18.履行を拒否する地図

 忌々しい奴輩(やつばら)――クトニアの口から迸った恨みがましい絶叫は、
混乱に乗じて乱戦より離脱したフィーナとアンジーの背中に追いついている。
 アンジーの計略が成功した形ではあるものの、
これに応じたフィーナには一杯食わせてやったと言うような痛快さなどない。
シェインたちと同じくらいの少年兵を撃たずに済んだという安堵と、
そのことを戦士への侮辱として詰られた胸の痛みが複雑に入り混じっているのだった。
 何が正しくて、何が間違っていたのか。これを確定し得ることなど誰にも出来ない。
現時点で最善と思われる判断であろうと信じて、ただひたすらに突き進むしかない。
そう自分に言い聞かせながらフィーナは副司令(ティソーン)の喉元へ迫ろうとしている。
 ここは宮殿などではないので、一目で玉座への入り口と判るような目印はなく、
気の遠くなるようなことではあるものの、通路沿いの部屋を片端から探して回る以外に手立てがなかった。
 クトニアの反応から察するに、このフロアの何処かには隠れ潜んでいる筈なのだ。
伏兵との遭遇やアルコルの追撃がないよう心中で祈りながら彼方此方を探っていく内に、
袋小路に近い場所で通信室を発見した。
 如何にもお誂え向き≠ニ言うべきか、その部屋だけ奥に続く扉が設置されているのだ。
 室内のパソコンやモニターは電源が入ったままの物が多く、慌てて撤収したと見て間違いあるまい。
最早、誰もいなくなったと言うのに、エアコンも虚しく空回りし続けていた。
念には念を入れてと、横倒しになっていた椅子まで調べたアンジーは、
座面に残る余韻を確かめると、「まだ温かくってよ」とフィーナに報(しら)せた。

「ギリギリまでここに踏み止まっていたってことかな」
「先に逃げ出した兵士たちがここに駆け込んだとすれば、時間的にも合致しますわね。
……さりとて、あれからだいぶ経ってしまったのも確か。取り逃がしていなければよろしいのですけれど」
「座椅子に残った体温を信じるしかないね……!」

 守備の為に配置した将兵は総崩れとなり、又、ティルヴィングが暴走したことまで
ティソーンに把握されたと考えるのが妥当であろう。
 通路から撤退した兵士の姿が何処にも見当たらないと言うことは、
扉の向こうは脱出用の隠し通路にでも繋がっているのだろう。
床の上にも無数の足跡が散見され、混乱した状態のまま退路に飛び込んだことが窺えた。
 仮にも別動隊を率いる立場の人間が何時までも窮地に踏み止まっているとは思えない。
蛻(もぬけ)の殻となった通信室の様子から推察するに、ティソーンを取り逃がした確率は相当に高そうだった。
 だからと言って、確かめる前から諦めるフィーナではない。
扉を開けた向こうにギルガメシュ副司令が待ち構えていると信じ、
ドアノブに手を掛けようとした――その瞬間のことである。
扉自体を食い破って炎の塊が襲い掛かって来たのである。
 咄嗟にアンジーを抱えながら横へ跳ね飛んでいなければ、火炎に巻かれて焼死していたかも知れない。
 まさしく間一髪と言う事態であった。扉の前に立った直後、
鉄の板を一枚隔てた向こうから不可解な音が聞こえてきた為に死の危機を直感したわけだ。
戦乙女と呼ばれるほど積み重ねてきた実戦経験と、これに基づく勘働きが生死を分けたと言えよう。

「随分とご丁寧な歓迎っぷりですこと……」
「本当にねぇ、……うん、歓迎の仕方がえげつないよね」

 火炎放射器でも使われたのかと想像するフィーナに厭な予感が走った。
 向こう側から放たれた炎の塊は、通信室の机や機材へ燃え移る前に爬虫類の舌の如く巻き戻っていったのだ。
このような現象(こと)が火炎放射器に出来るわけもない。
件の兵器は、文字通りに放射のみを行うものであって、炎自体を手足のように操るわけではないのである。
 摩訶不思議とも言うべき炎の業(わざ)を使いこなせる人間などフィーナはただひとりしか知らず、
そのシルエットが高笑いの幻聴を伴って脳裏に蘇った。
 第二次攻撃を警戒しながらアンジーと揃って隣室に飛び込んだフィーナは、
そこに見つけた人影から己の予想が敵中したことを確かめ、驚愕の中で思わず肩を落とした。
 焼け焦げた扉の残骸を蹴散らしながら飛び込んだ部屋には、
バブ・エルズポイントで使用した転送装置を一際大きくしたような機械が据えられており、
その前に三人の男たちが屹立している。
 そして、中央の男が視界に入った瞬間、フィーナは「やっぱりかぁ〜」と左掌で面を覆いつつ、
何とも言えない調子で呻いたのである。

「フェハハハハハハ――奇妙な場所で巡り逢うたものよなァ、アルフレッド・S・ライアンの腰巾着よ! 
金魚の糞程度の値打ちしかない貴様が単体で余の前に立つとは、天地が引っ繰り返る前兆かの? 
戦乙女などと煽(おだ)てられおって、さぞ浮かれておると思うたのだが、
あれ≠避け切ったことだけは褒めて進ぜよう。感謝して額づくが良いぞ!」
「……ゼラールさん……」

 幻聴ではなく本物の高笑いでもって鼓膜を打たれたフィーナは、心の底から疲れたような溜め息を吐き捨てる。
 改めて詳らかとするまでもなく、フィーナたちの前に立ちはだかったのはゼラール・カザンその人である。
相変わらずと言うべきか、両手を大きく拡げ、我が身を十字架のように見立てて屹立し、
先ほど繰り出したと思しき炎を足元に纏わせている。
 混乱したのはアンジーだ。装置を守るような形で現れた者たちが
ギルガメシュの一味であろうことは察せられたのだが、どうも中央の男とフィーナは知己の間柄であるらしい。
 フィーナからゼラールとの因縁を聞かされていなかったアンジーは、
何が何だか分からないと言った表情(かお)で両者の面を見比べるばかりである。

「ギルガメシュの傘下に入ったって、特に変わらず絶好調みたいですね。
別に安心なんかしないけど、妙に納得しちゃいましたよ」
「愚問と思うておるならば、いちいち口にするでないわ、腰巾着風情めが。
それに好調と言うのは貴様も同じであろう。アルフレッド・S・ライアンの露払いにしては
度を越しておるようじゃが? よもや、貴様の名に煩わされる日を迎えようとは思わなんだわ」
「煩わしいのは、こっちですよ……もうっ!」

 先ほど吹きつけられた火炎は、想像した通り、
ゼラール自慢のトラウム――『エンパイア・オブ・ヒートヘイズ』であったわけだ。
 どうして、彼だけがノイのエンディニオンに於いてトラウムを使えるのか、
そのことが不思議でならないフィーナだったが、自分以外の人間を虫けらのように扱う彼のこと、
『エンパイア・オブ・ヒートヘイズ』を発動させられた理由を尋ねたところで
まともに答えてくれるとも思えなかった。
 無駄な労力を使って不愉快な思いをしても仕方ないので、フィーナはゼラールの右隣に立つ少年へと目を転じた。

「……ラド君もお久しぶり。元気そうで何よりだよ」
「は、はい! お久しぶりです! フィーナさんもお元気そうで安心しました! 
……えっと、シェインくんやジェイソンくんはどうしたんでしょう? 
それにルディアちゃんの姿も見えませんけど、一緒ではないんですか?」
「あー、うん、……ちょっとはぐれちゃってねぇ。土地勘ない中、あちこち捜し回ってるところなの」
「そ、そう……でしたか……」
「がっかりさせて、ごめんね」
「――あっ! いえ! またフィーナさんと会えたことも嬉しいんですよ!?」

 ゼラールの右隣に侍って緩やかな反りの入った短剣を構えているのはラドクリフである。
 一応、この場に於いては敵味方という立場に分断されている筈であり、
ラドクリフ当人は張り詰めた情況で相対したつもりだったのだが、
フィーナから友好的に話しかけられた途端に笑顔を見せ、白刃も背後に隠してしまった。
 直接的にはゼラール軍団の所属と雖も、仮にもギルガメシュの一員なのだ。
短剣を隠して戦意がないことを示すのは如何にも迂闊であろうが、
背中を預け合う形で熱砂の合戦を切り抜けたフィーナには、少なからず親愛の情を抱いているのだった。
 この場に嫌悪の対象たる軍師――アルフレッド・S・ライアンが居合わせたなら反応も変わっていただろうが、
彼がアルトに居残った事実は確認済みである。他の将士による監視の目もない為、
ラドクリフは何の気兼ねもなくフィーナと話していられるわけだ。
 異世界に於いて同じアルトの人間と遭遇出来たことも嬉しかったのだろう。
「転送事故の話も聞いていたから心配してたんです! シェインくんのことだけじゃなく、皆さんのことも!」と、
平素よりラドクリフも気持ちが高揚している様子だった。

「癒されるなぁ〜」
「えっと、……癒し……ですか? ぼく、そんなプロキシを使った憶えもないし、
そもそも傷を癒せるプロキシなんか聞いたこともないですよ?」
「癒されるって言うのはラド君に。はあ〜、ホントに可愛いなぁ、ラド君は〜」
「ぼ、ぼく、女の子じゃないんだから、そんな風に言われても嬉しくないですよぅ!」

 照れたように赤面して抗議するラドクリフを眺めていたフィーナは、
甘い溜め息を零しつつ滝のように鼻血を垂らした。
 不意の再会にも関わらず、ラドクリフはシェインやジェイソンのことを真っ先に尋ねてきた。
ふたりの親友の安否が長らく気掛かりだったのだろう。
離れ離れという状況であってもシェインたちと結んだ絆は絶対に揺るがないと言うことだ。
 その事実だけでもフィーナの想像力は爆発的に逞しくなっていく。
今、彼女の脳内では寂しさの限界に陥ったラドクリフがシェインを求めて夜泣きする姿まで再現されていた。
 「再現」などではなく、それはただの妄想に他ならないのだが、
生憎と此処には指摘(ツッコミ)を入れる人間がおらず、それが為に鼻血も垂れ流し状態となるわけだ。
 体調不良でもないのに、突然、鼻血を流し始めたフィーナに対してアンジーは困惑するばかりであるが、
ひとつだけ確実に言えるのは見苦しいということであり、慌てて彼女の鼻孔に自分のハンカチを宛がった。

「――てゆーか、ラド君のほうもピナフォアちゃんと一緒じゃないの? 
あの子がゼラールさんの傍を離れるなんて信じられないよ」
「あー、あの人ですか。ええ、ちょっと事情があって別行動中なんです。
後から追いつくみたいなことを言ってたけど、このまま一生、別行動でも構わないんですけどね」
「トルーポさんだっていないし。……まさか、ケンカ別れなんてコトはないよね?」
「閣下のもとに集ったぼくらが離れ離れになるなんて、そんなの絶対に有り得ませんよ。
トルーポさんのご夫婦も用事があって今だけ離れてるだけなんです。
ピナフォアさんのことなんか知ったこっちゃありませんし、
テムグ・テングリに帰っても貰ったほうが良いくらいですね」
「そーゆーところもひっくるめて、ラド君が相変わらずで安心したよ」

 一頻り妄想に浸った後(のち)、フィーナは友人であるピナフォアの所在を尋ねた。
 ゼラールに忠誠を誓うまで馬軍の女将軍として戦っていたピナフォアは、
『閣下』の寵愛を巡って常日頃からラドクリフと醜い争いを繰り広げており、
さながらふたり一組のように盟主の両脇を固めていたのだ。
 それなのに、今日はそのピナフォアは勿論のこと、
軍団最古参にして最強の戦士であるトルーポ・バスターアローの姿も見つけられなかった。
 他の軍団員を引き連れて先に脱出したのではないかと一瞬だけ考えたフィーナであったが、
軍団随一の忠臣たるトルーポが『閣下』を置き去りにするはずもないと直ぐに首を振った。
果たして、不在の真相はラドクリフが語った通りである。
 その代わりと言う表現は適切ではないかも知れないが、ゼラール軍団には新顔≠ェひとり増えていた。
 顔面を横断する火傷痕が痛々しい老人である。衣服の上からでも鍛錬の二字を感じさせる体躯や、
鋭い眼光――白く濁った左目は失明している様子だが――から察するに、寧ろ「老将」と呼ぶべきかも知れない。
 鉄色のレインコートを羽織ったその男はカーキ色の軍服も纏っており、ギルガメシュの将士であることは明白。
全身から尋常ならざる覇気を発してはいるものの、ゼラールの傍らに控えている以上、
この老将がギルガメシュの副司令ということはなかろう。

「……成る程、得心が行きました。旧交を温めながら任務≠果たされるおつもりでしたか。
ダインスレフ様の深慮、このムラマサにも見抜けませなんだ」
「ムラマサ、そちともあろう者が下らぬ心得違いなど致すでない。それとも、皮肉のつもりで言うておるのか? 
ならば、そのつまらぬ異称(コードネーム)と共に態度を改めるが良いぞ。
そちのように面白き者につまらぬ芝居をさせておること、それ自体が余は気に喰わぬのよ」
「どのように受け取られるかは、ダインスレフ様にお任せ致しましょう」
「フェハハハハハハ――小癪なヤツめ!」

 ムラマサと呼ばれた老将はゼラールのことを『ダインスレフ』と、異称(コードネーム)で呼んでいる。
おそらく強面の老将は、嘗てのピナフォアと同じようにギルガメシュ上層部から
ゼラールに宛がわれた監視役なのだろう。
 ゼラールが異称(コードネーム)を好んでいないことは今し方のやり取りからも察せられるのだが、
それにも関わらず、ムラサマは『ダインスレフ様』と呼び続けている。
互いに馴れ合いなど許されない立場なのだと、言外に語っているようなものであった。
 ラドクリフも『閣下』と言う敬称を決して使おうとしないムラマサを横目で睨み付けている。
 ところが、だ。ゼラールのほうは不敬とも言うべき老将の態度を愉快そうに笑い飛ばし、
それどころか、「不遜な物言いが何時まで続くであろうなァ。そちの変節が余には見物ぞ」などと
甘ったるい声まで出しているではないか。
 度肝を抜かれて固まったのはフィーナである。ゼラールが誰かに甘える姿など過去に一度も見たことがなかったのだ。
アカデミー時代の彼のことは知らないが、この場にアルフレッドやマリスが居合わせたなら、
おそらくは盛大に引っ繰り返るのではないだろうか。

「……フィーナさんも、やっぱり驚かれましたよね? 
この方、ムラマサさんと言って新しく軍団に入ったばかりなのですけど……」
「それ以外にもツッコミ入れたいコトは山ほどあるって。
どうしてラド君たちがこっちのエンディニオンに居るのか、それだって意味不明だし……」

 テムグ・テングリ群狼領からギルガメシュ本隊に鞍替えしたゼラールは、
アルトのエンディニオンに於いて作戦行動に携わっているとばかりフィーナは思っていたのだ。
 悲劇の舞台となったワーズワース難民キャンプを浄化してくれたこともニュースで知っている。
だからこそ、ノイの地で再会したことに驚愕させられたのである。
 フィーナが言わんとしていることを全て読み切ったゼラールは、「そちこそ余の迷惑」と鼻先で笑った。

「いよいよ『ディアスポラ・プログラム』に本腰を入れようと思うておった矢先に
『別働隊を救援せよ』と命じられてしもうたのよ。戦乙女なる小兵に追い立てられた憐れな副将を補佐せよ――とな。
軍師気取りが首魁に入れ知恵でもしたのであろうが、余を使い走り同然に扱うとは不届き千万。
そうは思わぬか、戦乙女よ?」
「ギルガメシュの事情なんか、私が知るわけありません」
「そちが仕出かしたことを尻拭いするも同然と言うておるのじゃ、たわけめ。
……大局に影響を与えるでもない小競り合いなど捨て置けば良いものを、わざわざ追討の部隊を編制するとはな。
軍師を自称しておきながら、何とも狭き了見よ」
「向こう≠ナ仕掛けていた計画が丸々ご破算になったところだったのでな。
仕切り直しには丁度良かったと言えるのかも知れん」
「これ、ムラマサよ、余計なことを申すでない」
「これはしたり。申し訳ありませんでした、ダインスレフ様」
「……お陰で姉上の手を煩わせずに済んだのじゃ。余は寧ろ安堵しておるぞ」

 ゼラールとムラマサの会話が意味するところはフィーナにも殆ど分からないのだが、
戦乙女――つまり、自分たちを追討する為の増援として本体から送り込まれたことだけは確かなようだ。
 あるいは戦乙女やその仲間たちとの面識が露見してしまい、
忠誠心を測る為に敢えて尖兵として仕立て上げられたのかも知れない。
本心からギルガメシュに尽くそうと言うのであれば、例え知己の間柄であっても滅ぼせる筈だ――と。

「貴様らに破壊されたニルヴァーナ・スクリプトなる装置も修理が済んだのでな。
別働隊の体たらくでも嘲笑ってやろうと、わざわざ足を運んだだけのことぞ。
……それにしても、ラドクリフは五月蠅くて敵わぬわ。
シェイン・テッド・ダウィットジアクとか言うあの小僧――あれに逢いたいと、そればかり繰り返しておっての。
いやはや、余を妬かせるとはラドクリフも偉くなったものよ」
「か、かかか、閣下! ぼくはそんなこと……っ!」
「いやいや、ダインスレフ様の申される通り。何かにつけて遠い目をして『シェインくん』と呟いていたぞ。
自覚がないとすれば、これはまた一大事。妄念に取り憑かれては我らも扱いに困るぞ」
「ム、ムラマサさんっ!」
「やっぱりね、そうだよね。私もそうじゃないかって妄想(おも)ってたところだもんね!」

 納得したようにフィーナは頷き、新たな鼻血を垂らした。
 アンジーから鼻腔にタオルを押し当てられたことはさて置き――
戦乙女追討の増援として差し向けられたと言う者たちには、今のところ、悲壮感の類は見受けられない。
三人の中で最も人間味があるラドクリフでさえ普段と変わらないのだから、
忠誠心試しと言う最悪のシナリオではなさそうだった。
 立場上の話ではなく、シェインと本気で敵対しなければならなくなったら、
ラドクリフは精神(こころ)が死んでしまうくらい思い詰めることだろう。

(病んじゃったラド君をシェイン君が救うっていうシチュエーションも――って、いやいや、ダメでしょ、自分!  
それじゃラド君が可哀想だし、お耽美系はシェイン君とラド君には似合わないよね!)

 勢い良く頭(かぶり)を振って不埒な思考(かんがえ)を吹き飛ばしたフィーナを、
アンジーは訝るように見つめている。
 無論、怪訝に思っているのは唐突に鼻血を噴いたことではない。
不倶戴天の敵――それも故郷(グリーニャ)を焼き討ちしたような相手と
親しそうに話していることが不思議でならないのだ。
 ゼラールとラドクリフはともかく、ムラマサがレインコートの下に着込んでいるのはカーキ色の軍服。
ギルガメシュの一味であることは間違いようもなかった。

「……フィーさんの顔の広さにはアタクシ、改めて驚かされましてよ。
まさか、ギルガメシュにまでお友達がいらっしゃるなんて……」
「私の場合、友達の友達ってコトになるんだけどね、一応。
真ん中で偉そうにしてるひょろ長い人と、隣の可愛い男の子のコトね。
あの強面のおじいさんは初めて見るなぁ〜」
「……ご関係は一先ず置いておくとしても、相手はギルガメシュ……ですわよね? 
一体、どう言った繋がりで……」
「それを言い出したら、どうして決死隊(わたしたち)が異世界に居るのかってハナシになっちゃうけど……。
ゼラールさんとラド君は、元々、私たちと一緒にギルガメシュ相手に戦ってたの。
さっき名前だけ出したピナフォアちゃんやトルーポさんって人もね。
……やむにやまれぬ事情があってギルガメシュに加わったんだよ」
「……寝返り者でございますこと?」
「って言う風になっちゃうから、実はすっごく複雑で――」

 明らかに不審そうなアンジーへ委細を説明していく最中、施設内にけたたましい警報(アラーム)が鳴り響いた。
 戦乙女の襲撃を確認した直後にも警報(アラーム)は起動していたのだが、それとは明らかに異なっている。
耳障りな警告音のみが垂れ流しとなっており、如何なる事態が発生したのか、
これを報じる声(アナウンス)が一向に聞こえてこないのだ。
 そもそも、だ。将兵が残らず撤退したと思しき施設内に警報(アラーム)を操作する人間など居る筈もあるまい。

「ムラマサ、これ≠ヘそちの策か?」
「お戯れを。ただいたずらに混乱を煽ることは策とは申しませぬ。
我らの任務はここで敵を食い止めること。そこに余計な仕掛けを挟む理由などありますまい」
「つまり、ムラマサさんにも何が何だか分からないってコトですね」

 この警報(アラーム)はゼラールたちにも全くの想定外だったようだ。
体術のものと思しき構えを取ったムラマサは隻眼でもって鋭く周囲を警戒し、
再び短剣を構え直したラドクリフは、即座にゼラールの背中を庇った。
 フィーナとアンジーも互いの背中を合わせつつ得物を構えていた。
 ティルヴィングのような化け物と遭遇した直後と言うこともあって、
あれに匹敵する何か≠ェ蠢き出したのではないかと恐れているのだ。

「フィーナさんの旧友とやらは本隊に加わっておられた――と考えてよろしいのでしょうか?」
「だと思うよ。異世界(こっち)の別動隊には無理矢理、送り込まれた感じだったし」
「ちなみにギルガメシュ本隊と別働隊の仲は睦まじいと考えておられますこと?」
「……どう言うこと?」
「アタクシ――と言うか、ロンギヌス社でも本当かどうかは確認しておりませんのですけど、
カレドヴールフとティソーン、このふたりが率いる隊の間では諍いが絶えないと――」

 ギルガメシュ本隊と別働隊の関係性についてアンジーが詳しく説明しようとした矢先、
これを妨げるようなタイミングで中空に真四角のデジタル・ウインドゥが表示された。
丁度、フィーナたちとゼラールたちの間に間へ割り込むような形で――だ。
 電子的な明滅を繰り返すパネルには、四剣を象るギルガメシュの紋章のみが映し出されている。

「ご機嫌麗しゅうございます、ティソーン様。戦乙女の一党が攻め寄せてきたと報告を受けましたが、
その後、如何なりましたか? 返り討ちにした報告もないので、こちらで一計を案じたのですが――」

 そのデジタル・ウィンドゥから女性の声が聞こえてきた。
 フィーナとアンジー、ラドクリフにも聞き覚えのない声であったが、
慇懃無礼の四字が良く似合う語調にムラマサは眉根を寄せた。

「……この声、アサイミーか……?」
「そう言う貴方はムラマサさんですか。『サウンドオンリー状態』なのに気付いて貰えて光栄でございます……が、
生憎、そちらと話している時間はありません。ティソーン様と通信を致したいのですが……」
「――ほう? 遂にオペレーターに格下げとなったか。
良きかな良きかな。カレドヴールフ様も一欠けらの良識は持っておられたようじゃ。
能力が役目に追い付かぬ者は、然るべき場に転換せねば組織自体が腐るでな」
「……ダインスレフさんもご一緒でしたか。ああ、いえ、愚問でございましたね。
嘗てのギルガメシュの軍師殿も、今やダインスレフ様個人の配下。同席していて当然でした」
「口の減らん小娘め。……副司令に何の用だ。時空を隔てた通信は不安定だからな、
今の状態では何時まで話していられるか分からん。手短に用件のみを話せ」

 ムラマサの発言から察するに音声のみで通信を行っている相手はアサイミーと言うらしい。
 老将のことを「嘗てのギルガメシュの軍師殿」と軽蔑を込めて呼び付けた女性は、
「こちらとしてもティソーン様以外と話すのは時間の無駄――」と言い掛けたのち、
思い返したように話を続けた。

「誤解があるようなので訂正致しますけれど、私も現在(いま)はこちら≠ノおります。
貴方がたの後にニルヴァーナ・スクリプトを使わせて頂きまして……」
「時間の無駄と言っておきながら前置きが長いぞ、小娘」
「……お年寄りは気が短くていけませんね。小娘と仰るのなら、もっと広い心で接して頂きたいものです」
「年寄りを敬う気もない最近の若いモンに、どうしてこちらばかり気を遣ってやらねばならん」
「いけませんよ、ムラマサさん。そのような言われよう老害≠ニ呼ばれるタイプそのままです」
「ムラマサよ、そちはひとつ勘違いをしておるぞ。確かにそちから見れば小娘かも知れぬが、
こやつめ、とうの昔に大台≠ノ乗っておる年齢ではないか。『小娘』と呼ばれて浮つき、良い気になっておるのよ」
「おお、流石はダインスレフ様。よくぞご指摘下された。いやはや、大きな見落としをしてございましたわ」
「淑女を捕まえてオバチャン扱いはやめてくださいません!?」

 ムラマサやゼラールと不毛な言い争いを始めたアサイミーであったが、
ヒステリーを起こして通信を打ち切るようなことはせず、年齢を茶化された報復とばかりに最悪の報せをもたらした。
 ゼラールたちふたりだけではなく、この場に居合わせた全ての人間にとって最悪の報せであった。

「戦乙女に攻め立てられていると伺い、急いでカレドヴールフ様に使用許可を求めておりました。
……ようやく申請が下りたところでございます。これよりそちらに援護射撃を行います」
「援護射撃? この辺りに部隊を配置させたのか? しかし、そのような余力、別働隊には……」
「嘗ての軍師殿ともあろう御方が何を寝ぼけたことを仰っておりますのやら。
戦乙女とその一党、衛星兵器で粉々に吹き飛ばしてご覧に入れます」
「なんだと……ッ!?」

 今、アサイミーは何と口走ったのか。衛星兵器で粉々に吹き飛ばす――到底、信じ難いことを放言したではないか。
放言どころか、妄言と呼ぶべきであろう。

「えっと、仲が悪いってこう言うこと……かな? この人たち、何か本隊同士で揉めてる感じだけど」
「組織と言うのは、えてしてこう言うものでございましてよ。
……先程も執事気取りの男性が『アカデミーの学派』がどうとか言っておりましたでしょう? 
例の組織も異なる派閥間でメタクソにやり合っていたそうですわ」
「アカデミーの件はともかく、ギルガメシュの仲違いはコールタ――内通者の人からも聞いた憶えがないなぁ。
私の聞き漏らしかなぁ。……あの人のことだから、わざと教えてくれなかった可能性も高いんだよねぇ」
「前々から思っておりましたけど、内通者さんと言うのは随分と性悪ですのね」
「あんまり積極的に友達になりたいタイプじゃないかな。そんなこと言っちゃいけないんだけどね〜」

 フィーナもアンジーも、やけに冷静に話し合っている自分たちが不思議で仕方なかった。
しかし、「衛星兵器で吹き飛ばす」との宣言自体が余りに途方もなく、
それがどれだけ重大な意味を持つのか、彼女たちの想像力では追い付かないのだ。
 そもそも、二人は『衛星兵器』と言うモノを具体的にイメージ出来ていない。
ロンギヌス社のエージェントとして常日頃からMANAに携わっているアンジーでさえ
首を傾げているくらいなのだから、フィーナに至っては完全にお手上げ状態であろう。
 語感から想像し得るものと言えば、せいぜいスペースオペラに登場する宇宙戦争用の超兵器くらいだ。
そして、そのようなモノが人類に建造出来るわけがないと頭から信じ込んでいた。
 決死隊の最終目標たる精神感応兵器も理解不能のスケールであろうが、
現時点では地上にて運用されると聞いている。対する衛星兵器は宇宙にまで飛び出してしまっているのだ。
そこまでの規模の超兵器など如何にして想像力を働かせれば良いと言うのか。

「五分後には『トラウィスカルパンテクウトリ』より光の槍≠ェ射出されます。
隕石弾の直撃を被れば、戦乙女であろうが何であろうが、一溜まりもありません。
……今こそギルガメシュの威光を世に知らしめるときです」

 アサイミーが光の槍≠ニ述べた瞬間、デジタル・ウィンドゥ内の表示がギルガメシュの紋章から地図に切り替わった。
 それは全く不可思議な地図だった。寧ろ、不可解と表すべきであろうか。
アルトとノイ――ふたつのエンディニオンの地図を強引に切り貼りし、くっ付けたような奇妙な形をしているのだ。
 その中の一点――ナシュア公国の国土と思しき一部で赤い光が点滅している。
あるいはそれは軍事演習施設(このばしょ)を示しているのだろう。

「今、何と言った……? 『トラウィスカルパンテクウトリ』を起動させるだとッ!?」 

 光の槍≠ニの発言を受けて一変したのはデジタル・ウィンドゥの表示だけではない。
泰然自若と構えていたムラマサが憤然と吼えたのだ。
 大音声に驚いたラドクリフはびくりと肩を震わせたが、
見ればムラマサの禿げ上がった頭には幾つもの血管が浮かび上がっている。
アサイミーが仕出かそうとしている暴挙の凄まじさがそこからも感じ取れると言うものだった。

「あれを衆目に晒すと言うことがどう言うことか、貴様は分かっているのか!?」
「メルカヴァ皇国との戦争で鹵獲(ろかく)した物でしょう? 戦利品を使って何がいけないのです?」
「……ここにメルカヴァ貴族の御曹司が居ることを解った上で言っているのか?」
「そこにティソーン様が居られるのなら、どうぞお伝え下さい。
貴方が大事にしているお子様と、一刻も早く転送装置に乗り込んで下さい――と。
戦乙女とやらがどこまで攻め寄せてきたのかは存じませんが、
貴方がたはカレドヴールフ様より仰せつかった御役目を果たして下さいませ」
「おのれ、小娘ッ!」
「ご武運をお祈り申し上げます――と申せば満足ですか? どうぞ、お気張り下さいな」

 デジタル・ウィンドゥに向かって大喝するムラマサだったが、
アサイミーは気が済むまでせせら笑うと、一方的に通信を遮断してしまった。
 これから超兵器で軍事演習施設を狙おうというときに
副司令が撤退したかどうかも確かめもせずに通信を打ち切るなど正気の沙汰ではあるまい。
ティソーンどころか、軍事演習施設に詰めていた将兵の撤退状況すら気に留めなかったのである。

「え、衛星兵器って何なのですか!? 隕石弾って……!?」

 ゼラール軍団の一員として数多の死地を潜り抜けてきたラドクリフも今度ばかりは平静ではいられない。
衛星兵器の正体を知っているらしいムラマサに酷く狼狽した調子で詰め寄った。

「……あの小娘と話しているのを聞いていたと思うが、
嘗てギルガメシュに滅ぼされた皇国(メルカヴァ)が保有していた対エンディニオン軍事衛星のことだ」
「だから、それが何のことだか、ぼくにはさっぱりっ!」
「エンディニオンの低軌道上に浮かんでいる宇宙兵器だよ。……それも極大質量のな。
周辺の重力をコントロールして、衛星軌道上に散らばっているスペースデブリやメテオロイドを
地上に打ち込む――ざっくり言えば、流れ星が弾丸となって降り注いでくるってワケだ」

 ようやく衛星兵器の概要を掴んだラドクリフは真っ青になってへたり込んでしまった。
スペースデブリやメテオロイドが具体的に何を指した用語なのかは掴み兼ねたが、
「流れ星が弾丸と化す」と言う説明から迫り来る脅威を理解したわけだ。
 あるいは何も知らずにいたほうが幸せだったかも知れない。
ムラマサより言い渡されたのは死の宣告にも等しいものだったのである。

「メルカヴァを攻め落とした後、ギルガメシュで押さえてはいたのだが、
よもや、このような形で再び狙われるとはな。……以前の戦争では発射寸前で食い止めたんだが……」
「ふむ、存外につまらぬことになったものよ。隕石弾が突き刺されば最後、辺り一面が焼け野原になり兼ねんな」
「……ダインスレフ様は少しも動じられませんな」
「そちは狼狽え怯える余を見たいか? 阿呆め、宇宙兵器如き、驚くまでもないことよ」

 呆然と立ち尽くすばかりのラドクリフの頭を優しく撫でてやりながらも、
ゼラールは衛星兵器によってもたらされるだろう被害を冷静に分析していく。
 その口振りから察するにアカデミーで宇宙兵器の理論を学んでいたようだ。
件の教育機関は専門分野と言うものを絞り込まず、一人に対して陸海空に至る全ての戦略・戦術を叩き込むのである。
旧人類(ルーインドサピエンス)時代に遺失された兵器の研究も含まれているくらいなのだから、
宇宙兵器に触れていても何ら不思議ではなかった。

「こうなると、副司令や他の兵が逃げ果せたことだけを幸いと思うしかありませんな」
「別段、果たすような義理も余にはないがの。ここはそちの顔を立ててやろうぞ、ムラマサ」
「何とも有り難き幸せ。良き冥土の土産が出来ましたぞ」
「阿呆。左様なことを申すから女狐風情に年寄り呼ばわりされるのじゃ。
たかが副司令を逃した程度で満足するでない。そのような老いぼれとの心中など余は望まぬわ」

 ゼラールとムラマサの会話からティソーンを取り逃がしたことを確かめたアンジーは、
「ここに居ないからイヤな予感はしてたんですの」と、肩を落としながらフィーナに目を転じた。
 すると、どうだ。表示されたままとなっているデジタル・ウィンドゥを見据えたフィーナは、
それきり微動だにしなくなっているではないか。
 デジタル・ウィンドゥに映し出された奇妙な地図を見据えたまま、彼女は涙を流し続けている。
 ぎょっとして目を丸くするアンジーであるが、落涙に一番戸惑っているのはフィーナ自身なのだ。
一体、自分が何に感極まったのか、その理由や原因を明確には説明することが出来ず、
そんな自分に混乱したまま、ただただ涙を流しているのだった。

(これは……何? 私は何の為に泣いているの? どうしてこんな――こんなにも心が温かくなるの……?)

 まことに理解し難いことであるが、フィーナは眼前の地図に心が震わされていた。
不格好なパッチワークの成れの果てにしか見えない地図に心を奪われていた。
 後から後から湧いてくる感情を正確には言い表せないのだが、
敢えて一番近いと思われる表現を選ぶならば「郷愁」の二字となるであろうか。
 心の底からこみ上げてくる懐かしさが涙に形を変えて溢れ出している――
それ以外にはフィーナにも言いようがなかったのである。

「あの……フィーさ――」

 ますますフィーナを不審がるアンジーであったが、相棒の真意を確かめている余裕など今はなかった。
それから間もなく立っていられなくなるほどの震動が軍事演習施設を襲ったのだ。
 どうやら、ムラマサが『トラウィスカルパンテクウトリ』と呼称した衛星兵器による第一次攻撃が始まったようだ。
 激烈な震動と言っても差し支えがなかった。それから一分と経たない内に天井の一部が崩落し、
土砂と瓦礫によって転送装置を押し潰してしまったのである。
 この場に於いて、おそらくは唯一の脱出手段であっただろう転送装置を、だ。

「ここまで来ると……幾ら何でも……もうダメかも――」

 退路が断たれた絶望感に打ちのめされて腰を抜かしそうになるアンジーだったが、
通路に残してきた仲間たちのことを思い出し、フィーナと一緒に潜り抜けた扉を青ざめた顔で振り返った。
 今の震動で通路が崩落したのではないかと心配になってきたのだ。
ティルヴィングの暴走によって、ただでさえ壁や天井が損壊していたのである。
天から降り注ぐ隕石弾の衝撃を凌ぎ切れるかどうか、分かったものではなかった。
 クトニアとアルコルはともかく、ニコラスたちの安否だけは何としても確認したい――が、
二度、三度と続く震動によって満足に歩行することも叶わず、遂にはその場にへたり込んでしまった。
 上下左右に震わされながらも屹立し、地図を見つめ続けているフィーナの姿が
アンジーの目には奇跡のように映っていた。

「ぼくらに何の恨みがあるのかなぁ! しつこいったらないよっ!」

 堪り兼ねてラドクリフも悲鳴を上げたが、隕石弾とやらは一発限りでは済まなかったようである。
何度も何度も執拗に撃ち込まれているらしく、アサイミーの執念と言うものが滲んでいるようだった。

「案ずるな、我が従順なる下僕(しもべ)よ。貴様は余に生命を捧げたのであろうが。
ムラマサ、そちとて同じぞ? いいや、我が視界に入る全ての者こそ聞くが良い。
貴様らは絶対の支配者たる余の為に死ぬべきである。他の誰の手に掛かることも許さぬ。
……余の前で落命することは創造女神(イシュタル)への冒涜よりも重き罪と知れ」

 言うや、ゼラールは足元に纏わせていた『エンパイア・オブ・ヒートヘイズ』の炎の勢いを加速させ、
瞬時にして全身を包み込んだ。傍目には完全に炎と同化したようにしか見えないほどである。
 そして、深紅の瞳で天井を見据える。その眼光は岩盤をも突き破り、
今まさに地上に降り注いでいるだろう隕石弾へと向けられているのだ。

「ダインスレフ様、もしや……ッ!?」
「スペースデブリであろうがメテオロイドであろうが、物質に変わりはなかろう。
いいや、物質であろうが何であろうが構わぬよ。
余の『エンパイア・オブ・ヒートヘイズ』に焼き尽くせぬ物など何ひとつないわ――」

 一際大きな震動が襲い掛かったのは、唖然としているムラマサに対して『閣下』が不敵に笑った直後のことだった。




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