「「「【マナストーン】?」」」


【光の司祭】ルサ・ルカとの面談を終えたリースは仲間たちと合流し、
その席での成果を報告した。
聴き慣れない単語に異口同音で反芻するのは、アンジェラ、ケヴィン、カールの二人と一匹。
デュランは依然不貞腐れた仏頂面で、リースの説明を聞き流している様子だ。
まるで「仕事はもうおしまい。後はそっちでやってくれ」と無言で訴えるように。


「私はある【探し物】を求めて、その在り処を求めてルカ様に謁見を求めました。
 歴史の生き証人とも謳われるルカ様ならば、きっと所在を掴んでいらっしゃると思って…。
 けれど、【探し物】は、ルカ様ですら安易に手を出せない、
 “ヒトの手が届く事のない彼方”に在ると、…そのように説明されました」
「じゃあ、何? リースの探し物は、もう諦めるしかないってワケ?」
「そんな…、それじゃ、リース、すごく、可哀相…」
「ちょう待ちや。お前ら二人、焦りすぎや。
 リースの言葉を要約するなら、その【マナストーン】とやらがあれば、
 “ヒトの手が届く事のない彼方”…つまり、お前さんの【探し物】を掴み取る事ができるんやな?」
「…まとめていただいてありがとうございます、カールさん」


先走って最悪の結論に意気消沈させる二人に呆れつつも、

リースの説明から要旨を拾い取ってまとめるカール。
いかにカールが魔狼として高い知識を備えていても、これでは霊長類の面目が立たない。


「しかし、わからん事が二つある。
 一つ目は、リースの目的を達成するのに不可欠な絶対条件【マナストーン】。
 【光の司祭】にゃ及ばんものの、俺様も長い事生きてるが、
 そないけったいな名前のシロモノ、初めて耳に入れたで」
「そうね…。
 【アルテナ】の最高学府“アカデミー”を首席で卒業したあたしですら、
 【マナストーン】なんて固有名詞、全く聴いた事が無いわ」
「…私もルカ様から聞いて初めて知ったのですが…」


ルカから受けた【マナストーン】についての説明を
たどたどしくも始めたリースに皆が興味津々に聞き入る。

【マナストーン】………
それは、【ルーインドサピエンス(旧人類)】が産み出した魔力の結晶体、万能の集大成。
銀水晶のように輝き、濃縮された高純度の魔力は、精霊の司る自然界の理をも凌駕し、
山も、空も、海もヒトの手の自在に操ったという。

【ルーインドサピエンス】の栄華は【マナストーン】によって頂点を極めたが、
あまりに凄まじいその存在・魔力は、やがて戦略兵器にも転用され、
皮肉な事に【マナストーン】同士の正面激突が【ルーインドサピエンス】の破滅を招いた、とも。
【グレイテストバレー】の断層も、その戦火の傷跡であり、
驚くべき事に、たった一つの【マナストーン】の暴走が、世界最大の断層を引き裂いたというのだ。


「【マナストーン】…、聴けば聴くほど、信じられない代物ね…」
「でも、それだけスゴいパワー、あれば、きっと、リースの探し物に、届くッ」
「にわかにゃ信じられんような、与太話じみた伝承やけんど、
 相手は歴史の生き証人として2000年も生きてきた御大や。
 【ルーインドサピエンス】の遺産に造詣が深くとも、なんやおかしな事はあらへんな」
「【ルーインドサピエンス】…旧人類文明が滅びたのは、
 今から1000年前と伝承されていますから、文明が遺産として砂に埋もれていく様子も、
 ルカ様はリアルタイムで目撃されてきた筈。…信憑性は高いと思います」


ヒトを超え、精霊を超えた、【女神】に等しき莫大なる魔力の結晶体ならば、
ケヴィンの喜び通り、“ヒトの手が届く事のない彼方”まで希望を繋ぐ事もあるいは可能だろう。
リースの次なる目的は、【マナストーン】の探索に定まった。


「決まりねッ、【聖都】の次は【マナストーン】へ進路を取ってヨーソローッ!」
「浮かれるにはちょう早いで、王女さん。
 …リース、お前さん、あえてはぐらかしたな?」
「はぐらかした? カールちゃん、リースが何をはぐらかしたってのよ?」
「俺様の挙げた、もう一つ目の疑念がそれや。
 ………リース、お前さんがそない苦労を懸けて、
 命懸けてまで手に入れたい【探し物】…俺様たちは一度も話してもらっとらんで?」
「………………………」


感情に走りがちな霊長類よりも怜悧に聡い魔狼が、疑念の核心に迫っていく。


「…それは、私一個人の私的な目的ですので、話すほどではありませんよ」
「公的か私事かはこの際、関係あれへん。
 命懸ける覚悟まで決めた【探し物】が“話すほどのない”モノなわけ無いやろ?」
「カールの言う通り、オイラたち、まだ、リースのホントの目的、聴いてない」
「そうよね、それもそうだわッ!
 リース、あなたの目的、話してくれる?
 バッチシ明白に目標が立ってれば、
 あたしたちももっと力いっぱいに協力できると思うッ!!」
「………………………」
「やめちまえよ、お前ら。
 いちいち目的聴かなけりゃ手を貸せないってんなら、
 そいつと同じ舞台へ上がる資格なんかねぇよ」


意気衝天するアンジェラやケヴィンへ返す答えに窮してリースが俯いてしまったその時、
これまで守ってきた沈黙をデュランが破った。


「なッ、ちょっとッ! それ、どういう意味よ、デュラン!?」
「どうもこうも無ぇだろうが。
 さっきから黙って聴いてりゃ、てめえら、
 自分勝手にリースの秘密かき回して、楽しいか?」


まざまざと軽蔑を込めて睨んでくるデュランに、
一瞬怯みそうになったアンジェラだが、気圧されては負けとばかりに
自分の作れる中でも最大限のきつい眼差しで跳ねつけた。


「ここまで話さなかったって事は、つまり、【人には話せない理由】なんだろ?
 それをてめえら、軽々しく土足で入り込んでほじくり返すなんざ、
 最悪な趣味じゃねぇか」
「もしかしたら話すに話せなかっただけかも知れないじゃない!
 たとえば、そう…タイミングを掴めなかったとかさッ!
 だったら、友達の方からタイミングを作ってあげるのも大事じゃないッ!!」
「切り出すタイミングはいくらでもあったんだから、
 機会を逃してそれきりって流れは成立しねぇだろうが。
 ………てめえの主観で都合よく考え過ぎなんだよ」
「友達の事は何でも知っておきたいって気持ち、
 あんたにはわからないわけッ!?」
「それがてめえのご都合主義だっつーんだよ。
 本当にリースの事を考えてるんだったら、
 秘密を隠す相手に何でも知っておきたいなんて無責任な言葉、
 かけられるわけねぇからな」


自分の事で激しく口論するデュランとアンジェラを
どう制止すれば良いものか解らないリースはオロオロと気を揉むするばかり。
霊長類よりも優れた理論武装を備えるカールが、
デュランの言い分を興味深げに傍観を決め込む以上、この口論を止められる者はいない。
正統なデュランの指摘に自分の過失を思い詰めるケヴィンでは、あまりにその役に足りない。


「あんたに無責任なんて詰って欲しかないわねッ!!
 報酬を貰ったら、即座にトンズラしようとしてる薄情者のあんたにはッ!!」
「―――え、デュラン…?」


アンジェラが切った起死回生の札はデュランではなく、横飛びでリースに衝撃を与えた。
「何も聴かずに協力すべきだ」と言ってのけたデュランなら、
この先も同道し、協力してくれる筈と信じて疑わなかったリースにとって、
全く想定外の青天の霹靂だった。


「アンジェラさんのおっしゃった事は、本当なのですか、デュラン…?」
「………………………」
「デュランっ!?」
「………俺は―――」
「―――みなしゃんッ、たいへんでちッ!!」


問いただしにかかるリースへデュランが結論を口に出そうとした瞬間、
血相を変えたシャルロットが緊迫の貴賓室へ転がり込んできた。














『私は平気だから、無茶しないで、ホーク…』


砂の海を出て出発する前夜、
幼馴染みの少女からかけられた気丈な――けれど、言葉の裏側に不安が募った――言葉を
ホークアイは荒い息を整える最中、無意識の内に思い出していた。






(…なにが平気だよ…、あんなに辛そうにしときながら、人の無茶を窘める余裕なんかあるかよ…っ)






突然、幼馴染みを襲った奇病は、彼女の生命力を徐々に、着実に削ぎ落としていった。
今も回想と共に思い出されるのは、苦しみにやつれた横顔。それでも気丈に振舞う、儚い瞳。
誰よりも大切なその少女を救う手立てを求め続けてきたホークアイには、
いかなる危地にあろうと、いかに蛇蝎の如く忌まれようと、
ようやく差し出された【救いの手立て】を諦めるわけにはいかなかった。
諦めるわけにはいかなかったのだが―――


「畜生…ッ! 仲間に殺られるなんてオチ、シャレじゃ済まないっての…ッ」


―――ここに来て、明晰なホークアイの想定に反する妨害が彼の決意に割って入る。






(【船】を下りる事は、フレイムカーンのオヤジも承諾済みだったのに、どうして、今更になって…ッ!)






確かな許可を得て、猛鷲の言う【砂の掟】から一時的に抜けたにも関わらず、
どうして命を狙われる意味があるのか。
ホークアイを仇敵(とも)と蔑み、心臓を啄ばもうとするサンドベージュの猛鷲は
彼にとって身に覚えの無い濡れ衣と同義だった。


『…これが最後のチャンスだ。仕損じれば次は無い…そう思ってもらおう』


絶体絶命の危地にあって脳裏にこだますのは、
ちょうど【ウェンデル】へ入った直後に突きつけられた最後通告。
周囲の男という男を魅了する妖艶な香気を撒き散らしたその女は、
負傷した仲間を背負って聖都入りしたホークアイへ期限を申し渡した。






(―――ああ、そうとも。俺はこんなところで死ぬわけにはいかないッ…)






その女とホークアイが出会ったのは、幼馴染みを救う手立てが一向に見つからず、
八方塞に落胆していた頃―――か細い藁にも縋る思いに駆られた時だった。
あらゆる魔法に精通するというその女は、幼馴染みの奇病を自分なら治療できると断言し、
その見返りとして【ウェンデル】目指して旅するレイライネスの少女、
【リース・アークウィンド】の誘拐を交換条件として提示してきた。
冷静になって考えればなんとも眉唾な話だが、
焦燥が限界に達していたホークアイはその申し出に二つ返事で快諾した。







(ジェシカを救って、イーグルの誤解を解いて…俺は………ッ)






都合二度の失態を晒したホークアイに、
その女は【ウェンデル】で誘拐までしくじればこの話は無かった事にすると言い放った。
もう、後が無い。しかも、絶たれた退路からは、砂塵に乗って猛鷲が襲い来る。
それでもやるしかないのだ。
大切な、何よりも大切なモノを救うために。明日に命を繋げるために。


「断頭台への末路に惑っているようでは、無明の黄泉路を往く事はかなわんぞ。
 せめて安らかに終わり、冥土の始まりへ魂を残留させておけ、ホークアイ…」
「イーグル…ッ!!」


しかし、断罪の羽音はホークアイを逃さない。
広大ゆえに入り組む聖都の裏路地へ逃げ込んだホークアイへ差し込むのは、
民家から張り出された物干し竿代わりのロープに立つ猛鷲…イーグルの影。
脈々と蠢動する死への影。


「話を聴いてくれ、イーグルッ!!
 俺は【ナバール魁盗団】を抜けたつもりは無いし、
 フレイムカーンのオヤジにもきちんと承諾は受けてるッ!!
 俺たちが戦う理由はひとつだって無いんだッ!!」
「…恐れをなした獣畜ほど臨終の際に一生分の御託を並べるというが、
 どうやら貴様もその類のようだな………抗いに噛み付く事を知る窮鼠にすら劣る」
「イーグル………」
「砂の掟は絶対の絆…何物にも勝る鋼の結束ゆえに、
 その輪より抜けし者には、万死を、億刑を…ッ!
 貴様とて一度は掟の血盟に名を連ねし男………知らぬ存ぜぬは通じんぞ…ッ!」
「………何を言っても、無駄、なのかよ………ッ」


押さえた右腕からは赤黒い鮮血が滲み出していた。
布で縛り上げて止血を試みるも、傷口は深く、流れて落ちる命数を繋ぎとめておく事は困難だった。
このままでは確実に死に捕まる。そうすれば、幼馴染みの少女も死に抱かれる。
退路が絶たれたなら、最早、修羅と化してでも進むほかに選択肢は無いのだ。


「言い遺したい事があるなら、猶予は今だけだ。
 …ジェシカには俺の口から必ず伝える…」
「俺がジェシカに送るのは、明日に繋がる手土産ッ! 奇病を解毒する治療法だけだッ!!
 …邪魔をするなら、イーグル、俺はお前とだって…戦うッ!!」
「………それでいい。
 それでこそ、砂の掟に塵となりて還る者。
 悔いを現世に残さて果てぬよう全身全霊をもって戦い、そして、散華せよ―――」


イーグルが背中に携えた巨大な投擲武器を左手に構え、
それに応じてホークアイも自由の利く片手にありったけのクナイを構えた。
修羅と化してでも、かつての盟友と戦う事になろうとも決意を貫く。


「―――我が必絶の闇刃、
 風魔手裏剣【夢霊哭赦(むりょうこくしゃ)】によってなッ!!」



星の煌きを模った、四方へ斬刃の張り出す巨大な手裏剣【夢影哭赦】を
ホークアイへ突きたてようと高所から急降下して迫るイーグル。
獲物を確実に仕留める神速の滑降を、傷付き、追い詰められたホークアイが回避するのは不可能だ。
不屈の覚悟を込めたクナイを投擲するも、【夢霊哭赦】の旋回によってあえなく弾き飛ばされてしまう。


「せめてのも手向けだ………。
 痛みを感じるのない閃光の内に終末を―――」
「―――させるかァッ!!!!」


竜巻の如き旋回の怒涛がホークアイを捉えるよりも寸分早く、
電光石火で乱入したツヴァイハンダーの重撃が辛うじて【夢霊哭赦】を防ぎ切り、
そのまま力押しでイーグルを殴り飛ばした。


「…お、お前…なんで………」
「っせぇッ、説明は後だッ!!
 今はとにかくこの場を切り抜けるぞッ!!」
「この切羽詰った状況で説明はしょっちゃ、
 いくらコイツが悪知恵働くオツムを持ってたって困るでしょうがっ!
 『義によって助太刀致す』とか、最低限の友情演出もできないわけ?」
「うるせぇ、アンジェラッ!!
 てめえの悪ふざけに付き合ってる暇じゃねぇんだよッ!!」


飛び込んできたデュランに、命を狙った敵に助けられたホークアイは、
何がなんだかさっぱり理解できず周囲を見回して情況の確認を急ぐも、
リースらと一緒に駆けつけたビルとベンを見つけた瞬間、全てを把握して自嘲の苦笑いを漏らした。


「お前らなぁ…、いくらなんでも、敵に助けを求めるヤツがあるかよ…」
「で、でも、この町でホークアイの兄ィを助けてくれそうな人間、
 他に浮かばなくって…」
「オ、オウさ…ッ!!!!」
「あんたらもあんたらだよ………。
 こっちゃ、あんたらを狙った誘拐犯だぜ?
 そいつを助けようなんて、お人好しにしては度が強過ぎじゃないか?」
「最初に交戦した時は、無礼な態度に腹も立ちましたけど…。
 あなたの決意も、理由も知ってしまった以上、
 …私と同じ想いで戦場に立っているのだと知った以上、
 みすみす見殺しにしたくはありませんっ」
「理由って………」


気まずげなビルとベンのはにかみで、
かつての敵が協力してくれる所以を察知したホークアイの頬がさっと羞恥の色に染まっていく。


「お前らなぁ〜、話さなくていい事の分別くらいつけろよな〜」
「ふんべつがついたから、
 いま、あんたしゃんのくびとどうたいがつながってるんじゃないでちか。
 みけんにどろをすりつけてかんしゃするでち」


深手の右腕から急速に痛みが引いていく。
何事かと振り向けば、シャルロットが【エンパワーメント(安らぎを約束する青の輝き)】の魔法で
治療を施してくれていた。
同時に、鉛のように重かった身体が自由と活力を取り戻していく。


「【獣王義由群(ビースト・フリーダム)】、八番組長、ケヴィン・マクシミリアンッ!
 義によって、助太刀、いたすッ!!!!」
「わふっ!!!!」


昨日の敵は今日の友、自分たちの優位を覆してくれた小憎らしい獣人と魔狼のコンビが
ツヴァイハンダーを構えるデュランの隣へ並んだ。
傷付いた自分を二人して庇うように。


「いつまでもシケた顔、さらしてんじゃないわよ。
 やらなきゃならない事があるんでしょう? だったら立ちなさい!
 立って、あの分からず屋に全部、ぶつけてやりなさいッ!!」
「誤解を解くには、力と魂を削り合うのも一つの手法です。
 全力で激突するからこそ解り合える事もあると、恩師に教わりましたっ!」


幼馴染みを救うために命がけだった事、そのために汚れ仕事にも手を出した事、
…かつての盟友(とも)に命を奪われようとしている事。
全てを受け止め、同調したデュランたちは、満場一致でかつての敵のピンチへ、
ホークアイの危機へ駆けつけたのだ。


「………お前ら………」
「手ぇ貸してやるよ。
 でも立ち上がるのはお前自身の足で、だ。
 最後まで決意を貫く覚悟で立ち上がるなら、
 俺のツヴァイハンダーとお前のクナイ、双つに閃くだろうよ」
「………そいつは心強いな………」


面食らう情況の連続に翻弄され、
気が付けば、以前とはまるでかけ離れた現状に立たされている。
そんな運命の不思議さへ、デュランもホークアイも、歩んだ道順こそ違えど、
共通の、けれど少しだけ複雑に反れた思いを抱いていた。
奇妙な巡り合わせから共闘する事になった偶然に思わず苦笑を漏らしてしまうのも、
同じ思いを抱く人間同士のシンパシーだろう。
一度誓った決意を貫く気力を取り戻したホークアイは、
デュランとケヴィンと並んで戦線へ立ち上がった。
そのすぐ後ろにはリースが銀槍【ピナカ】を構え、
アンジェラとシャルロットの術士組二人は離れて隊列を組んでいる。
【エンパワーメント】では傷を完治できなかったビルとベンは遠くに離れて見守る事になった。


「もう、アレだ。
 ここまで来たら、なるようにしかならないわな。
 …あの女との取り決めが反故になっちまうのも仕方無いし、
 遠回りに遠回りを重ねる事にもなっちまいそうだ―――」
「兄ィ………」
「―――でもな、だからって諦めるつもりは無いぜ!
 最後まで踏ん張って、俺は必ずジェシカを救ってみせるッ!
 そのためにも、今は、【今】を生き抜くしかないッ!!」
「オウさッ…!」


不意の闖入に無防備に弾き飛ばされたイーグルが【夢霊哭赦】を携えて戦線に復帰する。
瞳から、全身から、身を突き刺す程に激しい殺意が迸っていた。


「来客としてはいささか不似合いだな。
 自分の命を付け狙った賊徒へ、どうして手を差し伸べられる?
 敵のためにむざむざ命を差し出す動機とは何だ?
 後学の糧にご教授願いたいものだな………」
「大切な誰かを守る戦いに命を傾ける【意志】が我々の【意気】に通じたのですっ!
 先程も述べた通りですっ!」
「めたくたに邪魔してくれた、いけ好かないヤツだけどさ、
 情状酌量にはレベルの高過ぎる動機を聴かされちゃったら、
 助けずにはいられないじゃないの。
 こう見えても、あたし、未来のモラルリーダーなのよ?」
「―――との事らしいぜ、女性陣が言うにはな。
 俺は動機だの理由だの、四の五の考えるのは性分じゃねぇんでな。
 …こいつの【命懸け】が胸に突き刺さった…それだけだ」
「たったそれだけの理由で死を賭すというのか、敵に背中を預けて。
 ………愚直で、未熟で、どこまでも蒙昧だな。
 【命懸け】と答えるには、あまりに幼い」
「【命懸け】に応えるには、“たったそれだけ”で十分っつってんだろ」


思わぬところで闖入した障害へ「…浅薄な」と忌々しげに吐き捨てたイーグルは
【夢霊哭赦】を投擲の体勢に構える。
一直線の射程圏内には全員が包括されており、障害もろとも仇敵を微塵に薙ぎ払うつもりだ。


「砂の掟に楯突くならば、侮蔑無粋の横槍を入れるならば、
 貴様らとて同じく仇敵………。
 呪怨宿りし必絶の闇影にて、三途の積み石を築いて爆ぜろ…ッ!!」


真空を取り込むかのような神速で猛襲する極大手裏剣は
仇敵をまとめて刈り取ろうと低空を一直線に閃いた。






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