどから舌鼓を打っているが、ブルーザーも、
衣服が汚れてしまった彼へタオルを手渡すヴィクターもスキヤキへ辛味を感じる事は皆無だ。


「…って、これ、なんですか、この匂いッ!? いや、匂いっていうか刺激臭ですよッ!!」
「小鉢に浮いているコレは、明らかに香辛料だな。匂いからして、キムチの素か」


人間と魔族では味覚が違うのかと訝るヴィクターが、伯爵が火を吹いた小鉢を手元に取り寄せて
鼻先で嗅いでみたところ、痛いくらいの刺激臭が垂れ込め、思わず咳き込んだ。
涙さえ滲んできた眼を凝らして見ると、なにやら出汁の中へいかにも辛そうな赤いカケラが
チラチラと浮いている。


「わ、私はそのようなモノをスープへ加えた覚えは無いぞッ!?
 誰がこんな悪戯を………」


独特な香りから市販されるキムチの素ではないかとのブルーザーの推察は大当たり。
キムチの素を使った覚えのない伯爵の向かい側で、エリオットが件の香辛料の瓶を振りながら
勝ち誇ったように嘲笑っていた。


「き、きき、貴様、いつの間に………ッ!?」
「へん、お前が話に夢中になってるスキを狙ってブチ込んでやったまでさ。
 鼻水垂らして咽た時のマヌケ面ったらありゃしないねぇ」
「お、おお、おのれぇッ!! 何のつもりだぁッ!?」
「何のつもりだぁ? 嫌いなヤツにイヤガラセすんのは普通でしょうが!!」
「くぬぅぅぅ〜………ッ!! 許せんッ!! 刀を抜けッ!!」
「あんだよ、やんのかよッ!?」
「やらいでかッ!!」


エリオットにしてみれば、ライザを挟んでの蟠りから中々打ち解けられない伯爵への
彼なりのスキンシップのつもりだったのだが、いささか過剰過ぎた為に
取っ組み合いの大喧嘩にまで発展してしまった。


「お、おい、待てよ、お前ら! せっかくの祝賀会で喧嘩なんてすんなよッ!」
「そうですよ! 無粋な真似をしては皆さんのお酒もマズくなってしまいますし!」
「黙らっしゃいッ!! 男児たるもの、売られた勝負は全て買わねばならぬのだッ!!」
「おーおーッ!! 言ってくれんじゃないのッ!!
 アンタとはいっぺんキチンと話つけてやろーと思ってたんだよなぁ〜。
 手加減抜きで一回ブッ飛ばしてやるよッ!!」
「ほざけッ!! フンドシで培ったパッション、貴様如きが児戯に破れるものではないわッ!!」


………とはいえ、憎しみを忘れて子供じみた取っ組み合いを興じられるようになったのは、
大成功と言えば大成功かも知れない。


「………ていうか、アンタ、どのツラ下げてこの船に乗り込めたわけ?
 その神経が信じられないわね」
「し、仕方無いだろう、伯爵とタカマガハラに無理矢理連れてこられたのだから。
 ………私とて一刻も早くお暇したいところなのだ…っ!」
「白々しいわねぇ………どうせまた悪さを働くつもりなんでしょうが」
「この期に及んでそのような気力など残っておらんっ!」
「どうだかねぇ〜………被害者の私に言わせれば、全然信用できないんですけど〜?」
「ぐッ………!」


エリオットと伯爵は鼻血まみれながらも打ち解けられたようだが、
こちらはそう容易く事が運びそうには無い。
酩酊して眼が座りきったジェシカの言葉の一つ一つが胸に突き刺さり、
「やはり来なければよかった」と美獣ことイザベラは深い溜息を吐いた。


「大体許せないのはその胸よ、胸! なんなの、私に対する挑戦? あてつけ!?
 全世界の女性を敵に回すその超胸囲を教えなさいっ!!」
「きょ、胸囲などとはしたない事を………あ、あぅ! な、なにをするッ!?」
「揉めば大きくなるのか! 揉みしだかれたら大きくなるのかぁッ!!」
「や…ん…も、揉まな…っ!!」


最初こそ過去の因縁を糾弾するかのような口ぶりだったジェシカは、
実は既に正体を無くしており、誰彼構わず絡んでいるのだ。
先ほども【黄金騎士団第7遊撃小隊】唯一の女性隊員へちょっかい出していたホークアイを
回転気味のパイルドライバーで沈めたばかりだった。


「………先ほどから見ていれば、何をしているのですか」
「た、太母………っ」
「太母って誰よ? この人はリースさんって言ってねぇ―――」
「………【三界同盟】の終焉を見ても、古い殻を脱却してもなお、
 私を【太母】と呼ぶのですか、貴女は?」
「………………………」
「………許せませんね、全く。ここまでの石頭にはお仕置きが必要です」
「―――は?」
「ジェシカさん、イザベラを羽交い絞めにしてください」
「合点承知の助っ!!」
「はぁ!? な、ま、待て…うあ、ま、ままま、待って! 何をするつもりッ!?」
「脱ぎなさい。というか、脱がしますっ」
「なッ!!??」
「リースさん、それナイスっ!! 最後まで吐かないつもりなら、直接計測してやろうじゃないの!」
「身も心も裸になってこそ打ち解けられるというものですっ。
 第一歩は裸のお付き合いから初めていただきますっ!
 そもそも貴女の旦那様とてフンドシのお付き合いから―――」
「ま、待って、裸の付き合いはまだ早いわっ! せめて交換日記から………っ!!」
「問答無用です。ジェシカさん、背中のファスナーをズリ下げちゃってください!
 私は主に下半身を担当しますのでっ!」
「ラジャっ!!」
「か、下半身はダメっ! 下半身はやめてっ!!」


容赦なくイザベラへ襲い掛かるジェシカの破廉恥は、
リースが加わった事によって更にエスカレートしていく。
ジェシカと同じくだいぶ酔いの回っているリースは、普段の彼女からは想像もできないくらいアグレッシブで、
これ以上文章で表すとサーバーから警告が通達されそうな艶事でイザベラへ襲い掛かり、
手練手管を取り繕いながらも実はウブな彼女の花弁を≪検閲削除≫していった。


「今更カマトトぶったって仕方無いでしょ〜が! さー、脱ぎ脱ぎしましょうねェッ!!」
「か、カッちゃん!! そんなとこでバカやってないで助………」
「ちなみに私たちは脱ぎませんけどねっ♪」
「卑怯っていうか黒ぉっ!! 私だけ脱ぎ損っ!? ―――あッ!! だめっ、だめだめだめだめぇーっ!!!!」


酒乱二人に捕まった悲劇のいと哀れと言う他ないものの、
これも人間と魔族が共存し得る【新しき国】の石垣を築く試練と思えば耐えられる―――
―――わけもないイザベラであった。


「やれやれ…、なにをやっとんねん、あいつらは………」
「特にリースが大変な事になっているわね。まさか酒乱の気があるとは知らなかったわ。
 以前に催された懇親会では、乾杯の時にしか酒を口にしていなかったから
 気付かなかったけど………」
「普段大人しめの人ほどアルコールが入った時に壊れると言うじゃありませんか。
 リースさんはそれを忠実に再現してくれていますねぇ」


大騒ぎには加わらず、離れた席で傍観を決め込むカール・プリム・ヒースの三人は
ジェシカとタッグを組んでさんざんにイザベラを弄び、
飽きれば「汚されたぁ…」と凹む彼女を無情にも捨て置いて
今度はデュランへ枝垂れかかっていくリースの潜在的な魔性を肴に、苦笑混じりの杯を酌み交わしていた。


「デュランくんも心から楽しんでいるようですね。
 子供みたいにはしゃぐ彼の姿を初めてみましたよ」
「あら、意外ね。古い友人ではなかったのかしら?」
「付き合いが古いだけに、新しい一面というのは掘り出しにくいものなんですよ。
 ………いつの間にか、私の知らない顔をするようになりましたか」
「それ言うたら、ワイらも同じやで。ずっと一緒に旅してきたけんど、
 あんな風に明るく笑えるとは思わなんだ」
「いつも仏頂面でしたからね。
 笑う時も、なんだか、こう、笑わせられるのが悔しいみたいに口をへの字に曲げたりして」
「例外的にホークをコケにする時ぁ腹ぁ抱えて笑い転げ取ったけどな」
「………抱えていた葛藤を、彼なりに乗り越えた結果なのでしょうね、きっと」


一気呑みを強制してランディを潰してカラカラ笑っていたところに
リースの誘惑を受けたデュランは、周りから上がった冷やかしに少しだけ困ったように苦笑いした後、
むしろ見せ付けてやろうと彼女を胸の中へ掻き抱いて「俺の女は可愛いだろ!?」と自慢してみせた。
奥手な彼には珍しい大胆さは酒の勢いあってこその物だろうが、
悪ノリ全開で酒を呷るような、デュランがハメを外す姿は、今日まで誰も見たことが無い。


「毒気や無理が抜けたように見えますね」
「肩肘張らんと素直になったっちゅうこっちゃろ。
 ………嬉しいもんや。リーダーだ、クソオヤジだ、と気ィばっか張っとったアイツが
 ワイらに本当の意味で心開いてくれたんやからな」
「懐いてくれずにいた犬がコロンと転がってお腹を見せてくれるみたいな感じね」
「はっはははッ!! 実に的を射た例えですね。
 【狂牙】の異名が異名だけにカッチリ当てはまりますよ!」


酒を呑む時ですらギリギリで心を開いていなかったデュランが、
【仲間】たちと素直にバカ騒ぎを楽しむ姿は、見る者の心を無性に温かくさせた。


「でも、素直になれたんは、デュランだけやないな」
「ええ…、そうみたいね」


本来なら相容れない筈のエリオットと伯爵が、イザベラと因縁あるジェシカとリースが、
皆、互いを同じ【夢】を求める【仲間】として認め、心の底から親睦を深めている。
殺戮でしか解かり合えなかった人間も、魔族も、【女神】さえも同じ座で親しむこの光景を見ていると、
種族や思想の隔たりなど瑣末な物のように思えてくるから不思議だ。

―――いや、本当は、種族や思想の隔たりなど瑣末な物なのかもしれない。
【社会】と立場に邪魔をされて気付かないだけで、少し勇気を出して踏み込めば、
誰しも心と絆を結べるのかもしれない。


「【新しき国】とは言えば恰好良過ぎですね。【子供の国】へ改名すべきですよ」
「またお前さんはそうやって無粋な茶々を入れおってからに………」
「いいじゃない。私はヒースの提案に賛成よ。
 【社会】も立場も無く、誰もが無垢な時代へ戻れる世界にこそ、
 まことの自由と平等が生まれるのかもしれないわ」


【新しき国】は、夢幻の如きなどではなく、少なくともここ【オアシス・オブ・ディーン】には
燦々と【希望】の光を輝かせ、現実の物として存在していた。















「………よーし、【草薙カッツバルゲルズ】、集合ーッ!」


そんなこんなで七日七晩呑み明かし、死屍累々の惨状と化した【オアシス・オブ・ディーン】の一画へ
【草薙カッツバルゲルズ】のメンバーを集めたデュランは、二日酔いで重い頭を必死に働かせながら、
【仲間】たちを見渡してこう宣言した。


「いいか、お前ら。今日をもって一先ず【草薙カッツバルゲルズ】は解散する。
 今日からは、いいか、皆、それぞれの目指す道を突き進むんだ。
 今までみたいに助けれくれる【仲間】がいないからって、泣き言なんか言うんじゃねぇぞ。
 次に再会した時に、お互い胸張って自分の成果を自慢できるように死ぬ気で頑張り通せ!
 なんでもいい。なんでもいいから全力でやり遂げろッ!! 後ろを振り返るなッ!!
 頑張って頑張って、それでも挫けた時だけ助けを呼べッ!
 その時だけは、地の果てからも俺たち【仲間】が駆けつけるッ!!
 そうだッ!! 【草薙カッツバルゲルズ】は永遠に不滅―――あたッ…あたたたたた………」
「ああ、もう、二日酔いのくせして朝早くに大声出すからですよ………」


この時点ではまだ若草色のリボンで束ねられていない長い髪を振り乱しながら、
珍しく演説口調で訴えかけたデュランだったが、どうやらそこまでで限界だったらしく、
二日酔いの鈍痛に頭をやられ、よろめいたままひっくり返った。


「ていうか、こんな事わざわざ話す為に俺らの安眠邪魔しやがったのかよ、お前………」
「邪魔とか言うなよな、ヘタレッ!
 兄貴はなぁ、ボクらの為に昨夜から一睡もせずに、
 ずっとずっとこの演説の原稿を考えてたんだよ。多分」
「たぶんってあんたしゃん………、えらいおもいきったあばうとさでちね。
 うそでもいいからぜったいだってふぉろーしといてやったらどうでちか」
「エリオットの、言う通りだよ! 絶対、師匠、昨夜から、準備してたんだ!
 だから、今朝も、こんなに、具合悪そうで…。
 ありがとう、師匠! 師匠の、言葉、オイラたちの、胸に、燃え盛ってるよッ!」
「………いや、今のはどう考えてもアドリブやろ。
 特に準備も何にも無く召集するだけ召集しといて尤もらしい事喋っただけやないか」
「卒業式で校長先生が話しそうな内容だもんね。ケヴィンは騙せてもオイラは騙されないぜ!」
「ちょっと、コラ! どうして皆ひねくれた受け取り方をするんだよ!
 準備なんか必要ない! 今のはデュランさんの魂の叫びなんだッ!!」
「貴方も貴方でいつの時代の熱血路線よ。………うわ、涙まで流しちゃって………」
「そこでプリムまでドン引きしちゃったら、ランディのフォローに回る人がいなくなっちゃうでしょ!
 アンタの分までアタシが引いといたげるから、アンタだけは味方でいてやりなさいって!」
「いやでもこれはキショイよ! っていうかグロいね、そこまでイッちゃうとッ!!
 今のスッカスカな演説聴いて泣けるキミは純朴じゃなくてバカ認定だッ!
 さすが“THEダメんず”!! 霊感商法に騙されてもウソと気付かないタイプだね!
 う〜ん、ますますもって世界の未来を託すに首を捻らざるを得ないヒーローの惨誕だぁ〜★」
「ラ、ランディの兄ィ、そんな泣かないでくだせぇ。俺たちも兄ィと同じ気持ちでさぁ!」
「オウさッ!!」
「ハッハッハ〜ッ!! ま、デュランの言いたい事も、コイツらの言いたい事もよぅく解るさ。
 ………要は、今更こんな当たり前の事、確認するまでも無ぇってワケだッ!!」


マサルの言う通り、それはいちいち口に出して確認する必要の無い、当たり前の事だった。
【草薙カッツバルゲルズ】を結成し、苦楽を共にしてきた【仲間】たちの友情は
言葉でなく心で繋がっている。
誰にも断ち切れない心の絆を交えるのに、どうして言葉が要るのだろうか。


「どんなに離れても、どれだけ違う道を歩んでも、私たちは永遠に【仲間】です。
 この先もずっと【草薙カッツバルゲルズ】ですっ!」


照れくささもあってつい強気に撥ねつけてしまうけれど、
デュランが言葉にした想いは、ここに集った15人全員がそれぞれの胸に強く秘めている。


「これは解散じゃねぇぞ。【草薙カッツバルゲルズ】は終わったりしねぇ。
 いいな、今日の別れは、胸を張って再会する日までの【約束】なんだ」


揃いのバンダナを巻いたデュラン、ランディ、マサルが突き出した三つの拳へ十と二つの掌が重なり、
いつものように「応ッ!」の掛け声で改めて結束を確かめ合う。
胸に灯る熱き想いがある限り、【草薙カッツバルゲルズ】は永遠に終わらない。
今日の解散は、明日の再会を笑顔で迎える為の通過点なのだ。

砂の海の水平線へ滲む美しい朝焼けは、
彼らの前途へ無限の光明を示しているかのようだった―――――――――






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