ここまで振り返った時点では、多少の難こそあるけれど、順調に二人の仲は接近中〜★
………ってな印象。かの有名なフジヤマで例えるなら八合目くらい?
思わずときめく恋のてんぱいビート(意味不明)っぽくパラメータ化するなら、好感度50ちょい(最高値100)。
友達以上恋人未満って言葉がしっくりくる間柄にまで近しくなってきたけれど………


「お前の軽率な行動が、チーム全体に迷惑をかけたんだ。
 しおらしくしてねぇで、少しは謝るなり何なりしたらどうだ?
 黙りこくってりゃ許してくれるとでも、思ってんのか、ああッ?」


自由都市【マイア】に立ち寄った際、悪徳な人身売買を偶然目撃したリースが
仲間に何も告げずにその現場へと潜入し、忌むべき商法を止めようと単独で突っ込むという騒動が起きた。
誤解とすれ違いから一悶着になったけれど、駆けつけたデュランらの奮戦もあって
その場はなんとか収まった―――かに見えた時、事件は起きた。


「あの小僧は結局、ゴロツキ共に売りに出されて終わった。
 結果だけ見りゃ、お前が動こうが、動くまいが、何にも変わらなかったわけだ。
 だが実際はどうだ? 何の変化も無い結果への経過で、
 チーム全体にこれだけ迷惑がかかってる。
 ………なあ、おい、お前一人のためにこれだけダメージを負ってんだよ、俺たちは。
 これがどう言う意味か、わかってんのか?」
「ちょ…、さっきから聴いていれば、デュランッ!!
 アンタにはココロってもんが無いわけッ!?
 傷付いてるリースに向かって、どうしてそんなに残酷なコト、言えるわ―――」
「………見てみろ、アンジェラを。
 無謀なお前を止めて、落ち込むお前をなんとか慰めようと気を配って。
 一番お前を心配していたのはこいつだよ。
 今だって、お前一人の責任をなんとかフォローしようとしてた。
 …いいか、お前はな、そういうアンジェラの気持ちを踏みにじったんだよッ」
「………………………」
「ハッキリと言っておくぞ、今のお前は、最低の人間だ」
「………だったら…」
「あぁ?」
「…だったらどうしろって言うんですか、私にっ!」
「『だったらどうしろ』―――だとッ!?
 そんな台詞が出てくる時点でな、
 手前ェのした事、きちんと反省できてねぇ証拠なんだよッ!!」


自分の短慮で方々に迷惑をかけてしまった事で落ち込むリースを容赦なく叱責するデュランには
彼女を擁護するアンジェラたちも唖然呆然。
憎たらしい相手をここぞとばかりに攻撃するようなコト言われたんじゃ無理も無いけどさ、
この場合、どっちが正論なのかは、聞くまでないよね。


「随分とお気に入りなんだな、デュラン?
 ひょっとしてアレ? お前、リースにホの字なのか?」
「ンなんじゃねぇよ、バカ。
 ………何かのために命を張れるヤツが好きなだけだ」


でも、厳しい態度の裏側には、いつだってぶきっちょな優しさがあった。
リースをこれでもかってくらい叱り飛ばした後、ポツリと傭兵仲間にこぼした言葉にこそ
アイツの本心があったに違いない。

親しくなるにつれ、呼び方が他人行儀な『あんた』から『お前』へと変わったように、
リースに対するデュランの接し方も“依頼主”から【仲間】へ向けるものに変化していた。
それが時には厳しさに姿を変えてリースを責めたりもするけれど、
本当に相手を大事に思えばこそ、誤った道へ進ませない為に辛辣さを突きつけるんだよね。
泥を呑む覚悟だなんてよく言うけれど、そこまで誰かの為に真剣になれるデュランだから
リースも惹かれたんだろうし、皆が随いていったんだろうね、とミニ分析。


「…私はあの時、どうすればよかったのでしょうか…。
 どうすればデュランの望む答えを提示できたのでしょうか…」


“『だったらどうしろ』―――だとッ!? そんな台詞が出てくる時点でな、
手前ェのした事、きちんと反省できてねぇ証拠なんだよッ!!”―――
―――デュランから突きつけられた厳しい叱責を、
ムカついただけで終わらせず、きちんと反省できるのがリースのイイとこだね。
軽率な行動で仲間たちに迷惑かけた事を、随分長い時間悩んでいたみたい。


「多分、デュランはそんなの望んでないと思うわよ?」
「え…っ?」


そこで利いてくるのが雄闘雌………もとい、乙女の友情っ★


「さっき言ってたじゃない、『誰も女に従順さなんか求めてない』って。
 デュランはね、きっと、自分の予測する答えが
 リースから返ってこなかったのに怒ったんじゃなくて、
 リースがどうしていいのかわからないって、
 自分で悩む事、全部終わりにしちゃったから怒ったんだと思うわ」
「悩む事………」
「もちろん単独行動でチームを乱した事が許せないって気持ちもあったと思うけど、
 一番はそこじゃないかな。
 どんなに子供っぽい意見でも、どんなに自分勝手な意見でも、
 きちんとリースが自分なりの答えを返していたら、必ず受け止めてくれてたと思うわよ」
「………………………」
「なのにあの時、リースは自分で悩む事をやめて、デュランに答えを求めちゃったじゃない。
 『どうすればいい』って。だから本気で怒ったのよ、あいつ」
「………………………」
「…すぐになんて答えは出ないだろうけどさ、
 これから見つけていけばいいじゃん、答え。
 そしたらアイツ、きっと喜んでくれるよ?」
「………はい」


全部言葉にしちゃったら台無しって意見もチラホラだけど、
背中を押してくれる友達がいてくれるから、友達の優しさで気付く真実もあるんだから、
こういうお節介は、きっと、ずっと大事にしなくちゃいけないんだと思う。
少なくとも失意のどん底にいたリースには、アンジェラの気遣いは一番の援けになったハズ。
アンジェラが示唆してくれなきゃ、ぶきっちょなデュランの優しさにも気が付けなかったんだし。
自分の恋愛に関しちゃへたっぴぃなクセして、やる事がアジなんだから、アンジェラも★
壮年過ぎてもフラフラ独身なクセして、やたら人の間を取り持ちたがるお見合いおばさんと化す
アンジェラの未来予想図が目に浮かぶねっ!
いよッ!! 憎いね、ムダな耳年増★ このこの、貞操帯キュ〜ピット★(←誉め言葉のつもりらしい)


「そうでち、かれらこそ、【めがみ・いしゅたる】のこうほせい、
 【ふぇありー】にえらばれたでんせつのえいゆう、【ジェマのきし】でち」


―――さぁて皆さんお待ちかねぇッ!!
シャルロットの口上も滑らかに、ここでワタシたち【女神】と愉快な下僕(げぼく)たちが大・登・場★
発端はアイツらが【マナストーン】とか言う物騒なモノを求めて旅してる最中のコト。
なにやらコイツの知識に詳しいっていう賢者ドン・ペリから情報を引き出すべく
デュランたちが火山島に赴いた折、ちょうど先に現地入りしていたワタシたちと鉢合わせしたところから
汗臭い縁が始まっちゃったんだよね。


「ポポイ、一発【メテオフォールド】でキメてしまいなさいっ!」
「よしきた! そのGOサインを待ってたんだッ!!」


今にして思えば、忌まわしい過去の産物である【マナ】を調べてるってだけで
天敵扱いしたワタシも、攻撃命令を出したアナフィラキ―――やめた、めんどい。
もうこっから先は全員普通に名前で呼ぼう★ 便宜上実に合理的だし、みんなもその方が読みやすいっしょ★

―――こほん。では、改めまして。
今にして思えば、忌まわしい過去の産物である【マナ】を調べてるってだけで
天敵扱いしたワタシも、攻撃命令を出したプリムも相当大人気なかったなぁ。
気に食わなかったら速攻滅殺じゃ、どっちが過激派かわかんないもんね。
………とか善人ぶってみても、あの日っからちっとも変わらず『悪・即・滅』をブッチぎっちゃってるのが
ワタシたちらしいっていうか、なんていうかだけど。
ま、初志貫徹はカッコいいってコトでまるっと収めちゃおう★


「―――追いかけましょう、今すぐっ!!」
「………リースッ! お前の選択は、またチームを危険な遭わせるもんだ。
 そんなギャンブルみてぇな選択を俺は承知できねぇ」
「ギャンブルなんかじゃありません!
 私たちの力を結集すれば、あの人たちにも必ず勝てます!」
「仮に勝ったところでダメージがデカけりゃ意味も無ぇし、
 それだけ派手にドンパチやり合ってデカ騒ぎしたヤツらを、
 人間嫌いの賢者サマとやらが気分よく迎えてくれると思うか?
 ここはホークの言う通り、一旦引く方が上策だろうがッ!」


で、まるまるっと収められないのが人間の性。
問答無用の殲滅攻撃を仕掛けてきた【女神】と愉快な下僕たちに対して反撃を主張するリースと
無駄な戦いは避けるべきと反対するデュランが、ここに来て再び火花を散らす事になった。


「確かに危険な選択だと思います。
 でも、理由も聞かず、一方的な決め付けで相手を攻撃するような人たちを
 私は野放しにしてはおけません」
「そうやって先走って、また俺たちに迷惑をかけるのか?」
「…改めて言われるまでもありません、昨日の事件だってそうでした。
 自分勝手な先走りで皆さんに、
 …助けようとしたあの男の子にまで大変な迷惑をかけてしまいました。
 でも、私は私の正義にウソをつきたくありませんっ!
 【マナストーン】の情報よりも、今はあの人たちです!
 このままあの人たちを野放しにしておけば、きっとまた同じ過ちを繰り返す!
 その前に、戦って勝って、身勝手な決め付けで人を傷付ける愚かしさを修正しなくてはならない!
 だから………ッ!」
「………………………」
「だから、昨日の事と今日の事、全部、ごめんなさい!
 そして、私と共に戦ってくださいっ!」


そう言って仲間たちに頭を下げるリースを見て、デュランは何を思ったんだろうか。
生憎ワタシはその場にいなかったけど、アンジェラやシャルロットから聴いた話だと、
その時のデュランの表情(カオ)は、なんとも言えない面白い恰好だったとか。


「そいつが曲げられねぇお前の信念なら、
 俺たちは、少なくとも俺は最後まで付き合うぜ」


―――バツが悪そうに口元をヘの字に曲げた表情は、彼なりの『了承』のポーズらしい。
リースなりの結論を受け止めたデュランは、その後も意見の衝突を繰り返しはしたものの、
彼女を見捨てる事なく、宣言通り最後まで一緒に戦い続けた。
見上げた根性なのかな? それとも本当にホの字?
真相はまだまだ闇の真っ只中だけど、そうだねぇ、将来二人が結婚する日が訪れたら、
披露宴の席でもってゲロるまで追求してやろう★

………もっとも、最後まで付き合う決意表明だか何だか知ンないけど、
この直後にワタシらボコにされたんだから、コレ、思い出すのがほろ苦くないわけじゃないんだよねェ〜。


「―――【ローラント】を…、故郷を追われた私と、弟と、
 …保護者として逃避行へ同道してくれた一族の戦士、ライザ・ロンダンスの三人は、
 【アルテナ】の討手から逃れるために人里離れた森の中へロッジを建て、
 そこで十余年、生活をしてきました…」


そうして幾つもの諍いを乗り越えて、デュランたちを本当の【仲間】と思えたリースは、
【マナストーン】を手に入れて叶えたい願い…旅の目的を、悲しい想い出と共に語ってくれたんだ―――
―――とかなんとか、アンジェラが自慢してたのが思い出される。
火山島でワタシたちと別れた少し後のコトだ。


「最初の一年は、それが苦痛で仕方ありませんでした。
 故郷を失って、友達を奪われて、…家族を弑されて…、
 それなのに、どうしてこのような辺境で、弾ける恨みを抱いたまま、
 鬱屈と過ごさなければならないのか…」
「………………………」
「…ある時、覚えたての槍と【イーサネット】の秘術をもって復讐を…、
 【アルテナ】に加担する全ての者へ牙を突きたてようと、
 ライザにも、エリオット…弟にも内緒でロッジを抜け出そうとしました」
「復…讐」
「私たちのささやかな幸せを全て台無しにしておいて、
 英雄を気取って持て囃される【アルテナ】も、【フォルセナ】も、
 憎くて、恨めしくて………私は復讐の誓いを立てたのです。
 ………でも、結局、ライザに見つかってしまいました。
 彼女はこうなる事、私が暴走する事、全部わかっていたんです。
 そうして、こう言いました。
 『十年間で、私の持ち得る全ての技術を貴女に授けます。【アルテナ】をも滅ぼし得る力を。
 十年後、全ての力を身につけた時、その時にも貴女の心に復讐が渦巻くのなら、
 私は貴女の衝動を止めません。十年です。十年、貴女自身に猶予を与えてください』…と」
「おいおい、こわいコト、サラッと言うのな………」
「それからの十年間、私は無我夢中で鍛錬に励みました。
 全ては【アルテナ】とその属国…、いえ、それだけではありません。
 【ローラント】の危難を知りながら手を差し伸べる事すらしなかった全ての人間へ、
 ………【社会】の全てに復讐するために………」
「………………………」
「………十年が過ぎ、ライザの謂う【アルテナ】を滅ぼし得る秘術を修める頃には、
 私の心からは復讐という二文字は消失されていました。
 けれど間違えて欲しくないのは、時が怒りを忘れさせてくれたのでは無いということです」
「違う、の?」
「時間が癒してくれるほど、人の負の想念は安らかなものではありません。
 十年という時間の中で、いやという程、味わいました…。
 私の心から不条理への恨みを消し去ってくれたのは、
 ………皮肉にも不条理そのもの…【アルテナ】を問答無用で滅ぼし得る、
 不条理の暴威だったのです」
「………………………」
「不条理に人の夢も希望も、全て奪い取る力でもって復讐を成したところで、
 そこに残るのは、また、不条理。それでは恨み抱く【社会】と同じではないですか。
 復讐を成せば、最も憎む不条理が連鎖し、永劫に続いていく。…これで何の恨みが晴らされるでしょうか。
 ―――そこへ行き着いた時、私は自分の進むべき路を見出したのです」
「それが…“不条理を許さない戦士”…なのね?」
「はい」
「………………………」


リースを“戦士”たらしめる背景を挟んで、話は段々と核心へと迫っていく。


「そんな時、【あの者たち】が私たちの前に現れました。
 『失われた【ローラント】の秘術を受け継ぐ血族の力、我らが盟主の供物に相応しい』
 ………二人組みで現れたその者たちは、あっと言う間もなく、
 エリオットを連れ去っていきました」
「二人組みか…。
 それじゃ俺にリースちゃんを狙えと依頼したクライアントとは別人みたいだな…」
「―――ちょっと待て。それじゃ、リースの探し物は………」
「………そうです。
 私が“ヒトの手の届かぬ地”へ伸ばして掴みたい物とは、
 最後に残った家族である弟、エリオット・アークウィンドです。
 彼らの上層に或ると思われる【盟主】なる者は、
 おそらくエリオットに流れる、【アークウィンド】嫡子の魔力に目を付けたのでしょう。
 修練こそ積んでおらず、精霊を使役する術をエリオットは持ち合わせてはいませんでしたが、
 実際に魔力は膨大で、【ローラント】の秘術を悪用しようとする者たちには垂涎だったと思います。
 ………私は、目の前で最後の肉親を奪われたのです」
「………………………」
「ちょっと、待って、ライザさんは、どうしたの?
 リースに武術教えた人なら、そんなヤツら、一発、じゃないの?」
「………ケヴィンッ」
「………ちゃんと花を添えて、旅立つ報告は済ませてきたんだろうな?」
「………もちろんです。
 私にとって、姉であり、親友であり、母でもある、大切な人なのですから」


リースが胸の内に隠していた過去は、想像していた以上に重く、苛烈なもので、
誰もが言葉を失くして聞き入っていた。
故郷を焼き討ちされるという憂き目に遭いながらも静かに暮らしていた日々を引き裂かれ、
肉親をさらわれ、大事な恩人の命を奪われたか細い肩にどれくらいの悲しみを背負っているのだろう。


「―――これで私の昔話はおしまいです………」
「…サンキューな、リースちゃん。
 辛いコトだけど、全部話してくれて、嬉しかったよ」
「うん、ホークの言う通り。オイラ、やっぱりリースと旅してて、よかった!
 リースのために、これからも、力、発揮できる!」
「リース、あんたの強さ、しかと受け取ったで。今度はワシらが応える番やな」
「話してくれてホントに嬉しいけど、
 ま、なんにも言わなくたって、どこまで協力するつもりだったけどね。
 …これはデュランの受け売りなんだけど、ねぇ?」
「そ、そうなのですか、デュラン?」
「………るせぇな、忘れたよ、ンな昔の話」
「よくかんさつしておくでち、リースしゃん。
 じぶんのきもちもすなおにだせないしろうとやろうは、
 ひやかされるときまってあーゆーたいどをとるもんなんでち。
 はやいはなしがてれかくしでちね。やろうのたいどをみぬけるようになれば、
 リースしゃん、あんたしゃんもりっぱなあくじょのなかまいりでち」
「だッ、誰が照れるかッ!!!!」
「おおごえはりあげてうやむやにしようとするのは、てんけいてきなぱたーんでち。
 そんなやすいてでシャルがやりこめられるとでもおもったでちか、このうすらばかが」


けれど、もうリースは一人じゃない。一人ぼっちで悲しみを抱えなくてもいい。
辛い気持ちや悲愴な決意を共に背負ってくれる仲間がいてくれる、だから―――
―――なんて大仰に言うとカッコいいだけどねぇ、中身がやいのやいののバカ騒ぎってんじゃ、
いくらこっちで美化しようにも修正のしようが無いんだよ。
フォローに回るこっちの立場にもなって欲しいもんだね。

………もしかすっと、こんなバカ騒ぎに囲まれていたから、リースも悲しみをぶり返さなくて済んだのかも。
そこまで見越してホークアイやアンジェラが盛り上げた………って考えるのは美化し過ぎだね。
あの“チンカス”にそんな器量があるとはビックリするぐらい思えないしね★


「よーしッ、それじゃ『ホントの仲間記念』として、
 ココは宴会部長の、このホークアイが何か催し物を考えなくっちゃなぁ!
 そうだろ、リーダーッ!?」
「―――はぁッ!? なんだよ、それッ? なんで俺がリーダーなんだよッ!?
 つーか、お前、宴会部長で満足なのかっ!?」
「オール・オーケーさ! な、リース?」
「はい、私もホークアイさんの仰る通り、
 デュランこそ、このチームのリーダーとして相応しいかと―――」
「―――はーい、そこまでっ! ちょっとストップしといてくれよっ」
「―――ふえぇっ?」
「今、俺のこと、なんて呼んだ?」
「えっと…、ホークアイさん、ですか?」
「そうそう、それそれ! そいつを取っ払ってくれよっ!」
「? それでは何とお呼びすれば良いのでしょうか?
 名前を取り払ってしまったら、
 ホークアイさんは名無しのゴンダワラになってしまいますけど…」
「う〜ん、そこに食いつくか〜! さすがリース、一味違うなっ!」
「ふえええぇぇぇ?」
「アホタレ、いつまで一人でブツクサやっとんねん。
 ええか、リース。ホークが言いたいんわな、名前を外してくれいうこっちゃない。
 つまり仲間内で『さん』付けで呼び合うんは不自然や、もっとフランキーに行こう。
 そう言いたいわけや」
「あ、ソレ賛成! たまにはホークもイイこと言うじゃん。
 そうよね、親友同士だってのに、遠慮して『さん』付けなんて、おかしいもん!」
「オイラも、そう思う。
 オイラ、年下なのに、リースに、ケヴィンさんって呼ばれてる。
 ちょっとだけ、くすぐったかった。だから、これから、オイラのコト、ケヴィンって呼んで!」
「しゃるのことはこれまでどおり『シャルロット様』でけっこーでちよ」
「………様なんて呼んでねぇだろ、誰も」
「え、えっと…ア、アンジェラ………ケ、ケヴィン?」
「んん〜! いいわね、その響きっ! ね、もっかい呼んでみて?」
「ア、アンジェラ」
「あんもうっ♪ ちょっと恥ずかしがってる初々しさがたまんないわっ!
 もうサイコ〜っ♪ あたしんトコへお嫁に貰うわよ、リース♪」
「ふええええええぇぇぇぇぇぇ?」


なにはともあれ、満場一致の一致団結でリースの昔語りは締めくくられた。
思うに、この瞬間から、ようやっとこの6人と1匹は本当の【仲間】になれたんじゃないかな。
瑣末なコトかも知れないけど、何でも話し合えて気安く呼び合えるのって大切だもんね★
ワタシんとこの下僕を見てりゃ、そのありがたみがよ〜く解るでしょ?
話し合いなんて名ばかりで、イニシアチブを恐妻に完全掌握されて自分の意見も口に出せない
まるでダメな伝説の勇者サマなんかよりずっとも上等! 羨ましい限り★






(…なんだってんだよ…別に普通じゃねぇか、仲間同士で呼び捨てなんてのは。
 …だぁぁぁあああッ! うざってぇッ!! 何を悔しがる必要があんだよ、俺ッ!?)






約一名、ある意味においてまるでダメな勇者サマと同等のヘボっぷりを発揮して、
名前を知らない鬱屈にあ〜でもないやらこ〜でもないやらと悶々としてるのがいるけど無視。
いや、無視しちゃいけないんだけどさ、どうもね、生理的に気に食わないんだよね。
つか一言、キモい・ウザい・くたばれ―――あ、思わず三拍子になっちゃったよ。

………ま、青春群像劇にはこ〜ゆ〜おピンク妄想C調野郎は必要不可欠なわけだし、
いいんじゃない? ぶきっちょ極まりないコイツはこれっくらいで。






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