12.Battle Royal part.4〜Rainstorm interlude ――遠くに雷鳴を聞いた。 「遠くに」と言っても、距離ではなく時間のこと。現在(いま)より遥か遠い日に聞いた雷鳴が記憶の雲間から脳裏へと駆け抜けていた。 鼓膜を貫き、三半規管をも震わせ、心まで掻き乱す程の大雷鳴だ。稲妻が落ちた拍子に地響きを伴ってもおかしくない。 折しも暴風雨の時節だ。家屋が振動したところで吹き付ける烈風の所為としか思わず、 鎚か何かでもって泥土を爆ぜたような鈍い音が轟いても豪雨の風情だと信じて疑わなかったのである。 雨音と雷鳴の間隙に馬の嘶きが混ざっていることに気付いた瞬間、 これが風物詩から掛け離れた怪異ではないかと初めて疑念を持ったのだ。 門戸を激しく叩かれたのは、その直後。仕事を早仕舞いして寛いでいた父が訝るような表情(かお)で玄関を開くと、 そこには腰のベルトにサーベルを吊るした保安官の姿があった。 帯剣姿の保安官のことは、一家の誰もがよく見知っている。 彼とは家族ぐるみで付き合いがあり、決して口にはしないものの、内心では頼りがいのある兄貴分のようにも思っていた。 「人生短いんだぜ? 楽しいコトを楽しめなけりゃ、そんなん損じゃないか」と言うのが口癖。 弾けるような笑顔でこの口癖を唱える姿は、不思議と見ているほうまで元気になってくるのだ。 ズブ濡れでやって来た保安官の姿にある種の恐れを抱いたのは、記憶の中の彼がいつだって笑顔を称えていたからだろう。 サーベルを帯びた姿を見たのは、今夜が初めてではない。朝早く出勤していく姿も、夜遅くに退勤してきた姿も、 日常の一幕として見慣れていたのである。 保安官と言う危険を伴う職務に就くときでも笑顔を絶やさなかった彼が、いつだって優しく頭を撫でてくれた兄貴分が、 その夜は酷く疲れた様子で現れた。青ざめた頬からは血色と言うものが完全に失せていた。 「大変なことになったぜ、カッツェ兄ィ。例の指名手配犯どもがここにやって来るッ!」 応対に出た父へ擦れた声でそう伝えた兄貴分は、返事も待たずに暴風雨の中へと戻っていった。 一軒一軒を経巡り、同じことを伝えて回っているに違いない。 開け放たれたままのドアから外の様子を窺えば、村の有志たちが彼に協力して各家の門戸を叩いている。 父から檄を飛ばされ、取るものも取り敢えず一家揃って自宅を飛び出したときには、 先だって抱いた怪異への疑念は、最早、変事への戦慄に摩り替わっていた。 間近に顔を寄せてもなお話し声が途切れ途切れにしか聴こえないような豪雨の中、住民たちが沈鬱な顔を見合わせている。 その情景を見れば、どんな子どもであろうとも事態(こと)の重大さを悟ると言うものだ。 保安官の息子――父親が兄貴分なのに対して、彼は弟分だ――は、時計職人の家の幼友達と何やら話し込んでいる。 今にも泣きそうな弟分を励ますべく奮闘しているのだろう。自分と同い年とは思えないような幼友達の気配りには、 いつだって感心させられる。父の危険を案じ、沈んでいた弟分の表情も、みるみる明るくなっていった。 もうひとりの幼友達である少女は、母親に手を引かれながら村はずれを目指して歩を進めていた。 泥濘へ足を取られそうになる度に悲鳴を上げるのだが、それは思うように歩けないことへの苛立ちではなく、 背後から絶望を伴って押し寄せてくる圧迫感への焦燥であろう。 幼友達の少女は、如何にも女の子らしいフリルの傘を差している。 保安官の息子は特撮ヒーロードラマのキャラクターグッズと思しき物を、 彼に付き添う少年は、両親にねだって買って貰ったと言うブランド物をそれぞれ差して歩いていた。 少数ながらレインコートを羽織る人間も見受けられるが、雨中に出る殆どの住民は傘を差し、 その取っ手を壊れるほど強く握り締めていた。 暴風に飛ばされないよう注意を払いながら、また、幾度となく後方を振り返りながら色とりどりの傘は同じ方角へと進んでいく。 住民たちは、村外れに面した街道を目指していた。 全ては、保安官が受けた一本の電話がきっかけであった。 電話を掛けて来たのは、彼が勤務する保安官事務所(シェリフ・オフィス)である。 他の地方から逃げてきた指名手配中のギャング団が、この村落へ向かっている―― そのような目撃情報が保安官事務所へ寄せられたのだ。見誤ったわけではなければ、ギャング団は馬を駆って山道に入ったと言う。 ある程度の高さにまで辿り着けば、村落を一望の如く見下ろせる山に、だ。 通話の最中にも誤報であることを保安官はイシュタルへ祈ったに違いない。彼には愛する妻が、幼い息子がいる。 無事を願う対象は、家族だけではない。愛する故郷を銃火に晒して平気な人間など何処にもいない筈だ。 しかし、その願いは脆くも崩れ去る。受話器越しに緊急の打ち合わせを行うその最中に、突如として通話が切れてしまったのだ。 電波の送受信に左右されるモバイルならいざ知らず、固定電話(いえでん)が急に途絶えることなど有り得ない話である。 何者かの作為によって電話線が切られたと直感した保安官は、決意の表情で愛用するサーベルの鞘を握り締めた。 これは緊急事態である。 今頃は保安官事務所でも援軍を組織しているだろうが、彼らが駆けつけるまでこの村は“陸の孤島”に近い状態なのだ。 彼が勤務する保安官事務所は一箇所だけでなく広域を管轄しており、この村落とも些か離れている。 どれだけ馬を飛ばしても援軍の到着には一時間近く要すると見て間違いない。 山に入ったと言うことは、ギャング団は背後からこの村落を襲撃する計画なのだろう。 馬蹄の音を掻き消してくれる暴風雨は、この許されざる者たちにとって思わぬ僥倖と言うわけだ。 非番だったのが幸いだ――言うや制服に着替えた保安官は、村中で最も腕の立つ剣士を訪ねた。 腰に吊るしたサーベルの扱い方を伝授してくれた師匠でもある。 指名手配中のギャング団がこの地方へ逃げ込んだと言う情報は、実は数週間前には既に取り沙汰されており、 保安官経由でそのことを知った件の剣士は、住民たちへ防衛策を取るよう説得し続けていたのだ。 それなのに、村の住民たちは誰も耳を貸そうとはしなかった。 世間から隔絶されて時間が止まったかのような山村だけに、そこに住む人々も緊張感がない。 財と言うものから掛け離れた田舎などギャング団の目には何ら魅力がないと勝手に信じ込み、 逆に剣士の意見を異端のように扱い始める始末であった。 保安官も説得に加わったのだが、とうとう住民たちに腰を上げさせることは叶わなかった。 それだけにギャング団襲来を急報された剣士の怒りは烈しい。 保安官に住民たちの避難誘導を言い渡すと、得物であるツヴァイハンダーを肩に担ぎ、 無法のギャングたちがひしめいていると予想される彼の山へと単身で向かっていった。 剣士の面は、怒りと悔恨とで歪み切っており、巨剣を担ったその後姿は、悲壮にして壮烈である。 彼の妻もまた手練である。“万が一の場合”には、夫に代わって住民たちを守るべく三ツ又の槍を携え、 家族を伴って雨中に駆け出した。勿論、急報をもたらした保安官も一緒だ。 村はずれへと急ぐ道すがら合流した青年から避難(ここ)へ至るまでのあらましを聞かされたときに最も案じたのは、 山から襲い来ると言うギャング団ではなく、むしろこのことを告げに訪れた彼の疲弊である。 長大なバスタードソードを革ベルトでもって背に担う青年は、山中にてギャング団と睨み合っているだろう剣士の愛息であった。 父親が死地へ臨んでいるのだ。母が同道しているとは雖も、不安であるに違いない。 取り残された人がいないか村中を駆け回る保安官同様、この青年のことも兄貴分だと思っているのだ。 両人のことを、心の底から慕っていた。 自分に向けられる気遣いを察したのだろう。困ったように苦笑した青年から保安官の代理とばかりに頭を撫でられてしまった。 「大丈夫。父さんは世界で一番強いんだ。どんな相手にだって負けやしないよ。絶対にみんなを守ってくれる」 日常の中で当たり前のように感じてきた温もりが、頭を通じて心をも温めていった。 にわかにざわめいていた心が兄貴分の体温によって鎮まり、殺伐とした緊張も解きほぐされたのだが、 あるいはそれこそが悲劇のはじまりだったのかも知れない。最悪の事態は、決まって油断が生じた瞬間に訪れるものである。 「父さんのツヴァイハンダーは無敵なんだ」。父の武名を青年が語り終えないうちに後方――村を見下ろす山の方角から、 数限りない馬の嘶きと銃声が豪雨を裂いて響き渡り、数多の傘が宙を舞った。 ……そこから先のことは、あまりよく憶えてはいない。 自分がどこに身を潜めて、どうやって生き延びたのかも定かではなかった。 もしかすると、脳自体が記憶することを拒んだのかも知れない。気付いたときには、家族と共に村の広場に立っていた。 台風一過であろうか――呪わしく思える程に燦々と照り付ける朝日のもとで、乾き切らない泥水の上で、 村の誰もが立ち尽くしていた。 色とりどりの傘が、あちこちに散乱している。原形を留めている物は皆無で、 銃弾によって無数に穴を穿たれた物、骨組みしかないような残骸が、そこかしこに散らばっている。 赤く染まった泥の上に、涙を吸い続ける濘(ぬかるみ)の上に……。 あたりを見回せば、いつ駆けつけたのか全くわからなかった保安官事務所の援軍が、 ギャングたちの亡骸を幌馬車――『ミートワゴン』などと言うスラングを持った物だ――へと収容していた。 ミートワゴンに収容されず、泥濘上へ敷かれたビニールシートにて安置されているのが、つまり村の犠牲者と言うことだ。 亡骸には白い布が掛けられている為、背格好のみで個人を見定めることは難しい。 本来ならば千差万別である筈の着衣は、泥と赤黒い染みがこびり付いている所為か、いずれも同じ物のように見えてならなかった。 ただひとつの判断材料は、白い布の上か、あるいはその近くに添えられた各人の遺品である。 白い布で覆われた亡骸の中には、住民たちを守る為に命を賭してギャング団に立ち向かい、 その果てに散った戦死者の物も含まれている。 ツヴァイハンダーと三つ又の槍は隣り合わせに置かれており、激戦の最中に鞘が紛失されてしまったのだろうか、 サーベルは抜き身のままで持ち主の胸元へ添えられていた。 殉職した仲間を悼む保安官たちの声は、おぼろげながらも憶えているのだが、 その輪の中に彼が――弟分が混ざった様子を、どうしても想い出せなかった。 サーベルの隣には女性の物と思われる亡骸が安置されている。 ……それならば、幼友達の少年か、自分の父が弟分に付き添っている筈なのだが、誰の姿も瞼の裏には描けなかった。 断片的にしか残っていない曖昧な記憶の中、ただひとつだけ鮮明に憶えているのは、 杖代わりのバスタードソードでもって血だらけの身を支える兄貴分の姿―― 今や、この世界で『ただひとりの兄貴分』となってしまった青年の姿だった。 「お前たちが……腐り切ったお前たちが……どうしてのうのうと生きているんだッ!?」 亡骸に添えられたツヴァイハンダーを取り上げ、呆然と立ち尽くす住民たちへとその剣先を向けた青年は、 血を吐くようにして怒りと憎悪とを迸らせていた。 その絶叫を、故郷を共にする人間として決して忘れてはならない血の彷徨を、 遥か遠い日の追想ではなく、現在(いま)、立つ決闘の場にて聴いたような気がして、そして―― * 「のうのうとしていられるのも今のうちだッ! 腐り切ったお前たちは――お前たちだけはァッ!」 中空に飛び上がるや否や、闘気で満たされたツヴァイハンダーを掲げ、 ここに稲妻を集束させると言う神業をやってのけたフェイには、さしものイーライも驚愕を禁じ得なかった。 言うまでもなくフェイは我が身を避雷針としたわけではない。フェイより発せられた闘気と融合した稲妻は、 まさしくツヴァイハンダーを光の剣へと進化させている。 雷光の力を帯びたこの技こそが、ソニエたちが叫んだ奥義『天帝醒獣煌(てんていせいじゅうこう)』なのであろう。 ここに至って、ようやくイーライは雷鳴を聞いた途端にフェイの面が笑気で歪んだ理由を理解した。 自身の持ち得る最大の奥義を投じることが出来ることで余裕を得たわけだ。 結局、その余裕も長くは保たなかったのだが、他者に誇っても驕りにならぬ空前絶後の奥義であることに変わりはない。 如何にディプロミスタスが優れたトラウムであっても、フェイの奥義が相手では圧倒的に不利であった。 形状はともかくディプロミスタスとは肉体を金属化させるトラウムである。雷光の力を帯びた技との相性は最悪だ。 大弱点とも言うべき雷撃をまともに喰らってしまえば、まず間違いなく即死させられるだろう。 変身を解いて生身で受けたとしても、内臓に至るまで全てを焼き尽くされて終わりである。 どのようにして雷光を解き放つのかは知れないものの、直撃を受けないよう避ければ済むだけのことだ――が、 問題は、未だに意識を闇に囚われているアルフレッドである。 フェイが天帝醒獣煌とやらを放つとすれば、標的は自分たちの居るこの範囲と見なして間違いなかろう。 イーライ当人には逃げ切る自信があるものの、身動きの取れないアルフレッドはどうなると言うのか。 偏執的なまでにアルフレッドの命を狩ろうとするフェイが、この好機を逃すわけもない。 待ち受ける結末は、ただひとつ。雷光の餌食となって黒漕げにされるのみだった。 お互いがお互いを敵視しているのだ。見捨ててしまっても何ら問題のない相手なのだ――その筈なのだが、 イーライはアルフレッドを捨て置くと言う選択肢を最初から用意していなかった。 それどころの話ではない。ディプロミスタスによって自身を避雷針へと変身させるべきかと、そこまで彼はシミュレーションしていた。 少なくとも雷撃の標的が自分だけに絞られたなら、最悪の場合、アルフレッドだけは助かるのだ。……助けられるのだ。 (――クソが、ダメかッ! 一回でタネ切れになりゃいいが、連発出来たら最悪だ。次の分までは面倒見切れねぇッ!) 様々な状況、リスクを想定して対応策を練ろうとするイーライだったが、 どれだけ頭脳(アタマ)を働かせても雷撃を打ち破るような手立ては捻り出せず、 最後には八つ当たりのように「なんでオレがこんな苦労……ッ! てか、いつまでもグースカ寝てんじゃねぇよッ!」などと 意識のない毒づく始末だった。 八方塞となった場合、最後に頼れるのは、己の肉体のみ――何ともシンプルな結論に行き着くイーライではあったが、 実のところ、胸を張れるだけの勝算はなかった。 こうなったからにはアルフレッドを抱えて逃げるしかあるまいが、人をひとり担う分、敏捷性が損なわれてしまうのだ。 体重の加算によって身のこなしが鈍くなるのは当然だが、意識不明者を担うことのほうがスピードの低下よりも遥かに問題だった。 担うのは物ではなく人間だ。人間ひとりを命まで含めて預かると言うことは、神経をすり減らすのに等しい。 そこに気を取られて判断を誤ったなら、アルフレッドを助けるどころか、ふたりまとめて黄泉路送りである。 逃れる術を求めて右往左往するイーライの様子がたまらなく可笑しかったのだろう。 鼻先を折ってやったとばかりに嘲笑を浮かべたフェイは、万有引力の法則に身を委ねながらもツヴァイハンダーの柄頭へ足を掛けた。 蹴りでもって大地に鉄杭を打ち込むかのような体勢へと転じた彼の手は、革ベルトを手綱の如く握り締めている。 雷光纏うツヴァイハンダーは、地上からは巨大な魔弾のようにも見えた。 その魔弾に飛び乗ったフェイは、地上のイーライ、そして、アルフレッド目掛けて一気に急降下するつもりなのだ。 「狙いは外さねぇってかッ! 考えやがったなッ!」 てっきり地上に雷撃を降り注がせる技と予想していたイーライは、この原始的な突撃には些か面食らってしまった。 しかし、相手の動きを完璧に視認し、確実に最大の攻撃力を叩き込めるこの奥義は、原始的ながらも実に理に適っている。 手綱代わりのベルトを繰ることによって落下地点を自在にコントロールし得るのだろう。 それはつまり、イーライの退路が塞がれたことにも等しかった。アルフレッドを抱えて逃れようとしてもフェイは精密に追尾してくる筈だ。 「こうなりゃヤケクソだァッ! リトルリーグのホームラン王、一本足打法のイッちゃんと呼ばれたオレをナメんなよッ!?」 右と左の五指を組み、そこを基軸として三メートルはあろうかと言う巨大な金棒を作り出したイーライは、 首位打者のような姿勢(フォーム)でこれを構え、次いで右足を高く上げた。 どうあっても逃れられないのであれば、バットに見立てた金棒でもって雷光纏うツヴァイハンダーを迎え撃ち、 ホームランよろしく弾き返すことに決したのだ。 起死回生の秘策と呼ぶには場当たりにもほどがある力技で、所謂、ホームラン王時代を知るレオナですら 「一本足の秘打は隣町のチームに破られたでしょッ!? 苦手なザトペック投法、まだ克服してないでしょ!?」と呆れの悲鳴を上げていた。 ……悲鳴はともかく、明らかに場違いなことを口走ってしまったあたり、彼女自身もパートナーの窮地に動揺している様子だ。 雷光纏うツヴァイハンダーに乗ったフェイは、もう間もなく地上へと降臨する。 タイミングを図るように金棒を構えるホームラン王――変化球が弱点のようだが――の意図に気付いたフェイは、 今度こそ勝利を確信し、「抵抗は無意味だッ! 神の剣から逃れる術などないッ!」とツヴァイハンダーの前に嘲笑を降り注がせた。 アルフレッドを庇いながらフェイを迎え撃たんとするイーライも、決闘を見守るエルンストやフィーナたちも、 誰しもが万事休すと心臓を凍り付かせていた。 本来、フェイの勝利を喜んで然るべき筈のレオナとケロイド・ジュースなどは、 これから起こるだろう惨状を直視できず、気早にもリングから目を背けている。 「天帝醒獣煌ォォォ――ッ!」 フェイから発せられた裂帛の気合いと共に雷光纏うツヴァイハンダーは地上へと突き立てられた――が、 果たしてイーライの抵抗は脆くも崩れ去ったのか、アルフレッドもろとも焼き尽くされてしまったのか、 攻防の行方を確かめることは、観客席に座す人間には叶わなかった。 剣先が地面に突き刺さるのと同時にツヴァイハンダーを中心として円形の結界が張られ、 そこから夥しい量の稲妻が天へと還っていったのだ。 落雷の逆回し、“昇雷”と呼ばれる現象が発生しているのだった。 観客席とリングとが稲光の壁で隔絶された今、誰の目にも決着の行方は知れなかった。 「……今のが……本当の切り札……『滅朋陣(めっぽうじん)』……奥義の派生技だが……まさか……ここまで……やるとは……」 筆舌に尽くし難い光景を目の当たりにして絶句するフィーナたち――ファラ王だけは手拍子して興奮しているが――に向けて、 これこそがフェイの最後の切り札であるとケロイド・ジュースは詳らかにした。 正式名称は、『天帝醒獣煌・滅朋陣』。ツヴァイハンダーに帯びた雷光を闘気と共に一気に解放し、 これによって発生した昇雷でもって視界に入る全てを消滅させると言う恐るべき絶義である。 万が一、初撃を外したとしても標的が間合いを離す前に逃げ道を奪ってしまうこの技は、 成る程、読んで字の如く“滅朋陣”である。 視界に入る物全てが攻撃対象と言うからには、傍らに立つ友をも容赦なく巻き込むことだろう。 誰もが最悪の事態を、……アルフレッドとイーライが消滅したと確信せざるを得なかった。 昇雷は既に収まっており、眩いばかりの烈光も余韻が失せ始めていた。 あと数秒と経たない内に世界は元通りの彩(いろ)を取り戻す筈である。 さすがにリングの損壊は著しい。昇雷の媒介となったツヴァイハンダーを中心として結界の張られた一面が焼け焦げ、 闘技場そのものを燻すかのような黒煙が立ち上っている。 その中心に屹立するのは、フェイただひとりである。 ……しかし、ツヴァイハンダーのグリップへと手を掛ける彼の表情(かお)は勝利の歓喜(いろ)とは程遠く、 目と口とを開け広げて狼狽していた。震える頬が表すものは、狼狽と言うよりも戦慄に近い。 懸命に気を張ってツヴァイハンダーを引き抜いたフェイは、振り向きざまに再びこの巨剣を構え直し、 そこに見据えた存在へ「……どこまで僕を虚仮にすれば気が済むんだ……」と呪詛の言葉を叩き付けた。 ツヴァイハンダーの剣先が向けられた方角に立つ存在を、皆が待ち望んでいたことだろう。 思わず手を取り合ったフィーナとマリスも、顔を綻ばせたローガンとジョゼフも、 肩を組んでガッツポーズをしたニコラスとネイサンも、安堵の溜め息を引き連れて特等の椅子へ腰掛けなおしたエルンストも―― 誰もが同じ名前を呼んでいた。 「アル――」 ――そう、先程まで意識を失っていたアルフレッドが再び立ち上がり、 イーライと共に昇雷の射程圏内へ逃れていたのである。 案の定、イーライに殴打された際に頭から出血があったようだ。眉間や頬には凝固した血の塊がこびり付いている。 だが、両足はしっかりと大地を踏みしめている。意識の朦朧や混濁が見られるような状態ではなさそうだ。 完全に復活したと認めて、間違いあるまい。 「アル――じゃねぇよッ! なんだよ、このオチ!? どうなってんだよ、こいつはッ!?」 そのように吐き捨てたのは、アルフレッドに連れられてフェイの背後へと回り込んだイーライである。 「イーライと共に昇雷の射程圏内へ逃れていた」、「アルフレッドに連れられてフェイの背後へと回り込んだ」などと 些か抽象的に表現してきたのだが、現在、アルフレッドとイーライの置かれた状況と言うか体勢は、 何とも説明し難いものがあった。 つい数分前までフェイに真っ向勝負を挑もうとしてイーライは、どう言うわけか、そして、いつの間にか、 アルフレッドに抱きかかえられていた。 それも背と膝の裏に腕を回して抱きかかえると言う、所謂、『お姫様だっこ』と呼ばれる体勢なのである。 このような体勢を見せ付けられて、フィーナが黙っていられよう筈もない。 タスクがティッシュを取り出す前に鼻血を噴出させた挙句、共にアルフレッドの生還を喜び合っていたマリスの顔面を 真っ赤に染めると言う狂態を演じてしまった。 「不意打ちとは卑怯なりィッ!」とは、鼻血を噴き出す寸前に張り上げた一言だが、 本来、これはマリスのほうが漏らすべき嘆息(こと)である。無論、マリスが口にする場合はニュアンスが大きく変化するのだが。 フィーナの奇癖はさておいて――アルフレッドがどのように復活し、天帝醒獣煌・滅朋陣を避けるに至ったのか、 その一部始終をフェイの双眸は完全に捉えていた。 雷光纏ったツヴァイハンダーを打ち返すべく、バットに見立てた金棒をホームラン王ことイーライが振りかぶったその瞬間、 矢の如き超速でもってアルフレッドが立ち上がり、かと思えば、足の裏にてホウライを炸裂させ、 イーライを抱き上げるや否や、その場から一瞬にして離脱していったのだ。 逃してなるかと咄嗟の判断で滅朋陣まで発動させたのだが、結果的には打つ手が全て失敗したことになる。 相手は昇雷が及ぶ範囲の外にまで逃れていたのだから大失敗も良いところだ。 (アルフレッド……アルフレッド……アルフレッド……アルフレッド……アルフレッド……アルフレッド……アルフレッドォォォッ!) 奥義と絶義を同時に失敗したフェイの心は、絶対の自信を持つ切り札が破られたことへの狼狽から、 自分のやりたいことを悉く握り潰していくアルフレッドへの怒りに塗り替えられつつあった。 行動や計画だけならいざ知らず、剣匠とまで畏怖される武技まで貶めたアルフレッドは、 離脱した先で早くもイーライを相手に漫才じみたやり取りに興じている。 その余裕ぶった態度――濁った目には、このように映るらしい――が、フェイの神経を一層逆撫でしていくのだ。 とは言え、漫才と見なされてもおかしくないことをアルフレッドが仕出かしたのも事実ではある。 自分の手の中にあるのがイーライだと認識したアルフレッドは、いきなり表情を曇らせ、この憎むべき怨敵を泥土へと放り投げた。 反射的に抱きかかえて離脱しておきながら、今の今まで自分が助けた相手がイーライだったとは気付いていなかった様子だ。 「……どうしてお前がここにいる?」 「どう言うボケかましだぁッ!? 手前ェで手前ェのボケがわかっちゃいねーのかッ!? オレはなんだ、恥のかき損かよッ!?」 堪ったものではないとはこのことで、イーライは目くじらを立てて激怒した。 身体を張って庇おうとした相手から逆に助けられ、呆気に取られている内に投げ捨てられてしまったのである。 しかも理由が人違い。これで怒るなと強いるのは、些か酷な話であろう。 片手を軸にして一気に跳ね上がったイーライは、アルフレッドに対してあらん限りの憤怒を、 フェイに対して追撃への警戒をそれぞれ向けつつ、ジリジリと両者から間合いを離していく。 「あんたもまぁ気苦労が絶えねぇなぁ、ええ、カスケイド。その名の通り、真っ逆さまに転げ落ちていやがるぜ」 焼け焦げた箇所を囲むようにして、アルフレッドたちと再び三角形を作ったイーライは、 その一角を担うフェイに向かって厭味を飛ばした。 転落を揶揄されたフェイは、狂気じみた眼をアルフレッドに叩き付けている。 「……お前に僕の何がわかる……」 「巷に溢れかえってる噂に耳を傾ければ大概のことは」 「有名税を含んだような、世にもくだらない噂話を鵜呑みするとはな。笑わせてくれるのは果たしてどちらだか!」 「火の無ぇトコに煙も立たねぇっつーだろ。ンな噂が流れる時点で、あんたの器なんざ知れるってもんだぜ」 「………………」 「そんなに悔しかったかい? 手前ェを追い出したグリーニャの人間が、手前ェを踏み台にしてくのがよ」 「――ッ!」 フェイにとって誰にも触れられたくない深層をイーライは無慈悲に抉っていく。中指まで立てて煽り立てる。 奥の手を破られた直後と言うこともあって神経の尖っているフェイには、イーライの挑発は一等堪えるもの。 「亢明剣(こうみょうけん)ッ!」と絶叫したフェイは、ツヴァイハンダーを天に翳して稲妻の力を集束させた。 耳を劈く激音を引き連れて降り注いだ稲妻は、再びツヴァイハンダーの刀身を烈光でもって満たしていく。 闘気と稲妻の融合によって生じた烈光は、ツヴァイハンダーを媒介としながら長大な刀身をも超越して間欠泉の如く湧き起こり、 やがてフェイの掌中に一振りの剣を創り出した。ツヴァイハンダーとも異なる光の剣を、だ。 エルンストの得物である断獣刀ことアルジャナ・ドゥルヴァンには及ばないまでも、 ツヴァイハンダー本来の長さは遥かに越えている。爆ぜるようなスパークを繰り返す光の刃には、 おそらくは触れただけでも致死量に達する電流が迸っていることだろう。 これこそが亢明剣なる秘義の完成形であった。 「捻じ曲がった性根には、何を説いても無駄かッ!」 亢明剣――ツヴァイハンダーを媒介として生み出された光の剣を渾身の力で振り下ろすフェイだったが、 いくら自身の武器を強化したところで直撃させられなければ意味もない。 単調な縦一文字を容易くかわしたイーライは、親指のみ立てた握り拳をひっくり返し、地獄へ堕ちろと挑発して見せた。 なおも繰り返される毀損に対し、フェイよりも先に怒声を張り上げたのは、アルフレッドだった。 「ボルタ、貴様、いい加減にしろ! これ以上、兄さんを侮辱するつもりなら許さんぞ!」 フェイに襲い掛かる誹謗を食い止めようとイーライに立ち向かうアルフレッドは、 追憶の闇の中で見た幼い日の自分が真隣に立っているような心持ちである。 フェイの奥義が降り注いだ瞬間(とき)、咄嗟にイーライを抱えて死地より脱したのだが、 本当は、このようなアウトローなどではなく兄貴分を助けるつもりだったのだ。 少なくともアルフレッドの身体はフェイを救出するべく動いていた筈だ。 脳天に被った強撃によって意識が混濁する中、追憶の闇へと沈んでいたアルフレッドは、 意識を取り戻した瞬間に聴こえた雷鳴を、呪わしい日の暴風雨と錯覚してしまったのである。 錯覚を起こす条件が、この闘技場では整っていた。 雷鳴も、激しい雨音も、遠くに聞こえる馬の嘶きも、そして間近に感じる血の香りも―― 奇跡的と言っても過言ではない程に呪わしい日と合致している。 思いがけず過去の世界へ浸ることになったアルフレッドは、再び意識を現実へと引き寄せた直後には、 夢と現の境界があやふやになっていたのだ。 天から降り注ぐ稲光は、ギャングの襲撃を告げる凶兆だ。そのような混乱をも伴っていたアルフレッドは、 何か長大な物を持っているように見えたイーライのことをフェイであると、 ……ツヴァイハンダーを振り翳して愚者たちへ怨念を吐き掛けた青年剣士であると錯覚し、 次の瞬間には両腕を伸ばしていた。 かつての不幸からフェイを助けたくて、どうしても兄貴分を助けたくて――取り戻せない過去のやり直しを希ったとき、 アルフレッドの体は反射的に動いていたのだ。 全ての錯覚の原因となった稲妻がフェイの手によって生じたことは、大いなる皮肉としか言いようがない。 『のうのうとしていられるのも今のうちだッ! 腐り切ったお前たちは――お前たちだけはァッ!』 闇の底からアルフレッドの意識を現実へと引き戻したのは、フェイが発したこの怒声である。 呪わしい日と殆ど変わらぬ激烈な呪詛でもって鼓膜を、脳を揺さぶられたからこそ、 アルフレッドの意識は覚醒したと言って良い。 あの日と同じことがフェイの口から発せられたことが、アルフレッドには辛くて仕方がなかった。 その言葉を反復させたイーライは、言わば不倶戴天の宿敵である。 光の剣を避け、反撃の構えを取っていたイーライの懐に潜り込んだアルフレッドは、 自身の左足でもって彼の右足の甲を思い切り踏みつけ、まず身動きを封じた。 続けざまに両掌からキャノンボールを投擲し、こちらに向かって猛進してくるフェイの足元を脅かす。 丁寧にも「すみません、兄さん!」と詫びるあたり、キャノンボールの連発は不本意なものだったらしい。 「誰に何を詫びてんだ? てめぇ、まだこのエセヒーローに幻想(ゆめ)視ちゃってんのかよ? 病気じゃね? 怖ェよ!」 「煩い、黙れッ!」 フェイはともかくイーライに対して容赦をする理由はない。 踏みつけにしているイーライの右足から無数の針が張り出し、左足が貫かれてしまったが、 アルフレッドは激痛走るのも構わずに一層力を込めた。 少なくとも左足を貫いている最中はイーライもこの場から離れることはあるまい、と。 このとき、既にアルフレッドの右拳はイーライの腹部へと押し当てられていた。 しくじった――右足から張り出した針を引っ込め、それと同時に全身を金属化させ、 これから襲い来るだろう衝撃を防ごうとするイーライであったが、アルフレッドの接近を許した時点で結果は決まっていた。 全身の力を拳に注いで標的を粉砕する寸勁――ワンインチクラックを叩き込まれたイーライは、 爆発的とも言える衝撃によって後方へと吹き飛ばされた。 ローガンとのトレーニングによって大幅に筋力が強化されたアルフレッドのワンインチクラックは、 例えばフツノミタマが喰らったときとは比べ物にならない程、破壊力も高まっている。今や鉄骨をも粉砕することだろう。 ディプロミスタスを発動させている最中ならばいざ知らず、生身へ喰らうにはあまりに危険だった。 喉を焼きながら血が込み上げてくる。これによって内臓にまでダメージが達したことを悟るイーライだったが、 痛手を省みている余裕すら今の彼には許されていない。 吹き飛ばされた先には、光の剣を握り締めたフェイが屹立している筈なのである。 咄嗟の判断で右腕を鉄杭に変身させ、これを地面に埋め込んで慣性の法則に逆らったイーライは、 横殴りに圧し掛かる負荷をも減殺させるべく中空にて球体の金属と化し、次いでようやく人間の容貌(カタチ)へ戻った。 全身金属化を持続させているあたり、フェイの雷撃よりもアルフレッドの打撃のほうが厄介であると判断した様子だ。 これは、物理的な攻撃に対する防御策である。 その間にもフェイは次なる攻撃の準備を進めていく。 アルフレッドとイーライが在る方角へと亢明剣の尖端を向けたフェイは、 高らかに「何度も奇跡が起こると思うなッ! 今度こそ消しズミにしてやるッ!」と勝利を預言、いや、宣言した。 「亢嵐・涛牙(こうらん・とうが)ッ!」 吼え声と共に亢明剣から無数の稲妻が迸り、アルフレッドとイーライに襲い掛かった。 ツヴァイハンダーに纏わせていた雷光を再び解放しようと言うのだ。 稲妻が放出されるにつれてツヴァイハンダーを満たしていた烈光も消え失せていったが、 前方を覆い尽くす程の雷撃の前には逃げ場などなく、結果的には同じ――忌まわしい虫けらを皆殺しにした後、 雷光の力を解く手間が省けると言うものだった。 迫り来る雷撃を見据え、双眸を鋭くさせたアルフレッドに対して、イーライのリアクションは全く正反対。 待ってましたと言わんばかりに右腕をフェイに向かって突き出し、続けざまにその前腕から天を衝く突起を張り出させた。 一見すると、槍の穂先のようにも思える物だった。 フェイにとって信じられない――否、信じたくもない怪異が起こったのは、イーライの右前腕に不可思議な突起が現れた直後である。 見れば、ツヴァイハンダーから迸った無数の稲妻がイーライの右前腕に有る突起へと集束されていくではないか。 つまりイーライが作り出した突起とは、避雷針だったわけである。 「あ……ああ……ッ……!」 これでは皆殺しどころの話ではない。たったひとりを仕留めることすら自慢の亢明剣には叶わなかったのだ。 またしても大技を封殺されて狼狽したフェイは、だからこそイーライの右手の変化をも見落としてしまった。 イーライは右の掌を網状に変身させ、フェイに向かって投げ掛けていたのである。 鋼鉄の網にはツヴァイハンダーと同じように雷光が宿っていた。 最初、フェイの奥義が雷撃の放出であると予想していたイーライは、頭の中でその対策を練り上げていた。 原始的な突撃となった天帝醒獣煌が相手では出番がなく、お蔵入りかに思われたのだが、 ここに来て復活のチャンスに恵まれ、ようやく御披露目となった次第だ。 避雷針によって集めた稲妻を、そっくりそのままフェイを返り討ちにする武器へ転化してしまおうと言うのがイーライの奇策だった。 結果は、大成功である。ウォール・オブ・ジェリコでもって防ぐ間もなく投網に捕まったフェイは、 自らが放った雷撃を浴びせられる羽目となり、言葉にもならないような悲鳴を上げて膝を屈した。 「あんたの芸当よォ、手品としちゃあ面白ぇかも知れねぇがな、オレにゃあ通用しねぇぜ? オレっつーか、マジに強ェヤツにはな」 「………………」 「オレのカミさんなら欠伸しながら避けるだろうぜ。……てめぇが嫌いで嫌いで仕方ねぇあの坊ちゃんも同じさ。 坊ちゃんのおトモダチにだって、てめぇは敵わねぇよ」 「おの……れぇ……ッ!」 「歯軋りするので一杯いっぱいだろ? これが英雄サマだってんだから世も末だな」 「………………」 さすがにイーライ本人も無傷では済まなかったが、しかし、それでも痛み分けにはなっていない。 イーライが被るダメージは最小限だったが、対するフェイの側は無防備のままで稲妻を直撃されたのだ。 自分の攻撃が自分に跳ね返ってくるとは、さしもの剣匠には予想がつけられまい。 右の掌を元の状態に戻したイーライは、感電したまま動けなくなっているフェイの鼻先を右の爪先でもって蹴り上げた。 それは、フェイに対して屈辱を刻み込む一撃だった。 「どっちが笑える存在なんだか訊いてたなぁ、あんた。キレる原因にフォローされてる自分のこと、 実は笑えて仕方ねぇんじゃねーの? ……あぁ、悪ィ悪ィ、そりゃ笑えねぇよなぁ、惨め過ぎてよ」 打ちひしがれながらも鼻血を拭い、ツヴァイハンダーを構え直すフェイへと中指を立てたイーライは、 挑発を重ねるようにして唾を吐き捨てた。 背後からはアルフレッドの怒声が聞こえてくるが、そんなことはイーライの知ったことではない。 イーライの心中では、最早、フェイなど取るに足らない道縁の小石程度の存在でしかなかった。 ←BACK NEXT→ 本編トップへ戻る |