4.銃器流入問題


 ギルガメシュによる緊急放送が終了してから僅かな時間が経過した。佐志の役場では守孝も加わって話し合いが再開された。
 とは言っても、先程までのような難民支援の議論ではない。世界各地に流された件の放送の真意について、である。
 「何かしらのメッセージが隠されている」、「いや、あれは単なる演出。それも質の悪い」、
「だとしたら一人だけ仮面を取らなかったのはどういう事か。何か意味があるのでは」、
「大方、あんなバカバカしい事につき合い切れなかっただけでは」と言った具合に様々な意見が飛び交った。
 アゾットの“目論見”に踊らされたと言うのは正確ではなかろう。発言こそ活発ながら一行は努めて冷静であった。
何よりアルフレッドが平常心を欠いていない。
 エルンストの降伏をギルガメシュが大々的にアピールしてくるのは織り込み済みだったが、
しかし、檻まで用意するとはいささか予想外であった。
 視覚的にインパクトの大きなことを仕掛けられた場合、単にエルンストの映像を垂れ流すよりも
エンディニオン諸勢力の動揺を誘えるわけである。
 そうなれば、連合軍の気勢が削がれてしまうのではないかとアルフレッドは懸念していた。
エルンストの降伏と連合軍の解散は作戦の一環であって、裏では着々と反攻の準備が進んでいる。
その勢いが鈍っては困るのだ。
 表立って動くことが出来ない以上、動揺を来たした勢力には地道な説得を続けていくしかない。
方法としては多大な時間を要するものの、自軍の意図を敵に気取られない為には、それこそが最適なのである。
「何とも気の長い話だ」とヒューは笑い、アルフレッドも「自分で言い出しておいて何だが、全くそう思う」と、
改めて困難な道程に思いを巡らせていた。

 そんな時にジョゼフのモバイルが着信音を鳴らした。
 彼のモバイル宛に直接電話がかかってくることは極めて珍しい。平素であれば、先ずラトクのもとに連絡が入り、
これを取り次ぐ形を取っている。マユですらジョゼフのモバイルを鳴らすことは稀であった。
 ラトクすら伴わず、独りでいそいそと退室していくジョゼフの後姿をアルフレッドは不思議そうに眺めていた。
 それから間もなくドアから顔を覗かせたジョゼフは、芝居がかった咳払いと共にアルフレッドを呼び、次いで手招きした。
ラトクではなくアルフレッドを、である。
 ますます怪訝の念を強めるアルフレッドだったが、ラトクから「会長のご指名だ。おめでとう」などと背中を押され、
首を傾げつつもジョゼフの待つ廊下へと向かっていった。
 ジョゼフの手にあるモバイルは現在も通話状態が続いているらしく、送話口は皺くちゃだらけの手で押さえられていた。

「――アルよ、突然じゃがギルガメシュの幹部がお主と話がしたいそうじゃ」

 裏工作の進歩状況の確認か、あるいはマユあたりからの連絡かと言う想像はこの一言で吹き飛んだ。
 ギルガメシュの幹部からの電話――開口一番でそう話されては、さしものアルフレッドとて事態を呑み込むのに
少々時間を要した。
 本当に突然すぎて「何故?」という言葉すら中々出てこなかったが、そんな彼の反応を愉しんでいるかのように、
ジョゼフは口の端を若干嬉しそうに吊り上げた。

「実はのう、この御仁、今のギルガメシュのあり方に疑問を抱いておっての。
一人でも多く確実に戦力となりそうな者を求めているのだそうじゃよ。
そういう話ならばとワシはアルを推したのじゃ。すると先方はすぐにつないでくれという事じゃった」
「にわかには信じ難い話ですが…… 確かにギルガメシュは各地の通信回線を押さえていますから、
御老公に連絡を取るのは容易いでしょう。しかし、何を血迷って突然そんな事を言い出したのか。
正気であればむしろ罠だという可能性のほうが高いと思われますが」

 ようやく頭の働きが戻ってきたといった感のあるアルフレッドは、ふと浮かんだ疑問をジョゼフに伝えた。
 疑おうと思えばいくらでも疑えるが、慎重になっていなくともこうやって急にギルガメシュの幹部が
組織の方針に反する話を持ちかけてくるとあっては不安になるというもの。
 エンディニオンにおいて確固たる地位を築いているルナゲイト家と独断で交渉するだけならまだしも、
露見すれば自分の地位どころか命すら危うくなるまねをわざわざするのかと疑問に思うのも仕方は無かった。
 ギルガメシュ殲滅を目論むアルフレッドにとって、そこの人間と話ができれば何かと都合が良いのは明らかだが、
相手の方から旨い話があるのはあまりにタイミングが良過ぎると、疑惑の念はどうしても捨て去れなかった。

「何じゃ? 仮に罠だとしても、ワシがその程度のことを見抜けないとでも思うておるのか?」
「あ、いえ…… 決してご老公を疑うわけではないのですが……」

 アルフレッドがそう思うのも仕方ないだろう考えつつも、ジョゼフはそのように自信を持って言い切った。
確かに権謀術数に長けたジョゼフがむざむざと罠にかかるというのは考えづらいが、
それでも当面の敵であるギルガメシュが相手では万が一の事態を想定せずにはいられなかった。
 それに、どうしてジョゼフが自分を推薦したのかも疑問だった。

(……第一、幹部とやらはどこで御老公との連絡方法を知ったんだ? いや、むしろ御老公のほうから――)

 おそらくはジョゼフが自分のあずかり知らぬところで着々とギルガメシュに対抗する策を打っているのだろうが、
悪く言えばそれは自分を手駒として使用するものではないだろうか、
そうなると彼の策ははたして自分たちのためになるのか、などと考えずにはいられなかった。
 歯切れの悪い言葉を聞きつつ、「そんなに気がかりなら自分自身で確かめてはどうじゃ」と
ジョゼフは返事を待たずにアルフレッドへとモバイルを放り投げた。

「あんたしゃんがアルフレッド・S・ライアンかにゃ? 初めましてだにょ、わたきゅしはギルガメシュのコールタンだにゃ」

 こうなっては通話を断るわけにも行かない。やむなくモバイルを耳に押し当てたアルフレッドは、思わず自分の正気を疑った。
 どんな人間が連絡をしてきたのかと思っていたが、電話口から聞こえてきた声は舌っ足らずであり、
さらに女性というよりは少女ではないのかと思えるような声質。
 全くの予想外のことに面食らったアルフレッドは、不意に異空間にでも迷い込んだような感覚に包まれた。
 今自分が置かれている状況を把握するのに多少の時間がかかったが、それでも、これが罠だろうと何だろうと、
今は相手の出方をうかがうことだと、電話の向こうにいる相手が自分たちの去就を左右しかねない人物だと言い聞かせて、
努めて冷静にコールタンに話しかけた。

「何の用だと聞くべきなのだろうか。それとも、どういうつもりだとでも尋ねるべきか」
「話に聞いていた通りにぶっきらぼうなんだにゃ。こういう時は『お電話承りました』くらい言うのが年長者へのマナーだにょ」

 一体ジョゼフは自分のことをどう紹介したのだろうかとか、
年長者と言われてもその声では冗談にしか聞こえないだとか、どうでもよいことが頭の中をよぎっていった。
 だが、ここでそんな事に心を砕いている場合ではない。
まずはどうしてギルガメシュの、それも幹部の地位にある人間が自分に渡りをつけようなどと思ったのかを尋ねてみた。

「企業秘密だけど、ギルガメシュのデータベースには色々入っているんだにょ。
サービスでいうと、アカデミーのデータを流用しているんだにょ。
しょれとグドゥーでの戦い、しゃらには今回のテムグ・テングリの降伏劇にゃんかの情報を複合させていくと見えてくるにょ。
どう見てもあんたしゃんが日に陰に活躍していたのは明らかだにょ。
依頼をしゅるには充分に信用できる人物だと判断したにょ。ジョゼフしゃんも太鼓判を押したにゃ」
「御老公も口が軽い…… しかし、随分と買いかぶられたものだ、という気がするが。
謙遜しているわけじゃないが、俺くらいの人材ならこの世界には掃いて捨てるくらいいるだろう? 
わざわざ御老公にまで話を聞いてまで俺に連絡してくるほどのリスクを冒すほどではないのでは?」

 「チンケな船で軍艦沈没させといて、買いかぶりにゃんて言い逃れは苦しいにょ?」と、
電話の向こうのコールタンはケラケラと笑っている。

「もう一つ重要にゃのは、あんたしゃんが身分上は第三者だという事だにゃ。
才能があっても、テムグ・テングリやハイランダーとか言う傭兵連中、グドゥーの成金には依頼できにゃいにょ。
さすがにこっちにも立場というものがあるにょ。他の勢力は候補外。
しょの点、あんたしゃんはテムグ・テングリに味方しているとはいえ、どこにょ組織に身を置いているわけでもにゃいから、
わたきゅしが頼み事をしても問題はにゃいはずだにょ」

 完全に納得できたわけではないが、それでも彼女の言い分を聞いている限りでは別段問題は無いようだ。
 それから、面識の無いはずのアルフレッドにコールタンが興味を示したというのも分からないではない。
 グドゥーでの一戦でギルガメシュ軍に局地的にせよ勝利を収めたのも、
アゾットの想定内とはいえテムグ・テングリを消滅の危機から救ったのも、アルフレッドがいたからという事実には、
各地に残された断片的な情報を集め、それをギルガメシュのデータに収められている彼の記録をすり合わせれば、
辿り着く可能性は決して低くはないだろう。
 流用とはいえどうしてギルガメシュがアカデミーの記録を有しているのかが気になるところだが、
ボルシュグラーブやフランチェスカが所属している組織なのだから、少なからずアカデミーと関係があるのだろう――と
アルフレッドは強引に言い聞かせた。
 その辺りは今は考えないこととして、ともかくエルンストと心安からぬ間柄とはいえ、
あくまでテムグ・テングリという組織にアルフレッドは所属してはいない。
無所属の人間であれば、ギルガメシュの幹部が接近しようとも形式的には問題が発生するわけではない。
 色々と考えたが、今のところは断るだけの理由もない。もう少しくらいコールタンの話に付き合ってみて、
話の流れ次第で自分がどう出るかを判断しよう、と彼は短い時間の中で考えた。

「俺に白羽の矢が立った経緯は理解したが、そうまでしてこちらと話したかった事とは何だ?」
「ワーズワースという場所を知っているかにゃ? しょこでちょっとした調査をして欲しいにょ」

 コールタンの口から発せられたワーズワースという言葉に、アルフレッドは少々疑問を抱いた。
佐志から近いわけでもないが、水運の要所であるここから行くには難しくは無い場所だ。
 風光明媚な自然が広く手付かずで残っていて、自然公園に認定されているのどかな土地である。
 主に観光での人の訪れは少なくないとはいえ、だからといって何かしらの調査が必要だとは思えない。
天然の要害も無ければ、交通輸送の要所でもない。
ましてや良好な天然資源が埋蔵されているなどということも、かつて行なわれた地質調査から否定されている。
 そんなワーズワースにわざわざリスクを冒してまで自分たちに頼んで行ってもらう理由が全く思いつかなくて、
アルフレッドは不思議そうな声を上げたのだが、送話口の向こうのコールタンは、

「言葉が足りなかったかにゃ。最近、ワーズワースには難民が住むようになったんだにゃ」
「……そちらの――いや、もうひとつのエンディニオンからやってきた難民……だな?」
「もとは『ハブール』と言う都市に住んでいた人たちにゃんだけど、
そこにいられにゃくにゃってギルガメシュを頼ってきて、それでワーズワースに移った――と言うより移らされたんだにょ」

 ――『ハブール』。
 コールタンより語られた都市の名をアルフレッドは心中にて反芻した。

「人数的にも既にキャパシティ限界だにょ。にゃんとか援助してあげてほしいんだにゃ。
……しょれから、ワーズワースに大量の銃器が流れ込んでいるという情報が入ってきたんだにょ」
「おい、そんなまさか――」

 いきなり穏やかならざる話を聴かされ、アルフレッドは返す言葉に詰まってしまった。
 困窮した地域に武器が流入することは決して珍しい話ではない。
むしろ、そうした場所にこそ“買い手”が潜在していると、アカデミーの授業でも習っていた。
 他者よりも強い力を持つことで欲しい物を略奪し、自分だけが貧困から脱出する――
そうしたおぞましい願望が銃器を呼び込み、やがては地域全体をも飲み込む暴動の引き金となるのだ。
 銃器より撃ち込まれる銃弾は、言わば呪いの種子である。そこから発芽する狂気によって毒され、惑わされ、
ついには破滅した民や都市などは、エンディニオンの歴史を紐解けば幾らでも転がっている。
 それと同じ悲劇がワーズワースにて繰り返されようとしているのだった。

「これではただでさえ良くにゃい治安がますます悪化しゅるにょ。
これが本当にゃのか、本当だとしたら誰がどういうつもりでやったにょか。
もしかしたら間接的に難民を排除しゅる目的かも知れにゃいにょ。しょの辺りを調べて欲しいにょ」

 ――ワーズワースで懸念されている事項について、全てが初耳だったアルフレッドは、
ジョゼフの許可を得てヒューとセフィを呼び寄せ、このことを尋ねてみた。
 本当かどうかと聞かれたが、両者共に「難民がキャンプを張るようになったのは知っていたが、
そういったキナ臭い話までは耳に入ってこなかった」と言うだけだった。
 彼らが知らなかったからといって、それが嘘であるというわけではないが、
しかし、銃器が非合法かつ大量に難民キャンプに流入したようだから調査して欲しい、ではいま一つ納得がいかない。
そのくらいの事でわざわざ自分たちに頼むだろうか、
そもそもギルガメシュの幹部なら自分で兵士を派遣するなり何なりすればよいはずではないだろうかと、
アルフレッドはコールタンにそのあたりの事も聞いてみた。

「下手に兵隊しゃんたちを使うと、上まで情報が筒抜けになってしまうんだにゃ。
もし本当に難民が武装していたとしたら、治安維持の名目で多くの難民が処罰されるかもしれにゃいにょ。
でも、あんたしゃんたちだけだったら情報はわたきゅしの所で止まるにょ。
だから依頼したというわけだにゃ。お願いだから引き受けて欲しいにょ」

 コールタンの真に入った言葉を聞いていると、どうにもこれは自分たちをおびき寄せて一網打尽にするといったような、
アルフレッドが危惧していた罠の可能性は無いだろうと思われた。
 だが、そうだからといってアルフレッドが二つ返事で彼女の依頼を引き受けるだけの材料は無い。

「成程、俺たちに頼み込むまでの経緯は理解できた。しかしだ、俺たちだってあまりギルガメシュに動向を把握されたくはない。
どうして把握されたくないのかはそちらの判断に任せるとするが――そんな事はまあどうでもいい。
それでだ、行動が表沙汰になって、あらぬ疑いの目を向けられるのは後々の厄介事につながりかねない。
他人にリスクを背負わせる以上、それなりの見返りを用意するべきじゃないのか?」
「タダで動くほどお人好しじゃにゃいと言いたいのかにゃ? 分かったにょ、こっちに何を求めるかにゃ?」

 アルフレッドにしてみれば、この要求は随分と踏み込んだものだった。
 一旦、反ギルガメシュの計画を後回しにするにしても、多くの情報を引き出されれば後々の利益につながるだろう。
相手の内情を知ることが出来れば対策も立て易くなるというもの。
重要な情報をリークしてまでアルフレッドに依頼をする価値があるのか、
いわば彼はコールタンがどこまで本気かを探ってみたわけだった。
 それを伝えられた彼女はほんの少しだけ考え込んだようだったが、即決ともいえる早さでそれを承知した。
 意外な反応にアルフレッドはわずかに驚いたが、
それでもこれ幸いとギルガメシュの兵力や軍備、組織形態に現在の兵隊の配置分布等々、色々と尋ねた。
 コールタンも彼の質問に次々と包み隠さず、事細かに答えていった。

「さっきの話に出てきた仮面を脱がなかった一人、あれについてもう少し詳しい話を聞きたいが」

 先刻の中継でフラガラッハだけが素顔を晒さなかったことがアルフレッドの興味をひいた。
 そうとも言えたのだが、だがそれだけが理由だったわけではない。
何故だかは分からないが、アルフレッドはそのフラガラッハについて尋ねたくなっていたのだった。
 映像を通してだったが、彼が発していた雰囲気にどことなく感じ入るものがあったというのか、
どうにも関心を持ってしまったというか、とにかくフラガラッハの存在がアルフレッドを惹きつけて止まなかったのだ。
 何とも言い難いフラガラッハへの思いが強まっていたために尋ねてみた。

「あれは少々特殊な人間だにょ。あんたしゃんが気になっているのは分かるけれど、まだ時期じゃないにょ。
知らない方が良い事だってあるんだにゃ」

 しかし何故なのかコールタンはアルフレッドの問いに答えを言わずにはぐらかした。
 何かを隠しているのは明らかだったが、しかし何を隠す必要があるというのだろうか。
当然ながら彼女の考えはアルフレッドには分からない。

「仔細を漏らさずに教えろ、と言ったはずだ。今さら幹部の一人について口をつぐんだ所でどうこうなるわけでもないだろう?」
「教えてもいい事だけど、でも彼に関しての話はあんたしゃん自身で知ったほうが良いにょ。
しょの代わりに、依頼を達成したら、死に至る遺伝病を患っていたはずの人がどうして生きているのかを教えてあげるにょ。
重要にゃのは分かっているにょ? そっちの方で我慢しゅると良いにゃ」

 はっきりと名前はいわなかったが、コールタンの言葉がマリスの事を指しているのは明白だった。
 アルフレッドが常々不思議に思っていた事の答えを彼女は知っている。
フラガラッハの隠された情報を知るのも重要だが、彼女に何があったのかを知る事もまた肝心だ。
 そこを手がかりにして、幾度となく感じる記憶の断絶のような何かが判明するのではないか。そう彼は思った。
 どちらを優先するべきか、とアルフレッドは二つの情報を両天秤に掛けつつ、
彼の傍らに座っているマリスに感づかれないように彼女を見つめながら深く考え込んだ。
 そう自分では冷静に考えていたつもりだったのだが、

「しょんなわけで宜しく頼んだにょ。期限は設けないけど、早ければ早いほど嬉しいにょ」

 とコールタンが言うだけ言ってさっさと通話を切ってしまうまで、
意識があらぬ方向に向いていたのを気付けないほど混乱していたのか、とアルフレッドは自覚するのに時間がかかった。
 引き留めるタイミングを逃し、受話口からは無機質な音が聞こえてくるだけ。
どことなくアルフレッドは狐につままれたような、頭がぼうっとしたような、そんな感覚を味わっていた。
 ドアから廊下へと顔を出し、「何の用だったの?」と興味深げに話しかけてきたフィーナの声で、彼ははっと我に返ったが、

(さてどうしたものか…… どこから話すか、何を話すか……)

 といった感じでしばらくは上手く説明できないくらい、頭がこんがらがったままだった。


 ようやく気持ちの整理がついたアルフレッドは、コールタンから依頼されたワーズワースでの調査について説明した。
 引き受けた以上は速やかに行動するべきだ、フィーナが拳を振り上げる一方、
まずはテムグ・テングリ領内の鎮撫工作を優先するべきだとイーライは主張する。
双方に同意者が現れ、またしても話し合いは難民を巡って真っ二つに割れた。
 「余計な仕事を増やしやがって」とフツノミタマが悪態をつく気持ちも分からないではない。
恩を売るにせよ信頼を勝ち取るにせよ、人手が足りないのではないかという意見がぽつぽつと上がる。
 しかし、そういう意見を耳にしてもアルフレッドは先ほどまでの困惑ぶりとは全く違って、
「そうではあるが、困る事でもない」と落ち着いた様子で答える。

「言いてえことはだいたい分かる。面倒な説明を抜きにすりゃ、
テムグ・テングリの方はレオナちゃんたちがあらかたやっちまったってところだからな」
「そうだ。イーライもレオナも、各地を回ってみて感じたが、想像以上に的確な仕事をしてくれた」
「せやったら、もうちょい人手を減らしてもかまへんわけやな?」

 ヒューが言った通り、領内での鎮撫工作はメアズ・レイグ――イーライとレオナの働きでかなりスムーズに進んでいた。
 ギルガメシュとの決戦以前からの根回しが効果を持続していたようで、
テムグ・テングリ敗戦という大きなショックがあったが、どうにか事を処理できていたわけである。
 決してアルフレッドたちが必要なかったというわけではないが、
しかしアルフレッドたちだけではこうも上手い具合にはいかなかったのではないか、
と思わせるほどにはメアズ・レイグの働きぶりは目を見張るものだった。
 硬軟織り交ぜた交渉術、発覚すれば自分たちが不利になるような工作をいとも簡単にやってのける緻密さかつ大胆さ。
彼らから学ぶべきところは多い、とアルフレッドは感じ入っていたようだった。

「な、なんだよ、気持ち悪ィな。おだてたって何も出ねぇぞ!?」
「俺は事実を述べているだけだ。お前たちの冒険者としての器量には感服している」
「だ、だからよぉ、てめぇなぁ……!」
「おやおや〜? どうしたのかな、イーライ? アルフレッド君に誉められたのが、そんなに嬉しかった?」
「ばッ、てめ――誤解を招くようなこと言うんじゃねぇぞ、レオナぁッ!」

 よもや、アルフレッドから賞賛されると思わなかったイーライは、照れたようにそっぽを向いている。
その頬ははっきりと紅潮しており、レオナは彼の脇を冷やかすように肘で小突いた。
 誉められ慣れないイーライと、それを薄く笑みながら見つめるアルフレッド――のことを交互に見比べるフィーナが
盛大に鼻血を噴いたのは言うまでもない。

「――だから二手に分けて同時に進めても問題ないと俺は判断する。
テムグ・テングリの方があらかた片付き次第、ワーズワースの方へ合流するという流れで良いんじゃないだろうか」
「じゃあ半分ずつに分けていこうってわけかい、アル兄ィ?」
「いや、ワーズワースの方はあくまで調査だから今すぐまとまった人数が必要になってくるとも思えない。数人でいいだろう」

 ギルガメシュの勝利宣言が放送されたことで動揺はあるだろうが、既にテムグ・テングリの敗戦を領民は知っている。
だから、離反だの独立だので揉めるようなことがあるとしても、今までと同じようなものだろう。
 そうであっても念には念を入れておいて悪いことは無い。
その後でコールタンからの依頼に本腰を入れても決して遅くはないだろう。
 そうアルフレッドは説明し、それならそれで良いだろうと一同も賛成した。

「では、ワーズワースへ少人数で向かうとしまして、やはり調査なのですから適した人を送るべきかと思いますが」
「まったくその通りなんだが…… 調査に向いているとなると、やはりヒューかセフィに行ってもらいたいのは山々だが、
もう一方との兼ね合いもあるからな…… さてどうしたものか」

 調査向きの人材は工作に必要な人材。あちらを立てればこちらが立たず。
どういう具合にメンバーを二手に分けるかがアルフレッドの悩みどころだった。
 テムグ・テングリ領内の問題について、今後もメアズ・レイグに協力を仰ぐのは確定としても、
パトリオット猟班の助力は望めそうにない。彼らもやがて警護を依頼された任地へ赴くのだ。
 シュガーレイによれば、時間的な猶予があるのはジャーメインとジェイソンだけであった。
おそらくジェイソンはアルフレッドの差配に関わらずシェインに同行したがるだろう。
これはマリスに対するタスクも同様である。このような組み合わせを強引に引き離すのもよろしくない。
 最も悩ましいのは移動手段だ。ワーズワースへ向かうには船が欠かせない。
いつものように武装漁船を出せる守孝や源八郎を頼りにしたいところだが、
ふたり同時に佐志を離れると、今後は此処の守りが手薄になる。
 果たして、どのような差配が望ましいのか――アルフレッドの思考はすっかり堂々巡りに突入していた。

(試しにハリエットたちを使ってみるか? ……いや、あんな騒々しい連中は調査にも戦場にも適さない……)

 一瞬だけ叢雲カッツェンフェルズの存在を思い出すアルフレッドだったが、さすがに編制へ組み込む気にはなれなかった。
 ハリエットなど論外だが、やたらシェインに懐いているらしい葛も問題児の一角である。
個人の交友関係をとやかく言うつもりはないものの、遠足のような感覚でいられては困るのだ。

「よし、わかった――ワーズワースにはワシが参ろう」
「御老公が!?」
「なんじゃ、意外そうな顔をして。そもそもこの話を持ち込んだのは他ならぬワシ。その責任を果たすまでじゃよ」

 思い悩むアルフレッドを見兼ねたのか、それとも別の思慮があったのか、自分が先行して調査を始めるとジョゼフが宣言した。
テムグ・テングリとの約束もある手前、アルフレッドがメンバーのチョイスにも悩むだろうと考え、協力を申し出たというわけだ。
 勿論、アルフレッドにとっては渡りに船とでも言うべき成り行きである。

「なんだか話がうますぎね〜かい、御老公? 一体、コールタンってのとどーゆー話になってんだか。
……俺っちらにも内緒でコソコソと動き回ってんじゃね〜のかい?」
「ほほう、さすが名探偵。小さなところまで気になるようじゃな」
「細けぇコトが引っかかると夜も眠れなくなっちまうのさ。例えば、どっちから連絡を取り付けたのか――とかな」
「確かにそれは気になるところじゃのう。じゃが、今やコールタンはワシらの同志。
そのような相手との信頼関係は長く続けていきたいじゃろう? ならば、向こうの不利になることを軽々には口に出来ぬよ」
「……そ〜来るかい。どこまでも食えねぇジィ様だぜ」

 唐突な宣言をヒューがいぶかしんだが、それはアルフレッドも同じこと。
新聞王がやけに積極的な点もどこか引っかかる。誰よりも早くコールタンとコンタクトを取っていたジョゼフが、だ。

(コールタンは銃器が流れ込んでいると言っていた。……そのあたりが狙い――なのか?)

 だが、ジョゼフの意図がどこにあるのかを一々考えていても仕方ない。
 何か裏がある、疑わしい、と考えればどこまでも疑わしいが、ジョゼフが協力してくれるのであればそれに越したことは無い。
自分に言い聞かせ、不安を飲み下し、アルフレッドはジョゼフの提案を受け入れたのだった。

「――私も一緒に行きます。……一分一秒でも早く困っている人たちのところに駆けつけたい……ッ!」

 フィーナもまたジョゼフと共にワーズワースへ先行したいと申し出た。
 これに対して、アルフレッドに驚きはない。彼にはセフィのような未来予知の力はないが、
そうした異能に頼らずともフィーナの思考など簡単に察しがつく。
挙手のタイミングが少しばかり遅かったか、早かったか。ただそれだけの違いしかあるまい。
 コールタンの依頼を聞かされてからと言うもの、フィーナは両の拳を固く握り締めていた。
そこには並々ならない決意が漲っている。例えジョゼフが口火を切らずとも、自分からワーズワースへ行くと表明した筈である。

「今までとは比べ物にならないくらい危険だぞ。ワーズワースには銃器が運び込まれている。この意味が分かっているか?」
「暴走した難民の人たちに襲われるかもしれないって言いたいんでしょう?」
「襲ってきた難民と戦わなければならなくなる。その可能性を話しているんだ」
「……私は撃たないよ。絶対にそんなことにはならない」
「そこまで分かっているなら、止めることはない」

 またしても無謀なことを言い出すフィーナだったが、意外にもアルフレッドはこれをあっさりと了承した。
先刻のような論争になるものと思い、身を強張らせていたニコラスのほうが拍子抜けしてしまうような即決であった。

「……いいのか?」
「折角、やる気になっているんだ。それを圧し折るのは無粋だろう?」
「お前の口から無粋なんて言葉が出るとは思わなかったぜ」
「言いたいように言え……」

 ニコラスの問いに努めて冷静に頷くアルフレッドだったが、別にフィーナの意思を尊重したわけではなかった。
「フィーナのやる気を圧し折りたくない」と口先では言うものの、その本心は真逆であった。
 コールタンの説明によれば、ワーズワースに築かれた難民キャンプはフィーナたちが遭遇したものとは大きく異なっている。
より現実的な言い方をするならば、生活の水準は劣悪にして最低。自然公園と言う立地から近隣には人家がなく、
ゼフィランサスのように難民を助けるような者も居ない。
 コールタンが求めた『援助』とは、そう言うことである。ワーズワース難民キャンプを救うには、
最早、なりふり構ってはいられなかったのだ。そこに待ち構えているのは、果てしない困窮に他ならない。

(立場上は敵対関係にある俺たちに縋ろうと言うんだ。何があるのか、知れたものじゃない)

 どうすることも出来ない現実を思い知り、独り善がりに理想を振り翳すことを戒めて貰えたなら幸いと、
アルフレッドは腹の底にて期待していた。
 そんな思惑など知る由もないフィーナは、ハーヴェストと手を取り合って理想の貫徹を誓っている。
 これでハーヴェストの同行も決定である。鼓舞でもするかのようにふたりの頭上で旋回するムルグとて、
当然の如くフィーナに随いていくに違いない。
 フィーナがワーズワースへの先行を宣言すれば、彼女寄りの考えを持つシェインも自然と同調する。
椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、「そうさ! ボクらでやるんだッ!」と拳を振り上げた。
 その傍らに在るジェイソンとフツノミタマは、少しばかり困ったような表情で頷き合っている。
このふたりがシェインから離れる筈もないのだが、ワーズワース行き自体には気乗りはしていない。
猛者との戦いを好む気性だけに、他者の支援は専門外なのだ。

「レイチェル、おめーも一緒に行ってやれ。プロキシ使える人間がいたほうが何かと便利だろ?」
「へぇ? あんたにしちゃまともなことを言うじゃない?」
「俺っちはいつだってナイスなことしか言わね〜だろ。……若い連中はとかく突っ走ろうとすらぁ。
誰かが手綱シメなきゃヤベェもんな。御老公は――分かるだろ?」
「……了解」

 ピンカートン夫婦はそれぞれ別行動を取ることに決めた。
 ワーズワースへ先行するレイチェルは、フィーナたちが無謀な行動に走らないよう監視する役割をヒューから託されていた。
 この役割についてはヒューにしても同様である。夫の耳に口を寄せ、「あんたこそ脇見するんじゃないよ」と
囁き掛けるレイチェルの双眸はアルフレッドとニコラスを捉えている。そして、ヒューの視線の先にも両者の姿が在った。
 他方ではトリーシャもジョゼフへの同行を願い出ている。
 勿論、フィーナや師匠の身を案じてもいるが、それ以上にジャーナリストとしての使命感に衝き動かされたのである。

「で、でも、何が待っているかわからないんだよ!?」
「それはフィーだって一緒でしょ。危ない場所だからって踏み止まるわけにはいかないのよ」
「……トリーシャの気持ちも汲んでやってくれぬか、フィー。少しばかり目的は違うかも知れぬが、
この子もお主にも負けぬ強い気持ちでワーズワースに臨もうとしておるのじゃ」
「自分のケツくらい自分で持つからさ。……さっき、アルが言ってたじゃん。難民キャンプとしては一番低いレベルかもって。
それをこの目で確かめたいのよ。そして、必ず世界中に伝える――
これってエンディニオンのみんなで考えなきゃいけないことだもの」
「……トリーシャ……」
「フィーがゼフィランサスで見てきたことを、理想の形を、一緒に叶えていこう!」

 銃器が流れ込んでいるような場所へトリーシャを連れて行くことに抵抗を覚えるフィーナだったが、
先行グループを主導するジョゼフが愛弟子の覚悟を認めたからには、渋々でも従わないわけには行かない。
 最後の頼みとばかりにネイサンを一瞥したものの、依然として元気のない彼は、
ただ一言、「気をつけて」と述べるに留まり、危地に向かう恋人を引き止めようともしなかった。

(……しっかりしてよ、ネイトさん。トリーシャは武器だって持ってないんだよ。それなのに……!)

 いざと言うときは自分の身を挺してでも親友を守る――
そう心に秘めつつも不安の尽きないフィーナの尻をルディアの右手がいきなり鷲掴みにした。

「トリーシャちゃんもルディアが守るから大丈夫なの! それに撫子ちゃんも一緒に行ってくれるしィ〜!」
「な、どうして俺がンなメンドクセーことトコに行かなきゃならねーんだ!?」

 器用と言うか何と言うべきか、ルディアは右手でフィーナの尻をまさぐりつつ、左手で撫子の腕を引っ張っている。
 本人の意思に反していることは、絶え間なく繰り返される不平不満からも明白だが、
半ば済し崩し的に撫子も先行グループに加えられてしまったらしい。
 この時点で先行するグループの編制はほぼ決まったようなものであった。
 フィーナが音頭を取ったこともあり、女性メンバーに偏重している点が気掛かりではあるものの、
居並ぶ者たちはいずれも腕自慢が多い。仮に銃器を携えた者あるいはギルガメシュとの間に戦闘が起ころうとも
切り抜けることは難しくあるまい。
 唯一の問題点を挙げるとすれば、難民と小競り合いに於いて、相手を殺すことが絶対に許されない点か。
極力傷付けないようにして無力化を達成せねばならない。これには自然現象を操作し得るプロキシが打って付けだろうが、
仮にこちらのメンバーと比して数倍もの難民が暴徒化して襲ってきたなら、レイチェルひとりでは荷が重かろう。
 そもそもレイチェルは接近戦でこそ真の実力を発揮する神霊剣の使い手だ。
プロキシひとつ取っても他の術師と同じ使い方にはならないのである。
 そうなると、ホゥリーの出番であった。オーソドックスなプロキシを得意としている為、味方の後方支援に慣れており、
先ほどアルフレッドが思案した「殺さずに制する」と言う要点に合致する戦いも期待出来る筈だ。

「ハァン? どうしてボキまで? プロキシがウィッシュなら酋長が随いてくじゃナッシング? 
そんなにデザイア深くプレイしたら、神人サマもアグリーだとシンキングだヨ」

 我関せずと言った調子でスナック菓子を頬張っていたホゥリーは、アルフレッドのこの要請に難色を示した。
彼の懐を潤すような実入りはコールタンには期待出来そうにない。せいぜい、アルフレッドが情報戦で得をする程度だ。
それだけにワーズワースの件には消極的であり、あわよくば居残りを決め込むつもりでいたようだ。
 だが、アルフレッドも譲らない。フィーナたちを危地に先行させる以上、編制には万全を期す必要があった。

「レイチェルひとりにこれだけの大所帯をフォロー出来るわけがないだろう?」
「チミは酋長をスウィーツにルックし過ぎだネ。あのヒト、イシュタル様まで降ろしちゃうミラクルなんだヨ? 
……ま、イシュタル様をビリーヴしてないチミにセイっても、スタリオンのイヤーにナントヤラかもだけどネ」
「どうして、スタリオンなんだ? そこはホースだろう?」
「ワード遊びだヨ、チミ。ワールド各地にチルドレンがいるバラマキマンなんでショ? 
みんなコールしたらダービーもオープン出来そうだねェ〜?」
「……お前までそれを言うか……」

 なおも渋るホゥリーに対して、アルフレッドはとっておきの切り札を使うことに決めた。

「どうしても厭だと言うなら仕方ないが――シェインとビスケットランチに何かあったら、お前、“マイボーイ”に恨まれるぞ」
「チ、チミはザットをテイク出すのかいっ!?」
「俺はちゃんと頼んだからな。それを面倒臭がって断ったのはお前だ。この場にいる皆がその証拠だぞ」
「……性格ワーストだよ、チミ。ディスなこと、ボキにレッテルされたらエンドだってのに……」
「生憎と性根の悪さは貶され慣れたよ」

 確かにシェインやジェイソンがワーズワースで不幸な目に遭えばラドクリフは大いに悲しむだろう。
痛いところを突かれたホゥリーは、最早、アルフレッドの頼みを引き受けるしかなかった。

「――以上だ。先行する者は御老公の指示に従ってくれ。俺たちもすぐに駆け付ける」

 アルフレッドの号令を以って、先行グループの編制は完了した。
 テムグ・テングリ群狼領内の問題を解決した後に駆けつけるグループにはプロキシと言うアドバンテージがなくなるが、
そこは人数でカバー出来るだろう。強力なトラウムの持ち主も揃っている。
 念には念を入れて、アルフレッドは手持ちのCUBEをも全てをフィーナたちに預けた。

「くれぐれも無茶だけはするな。想定される最悪の事態だが、俺たちと合流する前に難民と戦う羽目になったらすぐに離脱しろ」

 アルフレッドの訓戒にフィーナたちは神妙に頷いている。
 少ない人数で戦えば、必ず無理が祟る。そのような無理を重ねると余裕や退路を失い、
遂には相手を殺す以外に打開策がなくなってしまうのだ。

「……だったら、俺はミスマッチだろうが。どいつもこいつもふざけやがって……」

 理詰めで説いていくアルフレッドに対して、撫子は辟易したような表情(かお)を見せた。
 尤も、不服を申し立てたところでグループを抜けられるわけでもなく、愚にも付かない悪態を吐くのが精一杯の抵抗である。


 先行グループの出発は明朝である。以前にも使用したクルーザーにてワーズワースに程近い浜辺へ乗りつけ、
そこから現地まで陸路を進む手筈である。
 フィーナたちを見送った後、アルフレッドたちもすぐさま第五海音丸へと乗船することになるだろう。
ワーズワースの調査と援助も、テムグ・テングリ領内の鎮撫の完了も――いずれも一刻の猶予も許されなかった。




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