朝が明けて島の散策へ出発したパーティは、程なくして火山洞窟への入り口を発見し、
いよいよ【黄昏の火山】内部へ踏み出したのだが、突入してすぐに不可解な形跡を発見した。
「誰かが…解いていったってのか?」
「そうとしか考えられないな。人為的な手が加えられたとしか思えない。
しかもつい最近…、いや、昨日今日かもしれないぜ」
【黄昏】と冠するように脈動を終えた死火山洞窟内の至る所には
悪質なトラップが張り巡らされており、侵入者の行く手を阻んでいた―――筈なのだが、
そのいずれもが既に解除済みで、パーティを足止めする物は何一つ無かった。
しかも、ホークアイの鑑定によれば、トラップが解除されたのはここ二、三日中との事。
足止めや体力の浪費を気にせずスムーズに進めるのは楽といえば楽だが、
正体不明の何者かが自分たちより先んじていると考えると、それはそれで不気味である。
「モンスターもあらかた片付いているみたいだし、誰だかは知らないけれど楽チンポンよね。
先頭バッター様々よ〜♪」
「ノンキだな、お前は。
…ケヴィン、お前の『耳』で侵入者のおおまかな数、わからねぇか?」
「師匠、ゴメン、オイラの耳も、鼻も、そこまで、万能じゃ、ない。
モンスターの数も、多そうだから、地面に耳、当てがうだけじゃ、
先に入った人たちの数までは、把握、できない…」
「そうか…、となると正攻法で少しずつ近付いていくしかねぇか…」
ケヴィンの超常的な身体能力を発揮して、おそらく先に進んでいる侵入者の頭数を掴めれば、
いざ事を構えた時に対処もし易いのでは無いかとデュランは考えたのだが、
そこまで都合の良い運びは高望みだったらしい。
生命活動を終えて色黒く冷え切った洞窟を地道に散策するしか路は無いようだ。
「それにしても、賢者ドブロクだっけ?
なにもこんな穴倉の中に住まなくたっていいじゃないの!
硫黄の臭いが服にこびり付いちゃいそうでたまんないわ!」
「きょくどのちゅうじえんでちか、あんたしゃんは。けんじゃ【ドン・ペリ】しゃんでち。
なんでもにんげんぎらいがこうじて、だれもよりつかないこのしかざんへすまいをうつしたらしいでちよ。
そのけんきょさを、あんたしゃんもちっとはみならったらどうでち?」
「人間ギライかぁー、厄介だな、それ。
目のカタキであるところのニンゲン=俺らの話を聴いてくれんのかなぁ…」
目的の人物が人間嫌いであると知ったホークアイがたまらず悲鳴を上げた。
大枚を叩いて、転覆の危機をやり過ごして、
人里離れた孤島くんだりまでやって来て門前払いともなれば目も当てられない。
「もしも話を聴いても貰えなければ、どうしましょう………」
「なんとかなるだろ。
なんつっても、ウチにゃ口も達者で頭もキレるバケモノが一匹、いるんだからよ。
最悪の場合はカールに頼るとしようぜ」
「そこでわいをチョイスするとは、なかなかツボを得た人選やな、デュラン」
「それ採用! やるじゃん、デュラン♪
そうだよそうだよ、こっちにはなんてったって史上最強の犬ッコロがいるんだから、
なんも心配するコトは―――」
「―――犬言うなとゆーとろうがッ!!」
手を叩いて喜ぶホークアイの顔面を即座にカールの爪牙が捉えた。
バケモノ呼ばわりと犬ッコロ呼ばわり、天秤にかければ前者の方がヒドいと思えるのだが、
そこはカールなりの美学がある模様で、後者を引用し続けるホークアイにはなかなか手厳しい。
引っかかれ、噛み付かれ、せっかくの端整な顔立ちをボロボロにされたホークアイには目もくれず、
というか日常茶飯事にいちいち付き合っていられるかと、デュランは振り向きもしない。
「あ、あの、いいんでしょうか、ホークアイさんを放っておいて…」
「いちいちあんなモンに構ってたら保たねぇだろ? 無視だ、無視。
それより足元、気をつけろよ。
暗がりで突起が見えにくくなってるからな」
デュランが振り向かないのは、ホークアイの悲鳴だけでなく、リースの呼びかけに対してもだった。
彼女からかけられる言葉の全てを背中で受け止め、背中越しに返す。
「答えも出ていないのに話しかけるなよ」と無視されるよりはずっともマシだが、
顔を見せてくれない厳しさには、少しだけ寂しさが心へ差し込む。
振り向かず、けれど言葉の中へ込められたさりげない優しさが、差し込む寂しさをより深くする。
「…あーして気取っちゃいるけどね、アレはポーズよ、ポーズ。
引っ叩いちゃった手前、顔を突き合わせづらいだけよ」
「…それだけだと、幸いなのですが…」
耳元で囁かれたアンジェラのフォローを頼りに、
リースは一刻も早くこの寂しさを拭い去ろうと心に決めて、先行く背中に置いていかれないよう、
小走りに彼の後へ続いた。
†
「―――うおッ!?」
幾つかの迷い路を抜けて一際大きく広がった場所へ出た時、
先頭を歩いていたデュランが素っ頓狂な声を上げて立ち止まった。
すぐ後ろに控えていたリースもケヴィンも一様に絶句に。
「なに? なんかあったわけ?」
遅れて歩いてきたアンジェラ、シャルロット、ホークアイの三人も
固まってしまったデュランたちの背中越しに『それ』を発見した瞬間、
やはり驚きの声を上げて目を見開いた。
「ドラゴン………だよな、アレ」
「私もこの目に見るのは初めてですが………」
強靭な巨躯と勇壮な翼を供えた最強の生物『ドラゴン』種の一匹が、
大量の血を流し、罅割れた死火山へ横たわっていた。
無限とも恐れられる生命力は明らかに失われている。
「―――そこの一団ッ、止まりなさいッ!!!!」
深緑の鱗を持つドラゴンの亡骸へ駆け寄ろうとした瞬間、鋭い静止の声が、
彼らの行く手に突き立てられた。
―――敵襲ッ!? 即座に背中合わせで周囲を警戒する六人と一匹は、
そこへドラゴンの躯以上に信じられない物を見た。
「あんたしゃんがたは…っ!」
ドラゴンの亡骸の上に乗り、高所からこちらの動きを制止した三人組に
シャルロットは見覚えがあるらしい。
「ここから先に一般人が通る進路は無いわ。今すぐ退路へ引き返しなさい」
長い髪をポニーテールで結わえた、軍服調の正装に身を包む凛然たる少女。
三人組のリーダー格と思われ、深紅の軍服に合わせて誂えられた皮製の軍靴が勇ましい。
手には鋼鉄製の鞭が握られている。
「相変わらずの高飛車発言だねぇ、姉ちゃん。
説明もナシに引き返せって言われたって困ると思うよ?」
地肌にサロペットジーンズという出で立ちがヤンチャな性格を如実に醸し出す、
シャルロットよりも少し身長が高いくらいの少年。いかにも生意気盛りといった顔立ちだ。
身の丈に長さを整えられた単弓(セルフ・ボウ)を肩から提げているが、
肝心の矢をどこにも束ねていないのが目を引いた。
「せ、せめてさ、ココがどういう場所かくらいは説明してあげないと…ね?」
そして、最も後方に控えて、情けなく眉をヘの字に曲げた少年。
あだ名が【通行人A】で即座に決定されそうな、あちこちツギアテだらけの貧相な服装が
軍服姿の少女と痛いほどに好対照だ。
本人はトレードマークのつもりなのだろうが、両サイドへ耳を防護する布が当てられた特殊なバンダナにも
例によってツギアテが施されており、トレードマークというよりも、貧相さを表すバロメータへ成り下がっている。
左手に備えた円形盾(ラウンドシールド)も最低限の防御力しか無い簡素なものだが、
そんな貧相な装いの中にあって否が応でも目を引くのは、左の腰から下げた、銀に輝く騎士剣。
“掃き溜めに鶴”という古い諺を体現する少年だった。
「何よ、ランディ、私に意見するつもりなのかしら?
あなたのような甲斐性なしが私に楯突くつもりなのかしらっ!?」
「だっ、誰もそんな事言ってないじゃないかぁ…」
「とぼけんなって、ランディの兄(アン)ちゃん。
昨夜だって『最近さー、プリムのヤツ、ちょっと調子に乗ってない? 一度シメとこうか?』って、
オイラに持ちかけてきたじゃんかー」
「言ってないッ!! 余計な誤解を受けるようなコト、言うなよ、ポポイッ!!」
「………ランディ、これが終わったらケツバット百発の刑よ」
「へへん、尻を洗って待っていやがれ、兄ちゃんッ!」
「そ、そ、そんなぁ〜………」
突如として現れたこの三人組の相関図が一発で判るやり取りだ。
「…おい、どうする?
ばっちりカッコよく登場しておいて、なんだかコントショー始めちゃったぞ、あいつら」
「世界最強の生物をまたいでお笑い? ヘタなシャレよりもオチないわよ、そんな三文芝居」
安いコントを見せるためだけにこちらの行動を押さえ込んだとしか思えない三人組に
パーティは呆れに呆れ、このまま無視して通過しようかと考え始めた矢先の事である。
「っていうか、いつまでボケ倒したら気が済むのかなぁ、キミたち。
初対面の有象無象にまで呆れられるなんて、これはよもや一種の才能?
クソの役にも立たない才能植えつけた覚えはこっちには無いんだから、
もっとシャキッとして欲しいんだよね★」
「フェアリー………」
「ていうか、シャキッとできないなら粛清しちゃうから、そのつもりでね。
いくらキミが息をしてるのすら恥ずかしくなるくらいのカスでも
カスなりに自己紹介くらいしたげなよ。
『僕は何をやってもまるでダメなゴミ溜めです』ってさ★」
「っていうか、少しくらいはフォローしてくれてもいいんじゃないかなっ!?
君自身で選んだ【ジェマの騎士】なんだからさぁ、ゴミ溜めってのは言い過ぎだろっ!?」
「あはは♪ 黙れよ、“THEダメんず”★」
「「「「「【ジェマの騎士】―――ッ!!??」」」」」
ギャーギャーとコントに没頭する三人組の頭上へ光の粉を散らしながら一人の小さな妖精が降臨し、
なんとか彼らの暴走を止めようとボケ倒しをツッコミで仕切った。
これがお笑いのステージならば、オチの弱さは否めないが閉幕の運びとなるのだが、
貧乏臭い少年の言葉がそれを許さなかった。
「…まさかとは思うたが、やはり連中がそうなんやな、シャル?」
「さっしのわるいほかのれんちゅうとちがって、やっぱりカールしゃんはかんづいたみたいでちね。
そうでち、かれらこそ、【めがみ・いしゅたる】のこうほせい、【ふぇありー】にえらばれたでんせつのえいゆう、
【ジェマのきし】でち」
【ジェマの騎士】とは、【女神・イシュタル】を継承する次代の候補生、【フェアリー】と共に在って、
混迷の世相を切り開くと語られる伝説の英雄だ。
携えた聖剣【エクセルシス】は遍く負の力を断ち、全ての呪われた生命を浄化すると謂う。
そんな、伝説上の人物が、今、目の前に現れたのだ。
「ウソつけッ、あんな出涸らしもいいトコの貧乏苦学生が伝説の英雄なわけねぇだろ!?
あっちの軍服っぽい姉ちゃんの方が、よっぽど逃れられない運命みてぇの背負ってそうじゃねぇか!」
「そ、そうよ! アレじゃないの、自分は前世からの宿命を背負った英雄って、
見た目から何からイタい人種じゃないわけ?
あいつ、ロクな物食べて無さそうだから、絶対そのクチの人間よ!?
脳を雑菌で犯されて、うなされて、ソレ系のヒトが備える限界知らずのパワーで
ココまで来ちゃっただけじゃないのっ!?」
「まごうことなきげんじつなんでちよ。みとめるしかないんでち!
しゃるだって、さいしょに【うぇんでる】でせつぐうしたときは、あまりのこえくささにそっとうしそうになりまちたよ!
けれどもげんじつはざんこく! 【ふぇありー】のかごをうけたあのびんぼうしょうねんこそ、
ほかならぬ【ジェマのきし】なんでち!」
神話や伝承が今日も根強く生きる【イシュタリアス】において、伝説の英雄との邂逅は何にも勝る感動…の筈なのだが、
これがどうして喜びも何もあったものではない。
生きた伝説を目の前にして、どうしてここまで言えるのか、【ジェマの騎士】と遭遇したパーティの感想は実にボロカス。
初対面の一団にボロカスに詰られた【ジェマの騎士】は、最後には半ベソ状態に陥っていた。
「この男が伝説の英雄かどうかなんてのは瑣末な事! 隅へ捨て置いても構わないわ!」
「ま〜ね〜、ランディの兄ちゃんがダメ男ってのは、
月が東へ太陽が西へ落ちるのとおんなじくらい、原則的常識だからね〜。
オイラたちにゃ関係ないわなぁ」
仲間(それも本来はリーダーにあるべき者)を徹底的に詰られた軍服姿の少女も、
サロペットジーンズの少年も、詰られた内容に関してはまさに仰る通りと言いたげな態度だ。
英雄の沽券に関わる問題を瑣末な事と言ってのけ、あまつさえ前面肯定。
…これがトドメとなって、【ジェマの騎士】はその場に崩れ落ちてしまった。
時折鼻水をすする音が聞こえてきて、言い知れぬ憐憫を誘った。
「そちらにいらっしゃる【ウェンデル】の神官さんのお陰で紹介の手間が省けたけれど、
私たちはその紹介通り、【ジェマの騎士】のチーム。
“世界のモラルリーダー”のお姫様が仰るような、頭パーの集団ではないわ」
「…っつっても、イキナリ【ジェマの騎士】なんてのが目の前に出てきちゃったら、
驚くのも無理ないけどさ、残念ながら、コレ、ホントの事だからさ」
言葉を無くして凹む当の勇者よりも彼の従者たちが前面に出て自己紹介を始めた。
突然の邂逅に(勇者の情けなさに対しての)驚愕は否めなかったが、
ルサ・ルカと共にこのチームを実際に接遇したシャルロットの証言と、
なにより、神話上の姿そのままで現れた【女神】の継承者、フェアリーを見せ付けられては信じざるを得ない。
「ワタシがこの場にいる事こそイチバンの証明じゃん、キミたちの目玉って腐乱物?
あ、そっか! ごめんごめん、揃いも揃って下僕が人間の底辺じゃ間違えもしちゃうよね★
…んも〜、どうしてくれんのさぁ、キミたちがどうしようもない粗大ゴミだから
ワタシまで低く見られちゃったじゃんか〜っ。
どう責任取ってくれんの? 死ぬ? いっぺん輪廻転生味わってみる?」
成人男性の人差し指くらいの小さな身体に、薄手の聖衣を纏い、
「どうも、女神候補生です!」と胸を張るフェアリーの背中には天使を思わせる純白の羽根が生えており、
これによって光の粉を散らせながら空を自在に飛び回っているのだ。
全て、神話や伝承で語られる物と同じ物だった。
―――ただ一つ、聞く者全ての神経を逆撫でする猛毒の舌を覗いては。
「それで、【ジェマの騎士】の皆様がたは、どうして俺たちの行く手を阻もうとするんだ?」
「それはこちらのセリフよ。貴方たちはこの先に控える方をどなたと心得ているのかしら?」
睨み合って張り合うデュランとプリム、双方のリーダーのやり取りにリースが
「賢者【ドン・ペリ】様です」と正答を添えた。
「そう、そこよ! それが大問題なのよ。
賢者【ドン・ペリ】は大変な人間嫌いと聞いているわ。
ただでさえ人間を煩わしく思っているというのに、貴方たちのその人数は何?
一挙大量に人間が押しかけて、もしも粗相があったらどうするつもり?
本来私たちが得られる筈だった情報を手に入れられなかったら、
貴方たちはどう責任を取るつもりなのかしら?」
「おいおい、手前ェ本位にしちゃあ度が過ぎてねぇか、英雄サマよ?
だったら何か? あんたらが賢者と会うのに俺らは邪魔だから、帰れって言いてぇのか?」
「要約すればその通りよ。踵を返してここから立ち去りなさい」
「てめぇ………ッ!」
突き放すような、見下したような物言いがデュランの神経をいちいち逆撫でする。
しかし、ここで冷静さを欠いては、リースの目的=マナストーンの情報を失い事になる。
その矜持が、ツヴァイハンダーへ手をかけそうになるデュランをなんとか踏み止まらせた。
「見たところ貴方たち、この死火山に眠った財宝か何かを探しにやって来た、
冒険家の一団といったところでしょう? だったら残念外れクジよ。
どこの情報屋に掴まされたかは知らないけれど、ここには貴方たちの望むような財宝は眠っていないわ」
「私たちは盗掘人ではありません!
【マナストーン】と呼ばれる秘法の行方をドン・ペリ様へ伺いに参ったのです!」
「【マナストーン】…?」
「………【旧人類(ルーインドサピエンス)】時代に開発され、彼らの文明の崩壊を招いた、
黒い歴史の負の遺産だよ………」
聴き慣れない単語に首を傾げたプリムにフェアリーが耳打ちする。
次代の【女神】の候補生だけあって、
フェアリーも自然界に仇成すモノとも言える【マナストーン】を快く思っていないらしい。
耳打ちする表情は苦々しく曇っていた。
「ナルホド、【ドン・ペリ】の古狸なら、現在に遺る【マナストーン】の所在も把握してるかもだけど、
キミたち、どてらいくらい悪趣味だねぇ。世界を破滅させる種子に興味津々なんてサ。
ジュニア・ハイスクールの学生が考えそうな小説だよ、思春期特有の終末論的フィクション脳だよ。
ど〜せ、アレでしょ、『【マナ】の力があれば、世界は意のままじゃ〜』とかっつって、
アイドルのポスターが一面ビッシリの部屋でアヘアヘ悦に入ってんでしょ?
―――うぇぇ〜、想像しただけでキモいね。まじで輪廻転生した方がいいね。
ていうか、地上に存在してもいい理由を見出せないよ、キミたちの」
「ふ〜ん…つまりフェアリー、この一団は、言ってみれば悪魔の尖兵、
私たちの天敵というワケね?」
「過激派ってヤツ? すっげ! オイラ、過激派なんて初めて見るよ!」
フェアリーの説明(?)へ納得したように頷くプリムとポポイ(と隅っこでランディ)の姿が、
怪しくなってきた雲行きを、いよいよただならぬ物へと暗転させていく。
「ヤバいぜ、デュラン。
あいつら、何しでかすかわかんないぞ?」
「うん、お笑い芸人みたいだけど、殺気も、闘気も、ドンドン、膨らんでる!」
【ジェマの騎士】という、正義を尊び邪を許さぬ、勧善懲悪の使徒という彼らへの固定観念から、
心のどこかで油断があったのかも知れない。
仲間たちに警戒されるまでも無く、次第に臨戦へ移ろっていくムードがデュランにも解っていたが、
まさか本気でこちらに、それも初対面の一団に対して殲滅攻撃を仕掛けてくる事は無いだろう。
それは英雄のする事ではない。
ここで戦闘が起きてしまっても、きっと小競り合い程度で済むだろう、と油断があったのかも知れない。
「ポポイ、一発【メテオフォールド】でキメてしまいなさいっ!」
「よしきた! そのGOサインを待ってたんだッ!!」
軍服姿の少女、プリムから号令がかかるや否や、サロペットジーンズの少年、ポポイが、
炎の精霊【サラマンダー】を即座に憑依させ、手のひらから炎の矢の束を組成し、
束ねた矢でもって弓を引いた。
「なッ…ちょ、ちょっと、マジなの…ッ!?」
アンジェラの悲鳴も空しく、死火山の天井めがけて放たれた炎の矢は、
“【メテオフォールド】=隕星の落涙”の名前通り、
崩落し、燃え盛った岩石弾をデュランたちへ降り注がせた。
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