――――――気が付くと、同じ空の下にいた。白みゆく中で最期に見たあの青さと同じ空の下に。
だけど、何かが違う。果てしない青さは同じなのだが、どこかに違和を感じた。







(………………………草の匂い………………………?)






………ああ、そうだ。
味気ない木製のタイルの上で眠ったと言うのにむせ返る様な草の匂いが鼻腔をくすぐったから、
違和感を覚えたのだ。この空は、あの空とは違うのだろうか、と。


「………………………………………………」


タンポポの綿毛と共に草の匂いを運ぶのは清涼な風だ。
空の青さをそのまま具現化した様な風が頬をくすぐり、吹き抜けていった。
陣幕が張り巡らされ、なおかつ人の壁を押し詰めた【セントラルパーク】に………風?
違和感はますます強くなる。よしんば吹いたとしても、息苦しい熱気を纏っているものではなかろうか。
しかし、風は清涼だった。血と硝煙に塗れた心身を浄化してくれるほどに。


「ここは………」
「―――そうせっかちにならなくてもいいでしょう?
 勤勉なのは貴方の美徳だけど、少しは寛ぐ事を覚えなさい」


自分の置かれた状況を把握する為に上体を起こそうとした瞬間、誰かに肩を押さえ込まれ、
彼は再び草の匂いの中へ寝転がってしまった。いや、正確には、転がされたと表すのが正しいのだろう。
現に寝転んだ彼は何が起こったのか分からないといった風に眼を瞬かせている。


「自分で言ったのでしょう、これで眠れるんだって。
 ………それなら、今はゆっくりおやすみなさい。もう誰も貴方の妨げる事は無いわ」
「………………………………………………」
「もし、誰かが貴方を揺り起こそうとしたなら、その時は私が護ってあげるから。
 ………貴方を支えてあげられなかった時間の分だけ―――いいえ、ずっとずっと、貴方を護ってみせる」


覗き込んでくる瞳と、瞬いていた瞳がぶつかり合う。
信じられない光景だった。少なくとも、彼には到底信じる事の出来ない光景だった。
二度と出逢えると思っていなかった顔が、永遠に失った笑顔が、疲弊した心を癒す慈愛を称えてこちらを見つめている。
何度も棄てようとして………でも、忘れられるわけの無かった愛しい幻影が、彼の頭を膝の上に乗せて微笑んでいた。

―――温かい。人が持つ温もりを消していた魂にも慈愛はジンと伝わり、やがて凍て付いた心身へ安らぎを与えてくれた。
あんなにも苦しくて痛かった艱難の日々を忘れてもいいよ、と告げてくれる大いなる安らぎを。


「おつかれさま、ランディ」
「………………………プリム」


見知らぬ草原の中心で、何より一番欲しかった温もりを感じながら、彼は―――ランディはプリムへ微笑みを返した。
互いを想う微笑みは、果てなくいつまでも続き、
そんな二人を祝福するかの様な美しい風が、一陣、吹き抜けた―――――――――………………………







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